冬に花轟音と心拍が一緒に体を揺らしていた。
W杯の閉会式が終わっても空に火薬が爆ぜて輝いては空気に溶けてゆく。心なしか焦げ臭い気がする、と両者ともが思っていたが、それが無機物が燃えているのかそれとも、体の内側から感情が火をつけたのかは分かっていなかった。
「良かったな、ほんまに」
祝勝会を一通り楽しんだ後、白石と種ヶ島は宿舎の外にいた。そう示し合わせたわけでもなく、何か話したいことがあるわけでもない。
「そうですね。まだ信じられへんっていうか」
「……そやなあ」
普段よりも柔らかい喋り方で、開いては落ちる花火をぼうっと見つめている。
「最後やったから。U-17、勝てて良かったなって」
万感の思いというやつなのだろう、種ヶ島は空を見上げて眩そうに目を細める。
「それは……」
いくらでも言葉は出てくるはずだった。しかしながら、彼の口は開いては閉じる。おめでとうございます、と祝福の言葉をかけるだけでいいはずなのに、気管を得体の知れない何かが締めてくる気がした。
「ノスケは来年から本番って感じやな。連覇頼むで☆」
締め付けが強くなった。正解が分かっているはずなのに言葉にできないのは初めてのことだと思っていた。
「……どしたん?」
自分の変調を悟られてしまいそうで、白石は慌てて口を開く。それから、頭に浮かんだ言葉を一度精査する。この男に言っても、この関係性でも違和感はないか。
「これで終わってしまうんか、って」
「……それは、な」
ようは、寂しいのだった。なかなか言い出せなかったのは、中学三年生ながら人を纏めて自我をあまり出さないような立ち位置にいたからだ。白石は自分の胸を纏う暗雲をそう解釈している。
白石が意外に思ったのは、種ヶ島がそれに同調するようなリアクションをとったことだった。何かに執着する姿は、ことに人や物に対してはあまり想像ができていない。
「やっぱ先輩もそうですか」
「そうって?」
「……さびしい、みたいな……あるんですか」
「そらあるよ。長いこと一緒におったし。これから誰かと組むことはあっても、こんなぎょうさんの奴らでチームになって……っていうのはもうないやろ」
寂しい、と口にすると胸が軽くなった。そうしてから、彼が意図的にそうさせたのでは、と思えてきて、背丈はそう変わらないのに大きな存在に思えてくる。三年という生きてきた時間の差がそうさせているのか、種ヶ島が人の機微に聡いのか、どちらなのだろうと考える。自然に首は種ヶ島のほうを向く。視線が交わって、大きく心臓が収縮した。
「どうしたん?」
「あ……いや、先輩には特にお世話になったなって」
「ちょっとアドバイスしただけやん。ノスケの力やで」
それでも俺一人やったら、と答えながら白石は今起きていることを解釈しようとする。種ヶ島の寂しさの中に自分も含まれているということなのだろうかと考えると、足元が落ち着かなくなる。尊敬する先輩の意識のうちに入ると、こういう気持ちになるのかと彼は半ば驚いていた。
「ほなあれか、ノスケは俺ともうチーム組めんなって寂しいっちゅうことかな?」
「……はい」
「、……そんな思ってくれるなんてええ後輩持ったなあ、俺」
目を見ては言えず、俯いて返事をしたので、白石は種ヶ島が目を見開いて体を固縮させたのに気づかなかった。
そうしてから、何か理由をつけて立ち去るべきだと種ヶ島は理解した。詳細を精査するのは後にして、白石と自分はお互いに大きな感情を向け合っているらしいということを自覚したからだった。そうでなければ、寂しいと言われただけでこんなに心臓が騒がしくはならない。
「なあ」
「はい?」
そろそろ戻ろうか、と声をかけようとした。それが先輩と後輩の関係として正しい選択なのだろう。しかし、
「その寂しいって、どんなんやろ」
彼もまた、正解が分かっているのにその通りのことが言えないのは初めてのことだった。「先輩」という声は先ほどよりも熱があり、そのせいか震えて浮いている。一歩、二歩と距離を詰める。
「……先輩?」
花火の音は止んで、辺りは時間通りに暗くなっていた。彼の表情が見えづらい。どのような顔をしているのか、また花火が上がってくれないだろうか。さすれば音に紛れて背中に手を回したって、と思い至ってすぐ、種ヶ島は彼に向けて抱いた感情の全貌を理解した。
「ごめん、」
「え」
「変なこと言ったわ、忘れて」
詰めた分の距離を戻し、少し笑いを浮かべながら種ヶ島はそこから立ち去るでもなくまた話を始めた。なんの話をされているのか分からないままに、白石は先ほどの彼の様子を思い出す。見たことがないくらいに、目が何かしらの感情をたたえていたことは分かるが、それがなんなのかは分からない。もしそれが、信頼とか尊敬の範疇を超えるものであったならと仮定すると、余計に何の話をされているのか分からなくなってしまった。