精液の降る街(未完成) こしあんの中にぬるりと練乳を混ぜられたかのような小豆色の空から、精液がボドボドと降ってくる。
白くぬめったソレは街全体を白く塗り潰す。私のビニール傘も塗り潰す。傘の上に積もって重くなる。
「これが何億もの生命の重さか」とか思ってみると、ファンタジーで素敵かもね。
が、たまに傘を降ってそれをボダダッと振り落とす。
最初は苦手だった生臭い独特のこの匂いも、これだけ世界に充満してしまうと、もう何も気にならなくなった。
道路上で、外出の際に傘を忘れてしまったのだろう男性が目に入ってしまった精液にもがき苦しんでいた。
繊細な眼球の中を何億もの微生物が蠢き、泳ぎまくるのだ。そりゃあ痛いだろう。男性は電柱に激突して倒れた。
精子らよ。そこでどんなに必死に泳ごうとも、お前らの運命の相手はそこにいないぞ?はははっ。
時折、睾丸もぽてりぽてりと落ちてきた。
がんもどきにも見えるそれらは、道に、道路に、転がり続ける。
肌色と桃色、茶色辺りの色が混じり合った、そんな睾丸。たまに、毛深いのも落ちてくる。
それをプニリブニリフニョリと愉快そうに踏みつぶしたり蹴り飛ばすレインコート装備の子供らが可愛らしい。……君達は、昔はその中にいたんだぞぉ、と話しかけるも「?」な顔を向けられた。
“もう誰も抱いてくれないのであろう、哀れな老娼婦”が、天に向かって口を開け、懐かしき恋しい精液を浴びつつ、乾いた喉に飲み流す。
きっと、若い頃にさんざ飲んだ“ソレ”のせいで“ソレ”の中毒者になってしまったのだろう。あれは、どうにもクセになるたんぱく質だ。
もう今は、誰も飲ませてくれないんだろう。可哀想に。何故に女はあれを創り出せないのか。
道路に溢れる精液や睾丸のせいだろう。目の前でトラックがスリップして横転し、ビルにぶつかった。
グシャグシャになり、ただのスクラップと化した無機物鉄クズの上に降り注ぐは、生命の源たる精液。天からの何かの嫌味にも感じられた。
トラックの下から流れ出る血とソレは混ざり合い、苺みるくのような色合いになって道路に広がっていった。
ところで、苺って近くで見ると毛穴の開いた鼻にしか見えないよね。「苺可愛い」っていう奴の鼻の毛穴が開いてないと矛盾で死にそうになる。開かせとけよ(いちゃもん)。
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“草原”に着いた。
“草原”では、国が民から徴収した女性器が天に向かって“くぱぁ”と、花開いている。
これらは、“子供を産むのを億劫がったこの世界の女共の体の一部”だった。
億劫がった理由は様々だ。国が安心して子供を産めるような環境を作らないから。イイ男がいないから。面倒くさい、そもそも子供が嫌い………。
そんな女共に国はブチキレた。
産まない非国民共め、じゃあ使わないその貴重な機能だけでもお国によこしとけ、と。
女性器は、この国の素晴らしい科学力で華麗に押収され、そしてこの草原に埋められた。
精液は昔からこの世界に降り注いでいたので「じゃあいっそ、女性器と組み合わせてみるかぁ」と、なった。
誰のものともわからない精液と、誰のものともわからない女性器とが結びついて、女性器を埋めたその下の地中にある子宮内に子供はできる。
たまに、男がこの埋められた女性器と性交して身ごもらせる事もある。それはそれでOKらしい。
お国的には労働力がほしいから、もうどんな行為で出来た子供も歓迎らしい。クローンも大歓迎。倫理?知らない知らない。
それなら、最初からやるな試すな行うな。
レインコートの役人数人が、地面を掘って“収穫の頃合い”の子宮を取り出している仕事をしていた。
土にまみれた子宮を慎重に切り裂き、中から赤子を取り出す。赤子は通常通り「おぎゃあ」と泣いた。産まれた赤子は車の荷台に積まれていった。
切り裂かれた子宮は、穴を瞬間接着剤で雑に閉じられ、再度埋められていった。