【ベジブル】男の子の条件まだ夜も開けきっていない時間にふと目が覚めると
子供に戻っていた。
「何だ…これは…」
思わず呟いた声が高い。
理由も原因も全くわからない。
脈絡も無い。
人の恨みを買うような覚えは山とあるが、わざわざ子供に戻す意味がわからん。
どこのどいつか知らないが、子供に戻して弱めてからより俺に多くの屈辱を与え叩き潰すつもりだったのか?
…そんな手の込んだ事をするなら、毒を盛るなり色々やり方がありそうなもんだな。
しみじみと子供になった自分の体を眺めてみる。
背はトランクスと同じか、少し高いくらいだ。
だとすると歳は10歳前後というところか。
くそったれ、こんな体では…そうだな、あれだ…カカロット。
そう、カカロットとまともにやりあう事など出来んな。
そうだ、それだ、うん。
事態とは裏腹に、妙に冷静な頭で俺は今後の対策を練った。
とりあえず横で引っ繰り返って寝息を立てている妻に気付かれぬようにここから抜け出して
ドラゴンボールでも集めて戻るしかないか。
いや、集めるにはレーダーが要るが、レーダーの在り処はガキが勝手に集めて勝手に弄らない様に
どこかへ隠してしまったはずだ。
場所は、俺の横で頬杖を付いて青い目を真っ直ぐこっちに向けているこの女しか知らない。
頬杖……
「あら!どうしたの~その格好」
…起きやがった…
いつもは休みの日となると昼まで寝てやがる癖に。
「何か宇宙の病気かしら?それともそういう体質なわけ?」
「知らん、寧ろ俺が知りたい」
こんな情ない姿を妻と認めた女に見られるとは正直屈辱だ。
「カワイイじゃん~トランクスとほんとそっくり。色違いみたい!目付きはあんたの方が悪いけど」
そう言いながらコロコロ笑っている。
呑気なやつだ、人の気も知らないで。
「やーだ尻尾もある~!最初さ~孫君の尻尾見た時、アクセサリーかと思っちゃったのよ、思い出しちゃった」
何だか尻が重いと思ったら、こんな物まで復活してやがった。
地球には何故か月が無い様だから大猿になる事もない。
まさに単なるお飾りと言った所だが。
ちょっと待て。
何でコイツは俺のこんな姿を見てこんな呑気なんだ。
普通は夫が突然ガキの姿になんぞなったりしたらもっと驚くなり焦るなり泣くなりする筈だ。
…
まさか…
「お前の仕業か!」
「はぁ?そんな事して私になんのメリットがあるっての」
そ、それはそうだが…そうだ、寧ろデメリットの方が多いな。
アレとか、コレとか。
「まぁ一瞬ビックリしたけど、ドラゴンボールもあるしさ、別に焦る事無いかって思って」
そうだ、戻るのはいつでも出来る。
…しかし(もう見られてしまった)妻はともかく、息子やライバルにこんな情ない姿を晒す事など
出来るはずがない。
「おい、レーダーはどこだ」
「え~今から行くつもり?」
当然だろう、一刻も早く元に戻らなくては。
「ねーその…尻尾ぶりぶり振るのは、不機嫌なの?それともご機嫌なの?」
ブルマはそう言いながらニヤニヤしている。
「無意識に動くんだ、知るか。」
「無意識ねぇ…くくく」
まだ朝の5時よ、もう一眠りしましょうよ。
そう言うと小さい俺の体を押し倒して抱きかかえ、胸に押し付けた。
いくらガキの体とは言え散々星々や猛者共をなぎ倒してきた体だ。
女1人振り払う事など容易い。
が…
何だか頭がボンヤリとして来る。
何でこの女の体はこうも寝心地が良いのkいや俺はこんな事をしてる場合ではないのだ。
「離せ、今すぐにボールを捜しに…」
「良いじゃないちょっとぐらい、ダッコしててあげるから。ね?」
何がダッコだ。
ぐうたら寝てる間にカカロットやトランクスに気で察知されて、見られでもしたら俺の自尊心はガタガタだ。
どうしてくれる。
そう言って怒気を露にしても構わず絡み付いてくる女の体から何とか逃れようと手足をバタつかせたが、
何故か体が離れない。
「ねぇ、これ…」
尻尾が”勝手に”ブルマの細い腰を掴んでいた。
「尻尾はなさないと」
くそ、嬉しそうに言いやがって。
嬉しいのか。
俺は急にバカらしくなって抵抗を諦めた。
憮然としてされるがままにしていると、ブルマは俺を抱え込んだまま瞼を閉じて喋り続ける。
「こんぐらいの時に会ってても、私たちやっぱりどうにかなってたのかなぁ…」
この位の時俺はフリーザ軍に属し好き勝手暴れていた頃だ。
もしどこか同じ地表に立っていてもお互いの顔を見るどころか認識すらせず、
お前は俺が積み上げた死体の山の一部になっていたかも知れん。
「もしさぁ、このまま戻れなくても…私がちゃんと育ててあげるからさ…」
「…縁起でもない事言うんじゃねぇ」
「そいでさぁ」
聞いてないな。半分寝てやがるのか。
「体が…オトナになったら…また抱いてよ…」
「……」
二の句が告げないでいると、規則正しい呼吸が頭の上から聞こえてきた。
この体がオトナになるには最低5年はかかるんだぞ、5年後となったら
お前は5歳トシ取ってるんだから体が持たないだろ、いや今度はお前がドラゴンボールを使って
若返るつもりなのか、って、俺は何を真剣に考えてるんだ。
ブルマはすっかり深い眠りに落ちてしまった様で、少しゆすっても全く目が覚める気配が無い。
仕方ない、コイツが起きなければレーダーの在り処はわからないし、
いくら俺でも一日でひっくり返せるほど狭い家ではない。
そうして自身を襲う睡魔に理由をつけながら、女の呼吸に誘われるまま目を閉じた。