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入れ替わりまして。
#再録
#くりんば+薬燭+若干へしさに
♀
こんなべたな事態があって堪るか、と思った時には遅かった。
審神者の体調に異変が現れると、真っ先にその影響を受けるのが刀剣男士である自分達だ。とはいえ、まさか他の刀剣の体とその中身が入れ替わるとは一体どういう仕組なのか。
「そんなにふへいをたれるな。…どう見ても、おれよりはましだぞ」
そう言い出したのは、何故かひと振りだけ体の小さくなったへし切長谷部だ。主曰く、この刀だけ体が縮んでしまったのは、現近侍だったかららしい。
人間で言うと大体六歳児くらいの見た目になって、普段より手足が短くなったのと、呂律が回りにくいのが本人的に気に入らないようである。
「まぁ、そうっちゃそうなんだが…自分の器が違うっつうのも中々不便なんだぜ、長谷部の旦那」
人の器は大倶利伽羅な、中身は薬研藤四郎が答えた。大変ややこしいのだが、この本丸内では薬研藤四郎と大倶利伽羅の中身だけが入れ替わってしまっている。
普段の大倶利伽羅はほぼ笑わないので、不敵に笑っているようにしか見えない今の彼は大変貴重だ。そして見慣れない者には、怖がられるだろうと思う。中身の正体を知らなければの話だが。
「…俺には、今のあんたの気持ちが少しは分かる」
控えめにそう言ったのは、大倶利伽羅だ。見た目は薬研藤四郎の。
こちらは薄ら青褪めている上に、普段の短刀より明らかに眼つきが悪くなっていた。そしてあまり喋らない。
こちらもこちらで普段の薬研藤四郎から考えると、大変貴重な様子だと言える。同じく、中身を知らなければ。
「…長谷部―!長谷部~~? どこいったのー」
現状の整理もままならぬ内に、室外から刀剣のひと振りを呼ぶ主の声が聞こえてきた。しかし本来なら彼女は自室で寝ていたはずである。
そう名を呼ばれたへし切は、慌てて部屋の外へ出ていった。
「あるじ!? どうなされたんですか、まだおへやでねていないとだめですよっ!」
廊下に飛び出ると、ふらふらと足元が覚束ない審神者に遭遇する。自分たちのいた部屋を通り過ぎて、さらに先へ進もうとしていた相手は振り返るとこちらを発見したようだった。
「長谷部ぇ~~~!」
彼女はそう言いながら自分より小さくなった近侍へ抱きつく。あまりにすっぽりとその腕の中へ収まってしまった刀は、動揺のあまり顔を真っ赤にして固まった。
「ぁ、あああああるじっ…!!」
ぎゅっと頭を胸に抱き抱えられて、あたふたしている相手を余処に審神者は満足げに笑っている。
「はぁ~しょた長谷部可愛い抱き心地も申し分なし…!一緒にお昼寝しよ~」
言いながら子供の頭に頬擦りしている彼女は、性別が逆だったなら通報されていたかも知れないくらいには、表情が緩みきったモブおじさんのようにしか見えなかった。傍目には。
「しゅめいとあらばっ…ですが、あるじはぐあいが良くないのでしょう? おそばにおりますので、早くおへやにもどりましょう…!」
引き剥がす気はないのか、しかし戸惑いから相手の腕に手を掛けつつ、小学生低学年サイズになったへし切は提案する。耳を真っ赤にしたまま。
「おぉい大将、そんなに密着してるが中身は変わってねぇんだぜ? 分かってるか?」
見かねたのか、部屋から顔を出した薬研が声を掛けた。とは言っても、見た目も声も大倶利伽羅なのだが。
「え~そんなの知ってるよ!だから余計可愛いんでしょう」
誰に声を掛けられたのか分かっているのかいないのか、そう返事をして、しかし彼女はその子供から離れない。それどころか更に密着したように短刀には見えた。
「…分かってやってる…つうなら、まぁ…いいんだが」
相手の言葉の裏を理解できないまま、首を傾げて引き下がる。基本的に彼は審神者が何をやっていても動揺しない上に、好きにさせる事の方が多い印象だ。
よく言えば干渉しないだが、それは放任している印象の方が大倶利伽羅から見れば強かった。特にこちらに被害もないので、口を挟んだ試しはないが。
「…何にせよ、おれはあるじのおせわにもどる…!お前たちは…元にもどるまでおとなしくしていろ」
普段のように取り澄ました表情を作ったへし切は、だが頬も耳も赤いままで、先に用意していた顔を台無しにしている印象は拭えない。
「分かった」
「あぁ、言われなくてものんびりしておくぜ」
ここでこの刀の邪魔をするとまた煩いのは目に見えている。そう判断した二振りは、大人しく了承の返事をしておいた。
「では、あるじ…まいりましょう」
「うん! 何処にでも行く行く~」
その答えに満足したのか、大分頭の緩くなっていそうな主人を連れて、態度だけは変わらない子供は去っていく。
その背中を見送って、開いていた障子を薬研は閉じた。
「…しかし大人しくって言ったってなぁ…。ずっと此処に居るには手持ち無沙汰な上に、見つかれば絶対に騒ぐ連中しかいないんだが」
「あいつがあれに捕まっている内は平気だろう」
まだ一部の刀にしか現状を説明していないのもあって、この部屋から出るのを若干面倒に感じている当事者たちである。大体誰に見つかっても、面白がられ騒がれる気しかしなくて。
「仕方ねぇ、茶でも淹れるか」
そう言って薬研が部屋の隅に用意してあったお茶の道具に手を伸ばす。出陣前の刀剣男士の控え室として使われているこの部屋には、必ずお茶の道具が常備されているのだ。一部のお茶好きな刀剣の要望により。
「旦那も飲むか?」
そう彼が大倶利伽羅を振り返った時だった。障子が開いて、よく見知った顔が驚いた表情をしたのは。
「…大倶利伽羅…?」
ぽかん、としそうな顔で彼はそう問い掛けてきた。
「よう、光忠。あんたも茶ぁ飲むか?」
だがそれを気にせず、大倶利伽羅の体と入れ替わっている薬研は続ける。説明しないのか、と大倶利伽羅が考えていると今度は燭台切はこちらを向いて、薬研君? とまたもや疑問形で呟いた。
その視線から逃れるように、大倶利伽羅は目線を外す。こちらのそんな仕草に、ついに彼は首を傾げて部屋へ入室した。
「何だか…すごく薬研君みたいな倶利ちゃんと、倶利ちゃんみたいな薬研君だね…?」
交互にこちらを見て、そう感想を告げてくる。何かあったの? と聞かれて、よく分かったなと答えたのは当然、薬研藤四郎であった。外見は大倶利伽羅の。
「実は俺と大倶利伽羅の旦那の中身だけ入れ替わっちまってな。今は俺が薬研藤四郎だぜ、旦那」
穏やかに微笑んで、彼は多分燭台切をときめかせていた。恋仲同士の彼らを、傍から見ていると大変鬱陶しいと感じる大倶利伽羅だ。
口に出して訴えた覚えは一度もないが。
「中身が薬研君だと分かっていても倶利ちゃんに心揺らいだみたいで、ちょっと混乱するね!?」
うっかり赤面したのを誤魔化すように笑って、太刀は大倶利伽羅と薬研藤四郎を交互に見る。見比べれば見比べるほど、彼は混乱しているように見えた。少なくとも大倶利伽羅には。
それと同時に、自分の母親に最近出来た彼氏との二人に挟まれた息子のような、気まずい空気も味わっている。出来ることなら今すぐ違う部屋でやってもらいたい。第三者を巻き込む類の惚気は。
「…おい、俺の体にあまり絡むな」
今すぐにでもいちゃつき出しそうな気配を察知して、念を押す。部屋に入ってきた時からずっと、燭台切が自分の体に入った薬研に近いからだった。
「何もしていないだろう、倶利ちゃんの考えすぎだよ」
しかしそう言いながら燭台切は、大倶利伽羅の姿をした薬研藤四郎に身を寄せている。それが多分無意識なのだろう事は、長い付き合いから何となく察する大倶利伽羅だ。
「そうだぜ旦那。まぁ、そんな眉間に皺を寄せなさんな、茶でも飲んで落ち着こうぜ」
言って、この短刀も燭台切に身を寄せる。最早、反射なのではないかと疑いたくなるくらい自然に。
これが自分の体でなければ、無言で部屋から出ていくのだが今回ばかりはそうもいかない。何より、こんなにも誤解を生みそうな存在を、放置しておけない理由が大倶利伽羅にはあった。
「………近い」
何も言わずには居られなくて、思わず感想が口から漏れ出る。畳に座って片側の腕同士を既に密着させている恋人たちには、自覚というものが足りなすぎるようにしか見えなかった。
主に体が入れ替わっている相手への配慮、なども猛烈に足りていないのが、今回の問題の一つであると思われる。
「「どこが?」」
二重音声で同じ言葉を同時に返されるのに、目眩がした。無自覚か、と頭を抱えたくなるが抱えている暇もない。少しでも目を離せば、今の状態よりもっと身を寄せ合いそうな雰囲気だからである。
「…光忠、あんたいつも俺と並んでる時そんなに密着してないだろう。隣を見てみろ」
今は薬研の体であるが、自分の眉間に大変皺を寄せながら大倶利伽羅は問うた。せめて現状に気付いて欲しい一心から。
「え、そうかな…このくらいじゃなかったっけ…? ね?」
そう言って隣の薬研、と言っても体は大倶利伽羅に確認を取るのを、何となく止めて欲しい大倶利伽羅なのだが、それは単に二人がいちゃついているようにしか見えないからである。
「そうだな…俺っちたちは、いつもこのくらいだな」
頷いて、見つめ合う。見た目は完全に大倶利伽羅の薬研が微笑しながら燭台切の前髪を触り、それを後ろへと流す動きで梳いたりしていた。
それをうっとりしたような顔で見ている燭台切に、少なくはない付き合いの打刀は過剰に反応する。
「待て、早まるな、これ以上はやめろ…!」
思わず立ち上がって、見つめ合うふたりの顔が近付いていきそうになっているのを阻止しようと手を伸ばす。だが、閉めていたはずの障子がこのタイミングで開いた。
「………大倶利伽羅…?」
そこに立っていたのは山姥切国広だった。今一番、大倶利伽羅としてはこの現場を見られたくない相手である。
しかも何より最悪だと思えたのは、山姥切が入ってきた場所から真っ先に見えるのが燭台切の後ろ姿で、それだけならまだしもその彼の目の前には大倶利伽羅が燭台切の顔にその顔を重ねているように見えるだろうという事だった。
これが恋愛感情かと問われると疑問な所だが、少なからず気になっている相手に完全に誤解されるだろう現場を見られてしまい、蒼白になる大倶利伽羅である。
そうは言っても今は薬研藤四郎の体に入っているので、相手には全く分からないだろうが。
「…っ、邪魔したな…!俺は、何も見ていない」
開いた障子に、室内にいた全員が振り返った所で、彼は視線を逸らすと少し早口で捲し立てて退室する。ぴしゃり、と障子を勢いに任せて閉めてから。
「待て!国広っ…!」
思わず声を掛けて部屋を飛び出すが、全速力で走り去ってしまったのかその後ろ姿を捉えられない。ひらりと視界の端で動いたのが見えた彼の布を、大倶利伽羅は追いかける事にした。
それはまっすぐ廊下を進んだ所を曲がったばかりのようで、今ならまだ追いつけるだろう。
一先ず自分の体を預けた相手と、その恋人のことも忘れて。
「行っちゃったね…少し揶揄い過ぎたかな」
それにあの間の悪さで山姥切君が来ちゃうとは…悪い事、しちゃったよね? そう苦笑しながら燭台切は薬研を振り返る。勿論、大倶利伽羅の体に入った。
「そうだなぁ、今回ばかりはちとやり過ぎたか。後で謝りに行っとくか、二人で」
許してくれねぇかも知れないがな、薬研も苦笑した顔をして恋人を見ていた。とても優しい眼差しを持って。
「そうだね、そうしよう。…あと、その顔やめてくれないかい」
ひとつ頷いてから、燭台切は恋人から視線を外した。
「? 何か問題あるか」
指摘されるような表情をした覚えはなくて、首を傾げつつそう聞き返す。無自覚かぁ、と太刀は困ったように笑って頬を掻いた。
「流石にその体の君とどうこう出来ないからね。…触れたくなってしまうから、あまり誘惑しないで」
「ははっ、そりゃ残念だが仕方ねぇな。俺もこう見えて我慢してるんだぜ? 旦那」
大人しく適度な距離を保って隣に座ったまま、お茶でも飲もうかと湯呑に手を伸ばす。先程、薬研が準備だけは進めていたので、既に急須の中には茶葉も入れてあって、後はお湯を注ぐだけだ。
備え付けてある電気ポットから、燭台切が急須にお湯を注いでいく。大体二人分くらいの量を目分量で計って。
「……早く元に戻って欲しいな」
「なぁに、…大将が昼寝から目覚める頃には戻るだろう」
どこからくるの? その自信、と彼は微笑んで、並べて置いた湯呑に注いだお茶をふたりは楽しんだ。
❤ ❤ ❤
「…おい、誤解だ…! 国広っ!」
機動が上がった今の体で、難なく追いかけた刀を捕まえるのに成功した。こんなにも身軽なのか、と短刀の身を密かに実感する大倶利伽羅である。
「何で、…あんたがそんな事を言う必要がある、薬研藤四郎」
そう呼ばれて、何も聞いていないのかと悟った。
「違う、今は俺が大倶利伽羅だ。俺の体には薬研藤四郎が入っている。…ややこしい状況だが、全部現主からの影響でこうなった」
信じられないなら、本人に確認して欲しい そう言って、彼の布を掴んでいた指を離す。瞬間的に上がった息を整えて、まっすぐ相手の顔を見た。
戸惑った翡翠の瞳は、揺れている。少しその眼が潤っているように見えるが、それが気のせいなのか大倶利伽羅には分からなかった。
「…本当に大倶利伽羅なのか…?」
「あぁ」
相手を見つめる事で肯定をしたつもりだ。しばらく無言の時間が流れる。
「確かに…その表情は大倶利伽羅らしいが……」
そう言いながら、まだ疑った顔をしている山姥切は首を傾げ始めていた。疑いつつも、現状を受け入れようとしているのだろう。
「…そんなに信じられないなら、俺しか知らないあんたの事を聞けばいい」
言ってから、廊下の真ん中でする話でもないなと、突っ掛けが置かれている石の階段から庭へ降りて相手を振り返る。それに促されるようにして、山姥切も突っ掛けを履いて庭先へと降りてきた。
風に彼の常備している布が揺れる。内番時の薬研藤四郎の服を着ている自分も、その白衣が風に翻されているのを感じた。
「二週間前に…俺があんたから貰ったものがあるんだが、何か覚えているか?」
「あぁ、口に塗る軟膏だろう。棒状の」
他には、とまだ信用を得るには足りないだろうと次を促す。
「…他、には…」
しかし咄嗟に出ないのか、相手は言葉に詰まった。少しだけ俯いて、それから一度、山姥切は口を開く。だが、声も出さずに閉じてから、もう一度開いた。何かを言いあぐねている様子なのは明白だ。
「…何でも構わない」
言いにくそうな気配だけはするので、ゆっくり次の言葉を待つ。
「なら…あんたが俺にくれた軟膏を…もう一度自分で使った事に、何か、意味があるなら…」
教えてくれ 被った布と金髪の、ほんの隙間から見えた耳を赤くして、視線を逸らすと少し俯いた彼は言う。
その仕草に何か特別な意味があって欲しいと思う、大倶利伽羅だ。どうしてそんな風に感じるのか、明確な理由は理解できないまま。
「それについては、…言葉で説明できない、今の俺には。ただ、何も意味がなかった訳じゃない。ちゃんと理由があった、と思う…少なくとも俺には」
こんな理由で相手が納得してくれるとは思わないが、こうとしか現状を説明できないのも確かだった。自分たちにはまだまだ人が持つ感情や、何をどう感じてどういう方向に心が動くのか、そういった機微を理解する時間が必要だと思う。
自分にも、きっと相手にも。
「……そうか。なら、構わない」
少しほっとしたような表情をして、彼は顔を上げた。その変化に気付いて、自分の発言が相手にとって悪いものではなかったのだと分かる。
「本当に、…大倶利伽羅なんだな」
山姥切が少し歩み寄ってきて、先程より近くなった距離で足を止めた。そのまま並んだ状態で、庭に植わっている桜の木を下から見上げる。横目にそれを見て、自分の視線も同じようにその場所へ向けた。
「納得したのか」
あまり受け入れたとは言えない気がする相手に、一応確認をする。隣を見れば、ふくらはぎの下ほどまである布の端を翻しながら、首を横に振っていた。
「…こんなよく分からない事態を納得できる方がおかしいだろう。写しの俺にだったら…お似合いかも知れないが、あんたには似合わない」
その姿形に違和感しかない 断言して、こちらをじっと見詰めてくる。その真剣に言っている様子が何となく可笑しくて、ふっと口元から笑いが漏れた。
「何が面白いんだ……?」
微妙にむっとした表情に変わった相手は、拗ねた子供のような顔になっている。年相応か、それより若く見える表情が可愛らしく見えると言ったら、きっともっと顰めた顔をするのだろう。
「…いや、すまない。自分のことはそんな風に言うのに、他人に対しては随分違った見方をするものだと思ってな」
「…? 本当の事を言ったまでなのが、そんなに面白いのか?」
理解出来ないと言いたげに両目が細められた。とても訝しそうに。
「あんたには自覚が足りないと思う」
相手の布の結び目に手を伸ばして、下へ引き寄せる。今は普段と違って二十センチほど頭の位置が低いので、相手と顔を近づけるにも、少し力技になった。
「…いつものあんたに目を奪われているやつもいる。もっと自信を持ったらどうだ」
鼻先同士がぎりぎり触れない距離で、囁く。現状この短刀の体で、彼に触れるには自分としても複雑なので寸止めというやつだった。
一瞬動きを固くして両目を泳がせていた打刀は、はっとしてからすぐに片手でこちらの視線を遮ってくる。しかし相手の指の隙間から、向こうの頬や耳元が少し染まっているのが伺えた。
「あんた……どうして、今、こんな事をする…!」
間がある話し方なのに、言葉の部分は早口になっているのは、照れ隠しなのだと最近知った大倶利伽羅だ。
「今、言いたくなったからだ」
国広、と続けて名前を呼ぶと、まだ掴んでいる布も揺れる。肩を震わせた振動が、こちらの掌にも伝わってきたのは明らかだった。
「…せめて、その体じゃない時にしてくれ…」
こちらからなるべく顔を背けて俯くと、動きだけで布を掴んでいた手を振り払われる。構いすぎた猫にされる仕草に似ていて、どこか好ましく思えた。
「分かった」
こんな巫山戯た事態が収まったら、再度同じ行動をしてもいいと許されたのに、理由も分からないまま嬉しいと感じる。
庭先で舞う桜の他に、自分の頭上からも同じ花弁が舞っているのを、本人だけが知らない。
#再録
#くりんば+薬燭+若干へしさに
♀
こんなべたな事態があって堪るか、と思った時には遅かった。
審神者の体調に異変が現れると、真っ先にその影響を受けるのが刀剣男士である自分達だ。とはいえ、まさか他の刀剣の体とその中身が入れ替わるとは一体どういう仕組なのか。
「そんなにふへいをたれるな。…どう見ても、おれよりはましだぞ」
そう言い出したのは、何故かひと振りだけ体の小さくなったへし切長谷部だ。主曰く、この刀だけ体が縮んでしまったのは、現近侍だったかららしい。
人間で言うと大体六歳児くらいの見た目になって、普段より手足が短くなったのと、呂律が回りにくいのが本人的に気に入らないようである。
「まぁ、そうっちゃそうなんだが…自分の器が違うっつうのも中々不便なんだぜ、長谷部の旦那」
人の器は大倶利伽羅な、中身は薬研藤四郎が答えた。大変ややこしいのだが、この本丸内では薬研藤四郎と大倶利伽羅の中身だけが入れ替わってしまっている。
普段の大倶利伽羅はほぼ笑わないので、不敵に笑っているようにしか見えない今の彼は大変貴重だ。そして見慣れない者には、怖がられるだろうと思う。中身の正体を知らなければの話だが。
「…俺には、今のあんたの気持ちが少しは分かる」
控えめにそう言ったのは、大倶利伽羅だ。見た目は薬研藤四郎の。
こちらは薄ら青褪めている上に、普段の短刀より明らかに眼つきが悪くなっていた。そしてあまり喋らない。
こちらもこちらで普段の薬研藤四郎から考えると、大変貴重な様子だと言える。同じく、中身を知らなければ。
「…長谷部―!長谷部~~? どこいったのー」
現状の整理もままならぬ内に、室外から刀剣のひと振りを呼ぶ主の声が聞こえてきた。しかし本来なら彼女は自室で寝ていたはずである。
そう名を呼ばれたへし切は、慌てて部屋の外へ出ていった。
「あるじ!? どうなされたんですか、まだおへやでねていないとだめですよっ!」
廊下に飛び出ると、ふらふらと足元が覚束ない審神者に遭遇する。自分たちのいた部屋を通り過ぎて、さらに先へ進もうとしていた相手は振り返るとこちらを発見したようだった。
「長谷部ぇ~~~!」
彼女はそう言いながら自分より小さくなった近侍へ抱きつく。あまりにすっぽりとその腕の中へ収まってしまった刀は、動揺のあまり顔を真っ赤にして固まった。
「ぁ、あああああるじっ…!!」
ぎゅっと頭を胸に抱き抱えられて、あたふたしている相手を余処に審神者は満足げに笑っている。
「はぁ~しょた長谷部可愛い抱き心地も申し分なし…!一緒にお昼寝しよ~」
言いながら子供の頭に頬擦りしている彼女は、性別が逆だったなら通報されていたかも知れないくらいには、表情が緩みきったモブおじさんのようにしか見えなかった。傍目には。
「しゅめいとあらばっ…ですが、あるじはぐあいが良くないのでしょう? おそばにおりますので、早くおへやにもどりましょう…!」
引き剥がす気はないのか、しかし戸惑いから相手の腕に手を掛けつつ、小学生低学年サイズになったへし切は提案する。耳を真っ赤にしたまま。
「おぉい大将、そんなに密着してるが中身は変わってねぇんだぜ? 分かってるか?」
見かねたのか、部屋から顔を出した薬研が声を掛けた。とは言っても、見た目も声も大倶利伽羅なのだが。
「え~そんなの知ってるよ!だから余計可愛いんでしょう」
誰に声を掛けられたのか分かっているのかいないのか、そう返事をして、しかし彼女はその子供から離れない。それどころか更に密着したように短刀には見えた。
「…分かってやってる…つうなら、まぁ…いいんだが」
相手の言葉の裏を理解できないまま、首を傾げて引き下がる。基本的に彼は審神者が何をやっていても動揺しない上に、好きにさせる事の方が多い印象だ。
よく言えば干渉しないだが、それは放任している印象の方が大倶利伽羅から見れば強かった。特にこちらに被害もないので、口を挟んだ試しはないが。
「…何にせよ、おれはあるじのおせわにもどる…!お前たちは…元にもどるまでおとなしくしていろ」
普段のように取り澄ました表情を作ったへし切は、だが頬も耳も赤いままで、先に用意していた顔を台無しにしている印象は拭えない。
「分かった」
「あぁ、言われなくてものんびりしておくぜ」
ここでこの刀の邪魔をするとまた煩いのは目に見えている。そう判断した二振りは、大人しく了承の返事をしておいた。
「では、あるじ…まいりましょう」
「うん! 何処にでも行く行く~」
その答えに満足したのか、大分頭の緩くなっていそうな主人を連れて、態度だけは変わらない子供は去っていく。
その背中を見送って、開いていた障子を薬研は閉じた。
「…しかし大人しくって言ったってなぁ…。ずっと此処に居るには手持ち無沙汰な上に、見つかれば絶対に騒ぐ連中しかいないんだが」
「あいつがあれに捕まっている内は平気だろう」
まだ一部の刀にしか現状を説明していないのもあって、この部屋から出るのを若干面倒に感じている当事者たちである。大体誰に見つかっても、面白がられ騒がれる気しかしなくて。
「仕方ねぇ、茶でも淹れるか」
そう言って薬研が部屋の隅に用意してあったお茶の道具に手を伸ばす。出陣前の刀剣男士の控え室として使われているこの部屋には、必ずお茶の道具が常備されているのだ。一部のお茶好きな刀剣の要望により。
「旦那も飲むか?」
そう彼が大倶利伽羅を振り返った時だった。障子が開いて、よく見知った顔が驚いた表情をしたのは。
「…大倶利伽羅…?」
ぽかん、としそうな顔で彼はそう問い掛けてきた。
「よう、光忠。あんたも茶ぁ飲むか?」
だがそれを気にせず、大倶利伽羅の体と入れ替わっている薬研は続ける。説明しないのか、と大倶利伽羅が考えていると今度は燭台切はこちらを向いて、薬研君? とまたもや疑問形で呟いた。
その視線から逃れるように、大倶利伽羅は目線を外す。こちらのそんな仕草に、ついに彼は首を傾げて部屋へ入室した。
「何だか…すごく薬研君みたいな倶利ちゃんと、倶利ちゃんみたいな薬研君だね…?」
交互にこちらを見て、そう感想を告げてくる。何かあったの? と聞かれて、よく分かったなと答えたのは当然、薬研藤四郎であった。外見は大倶利伽羅の。
「実は俺と大倶利伽羅の旦那の中身だけ入れ替わっちまってな。今は俺が薬研藤四郎だぜ、旦那」
穏やかに微笑んで、彼は多分燭台切をときめかせていた。恋仲同士の彼らを、傍から見ていると大変鬱陶しいと感じる大倶利伽羅だ。
口に出して訴えた覚えは一度もないが。
「中身が薬研君だと分かっていても倶利ちゃんに心揺らいだみたいで、ちょっと混乱するね!?」
うっかり赤面したのを誤魔化すように笑って、太刀は大倶利伽羅と薬研藤四郎を交互に見る。見比べれば見比べるほど、彼は混乱しているように見えた。少なくとも大倶利伽羅には。
それと同時に、自分の母親に最近出来た彼氏との二人に挟まれた息子のような、気まずい空気も味わっている。出来ることなら今すぐ違う部屋でやってもらいたい。第三者を巻き込む類の惚気は。
「…おい、俺の体にあまり絡むな」
今すぐにでもいちゃつき出しそうな気配を察知して、念を押す。部屋に入ってきた時からずっと、燭台切が自分の体に入った薬研に近いからだった。
「何もしていないだろう、倶利ちゃんの考えすぎだよ」
しかしそう言いながら燭台切は、大倶利伽羅の姿をした薬研藤四郎に身を寄せている。それが多分無意識なのだろう事は、長い付き合いから何となく察する大倶利伽羅だ。
「そうだぜ旦那。まぁ、そんな眉間に皺を寄せなさんな、茶でも飲んで落ち着こうぜ」
言って、この短刀も燭台切に身を寄せる。最早、反射なのではないかと疑いたくなるくらい自然に。
これが自分の体でなければ、無言で部屋から出ていくのだが今回ばかりはそうもいかない。何より、こんなにも誤解を生みそうな存在を、放置しておけない理由が大倶利伽羅にはあった。
「………近い」
何も言わずには居られなくて、思わず感想が口から漏れ出る。畳に座って片側の腕同士を既に密着させている恋人たちには、自覚というものが足りなすぎるようにしか見えなかった。
主に体が入れ替わっている相手への配慮、なども猛烈に足りていないのが、今回の問題の一つであると思われる。
「「どこが?」」
二重音声で同じ言葉を同時に返されるのに、目眩がした。無自覚か、と頭を抱えたくなるが抱えている暇もない。少しでも目を離せば、今の状態よりもっと身を寄せ合いそうな雰囲気だからである。
「…光忠、あんたいつも俺と並んでる時そんなに密着してないだろう。隣を見てみろ」
今は薬研の体であるが、自分の眉間に大変皺を寄せながら大倶利伽羅は問うた。せめて現状に気付いて欲しい一心から。
「え、そうかな…このくらいじゃなかったっけ…? ね?」
そう言って隣の薬研、と言っても体は大倶利伽羅に確認を取るのを、何となく止めて欲しい大倶利伽羅なのだが、それは単に二人がいちゃついているようにしか見えないからである。
「そうだな…俺っちたちは、いつもこのくらいだな」
頷いて、見つめ合う。見た目は完全に大倶利伽羅の薬研が微笑しながら燭台切の前髪を触り、それを後ろへと流す動きで梳いたりしていた。
それをうっとりしたような顔で見ている燭台切に、少なくはない付き合いの打刀は過剰に反応する。
「待て、早まるな、これ以上はやめろ…!」
思わず立ち上がって、見つめ合うふたりの顔が近付いていきそうになっているのを阻止しようと手を伸ばす。だが、閉めていたはずの障子がこのタイミングで開いた。
「………大倶利伽羅…?」
そこに立っていたのは山姥切国広だった。今一番、大倶利伽羅としてはこの現場を見られたくない相手である。
しかも何より最悪だと思えたのは、山姥切が入ってきた場所から真っ先に見えるのが燭台切の後ろ姿で、それだけならまだしもその彼の目の前には大倶利伽羅が燭台切の顔にその顔を重ねているように見えるだろうという事だった。
これが恋愛感情かと問われると疑問な所だが、少なからず気になっている相手に完全に誤解されるだろう現場を見られてしまい、蒼白になる大倶利伽羅である。
そうは言っても今は薬研藤四郎の体に入っているので、相手には全く分からないだろうが。
「…っ、邪魔したな…!俺は、何も見ていない」
開いた障子に、室内にいた全員が振り返った所で、彼は視線を逸らすと少し早口で捲し立てて退室する。ぴしゃり、と障子を勢いに任せて閉めてから。
「待て!国広っ…!」
思わず声を掛けて部屋を飛び出すが、全速力で走り去ってしまったのかその後ろ姿を捉えられない。ひらりと視界の端で動いたのが見えた彼の布を、大倶利伽羅は追いかける事にした。
それはまっすぐ廊下を進んだ所を曲がったばかりのようで、今ならまだ追いつけるだろう。
一先ず自分の体を預けた相手と、その恋人のことも忘れて。
「行っちゃったね…少し揶揄い過ぎたかな」
それにあの間の悪さで山姥切君が来ちゃうとは…悪い事、しちゃったよね? そう苦笑しながら燭台切は薬研を振り返る。勿論、大倶利伽羅の体に入った。
「そうだなぁ、今回ばかりはちとやり過ぎたか。後で謝りに行っとくか、二人で」
許してくれねぇかも知れないがな、薬研も苦笑した顔をして恋人を見ていた。とても優しい眼差しを持って。
「そうだね、そうしよう。…あと、その顔やめてくれないかい」
ひとつ頷いてから、燭台切は恋人から視線を外した。
「? 何か問題あるか」
指摘されるような表情をした覚えはなくて、首を傾げつつそう聞き返す。無自覚かぁ、と太刀は困ったように笑って頬を掻いた。
「流石にその体の君とどうこう出来ないからね。…触れたくなってしまうから、あまり誘惑しないで」
「ははっ、そりゃ残念だが仕方ねぇな。俺もこう見えて我慢してるんだぜ? 旦那」
大人しく適度な距離を保って隣に座ったまま、お茶でも飲もうかと湯呑に手を伸ばす。先程、薬研が準備だけは進めていたので、既に急須の中には茶葉も入れてあって、後はお湯を注ぐだけだ。
備え付けてある電気ポットから、燭台切が急須にお湯を注いでいく。大体二人分くらいの量を目分量で計って。
「……早く元に戻って欲しいな」
「なぁに、…大将が昼寝から目覚める頃には戻るだろう」
どこからくるの? その自信、と彼は微笑んで、並べて置いた湯呑に注いだお茶をふたりは楽しんだ。
❤ ❤ ❤
「…おい、誤解だ…! 国広っ!」
機動が上がった今の体で、難なく追いかけた刀を捕まえるのに成功した。こんなにも身軽なのか、と短刀の身を密かに実感する大倶利伽羅である。
「何で、…あんたがそんな事を言う必要がある、薬研藤四郎」
そう呼ばれて、何も聞いていないのかと悟った。
「違う、今は俺が大倶利伽羅だ。俺の体には薬研藤四郎が入っている。…ややこしい状況だが、全部現主からの影響でこうなった」
信じられないなら、本人に確認して欲しい そう言って、彼の布を掴んでいた指を離す。瞬間的に上がった息を整えて、まっすぐ相手の顔を見た。
戸惑った翡翠の瞳は、揺れている。少しその眼が潤っているように見えるが、それが気のせいなのか大倶利伽羅には分からなかった。
「…本当に大倶利伽羅なのか…?」
「あぁ」
相手を見つめる事で肯定をしたつもりだ。しばらく無言の時間が流れる。
「確かに…その表情は大倶利伽羅らしいが……」
そう言いながら、まだ疑った顔をしている山姥切は首を傾げ始めていた。疑いつつも、現状を受け入れようとしているのだろう。
「…そんなに信じられないなら、俺しか知らないあんたの事を聞けばいい」
言ってから、廊下の真ん中でする話でもないなと、突っ掛けが置かれている石の階段から庭へ降りて相手を振り返る。それに促されるようにして、山姥切も突っ掛けを履いて庭先へと降りてきた。
風に彼の常備している布が揺れる。内番時の薬研藤四郎の服を着ている自分も、その白衣が風に翻されているのを感じた。
「二週間前に…俺があんたから貰ったものがあるんだが、何か覚えているか?」
「あぁ、口に塗る軟膏だろう。棒状の」
他には、とまだ信用を得るには足りないだろうと次を促す。
「…他、には…」
しかし咄嗟に出ないのか、相手は言葉に詰まった。少しだけ俯いて、それから一度、山姥切は口を開く。だが、声も出さずに閉じてから、もう一度開いた。何かを言いあぐねている様子なのは明白だ。
「…何でも構わない」
言いにくそうな気配だけはするので、ゆっくり次の言葉を待つ。
「なら…あんたが俺にくれた軟膏を…もう一度自分で使った事に、何か、意味があるなら…」
教えてくれ 被った布と金髪の、ほんの隙間から見えた耳を赤くして、視線を逸らすと少し俯いた彼は言う。
その仕草に何か特別な意味があって欲しいと思う、大倶利伽羅だ。どうしてそんな風に感じるのか、明確な理由は理解できないまま。
「それについては、…言葉で説明できない、今の俺には。ただ、何も意味がなかった訳じゃない。ちゃんと理由があった、と思う…少なくとも俺には」
こんな理由で相手が納得してくれるとは思わないが、こうとしか現状を説明できないのも確かだった。自分たちにはまだまだ人が持つ感情や、何をどう感じてどういう方向に心が動くのか、そういった機微を理解する時間が必要だと思う。
自分にも、きっと相手にも。
「……そうか。なら、構わない」
少しほっとしたような表情をして、彼は顔を上げた。その変化に気付いて、自分の発言が相手にとって悪いものではなかったのだと分かる。
「本当に、…大倶利伽羅なんだな」
山姥切が少し歩み寄ってきて、先程より近くなった距離で足を止めた。そのまま並んだ状態で、庭に植わっている桜の木を下から見上げる。横目にそれを見て、自分の視線も同じようにその場所へ向けた。
「納得したのか」
あまり受け入れたとは言えない気がする相手に、一応確認をする。隣を見れば、ふくらはぎの下ほどまである布の端を翻しながら、首を横に振っていた。
「…こんなよく分からない事態を納得できる方がおかしいだろう。写しの俺にだったら…お似合いかも知れないが、あんたには似合わない」
その姿形に違和感しかない 断言して、こちらをじっと見詰めてくる。その真剣に言っている様子が何となく可笑しくて、ふっと口元から笑いが漏れた。
「何が面白いんだ……?」
微妙にむっとした表情に変わった相手は、拗ねた子供のような顔になっている。年相応か、それより若く見える表情が可愛らしく見えると言ったら、きっともっと顰めた顔をするのだろう。
「…いや、すまない。自分のことはそんな風に言うのに、他人に対しては随分違った見方をするものだと思ってな」
「…? 本当の事を言ったまでなのが、そんなに面白いのか?」
理解出来ないと言いたげに両目が細められた。とても訝しそうに。
「あんたには自覚が足りないと思う」
相手の布の結び目に手を伸ばして、下へ引き寄せる。今は普段と違って二十センチほど頭の位置が低いので、相手と顔を近づけるにも、少し力技になった。
「…いつものあんたに目を奪われているやつもいる。もっと自信を持ったらどうだ」
鼻先同士がぎりぎり触れない距離で、囁く。現状この短刀の体で、彼に触れるには自分としても複雑なので寸止めというやつだった。
一瞬動きを固くして両目を泳がせていた打刀は、はっとしてからすぐに片手でこちらの視線を遮ってくる。しかし相手の指の隙間から、向こうの頬や耳元が少し染まっているのが伺えた。
「あんた……どうして、今、こんな事をする…!」
間がある話し方なのに、言葉の部分は早口になっているのは、照れ隠しなのだと最近知った大倶利伽羅だ。
「今、言いたくなったからだ」
国広、と続けて名前を呼ぶと、まだ掴んでいる布も揺れる。肩を震わせた振動が、こちらの掌にも伝わってきたのは明らかだった。
「…せめて、その体じゃない時にしてくれ…」
こちらからなるべく顔を背けて俯くと、動きだけで布を掴んでいた手を振り払われる。構いすぎた猫にされる仕草に似ていて、どこか好ましく思えた。
「分かった」
こんな巫山戯た事態が収まったら、再度同じ行動をしてもいいと許されたのに、理由も分からないまま嬉しいと感じる。
庭先で舞う桜の他に、自分の頭上からも同じ花弁が舞っているのを、本人だけが知らない。
喉仏
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