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    2023/11/25 11:41:54

    茶の席にて

    修行帰りの鶯丸と小烏丸が茶を飲みながらお話しする。
    #刀剣乱舞 ##自本丸小説

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    茶の席にて 茶の席にて彼は、小烏丸という太刀を知っていると言った。
     寝所が隣り合わせのこの彼とはよく顔を合わせるが、向き合って茶を啜るのは久方ぶりであった。顕現当初に比べ互いの出陣も増えて忙しなかったのだ。茶室よりも縁側や広々とした場を好む彼に従い、その日は太刀がよく使う居間にて茶の供に他愛ない会話をしていた。冒頭の発言について続きを促すと、彼は帝の元にあった頃の思い出話を少し我に聞かせた。思えばはじめのうち、我は彼を自己を霞の内に隠して開示できない性分かと思っていたが、話すことが嫌いという訳でもないらしい。口を開けば淀みなく話す質であった。
    「俺たちは同時期に宗家に入ったはずだ。俺を残して小烏の太刀は献上されたが、結局は俺も主を変え後から献上された。」
     彼の言葉は滔々と流れる。我はそれを覚えておるとも知らぬとも言わなかった。
    「同時期といえば、我らがこの本丸に顕現したのも同じ頃であったか。奇遇よな。」
     目を伏せて薄く頷く彼を窺い見た。彼は続けた。
    「あなたの逸話は最早、手が届かない伝説だ。だが小烏丸は明るみに出てしまった。」
     我は湯呑を傾けて言葉を繋いだ。
    「小烏を冠する刀剣の物語は、我の支流のようなもの。」
     口に含んだ茶は手の中で冷めてしまったためかほのかに苦みがあった。彼が先を促す視線を寄越した。
    「我もまた、一歩違えば不確かなものよ。おまえとともに帝のもとにあったのは、確かに小烏造の太刀であろう?小烏の名を冠する刀剣はそれだけではない。他にも豊臣秀吉が所有したという越中則重の作に、ああそうよ、獅子の子を模した源氏の重宝。ふふ。……しかし我はほかでもない平家重代の宝として、日本刀の父としてこの名とこの身を得た。我の物語は子らには荷が重かったのであろうな。」
    「あなたらしいな。強い物語、というやつだろうか。」
     彼は興味深そうに我の言葉を拾った。彼は本音を悟らせぬことに長けた刀であったが、表情を無理に押し隠しもしなければ寡黙でもなかった。
    「小烏の太刀がその名で呼ばれるとき、人の心にはあなたも宿る。あなたの物語が注ぐ支流か。」
    「左様。それが名の力だ。」我は肯定し、言葉を続ける。「だが同じ名を持つとて子らに我の物語を負わせることはない。」
     ほう、とため息が返ってきた。その意味するところが何であれ、彼は嘆息を見せてはくれるのだ。深く踏み込むことを強く牽制する者とも異なる。とはいえ腹の探り合いなど片腹痛い、口を得たのだから話せばよいこと。彼がこの折に小烏丸の話を持ち出した、その裏にある心を気に掛けるのであれば、父たる我が手を広げてやるものだ。
    「我の物語は我のもの、小烏丸には小烏丸の物語がある。たとえ今は人の口に語られなくとも、こうして我がいるかぎり、我自身が物語っているのだ。鶯丸よ。」
     彼はやはり首肯代わりに目を伏せ、それからその目に焼き付けるように我を見た。
    「ああ、わかっている。」
     これが求められた言葉であった、と思った。彼は旅の空の下で自身と向き合ってきたのだろう。この父に説教くさく諭される必要などないのかもしれぬ。誰に言われずとも彼には彼の物語があり、彼自身が物語るのだ。
    「俺には逸話らしい逸話はない。強いて言えば長くあることだけが俺の物語だ。」
     返される彼の言葉に苦い含みはなかった。
    「旅から帰って迷いがなくなったようだな。」
     主に修行の旅に出ることを申し出たのち、彼は我に留守を頼むと告げた。未だ修行の旅に出ないことを選んでいる我にも彼の内にある迷いに見当はついていたが、いかなる決意で旅立つに至ったのかは思い及ばぬところだ。その深刻な顔付きに離れがたさを思わせながら、そうまでして本丸を離れる心情を、我には未だ推し量ることができなかった。
    「ふふ。俺はそんなにわかりやすかったか。」
     我を見つめ返し彼は笑む。その顔に晴れやかな麗しさを湛えていた。彼の諦念に沈む美しい霞は今や晴れているのだ。
     父らしくあるということは、時に己を抑えることでもあった。子らが自らの足で立ち歩む様を見て差し出されんとする我が手を押さえ込むことであった。見守るという仕事は存外易しくはない。そのひとつを、今終えたのだと思った。
     彼の笑みにつられて微笑む。
    「なに、我にも知らぬことはある。おまえはどこを旅してきたのか、この父にだけは話してもよかろう。」
     彼は答えなかった。
    「おまえも強情よの。まあよい。」
     呆れてみせるふりをして、湯呑の底に残っている茶を飲み干す。手の中ですっかり冷めきっていた茶はやはり最前より苦く、しかしそれも味わい深かった。
    「おまえも、我の子よ。同じく鳥の名を持つもののよしみ、ともに励もうではないか。」
    「ああ。よろしく頼む。」
     我もいつかは旅に出ることを決断するのであろうか。彼の霞がいかにして晴らされたのか、知ることはできず、ただ想いを巡らすのみだ。物語とはそういうものなのだろう。彼が語るということは、彼が語らないということでもある。語られたところで我が同じ筋道を通るとも限らぬ。我にできるのはただ――ああ、まだ終わっておらなんだ。
     ふ、と笑みがこぼれる。まだまだ、であった。彼の物語を見守ろう。それが我の物語となるのだろう。
     くつくつと笑いの波が引かない我に、彼が茶の二杯目を促した。
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