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  • 正ちゃん Link
    2022/06/30 15:00:00

    本当の主人公5章

    #オリジナル #創作 #オリキャラ #一次創作 #BL表現あり #HL表現あり #GL表現あり #本当の主人公
    2022.06.23 今日から毎週木曜更新

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    本当の主人公5章37話「20XX年、6月。」38話「テスト」39話「無題」40話「能力とテスト」41話「発芽」42話「妹か弟か」43話「普通に」44話 漫画37話「20XX年、6月。」



    肩までのボブカットだった。
    目がぱっちりしてて、知り合いや親から「宝石みたいな目」って言われてたっけ。
    蛇の目みたいにキラキラしてて、ずっと見てたら吸い込まれそうなくらい綺麗な目だった。

    20XX年、6月。
    高校一年の、晶が、完璧だった瞬間。

    「朱里ちゃん今日髪下ろしてるんだ、なんで?」
    「うん、ゴムが無くてさ…。」
    「私のゴム使う?」
    「んーん、評判いいからこのままでいるよ。」
    「なにそれー!」

    わざわざ晶のクラスの前で中学の頃からの友達と話してたのを覚えてる。
    晶が高校にいるっていうのが嬉しくて、晶に友達がいるのが嬉しくてずっと見てたのを覚えてる。
    たった一年前だから覚えてて当然なんだけど、昨日の事のように思い出せる。

    サラサラの髪を耳にかけてニコニコ笑ってる。
    私を見つけたらちょっと嫌そうな顔をしてからふんわり微笑んでこっそり手を振ってくれる晶が可愛い。
    可愛くて仕方ない。



    「なあ。」
    「え?」

    晶を見ながらニヤニヤしていると、入学当時噂になった金髪の男に話しかけられた。
    「え…?何…ですか?」
    「ですか、って何だよ…同い年だからタメ口でいいのに。」
    「同い年…?」
    この頃の私は智明を年上の先輩だと思ってた。
    入学式で見かけたのは覚えてるけど、「私も結構薄めの茶髪なのにあの人のせいで目立たないじゃん!!」って拗ねてた記憶しかない。

    「俺の名前は沢田智明、よろしくな。」
    そう言いながら右手を伸ばす金髪男と右手で握手をする。
    沢田、智明…。
    …?沢…田?
    「あー!君って入学初日で金髪にして来た子だよね!」
    「そうだぞ、高校デビュー!」
    「黒の方がかっこいいよ絶対!」
    「うるせえ!俺はこれから一生金髪キャラで生きていくんだ!!」

    友達の会話が遠くに聞こえる。
    沢田智明、ねぇ。

    「あ!そうだ!お前らに聞きたい事があって…。」
    突然思考を遮られ体がびくりと跳ねてしまう。
    「え?あ…うん…ど…どうしたの?」
    「俺の友達見てないか?男で…黒髪で…こんくらいの背のやつ。」
    話題になっていた金髪の男はそう言いながら、私と自分の間くらいの場所を手で指し示した。

    …これくらいだったら…多分160後半くらいの子かな…。

    「見てないけど…そのお友達がどうしたの?」
    「なんか迷ったっぽくてさ…あいつ何も考えずに一人で歩いて迷う癖があるから困ってて…。」
    「ふふ…一人で歩いて迷う癖があるって何?」
    「嘘かもしれないけど本当なんだよ!迷う癖にあいつ楽しんでて…小学校の頃なんか「今日用務員さんのお部屋入っちゃった!」とか言い出すんだ…。」
    …へぇ、小学校からの幼馴染か…。
    ニヤニヤしながら話してるし…さては大好きだな?
    ふんわりマウント取るのも強いし…。

    「とりあえず見つけたら校門で待ってろって伝言しといて!迷いそうだったら連れて行ってやってくれたら嬉しいな…。」
    そう言いながら申し訳なさそうに自分の髪を触る智明。

    なんか保護者みたいだな…こういうBL見た覚えがあるぞ…。

    なんて思いながら二人のこれからを想像していると、智明がこんな言葉を口にした。

    「あ、そうだ、お前…確か…雅朱里だよな。」
    「え…うん、そうだけど…?」
    「いつも髪結んでるよな、おろしてるのも可愛いじゃん。」
    「……あ…りがと…。」

    それから部屋にあるヘアゴムを全部捨てたのは言うまでもないね。
    この時に好きになったのも、言うまでもない。


    「あ!あかりちゃん!!」

    その時、遠くから声が聞こえた。
    そこには小さな体で大きく手を振る彩ちゃんが。

    「彩ちゃん!ごめん、今日は先帰ってて…。」
    友達にそう頼むと、眉を上げ明るい表情をしてから私に背を向けた。
    「分かった、また明日ね!」

    その友達に手を振ってから、不安そうに震えてる彩ちゃんの元へ駆け寄る。
    「あかりちゃん…。」
    「どうしたのそんな大きな声出して…。」
    「迷子になっちゃって…。」
    「あらま…。」

    …なんかデジャヴ。
    もしかしたらあの智明が言ってた幼馴染と彩ちゃん…お似合いの二人になっちゃうんじゃない?
    いや彩ちゃんは私の女。
    誰にも渡さん。
    晶も私の女。
    みんな私の女。

    「今日は一緒に帰ろ、彩ちゃんがまた迷っちゃったらダメだもんね…。」
    「うん…ありがとう朱里ちゃん…。」

    彩ちゃんとはこの頃からの友達。
    みんなから「昔からの親友みたい」とか「幼馴染かと思ってた」って言われるけどね。

    彩ちゃんの背中をぽんぽん撫でながらそっと晶の教室の方へ視線を移動させると、教室に居る誰かと親しげに話しながら廊下へ出る晶が。

    そういえばこの頃は明人君と会った記憶が無いな…同じ高校だったはずなのにな…。

    「朱里ちゃん…今日新刊出るから本屋さん行きたい…。」
    「新刊?え?一片の?」
    「うん、雪ちゃんが表紙。」
    「マジか…わー金欠だどうしよ…。」

    なんて事を彩ちゃんと話しながら晶とすれ違う。

    すれ違うと同時に、左の掌に隠していたメモの切れ端を渡し、晶も私に何かを書いた紙をそっと手渡して来た。

    晶にはこれを手渡した。
    『晶は上手く溶け込めてるよ』と書いたメモを。
    後で確認した晶からのメモには『良い子を見つけた』って書いてあったっけ。

    これを読んだ日は晶に好きな人でも出来たのか…!って嬉しかった反面ちょっと悲しんでたけど…今思うとこれは明人君の事だったのかな。
    それともまた違う誰か?

    そっと振り返りメモを手渡した晶を見てみると、廊下の端に座り込み、自分の鞄の中をゴソゴソと漁っていた。

    …まさか晶…今日…。
    いや私がまだだから違うか。

    「朱里ちゃんどうしたの?」
    「いや…なんかあの子が困ってるみたいでちょっと気になって…。」
    と言いながら晶を指差すと、彩ちゃんがそっと晶ちゃんを見てから少し不安そうな顔をした。
    「え?あ…本当だ…。」
    「私何があったか聞いてくる…待ってて。」
    「分かった…。」

    こういう設定にしておいたら話しても良いよね…?
    心配なのは事実だし。

    「どうしたの?」
    と言いながら晶と同じようにその場に座り込むと、「鞄の中にしまったはずのキーホルダーがなくて…」と弱々しく呟いた。

    「キーホルダー…?」
    そんなのつけてたっけ?と悩んでいると、晶が少しだけ微笑み、私にしか聞こえない声でこう呟いた。

    「いや…あんたが友達と話してるの見たら…羨ましくてさ。」
    「羨ましいって…?」
    「キーホルダーなんか探してないよ、ただあんたとこうやって話したかっただけ。」

    …もう!!!!!!
    好き!!!!!!!!!!!!!!


    楽しかったなって思った。
    このままこういう生活が続けば良いなって思った。
    なのに。
    次の月。
    7月に何もかもが変わってしまった。

    朝、眠い目を擦りながら晶を起こしに行くと髪を乱雑に切られた晶が。
    綺麗な目が真っ黒に染まってて、乾燥した唇がぼそぼそと途切れ途切れにこんな言葉を口にした。
    「もう生きたくない。」と。

    晶の髪を撫でた。
    綺麗だった黒髪が中途半端な位置で切られ、綺麗だった目は何者かによって真っ黒に染められてしまった。

    晶が力を手に入れたせいで。
    澁澤のクソ野郎のせいで。
    晶が誰かを模倣しないと生きていけないようになってしまった。
    誰かから聞いた自分の母親を模倣しながら生きていかなきゃいけないようなこんな世界のせいで。

    晶の為に生きようと決めた。
    死ぬのは怖いけど、晶の為ならと思った。

    その時力が芽生えた。
    神様が「晶を守れ」と言ってくれたような気がした。

    私が晶を守る。
    晶は私の全て。

    細くて震えてる晶を抱きしめた。
    強く抱きしめた。
    声を出さずに無く晶が痛々しかった。
    いつもこうやって泣いてたんだって思うと、胸が張り裂けそうになった。

    「私が側に居るから…来年はずっと側に居られるように調整するから、ね?」
    「朱里…もういやや…生きたくない…。」
    「うん、大丈夫だよ、大丈夫だから…好きなだけ泣いていいよ…晶…大好きだよ…何があっても大好きだから…。」

    38話「テスト」


    20XX年 6月9日土曜日。

    珍しく彩さんに呼び出され、高校の近くにあるファミレスに行く事になった。
    ドリンクバーとポテトやピザをなんとなくで注文してから、神妙な顔つきをしている彩さんに
    「彩さん…今日は何で僕達をここに?」
    と尋ねてみると、ゆっくりと頷いてから
    「この前の中間テストの結果が最悪だったって話したっけ…。」
    鞄の中からぐちゃぐちゃになった紙を取り出した。

    「…わ、ほぼ赤点じゃん。」
    と、その紙を破らないよう慎重に広げてから点数を指摘する智明。
    「待って、姉さん字汚いじゃん、だからこれがdなのにaだって思われてるだけ、教師が馬鹿なんだよ。」
    と言いながら机に広げたテスト用紙を指差し、点数をつけた先生を罵倒する明人君。
    「彩ちゃん、これは流石にまずいんじゃないかな…一桁だよ…一桁…。」
    と、点数を指摘し注意する朱里さん。

    それ以外の2人は…。
    僕と…晶さんは…。

    智明の隣に座っている晶さんを横目でチラッと見てみると、明人君が見てるテスト用紙を横目で見てからこう呟いた。
    「んー、うちよりかは高いな。」
    「…え?晶ちゃん何点…?」
    「うち名前の書き忘れが多くて0点やねん。」
    と言いながら、カバンの中から同じようにぐちゃぐちゃになったテストを取り出した。
    何で二人ともテスト用紙をぐちゃぐちゃにしてるの…?
    イライラして握りつぶしちゃったの…?
    ていうかなんで持ち歩いてるの…?

    「名前の書き忘れ!?そんなの低い点数っていうアレに入らないよ!!」
    「ねえ明人君…彩ちゃんってもっと語彙力高くなかったっけ…?」
    「多分自分のバカさに気付いて一時的に知能が下がってるんだと思う…。」
    明人君はいつでも冷静だな…。
    「…なあ晶、これ大体間違ってるぞ、点数つけるなら25くらい。」
    「わー…その教科私でも30は取れてるよ…?私より低いね…。」
    「………0よりは高いやん…。」

    …やっぱ言えない…言えないよ…。

    バレないよう必死でコーヒーを飲んでいると、そんな僕に気付いた向かいに座ってる智明が僕の手を掴み、マグカップから無理矢理口を離させた。

    「あ、そういえば龍、お前この前のテスト何点だった?」
    「ん″え″」
    「「ん″え″」じゃなくて、言ってみろ。」
    「…僕文系だから。」
    「「僕文系だから」じゃなくて、言ってみろ。」
    「えーっと…。」

    と呟きながら顔を上げると、みんなが僕の方を向き、不安そうな顔をしていた。
    どうしよ…絶対呆れられるって…バカにされちゃうよ…。

    「えっと…呆れられるかもしれませんけど…。」
    「何で敬語…?」
    「呆れませんよ、言ってみてください。」
    「…理系は無理…全部赤点…。」
    「文系は?」
    「文系もギリ許容範囲…。」
    「許容範囲って…?」
    「……43点?」
    「あーー…。」
    「ほら呆れた!」
    「大丈夫龍馬君!私10点だから!」
    「彩ちゃんそれ励ましになってないよ。」
    「馬鹿が馬鹿と競ってるだけやで。」
    「0点が口を開くな。」
    「うっさいわ黙れ陰湿ストーカー!」
    「黙れ社会のゴミ!」
    「こらこら喧嘩しないの。」

    今日は朱里さんがツッコミ役か…大変そうだな…。

    すると、突然朱里さんが鞄の中からスケジュール帳を取り出し、とある日付けを指差した。
    「晶、この日何の日か分かる?」
    「?何の日やっけ?」
    「期末テストの日。」
    「あ。」
    「あっ…。」
    「……忘れてたんだね…。」

    やばい…忘れてた…。
    期末テストか…どうしよう…。
    「馬鹿2人が顔見合わせてるぞ。」
    「私は覚えてたよ!だから頼ろうと思って呼び出したんだ!」
    「自慢になんねえよ。」
    わー…今日彩さんと明人君が元気で嬉しいな…。

    何て考えていると、朱里さんが
    「……本当、本格的にアレをするしかないみたいだね。」
    「朱里ちゃん…お願いしてもいいかな…。」
    「アレって?」
    「勉強会、この子達3人に教える事で私達も復習になるだろうし良い考えじゃない?」

    あー!そっか、その手があった!
    みんな説明上手だし良いかも…それに僕が助けになれるんだったらそれに越した事ないよね!

    しかし明人君がこんな言葉を口にした。
    「僕は龍馬さんにしか教えない。」
    あっ…明人君…。
    ちょっと申し訳ないしこんな事思うの恥ずかしいんだけど……明人君ならこういう事言うだろうなって思っちゃった…。

    「あっきー!お願い!一緒に住んでるんだから!」
    「大声で言うな、誤解を招きたくない。」
    「あっきー!お願い!ソウルメイトやんか!」
    「大声で言うな、誤解を招きたくない。」
    「あっきー!僕のお世話お願い!」
    「大…っ…ゴホッ!!ゴホッ!!ちょっと待っ…ゴホン!!」
    「気管に唾液が入ったんか。」
    「唾液言うな、ハッピージュースと言え。」
    「お前のファン向きの表現やんけ。」
    「いや…そうでもないんじゃない…?」

    …もっと責められると思ったけど…優しいんだな、みんな。

    「今日一旦お家に帰ってから勉強道具を持ち寄って、誰かの家に6人で集まってお勉強会しよ、分かった?」
    朱里さんがそう言うと、みんなが顔を見合わせてから確かめるように2〜3回頷いた。

    「分かった、そうしよっか!」
    彩さんが嬉しそうにニコニコしてる…。
    今日はみんな楽しそうで嬉しいな…。
    「じゃあ…今日は誰のお家借りていい?」
    と言いながら、朱里さんがスケジュール帳のメモ帳欄を開き、ペンで僕達6人の名前を書いた。

    「あー…ごめん、沢田家は無理だわ…狭いし妹がうるさいから。」
    智明のお家は無理か…そっか、そうだよね…。
    この前お邪魔したばっかなのにその上6人もお家に上がり込んじゃったら迷惑だろうから…仕方ないね。

    「じゃあ僕の家は?あんまり広くは無いけど、隣の人お仕事でよくお家開けてるから静かだし…あんまり迷惑にならないと思う…。」
    と言ってみると、みんなが顔を見合わせてから、晶さんが明人君の頭を掴み、無理矢理僕の方へ向かせた。

    「龍馬君、この変態ちゃんがお家に行くんやで?」
    「殺すぞ。」
    「下着が2〜3枚無くなってもいいん?」
    「殺すぞ。」
    変態…か…。

    「みんなごめん、僕の家無理っぽい…。」
    「おい晶、お前で末代にしてやるからな。」
    「あっそ、うちのお家は?」
    「ダメ、お友達連れて行ったら晶のお父さん泣くでしょ。」
    「そっか。」
    わー優しいお父さんだな…晶さんのお父さんってどんな人なんだろ…一回会ってみたいな…。

    「んー…私の家も無理だし…彩ちゃんと明人君の家は?」
    「いいよ、そうし…あっ…。」
    池崎姉弟の家で決まりかけた時、ふと空気がピリッと冷たくなった。

    「…池崎の家でいいのか?」
    「……やめよう、他の場所に…。」
    「せやな…他なんか勉強出来る場所あるか探すわ。」

    何でみんなそんなにソワソワして……あぁ…。
    そっか、僕明人君に襲われたんだ…。
    だからそれを気にして二人のおうちはやめようっていう流れになってるんだ…優しいな…みんな…。

    「…別の場所にしよう。」
    なんて考えながらみんなの顔を見ていると、明人君がさっきまでの姿からは想像出来ないくらい弱々しい声でそう呟いた。
    …ダメだ、気を遣わせちゃダメ。
    それに僕は対して気にしてないし。

    「明人君大丈夫だよ、彩さんと明人君のおうちにしよっか…良い?」
    と言うと、みんなが顔を見合わせ、彩さんがゆっくり頷いた。

    しかし、智明は納得出来なかったのか、俯いている明人君にこう尋ねた。
    「…なあ明人、デリケートな話題だけど…この際だから踏み込んでもいいか。」
    「…あぁ。」
    「お前…何で龍を襲ったんだ?1〜2ヶ月しか一緒に居ないけど「我慢出来なかった」とか「ついカッとなって」とか事思うような奴じゃないってのは分かってるし…。」

    …確かに…でも明人君はあの日「一年かかった」って言ってたから…ずっと僕をああやって部屋に呼ぶ事を計画してたって事だよね…。
    何で僕なんかを…?
    と悩んでいると、明人君が
    「……理解しなくていい、理解して欲しくて言うわけじゃないし。」
    ぼそぼそと弱々しく呟いた。
    ストローの袋をいじりながら下唇をぐっと噛み、苦しそうに溜息をついている。

    「…言って、知りたい。」
    「龍馬君…。」
    「僕に何か原因があるなら治せるし、明人君に何か問題があるんだとしたら友達として向き合っていきたい。」
    そう言うと、明人君が顔を上げ慌てて
    「龍馬さんは悪くありません!僕が悪いんです!何もかも!」
    と言った。

    明人君…なら尚更理由を知りたいよ…。
    僕は悪くないって…そんな自信なさげに言われたらもっとどんな理由か気になっちゃうじゃん。

    「…言って、悪いかどうかは当事者の僕が決める。」
    あの時みたいに震えている明人君にそう伝えると、目をぐっと見開いてから、か細い声でこう呟いた。
    「あ………諦めたかったんです。」
    「…え?」
    「僕が龍馬さんの事を好きになった…理由があって、それが…よ…よく考えてみたら矛盾してるし…龍馬さんに申し訳ないな…って思って。」

    僕に申し訳ないって…どんな理由?
    僕みたいな弱い奴なら手籠にできそうだから…とか…好き勝手に洗脳できそうとかそんな理由でもいいよ?
    くじ引きで決めたとかでも許せるよ?
    どんな理由なの…?

    「理由って?」
    「……それは…言っても…誰も理解してくれないと思います。」
    「…そっか。」
    …まだ言ってくれないか。
    仕方ないね、言いたくないなら無理に言わせちゃダメだ。

    「…とにかく、龍馬さんに幻滅されたかったんです、幻滅して、顔も見たくないって…気持ち悪いって拒否されたくて…通報…されたくて……。」
    「…うん。」
    「そうしたら諦められる、気持ち悪い僕がいなくなるって思ったんです…本当にごめんなさい…。」
    「…そっか。」

    …そんなに悩ませてたなんて…なんか、申し訳ないな…。

    「…ごめん、尚更気になっちゃうよ…明人君…話してくれないかな…なんで…僕なんかの事を好きになってくれたの?」
    申し訳なさそうに俯く明人君にそう訪ねると、顔を上げ、
    「……龍馬さんが…僕の恩人に…そっくりで。」
    と答えた。

    僕が、明人君の恩人に、そっくり。

    「…………へぇ。」
    「…龍馬君?ど…どうしたの…?」
    「………なんでもないよ、別に。」

    へぇ。
    似てたんだ。

    39話「無題」

    誰にも言えなかった。

    中学の時を思い出した。

    姉さんと家に帰って、教科書や筆箱を鞄に詰め込んでいると、僕が好きな人に依存するようになった原因が出来た日を思い出した。

    目が大きいせいか、唇が薄いせいか、色素が薄いせいか、まつ毛が長いせいか、何が悪いのか何も分からなかった幼い僕を押さえつけ、めちゃくちゃに犯した先生を思い出した。

    背筋が凍りついた。
    冷たい手で身体中を弄られているような感覚。
    トラウマを、嫌な思い出を自分から思い出す時…毎回現れる手に、好き勝手に体を触られる。

    「…っ……。」
    「明人、もう準備出来………!!明人!?」

    気付いたらその場に倒れていた。
    姉さんが走る音が聞こえた。
    冷たい手を追い払うかのように、姉さんの手が僕の体を撫でてくれた。
    小さくて柔らかい、可愛くて温かい手。

    「ねえさん…。」
    「どうしたの…?また思い出した…?」
    「……僕行けない。」
    「分かった、他の場所にして貰おうか。」
    「……ごめん姉さん。」
    「いいよ、いいんだよ明人…今日は側に居ようか?」
    「うん…いてほしい……。」
    「分かった、連絡するね…お父さん呼ぼうか?」
    「いらない…。」
    「分かった、ちょっと待っててね、朱里ちゃんに電話するから。」

    思い出した。

    汚い手で体を触られて、気持ち悪いって思ったけど…。
    気持ち悪かったけど。
    親から関心が欲しかった僕は…これが…父親が…お父さんが、僕を気にしてくれる何かになると思って…。
    …少しだけ、嬉しかった。


    信頼してた先生に犯されて放心していた時を思い出した。
    もう暗くなってて、生臭い香りがして、血の匂いもして、口の中血まみれで。

    美術室の床の上で、先生が僕を放置して帰っていく後ろ姿をぼーっと見ていた。
    そんなとき、教室を通る影が見えたんだ。

    もうとっくに下校時間になっているのに、もうとっくに部活が終わってるはずなのに美術室に電気がついているのに気付いた、美術部の副顧問の先生が、寝ている僕を見つけた。
    見つけてくれた。


    「明人君!!」
    そう叫ぶ声が聞こえた。
    服を乱暴に脱がされて、ボロボロになっている僕に、汚れるなんて事気にせずに上着をかけてくれて…しばらく僕の側にいてから…職員室へ走っていったっけ。


    それからしばらく経って、先生が僕を車で家まで送ってくれた。
    両親が離婚して、親権は僕のお父さんに渡った。
    だけど男手一つで育てるのは無理…と、勝手に判断した父さんの姉家族と一緒に住んでる家に、送ってくれた。


    心配した姉さんの親にビンタされた。
    父さんは仕事の打ち合わせでいなかった。

    怒ってる姉さんの親の表情を見た瞬間、僕を犯した先生の顔が過ぎって…その場に崩れ落ちて、吐きながら気絶した。

    視界の隅で、自分の母親に思い切り怒鳴っている姉さんが見えた。

    走ってる父さんも見えた。
    鼻を真っ赤にして、涙をボロボロ流して、先生の胸ぐらを掴んでいる父さんが見えた。


    父さん。
    会いたい。


    床が冷たい
    あの日を思い出すくらい冷たい
    学校に行けなくて
    家でずっとこうしてた
    ニュースになった
    先生が訴えてくれた
    でもニュースで報道された
    僕のフルネームが
    報道された
    僕のフルネームが

    …先生

    怒ってた
    僕の為に怒ってくれた先生が好きだった
    大好きだった
    何よりも大好きだった

    …先生…。











    「………松田先生……。」



    中学を卒業した後、姉さんと同じ高校に通った。

    父さんに無理を言って、姉さんと二人で暮らす事にした。
    姉さんのお母さんは反対した。
    いくら血が繋がっていようが仲が良かろうが、年頃の男と住ませるわけにはいかないって。

    ごもっともだと思った。
    だからと言って「僕は姉さんに興味ないから」って言ったとしても「男なら女に欲情して当然」とか言われそうだからやめておいた。

    姉さんのお父さんは怒鳴る自分の奥さんを見ても何も言わなかった。
    何も思ってなかったんだろうな。
    そんな人達が大嫌いだった。
    無関心だった。
    だから姉さんの家庭が崩壊した原因になったんだ。

    父さんの仕事の事情を知っておきながら、ヘラヘラ笑って「部屋に篭りきりで心配」だとか「陰気」だとか言う姉さんの親が嫌いだった。
    両方嫌いだった。
    大嫌いだった。

    姉さんも、嫌いだったらしい。

    家出するかのように出て行って、高校に入学し、クラス表を見た。

    見覚えのない名前、見覚えのある名前を見た。
    見覚えがあるのに、見覚えのない名前を見つけた。

    [松田龍馬]

    先生の息子さん?
    と思ったけど先生は一度も息子の話をしなかった。
    出来ない雰囲気があったんだ。
    聞いても濁されたし、聞かない方がいいって判断して、僕は何も言わなかった。


    ……息子っぽい人になら…聞いても大丈夫かな。

    どうしても気になり、床を這ってカバンの中にしまった携帯を取り出し、龍馬さんにメッセージを送る事にした。


    『…龍馬さん、質問があるんですけど。』

    『どうしたの?』

    『答えられないなら平気なんですけど…龍馬さんのお父さんって、何のお仕事をされてる方なんですか?』

    『サラリーマンだよ』
    『普通に答えられるけど…何かあったの?』

    『いえ、少し気になって…。』
    『じゃあ、親戚の中で教師の方はいらっしゃいますか?』

    『親戚?』
    『おじさんなら昔中学校の先生やってたと思うけど…。』
    『でもある事情で辞めたらしい…。』

    『ありがとうございます。』

    『いえいえ!役に立てたなら良かった!』
    『明人君体調大丈夫?無理しちゃいけないよ?』

    『ありがとうございます、少し休んだら平気になりました。』

    『体調良くなったらお勉強教えてね!あんまり無理しちゃいけないよ!』

    『ありがとうございます、龍馬さんの為に予習しておきますね。』




    おじさん…?おじさんだったか…。

    辞めた理由はきっと僕だ。
    クビになったんだ。
    校長先生と、松田先生と…僕のお父さんと、姉さんと僕と、何故か姉さんのお母さんが話した時。
    …僕に対して、いわゆる…その…差別的な発言をした姉さんのお母さんを怒鳴りつけたから…それがきっと原因になったんだ。

    そういうところが好きだった。
    龍馬さんの、そういうところが好き。

    アリスみたいにいつもはひょうひょうとして、何を考えてるか分からないのに実は熱血漢なところが好き。
    優しすぎるところが好き。
    好きだ。

    でもさ、龍馬さんのおじさんにしては……ちょっと、似すぎてないか?


    温厚な雰囲気に…垂れ目だけどクールな瞳…すらりと高い鼻にふっくらした唇…。
    背は物凄く高い方ではないけど…骨がしっかりしてて…だけどほっぺが柔らかそうな感じ…。

    おじさんにしては、少し、似すぎてるような。

    40話「能力とテスト」




    「やからそこは分かんねんって!うちが聞いてんのはここじゃなくて!!」
    「出来てねぇから教えてんだろ!?」
    「分かるんやって!!今日はちょーっと調子悪いだけや!!」

    …右隣で智明と晶さんが喧嘩してる…。
    左隣では…。

    「姉さん、分からないなら分からないって教師に聞けばいいじゃん。」
    「プライドが…。」
    「聞くことが留年するより恥ずかしいこと?」

    明人君が彩さんにお説教してる…正論すぎて何も言えない…。

    「…集中できないね…。」
    「だ…だね…。」
    「えーっと…り…龍馬君は知識を理解してはいるから、計算間違いさえなくせば高得点いけると思うよ…。」

    そんな二組に挟まれてる僕と朱里さん…。
    喧嘩の声がうるさすぎて全然集中出来ないんだけど…文句を言うわけにはいかないよね…。
    いや言ったほうがいいのかな?
    言った方がいいよね?だってここ僕の家だし…。
    でも大きい机が無くて引っ越しの時の段ボール使わせてるしな…。

    なんてうじうじ悩んでいた時、晶さんがぐっと伸びをしながらこんな事を言い出した。
    「なぁ、もう2時間はやってるやん…。」
    「2時間しか、ね。」
    「休憩して雑談タイムしようや…質問募集するから…。」
    「晶ちゃん何?その配信者みたいなワード。」
    「それも弱小配信者。」
    「困ったら「質問とかあります?」言うねんな、あぁいう人達。」
    「配信者への偏見と悪口が止まらないね…。」
    「アドバイスや。」
    「厄介なファンだ。」
    「こういう人ってファンチって言うんだよね。」
    「俺そういう人嫌いだわ。」
    「ファンチも智明の事嫌いやし!」
    「は!?俺のほうが嫌いだし!!」
    「張り合わないの。」

    不毛な会話が始まった…こうなったら終わりだぞ…。

    「ね、ねぇ…あのさ、みんなもう集中力限界でしょ?ちょっとだけ休憩した方がいいんじゃないかな?15分くらい…。」
    集中力が切れたのか、妙にピリピリしているみんなにそう言ってみると、納得してくれたのか教科書を閉じた。
    「確かに龍馬君の言う通りかも…頭に入らなきゃ意味ないもんね。」
    さすが朱里さん…!勉強できる人の言葉は説得力あるな…。

    「分かった!今…ちょうど14時34分だから…。」
    「ちょうど?」
    「14時49分までだね。」
    彩さんも賛同してくれた…!嬉しいな…。

    そういえば…僕の家にみんなを招いたはいいけど、来てすぐにお勉強会が始まったから飲み物とか出し忘れてたな…。
    「みんなごめん…飲み物出してなかったね、何がいい?」
    と言いながら立ち上がると、何故かみんなも立ち上がり、「申し訳ないから手伝うよ」と言ってくれた。

    「うちの飲み物の準備手伝うわ。」
    「あ、ありがとう…じゃあ…冷蔵庫に色々あるから…。」
    「龍馬君、コップってどこにある?」
    「あ…そこの棚の中…。」
    「龍馬さん何飲みますか?」
    「こ…コーヒー…。」

    …だめだ、僕こういう指示出したりどう動くか考えるの苦手だ…。
    どうしよう…みんなを動かしておいて僕だけ棒立ちって…。
    なんて一人で悩んでいると、そんな僕に気が付いた朱里さんがこう話しかけてくれた。

    「…ねぇ龍馬君、どのコップ使えばいいか教えてくれない?」
    「えっと…ここに並んでるやつは全部使っていいよ。」
    と言いながら食器の入った棚を指差すと、朱里さんがその中からコップを何個か取り出し、台所の調理台へ並べた。

    「分かった!…1、2、3、4、5…5個しかないね。」
    「あ…本当だ…ごめんね…お茶碗使って…?」
    「気にしないで、一人暮らしだもん!仕方ないよ!晶―!!コップ無いから晶のお茶碗でいい?」
    「いいよいいよ!ごめんな…今度来る時はマイコップ持ってくるわ!」
    「え、また来るの…?」
    「来るで!毎日のように来てやるわ!!!!」

    優しいなぁ…正直寂しいから本当に毎日来てほしい…。

    「……。」
    「?どうしたの?朱里さん…。」
    「…何でもないよ。」

    …?






    「ねえ明人…明人っていつお勉強してるの?」
    「…姉さんは僕が部屋に帰った後何してると思ってた?」
    「絵を描いてるか…マスをかいてるかと…。」
    「彩ちゃんいとこに低レベルな下ネタ言わないの。」
    「…正解…。」
    「明人君も下ネタに乗っからないの。」

    不毛な会話だな…下品なお話だけどかわいくてずっと聞いてたくなるな…。
    彩さんと明人君の会話を聞きながらコーヒーを飲んでいると、彩さんが突然「あ」と声を上げてから、晶さんにこう尋ねた。

    「ねぇねぇ晶ちゃん、雑談タイム用の質問まだ受け付けてる…?」
    「?うん、受け付けてるで?どしたん?」
    「今ちょっと思い出したんだけどさ、能力ってあるじゃん?それの目覚める条件って何だっけ?」

    能力が目覚める条件か…あれ?そういえばなんだっけな…?
    確か5月くらいに聞いた覚えがあるんだけど…。

    「教えたげるわ!龍馬と明人にとっては復習やな、トラウマと恐怖症と嫉妬やで。」
    あぁ、そうだった…最近聞いたはずなのに忘れちゃってたな…。

    「それが条件なのか…じゃあ俺もなんか上手いことやったら力手に入れられるのか?」
    「うん、多分やけど…思春期真っ只中の今やないと目覚めへんと思う。」
    「思春期…?どういうこと?」
    「なんかな、自分の体やったりアイデンティティ?的なものを守るために目覚めたんちゃうかっていう説が、能力者ちゃん達の間で広まってるんよ。」

    へぇ…自分の事を守る為に…か。
    でも僕は能力に関係することで大したトラウマないのにな…。
    でも彩さんが「龍馬君の能力の特徴は悪夢を怖がらなくなることかもね」って言ってたから…そういう、力を使うことで起きる副作用だったりするのかな?

    …いや、待てよ?
    そういえば僕あの夢を怖がった事…一回も無いかもしれない…。
    じゃあ何で僕は力を手に入れたんだろう…。


    ………。


    「…龍馬君?」
    「……へ?」
    「大丈夫…?なんか…苦しそうな顔してるけど…。」
    「…え?あ、だ、大丈夫だよ…。」
    しまった…考え込んでた…朱里さんを心配させちゃった…申し訳ないな…。

    考えをリセットするために、氷が溶けて薄くなったコーヒーを喉に流し込んでいると、明人君が、何か気になることがあったのか、晶さんにこんな質問をした。
    「なぁ晶、質問なんだけどさ、能力者って大体何人くらいいるんだ?」
    「いい質問やなあっきー!うちらが住んでる地域だけやったら…大体20人くらいかな?」
    確かに良い質問だ…。
    20人か…僕が思ってたよりもたくさんいるんだ…なんか勝手に9人くらいかと思ってた…。
    「100人に一人くらい?」
    「大体それくらいかもな…でもうちらの通ってる学校だけで…1、2、3、4……大体8人は確認できてるから…なんというか、うちらの学校にだけ偏ってるというか…。」
    「偏ってんの?」
    「んー、そうやけどそうじゃないというか…。」
    「シュレディンガーの能力者?」
    「そうだよ!龍馬君合ってる!」
    「何言うてんねん…あのな?その、なんて言うか…確認できてるだけやから、もしかしたら50人くらい居るかもしれへん。」
    「50人はやばいな。」
    「正確な数字は分からないのか。」
    「やって隠してる子もいるしクッソ地味な能力の子もいるんよ!やから全部は把握しきれへんねん!」
    「クッソ地味な能力ってどんなの…?」
    「消しカスきれいにまとめられる。」
    「…それって能力?」
    「やろ!?地味やろ!?地味すぎて分からんねんって!!」
    「僕絵描くときとか机散らかしちゃうからその力欲しい。」
    「それは分かる。」

    能力にも色々あるんだな…僕もその能力欲しい…。
    でも…地味な能力…か…消しカスの子と比べたら僕の能力は派手なほうなのかな?
    なんて考えていると、晶さんがため息を付きこう呟いた。

    「……でもな、例外は勿論あるんやけど…能力って使いすぎると副作用があるんよ…でも能力自体がトラウマの原因になることもあって…。」
    これも前言ってた覚えがあるな。
    確か晶さんは力を使いすぎて自分が誰か分からなくなったんだっけ…。
    僕の力にも副作用があるのかな?
    でも能力自体がトラウマの原因って…?
    どういうことなんだろ…。

    「ねぇ晶さん…能力自体がトラウマの原因になるってどういうこと…?」
    どうしても気になり、晶さんにそう訪ねると、眉間に皺を寄せながらも丁寧にこう答えてくれた。

    「その…刃物恐怖症の子が……体の一部が刃物になる力を手に入れちゃって生き辛くなったって聞いた事があって…。」

    体が刃物に…?
    一番怖いものが自分の体の一部になるなんて…。
    ……その子大丈夫なのかな…。

    「その子が今どうしてるかは分からへんけどな、大体能力は20代後半くらいになると消えるらしいから…何とかそこまでは耐えてほしいな…。」

    あぁ、この力もいつか消えちゃうんだ…。
    でもトラウマを乗り越える為に目覚める、とか…思春期特有の物だって聞いたら…消えるっていうことはむしろ良いことなのかもって思っちゃうな。
    トラウマを克服できた、というか…自分の弱さを受け入れられて、もう力に頼らずに生きていけるようになった、みたいな、そんな感じがする。

    でも僕のトラウマって何だろう…?
    晶さんの話を聞く限り、トラウマがそのまま身体に現れたり、トラウマを克服する何かが力になったりする…って聞いたけど…本当に心当たりがないんだよな…。
    あぁ…何も思い出せない…。

    「…なあ、お前らってさ…それぞれどんな能力持ってんだ?」
    一人でうんうん唸りながら悩んでいると、智明がこんな事を言った。

    「能力について何か気になることがあったの?」
    彩さんがそんな智明の顔を覗き込みそう訪ねる。
    すると、智明が彩さんの顔をじっと見つめこう言った。
    「気になる事っていうか…トラウマ、とか聞いたらさ…ちょっと不安になっちゃって。」
    「…智明。」
    「それに…使いすぎたら副作用出るんだろ?だったら、使いすぎてしまった時に俺とか明人とかが止められたらいいなって思って…。」
    …優しいな…本当。

    「確かにそうか…どんな能力なのか知っておきたいんだけど…聞いてもいい?」
    明人君も智明に同意し、何度も頷いた。

    「ありがとうね二人とも…私は人の限界が分かる能力を持ってる…それは体力もだし、精神的な限界も分かるんだ。」
    最初に答えたのは朱里さんだった。
    「デメリットは自分の限界に無頓着になる事だよ。」
    人の限界が分かる能力…デメリットは自分の限界に無頓着になる…。
    …待って、朱里さんも能力持ってたの?知らなかったんだけど…。

    「限界に達するとアラームが聞こえて…例えば…。」
    「次は彩さん言ってくれるかな。」
    「え?あ…わ、私は人の悪夢を操る…力…デメリットは…夢と現実の区別がつかなくなる事…。」
    「晶さんは?」
    「……人の真似をする能力、デメリットは自分が誰か分からんくなる。」
    「僕は夢に出てきたものを再現できる能力…デメリットはまだ分からない。」









    「勉強お疲れ様!明日も集まれたら集まろうね!」
    「勿論!」
    「…ねぇ、晶さ…勉強できないのに能力の事は誰よりも詳しいんだね。」
    「んー、能力をうち自身が体験してるから頭に入ってくんのかな?」
    「じゃあ勉強も体で体験してみればいいんじゃない?」
    「分かった!じゃあうちも江戸時代のお百姓さんみたいに一揆を起こせばいいんやな?」
    「やめろ、何に不満もってんだよ。」
    「同性同士でも結婚させろ!っていう抗議。」
    「あーやばい賛同しかけた危ない。」

    41話「発芽」


    20XX年6月13日、月曜日。

    みんなの家や学校、ファミレスに集まり勉強会をし始めてから大体4日くらいが経過した。
    今日は先生に許可を取ってから、みんなで空いている教室に集まって勉強をすることになったんだ。

    前よりも理解できる範囲が増えて喜んだり、朱里さんが作ってくれたミニテストを解いたりしてたらあっという間に時間が経って休憩タイムになったっけ?
    休憩中にみんなと好きな漫画の話や能力の話をしていると、晶さんが突然立ち上がり「せや!!わしみんなに会わせたい子がいるんや!!!!」と言い残し、どこかへ行ってしまった。

    「智明…晶さんどこ行ったと思う…?」
    「わからん…まさかあいつ…帰ったとか…?」
    「晶はそういう小さい嫌がらせはしないよ。」
    「「「「……。」」」」
    「…た、…多分ね、多分、長い事一緒に居るけど全部を理解してる訳じゃ無いから…。」

    …晶さんが出ていってからもう10分は経つよ…?
    もう15分の休憩時間が終わったからほんのちょっとだけ勉強進めちゃってるけど…。
    晶さんが僕達に会わせたい子ってそんなに遠くに住んでる子なの?
    それとも何かに手間取ってる?それとも…みんなの言う通り…帰っちゃった…?

    なんてことを考えながらシャーペンをぎゅっと握りしめていると、急いだのか、肩で息をしている晶さんが現れた。
    「はぁ!ご!ごめん!あのさ!思ったより手間取っちゃった!待たせてごめんな!」

    …いや、この場合は「現れた」より「帰ってきた」の方がいいのかな?

    「もー!遅いよ晶!で、会わせたい子って?」
    立ち上がり、呼吸を整えている晶さんの背中を優しく撫でる朱里さん。
    すると、晶さんが朱里さんへ向けてにっこり微笑みこう答えた。
    「ごめんな…あの…ちょっと…あ、会わせたい子…めちゃくちゃ緊張してるっぽくてさ…もじもじして全然動こうとせえへんねん…。」
    あ…そうなんだ…緊張しちゃったんだ…かわいい…。
    どんな子なんだろ…力の話をしてた時に思い出したから、やっぱり能力関係の子なのかな?

    なんて考えていると、何か連絡が来たのか、晶さんが手に持っていた携帯の画面を見てからこう言った。
    「あー…ごめん、まだ緊張してるみたいやからもうちょっとだけ待ってくれる…?」
    まだダメか…どんだけ緊張してんの…かわいい…。
    「いいけど…僕らに会わせたい子ってどんな人なの?」
    信じられないくらい早いスピードで文字を打つ晶さんにそう訪ねると、携帯の電源を切り、腕を組ながらこう答えてくれた。

    「能力者なんやけどな?なかなかに特殊な力持ってて、みんなの支えになれるんじゃないかなって。」
    やっぱり能力関係の子だ…でも待って?特殊な能力…?

    「…あ、もういけるってメッセージ来たわ…じゃあ呼ぶからくれぐれも丁重に扱うんやで、うちの可愛い部下なんやから。」

    …だめだ、滅茶苦茶に緊張してきた。
    この壁挟んだとこに…もう一人能力者がいるのか…。
    「……ど、どんな奴だと思う?」
    「知らねえよ、男か女かも分からないし判断出来ない。」
    「今握手会レベルで手汗かいてるわ。」
    「ほんとだ、ベタベタしててキモいね。」
    「私のちいちゃいハートがボロボロに砕け散ったよ朱里ちゃん。」
    みんなも同じくらい緊張してる…いや女の子二人は平気そうだな…。
    「やば、チャック開けっぱなしだった、晶見て。」
    「見せんな!!」
    いや緊張してんの智明と僕だけだわ…。

    …ん?待って?可愛い部下って言った?

    「ゴホン!!えっとな…うちが紹介したかったのは…特殊な能力を持ったうちの可愛い部下、佐江拓也こと…パラや。」

    晶さんに手を引かれて現れたのは、智明がぼこぼこに殴っていた黒髪の男の子だった。

    「…佐江…。」
    「…佐江拓也、本名はイ・パラ…去年の冬から日本に来た…日本と韓国の混血の…人間。」

    前見た時より痩せたのか、それとも殴られ腫れた顔しか覚えていないからか、前会った時よりも遥かに綺麗で、切れ長の目が印象的な美少年だな、と思った。

    「韓国から来たの…?日本語上手だね。」
    なんて事を考えていると、彩さんが晶さんをチラチラ見ているパラ君へこう訪ねた。
    「一応、それなりには話せるつもり。」
    「へぇ、すごいね…!」
    「……ありがとう…。」

    褒められたのが嬉しかったのかニヤニヤしているパラ君へ
    「なぁ、そろそろ能力の話…。」
    と言いながら晶さんが背中を軽くトントンとすると、パラ君が何回も頷き、能力のお話をし始めた。

    「僕…俺?私?」
    「一番言いやすいのでいいよ。」
    「…うちは…。」
    「あはは!うちの真似か!」
    「うん…うちは…その、力が出る人が分かる。」
    「これ明人知りたいんちゃう?ほら、前力に目覚めたい言うてたやろ?」

    へぇ…能力が、出る人が分かるんだ。

    「うちはどうやったら出るか、とか…どういう力が芽生えるかとかが…簡単なところだけだけどなんとなくは分かる。」
    すごい能力だな…
    「やからそれで閃いたんやけどさ?誰がどういう力を持ってるか分かるシジャクと組み合わせたらなかなか良いコンビになりそうちゃう?」
    「あー…確かに…。」

    あんまり会いたくはないけど…確かに、パラ君がいつ力が芽生えるかが分かって…シジャクさんがその人を見て詳しく分析したら能力者の数を把握しやすいかもしれないね。

    「なぁパラ、僕の能力いつ出る?正確に分かんの?」
    すると、さっきまで静かに黙り込んでいた明人君が身を乗り出し、パラ君へこう訪ねた。

    「…んーと、上手く行けば…出ると思う。」
    「どう上手くすればいい?」
    「あ…出るのは、出るけど………あー…日本語が分からない…なんだっけ。」
    「難しいって言いたい?」
    「もっと…きつい言い方…。」
    「なんていう単語?」
    「과혹.」
    「過酷?」
    「それだ、なんか…過酷な…感じ。」

    わ、晶さん韓国語分かるんだ…すごい…。
    でも…力を目覚めさせる為には過酷な道を歩まなくちゃいけない…なんて…ちょっと可哀想だな。

    「どうやったら力が芽生えやすくなる?」
    「本当に詳しく…何時何分…くらいを知る為には仲良しにならなきゃいけない。」
    「仲良しに?」
    「そう、マブダチにならなきゃ。」
    「表現がちょっと古いな…。」
    「うちのせいやで。」
    「そういうことあんま自分で言うなよ…分かった、パラよろしく。」
    「발아.」
    「え?」
    「발아.」
    「バラ?」
    「발아.」
    「パ……お前のために韓国語勉強するわ。」
    「いつでも教える。」



    42話「妹か弟か」


    「いや私の弟は顔が綺麗な上に優しい完璧な子だ。」
    「俺の華菜は口が悪いけど実は優しい一面があって何よりも可愛すぎる、天使だ。」
    「同じ学年だっけ?どっちがモテるか見物だな。」
    「俺の華菜の圧勝に決まってんだろ。」
    「妹の名前を言ってる時点で貴様の負けは確定してるんだよ、まぁうちの忍は世界一可愛いけど。」

    ……仲良くなってんな、智明とシジャクさん……いや、し…詩寂さん?
    それも自分の弟とか妹の話でめっちゃ盛り上がってる。
    テスト勉強の休憩中に意味分からないくらい話が盛り上がって収集つかなくなってるし…。
    確かに華菜ちゃんは可愛いし…この高校に入るならそれなりに人気になりそうだなーとは思うけど…そういうのはお兄ちゃんが言っちゃいけないんじゃないの…?
    言いふらしてるって知られて華菜ちゃんに鳩尾殴られたらどうするのさ智明…。

    …ダメだ、想像したら怖くなってきた。
    華菜ちゃんに何か言われたら「何も知らない」で貫き通そ。

    なんて考えていると、明人君が晶さんに持っていた携帯を見せこう尋ねた。

    「…なあ、パラ最近何してんの?メッセージ送ったのに返信来ないし既読も付かないんだけど。」
    パラ?あの子か…そういえばしばらく休んでるって聞いたけど…体調悪いのかな。
    「いや、ちょっと気分的に休みたいらしくてさ…そういう時あるやろ。」
    と、不思議そうな顔をしている明人君に答える晶さん。
    「病気?」
    「んなわけないやろ。」
    …?
    あれ、なんか…言い方に毒があるな…。

    「……断言できんの?」
    「…うん、出来る、うちからパラに言っとくからあんたはいつも通り「道端にコンドーム落ちてた」とか言うとき。」
    「なんで会話内容知ってんの怖。」
    「パラが「友達とのお話楽しい」言うてトーク内容見せてきたんや!」

    わー…パラさん可愛いな…。
    でも心配かも…今年から日本に来たって言ってたから…もしかして気候が合わなかったりして…辛い思いしてるのかな…。
    だとしたら心配だな…ゆっくり休んで欲しい…。

    「あ、そうだ…明人君が昨日裏垢で言ってたあれって何?」
    さっきまで携帯を触りながら相槌をうっていた朱里さんが、携帯を見ていて思い出したのか、突然こう質問した。

    「あー、あれ?あれはもう普通に思った事言っただけ。」
    「え、明人裏垢あんの?うちにも教えて?」
    「ある、自撮りとか愚痴とか絵とか投稿してる。」
    「え、俺知らない、全部見たい。」
    「朱里に頼んで。」
    「ねえ明人、明人の裏垢の事私以外に誰が知ってるっけ?」
    「パラとシジャクと雅と…龍馬さん?あとレンと…姉さんと父さん。」
    「父さん!?明人君のお父さんも見てるの!?」
    「直樹おじさんも!?あの直樹おじさんも!?」
    「うん、通知オンにしてるらしい。」
    「マジで!?あの直樹おじさんが!?」
    「たまに「それは腹立つな💢」って送ってくる。」
    「お前のお父さんいい人だな…。」

    へー…明人君のお父さんのお名前直樹さんなんだ…どんな人なんだろう…。
    ……ん?直樹?直樹って事は…池崎、直樹?

    「…ねえ、僕も今裏垢見てみたんだけどさ…朱里さんが言ってるのってこの投稿の事?この長い文章のやつ?」
    「どれ?声に出して読んでみて?」
    「やめろ馬鹿雅。」
    「クソみたいなせか「やめてください!!」


    _____


    ひたすら明人君の裏垢について話し(晶さんと智明もアカウントを教えて貰えた)、笑い疲れた朱里さんが携帯画面を指差しながら
    「で?明人君の言った「普通に外でも会話出来る」ってのは…どういう意味だっけ?」
    と訪ねた。
    すると明人君が、詩寂さんを指差しながらこう答えた。
    「いや、シジャクの厨二病を利用すれば外で能力の話をしても大丈夫だろ。」
    「厨二病じゃない。」
    「あぁ、それを分かってるのは僕達だけで良い。」
    「……。」

    眉間に皺寄せてる…不服そうなシジャクさん可愛い…。
    でも…それだとちょっと問題があるんじゃないかな…?

    「でもそれだと私の株が下がってお前らの株が上がるな?お前ら6人が馬鹿に付き合ってあげるいい人になる。」
    「うんそうだよ、それが問題なんだ…お前の株は下げたくない。」
    「……。」

    …うん…確かにそうだよね。
    何も知らない人達から見たら詩寂さんの株が下がっちゃうもん…。
    んー…どうしようか…。

    「じゃあ場所を決めるのはどう?図書室でも良いけどさ…ここ以外で、この場所だったら力の話しても大丈夫、みたいな場所。」
    するとその時、どうしようかと6人が唸って悩んでいた時、彩さんがこう言った。
    あー、確かにそれだと誰も嫌な思いしないよね…。

    「うちの家は?お父さん大泣きするしケトルもレンジも冷蔵庫も無いからおやつは各々で持ってきてもらうことになるけど。」
    「晶ちゃんいつも何食べて生きてるの…?まあ一応遠慮しとくね?」

    晶さんのおうちもダメか……そうだ!

    「僕の家の駐輪場の奥のところは?あそこ実はちょっと広めのスペースがあるんだ。」
    「人通りは?」
    「少ないよ、野良猫くらいしか来ないし…叫ばない限り誰にも聞こえないと思う。」
    「そうなんだ!じゃあ一回下見してからまた考えよう!」
    「そうだね…じゃあ今度8人で行ってみよっか?」

    みんな僕のアイデアに乗っかってくれた…嬉しいな。

    一人でみんなの顔を見ながらニヤニヤしていると、詩寂さんが小さい声でお礼を言ってくれた。

    「……私なんかのために色々考えてくれてありがとう。」
    「気にしないで!いやー秘密基地探した時思い出すな…智明、校舎裏でダンゴムシ探しまくったとき覚えてる?」
    「覚えてる覚えてる!あのー、隣のクラスのやつが掌に10匹くらい乗せてんの見て龍吐いてたよな。」
    「吐いてた吐いてた!懐かしい!」
    「……幼馴染良いな…。」
    「腐の目で見るな、龍は俺の良い友達だ。」
    「求婚してきたくせに。」
    「詳しく教えて。」
    「味噌汁毎日作るって言ってた。」
    「もっと詳しく教えろ。」
    「松田智明になるって言ってた。」
    「もう一声。」
    「やめろ勘違いされるだろ。」

    43話「普通に」



    「りゅーーうーーまーーー!あーーそぼーー!!」

    コーヒーを飲んで、これからテスト勉強を頑張ろうかと決意した時、外からこんな声が聞こえてきた。

    晶さん…!?なんでこんな真っ昼間に!?
    いや驚くとこそこじゃないな…普通晶さんくらいの年齢の子が遊びにくるとしたら昼間だもんね。
    でも…いや、なんで僕の家の前に晶さんが…!?

    ベランダから身を乗り出し、何か色んな物が入ってるビニール袋を持った晶さんに
    「晶さーーん!な、なんで僕の家にー…!?」
    と、精一杯の大声で尋ねてみると、さっきよりも大きな声でこう答えてくれた。
    「暇やったから!てか龍馬の家何階やったっけ!!場所はなんとなーく覚えてたんやけど号室を忘れちゃってさ!!ごめん!!」

    ……元気な人だな。

    「じゃあメッセージでもいいじゃん!こんな大声で話さなくてもさ!!ていうかこの前僕メッセージで晶さんに住所送ったよね!!??」
    「あー!住所今思い出した!急いで行くわ!!!!待っててや松田君!!!!!!」

    わ、適当にごまかした。汚い人。

    ……でも、来てくれたの嬉しいな。
    お休みの日ってなんか妙に寂しくなっちゃうんだよね…。
    今日はみんなでお勉強する予定も無いし退屈で仕方なかったから晶さんが来てくれて嬉しいや。

    「龍馬くーーんあーそーぼー!」
    ……お、来た。
    インターホンを連打する晶さんに「ちょっと待っててね!」と返事をしながら、さっきまで食べてたお菓子を片付ける。

    …よし、これで昼間からご飯も食べずにお菓子食べてる馬鹿だってバレない!

    「晶さん来てくれてありがとうね…おいで、何もないけど…。」
    と言いながらチェーンを外し、鍵を開けると……
    …そこには首から上は馬で、首から下は可愛いお洋服を着た謎のキメラが。


    「ギャァァァァァアアァァア!!!」
    「お、ええ反応するやん!流石~!」
    「ほんと?これでよかった?」
    「最高!次明人の家行く時にやろ!」
    「動画撮るよ僕!さ!上がって!リアクション褒められたの嬉しいや!なんでもあげる!!」




    ___




    「何持ってきたの?ご飯?」
    「うん、うちの分と…勿論龍馬の分もあるよ!コンビニで買ったスパゲッティ二つ!電子レンジ借りるで!」
    「お腹空いたから嬉しいな…ありがとう…!」

    と言いながら電子レンジにスパゲッティを入れている晶さんを見ていると、ボタンを見ながら小さな声で唸り始めた。
    ……分からないのか……じゃあ素直に言えばいいのに…。


    「…ここ押すんだよ晶さん。」
    うんうん唸ってる晶さんに操作方法を教えると、目を見開き、動き始めたレンジをまじまじと見つめながらこう言ってくれた。

    「わ、すげえ、コンビニのしか使ったことないから分からんかった!」
    ……コンビニの?

    「晶さん、レンジコンビニのしか使ったことないの?」
    「うん、レンジも冷蔵庫も電気ケトルも無い、普通にコンビニで買ってそのまま食ってる。」

    そうなんだ…。
    晶さんって何でも知ってそうな雰囲気あるけど…晶さんでも知らないことがあるんだ。

    「でも電子レンジあったら便利よな…買い溜めとか出来るかもやし…いや冷蔵庫無いと厳しいか…電気ケトルくらいは…。」
    ……ご飯を家で作るっていう発想はないんだ…。

    「便利で良いな…余裕あったら買おうかな……。」
    「いいんじゃない?親御さんと相談してみたら?」
    「せやな、うちのイケメンと相談するか。」
    ……うちのイケメン…。
    明人君も晶さんもお父さんとの距離感おかしくない?いやそれが普通なのかな…。

    …でも、コンビニで直接買って…直接食べてるのか。

    「…晶さんって一人暮らしなの?」
    どうしても気になってそう訪ねてみると、晶さんがこう答えてくれた。
    「みたいなもんやな!お、出来た?」
    みたいなもんなんだ!
    …普通にはぐらかされた気がする。
    「いや待って晶さん出来立てのやつ普通に持ったら火傷……」
    「あ"っづ!!!!!!!!」

    ……なんか、色々台無しだな。




    スパゲッティを食べ終わり、火傷した指を冷やしている晶さんと能力について話していると、ふと晶さんが立ち上がり「前言ってた秘密基地を見に行きたい」と言ってくれた。

    ウキウキしている晶さんを秘密基地に連れていくと、キョロキョロと回りを見渡しながらこう言ってくれた。

    「良い場所やな…ここにちっちゃい椅子持ち込んで話し合ったりしたら良さそうじゃない?」
    「あー!確かにいいかも…!」

    晶さんってほんと賢い人だな…かっこ良くて憧れちゃうよ…。

    なんて考えながら秘密基地の中をうろうろ歩いていると、晶さんが突然僕の名前を呼び
    「なあ龍馬…一個だけさ、誰にも言えへん悩みごとがあるんやけど…聞いてくれる?」と言った。

    …悩み事?

    「僕で良いなら聞くよ。」と答えると、2、3回頷いてからゆっくりと悩み事を教えてくれた。

    「…うち、さ、昔は…今のうちの生き方に憧れてて…昔のうちが今のうちを見たら…憧れて、褒めてくれるやろうなって…思うんよ。」

    「うん。」

    「……でも今のうちは、今のうちの生き方を…良いとは思えへんくて。」

    「…どうして?」

    「……今のうちは、その…みんなみたいに…普通に…普通の…女の子として生きたいって…思ってるから。」

    「…………。」

    「…馬鹿らしい願いやけどな、一回欲しがったものを…今はいらんって…。」

    「おかしくないし馬鹿らしくもないよ、どう生きても晶さんは晶さんだもん。」

    「…優しいな、ありがとう…。」

    「…またおいでよ、僕の家の中だけでは…普通の、何も…背負ってない晶さんで居て良いから。」

    「……ありがとう…ほんまに……ありがとう…………。」


    44話 漫画


    『テスト今までで一番良い結果だった~!テスト前に二日徹夜した甲斐があった!みんなのおかげだね!ありがとう!』

    彩ちゃんから送られてくる可愛い可愛いメッセージに「うちも上手くいったよ」と返信してから、携帯の電源を切り、最大で最悪の事について悩む。



    ……あの、本。
    あの本を…開く、勇気が出ない。
    少し前に買ったまま、ビニールすら破けずに隠していたあの漫画。

    龍馬が「明人君に似てる」と…思って、つい表紙をまじまじと見つめてしまった、BL漫画。

    …もし、本当に明人をモデルにした漫画なのだとしたら。
    何をしてしまうか分からない。
    やっと馴染めて、普通っぽく生きれてるのに、それを壊してしまいそうで。
    明人を守ろうとして、明人を傷付けてしまいそうで。

    昔、仲良かった。
    明人と同時期に仲良くなった、あの子みたいに…追い詰めて、追い詰めて…苦しめて、しまいそうで。

    …明人から事件の概要は聞いてる。
    詳しくは聞けなくて、話させたくなくて…細かい事までは知れなかったけど…でも、それでも、私が「明人だ」と確信してしまうような内容だったら。


    …何を、するんだろう、私は。
    何を、してしまうんだろう、私は。



    ………大きく息を吐いてから、ゆっくりとビニールの包装を破き、一ページずつ、読んでみる。

    …高校生、って設定…なのか。
    見た目はほぼ中学の時の明人そのまま。
    写真を見たから分かる。

    …美術部に居る、よく見たら綺麗な顔をしている少年に目を付けた変態教師の話か。


    ……まさか、知り合いが…書いたのか?

    読み進める


    美術部の、男子が、顧問に、体を押さえられる……
    …ここまでは、一緒。
    …お、男の子が…行為に…芽生えて……ハマる…作、品だ。

    …助けてくれた、先生は出てこない。
    悦楽に溺れ、身を滅ぼすでもなく…関係を続け、クラスメイトすらも誘惑してしまう…明人に似た、少年。

    ……まるで、私みたい。
    こうすれば許されるって気付いた、私みたい。



    …明人。



    ……明人。 
    ……明人、頼むから、この作品を、目にしないでくれ。

    …どうか、どうか。

    明人に関係ありませんように

    明人が見て思い出しませんように

    この本が消えるまでは絶対に本屋に行きませんように

    明人、頼む

    明人。

    頼む。お願い。

    ……明人…

    ……うちの、大事な親友……

    この少年みたいに、生きないでくれ

    …………うちみたいに…利用しようと、しないでくれ、明人。

    明人。

    明人。

    明人。
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