竜崎と月:ショートコント「幸福」「不幸になりたい」
「どうしました月くん藪から棒に」
「不幸ってどんなものだろうと思って。僕には縁のないものだから一度くらいなってみたい」
「月くんのそういうところ、私結構好きですよ」
「竜崎に好かれるなんて不幸だ……」
「早速不幸になれるなんて月くんは本当に幸福ですね」
「竜崎のおかげで不幸は気分のいいものじゃないと分かった」
「非常に心外ですが月くんの知見が広がったということで不問とします」
「それはありがたいな。そういう竜崎は幸福か? それともやっぱり不幸?」
「やっぱりとはなんですやっぱりとは」
「あまり楽しそうに見えないし。事件以外」
「月くんもあまり楽しそうには見えませんよ。私と話してるとき以外」
「そんなことを言うのは竜崎くらいだよ」
「でしょうね。私以外があなたを満足させられるとも思いません」
「さも僕がおまえに満足してるような言い方だな」
「おや違いましたか?」
「……まあ、否定はしないけどね」
「月くんは常に満ち足りているでしょう? さぞかし退屈だろうと思いまして」
「そうか……ちょっと待ってくれ。ふ、ふふっ」
「月くん? ……待ってくださいなんで噎せてるんですか笑いすぎて噎せる人私初めて見ました大丈夫ですか月くん、月くん!?」
「っ、……だ、大丈夫。ふ、んんっ……」
「ちっとも大丈夫に見えませんお水飲みますかお水」
「おみ、おみず……もらうよ。……おみ、おみ……ふっ……」
「……今日は月くんの初めてをたくさん見ます」
「良かったじゃないか。僕もこんな(らしくない)ところを見せるの竜崎が初めてだよ」
「心外です不服です異議申し立てをします」
「そう拗ねるなよ」
「私たち、どこから(話の方向性を)間違えてしまったのでしょうね」
「ごめんごめん。世界のLともあろうものが間違うなんて面白すぎてね、いや、久しぶりにこんなに笑ったよ」
「常に満ち足りている月くん?」
「そのあと」
「退屈じゃないんですか」
「退屈だったよ。竜崎と会うまではね」
「月くんそういうところですよ分かってますか月くん」
「なんだよ、最高の誉め言葉だろう? なんでそんなに怒ってるんだ」
「月くんがずるいからです」
「なんだそれ……ミサみたいなこと言うんだな」
「私今ならミサさんとも仲良くなれます断言します」
「それは楽しみだ。……何の話をしていたんだっけ」
「私が月くんに退屈なんてさせませんという話です」
「すごい飛躍だな(大きく出たな、竜崎)」
「(本音と建て前が)逆です、月くん。逆」
「そうだな……竜崎の努力次第だ、とでも言えばいいのか?」
「おや言ってくれますね、私こう見えて結構すごいですよ?」
「知ってる(なんたって世界のLだしな)」
「そうですか」
「…………」
「…………」
「……何か言えよ」
「笑うなら思い切り笑えばいいと思います逆に傷つきます」
「ごめん。…………ふはっ! ふ、ふふ……」
「月くんのツボ浅すぎませんか? 拾い食いでもしました?」
「おまえに言われたくないよ。ふ、……っ」
「私とても傷ついています」
「悪い悪い」
「悪いと思ってないでしょう」
「で、何を言おうとしたんだ?」
「もういいです私は拗ねています」
「とうとう自己申告制になったな。……そうだな」
「何ですかご機嫌取りですかそれでしたら〇△のスイーツお願いします」
「意外と安いよな、竜崎って」
「もちろん店のもの全部ですよ分かっているとは思いますが」
「あとでワタリさんに頼んでおこう。それよりもそうだな、こんなのはどうだ?」
「?」
「『僕が後悔なんてするわけないだろう』」
「……月くんこそ飛躍が激しいですよ」
「でも間違ってないだろう?」
「しかも否定するのはそこですか」
「竜崎の努力次第だよ」
「後悔なんてさせませんが……初めての友達ですからね。頑張ります」
「そうしてくれ」
「はい。せいぜい好きにしますよ」