7%と失楽 3 Client of Gemini 間もなく依頼人がハドソン夫人とともに階段を上がってくる足音が聞こえた。足音は三つ。古い階段の軋む音がそれほど大きくないことから依頼人は痩身の女性だろう。ホームズと行動を共にしていることで私にもある程度の予測はつけられるようになってきているようだ。私が椅子を二つホームズの安楽椅子の向かいに運んでいる内に依頼人の訪問を告げるハドソン夫人の声とともに依頼人が部屋に入ってきた。その依頼人を見て私は自分の誤りを認めざるを得なかった。
そこにいたのはまだほんの17、8くらいの子供の面影を残した青年と同じ年頃と思われる女性だった。共に痩身なために階段もそれほど軋まなかったのだ。
「お二人はご兄弟ですか。」
ホームズの問いかけに改めて依頼人を見た私は思わず息を呑んだ。依頼人である二人は性別を除けば顔の作りから表情、服の趣味までピタリと一緒で、まるで対で作られた人形のようにそっくりだったからだ。そしてそのことと並ぶほどの衝撃を与えたのがその容姿の美しさだった。抜けるように白い肌には傷一つなく、髪は細く繊細なアッシュブロンド。すっと筋の通った鼻梁に薄くそばかすが散っているのも楚々とした印象を与えた。髪と同じ色の長いまつ毛は若干伏せられていたがそれに縁取られた瞳は夕闇のような藍色がかった透明感のある青色をしていた。「双子なんです。」青年のほうが口を開いた。
「私が兄のアダム・ロイド、そしてこっちが同じ日に生まれた妹のシェリー・ロイドです。」
シェリーと呼ばれた女性は部屋に入ってきてからずっと首にかけた銀の十字架のネックレスを握って不安気な顔をしており、瞳は憂慮に揺れていた。
「妹さんに関することで相談に来られたのではないですか。」
ホームズが言うとアダムは僅かに目を見開いた。
「初歩的なことです。妹さんは少し人見知りのようだ。他のご家族が巻き込まれた事件によって何らかの精神的な傷を負ったのなら家で安静にしている方が良い。事件を語るなら貴方だけで事足りる。それなのに妹さんを連れてきているということは何か妹さんと密接につながっている事件で連れてきたほうが良いだろうと判断したからではないですか。」
麗しき依頼人はその推理でホームズの能力を信頼したらしく両手の指を組み、ホームズの目を見て自分たちの身に起きた事の顛末を語り始めた。
「評判通りの名探偵のようで安心しました。ホームズさん、どうか私の哀れな妹を救っていただきたいのです。ことの始まりは……」