何でアンチ・ポリコレ動画を撮ったのに同じアンチ・ポリコレ派から吊るし上げられるんだよ? ひょっとしたら、ニューヨークやロサンゼルスでは、それが当り前なのかも知れない。
でも同じアメリカでも、俺が住んでる辺りは全く違う。
黒人もアジア人もほとんど居ない。
ひょっとしたら、俺の知り合いにもゲイが居るかも知れない。だが、自分がゲイである事を隠す気もないヤツなど理解の範囲外だ。
気付いた時にはTVやネット配信のドラマは、いつの間にか、黒人にアジア人にゲイが出るのが当り前になっていた。
そして、自分で動画を撮ってYoutubeに投稿しようと思って、何で黒人にアジア人にゲイが出るのが当り前のドラマや映画に反発していたか何となく判ってきた。
俺達は、都会に住んでて選挙では民主党に投票する連中の「当り前」を押し付けられる事が嫌だったんだ……。
いや、アメリカ全土が俺達にとってはちっとも「当り前」じゃない「当り前」に塗り潰されるのが恐かったんだ。
本当のアメリカは、ニューヨークやロサンゼルスじゃなくて、ここみたいな昔ながらの田舎町の筈だ。
ともかく、高校の頃の仲間を集めて、「映画」を撮影し始めた。
カメラはスマホに付いてるヤツ。
専用のマイクなんてない。
MARVEL映画の「エターナルズ」みたいに基本的に自然光撮影だ。あっちは金が有って機材も有ってスタッフも居るのにあえてやった。こっちは金も機材もスタッフもないから、そうするしかない。
1時間ほどの動画を撮るのに、何ヶ月もかかった。
効果音は全てフリー素材。
昔の映画は「映画マニアが銃の発射音を聞いただけで、どのスタジオが作った映画か判った」って話だが、俺が作った「映画」も、Youtubeばっかり見てる奴からすると、どっかで聞いたような音ばっかりだろう。
編集もやりかたも判らず……結果として、「呪われた家」に入った時と出た時では、時刻は愚か季節まで変ってるのが丸判りと云う凄まじい代物が出来上がった。
ひょっとしたら、俺達にも「カンフー映画の真似をやってYoutubeに上げてたボンクラがMARVEL映画の『シャン・チー』に出演する事になった」なんて事が起きるかも知れない。
この「映画」を撮り始めた時は、そんな夢を見ていた。
だが、1つ言える事が有る。そんな日が来るとしても、今年でも来年でもない。
しかし、俺が上げた映画の出来損ないは一夜にしてバズってしまった。
どうやら、4chanあたりで晒されたらしい。
並んでいるのは、俺と似たような奴らが書いた罵倒コメント。
おい、お前ら、普段と言ってる事が逆じゃねえのか?
お望み通り黒人もアジア人もゲイも出てない映画……正確には映画もどきだが……を作ってやったんだぞ。
それなのに……。
「この出来の悪いホラー、何で、
殺されんのが全部白人なんだよ? この動画上げたヤツ、反白人主義者か?」
仕方ねえだろ、俺ん
家の周囲半径十数マイルに住んでるのは白人ばっかりで、俺の知り合いも白人ばっかりなんだから。