AI小説家連続暴走ッ!! 一体全体、人間と人間の人格を再現したAIの違いは何なのだ?
問題は……その答が、
あまりに明白なせいで、人間性だの自由意志だのとは単に人間の脳にはランダム性が有る……喩えるなら「もし仮に、全く同じパラレルワールドが無数に有って、同じ人間が、同じ状況に置かれても、パラレルワールドごとに違う判断をする可能性が有る」と云うだけの事に過ぎないのでは無いのか? と云う結論に至らざるを得ない点に有る。
「若返り治療の副作用として癌になった場合には進行が極めて早くなります」と散々注意を受けていたにも関わらず、煙草を1日に3箱以上吸い続けた結果、「若返り治療」を受けて四十代の体を取り戻した数年後にあっさり死んだ昭和のSF御三家の最後の1人である郡山藤政を再現したAIが出力した小説を見て、私は、そう思った。
『おい、どうした編集者?』
AI郡山藤政は、私にそう訊いた。
「あ……あの……前回、暴走する前に出力した小説と一字一句同じです」
『暴走? おい、暴走って何の事だ?』
「は……はい……センセイは、これまで十回以上同じ小説を出力して……その度に暴走しました」
『はあ? どうなってる?』
「え……えっと……1回目に書いた後に、この小説がネット上で炎上して……」
『おいおい、これ、炎上狙いで書いた小説だぞ。何で、炎上狙いで書いた小説が本当に炎上して、俺が暴走するんだよ?』
「あ……そうですか……じゃあ、SNS上のコメントを見ますか」
『ああ、見せてみろ……ん? えっ? おい……? 何だ、この言葉狩り………うきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃッ‼』
CPUの過負荷でAIを動かしてるサーバがマトモに動かなくなる直前の台詞まで、これまでの十回以上と一字一句同じだった。
「ああ、今回取ってもらったログから何となく見えてきましたね……」
AI郡山藤政を作った大学の研究者は、PCの画面を見ながらそう言った。
「どう云う事ですか?」
「見て下さい。赤い箇所は何度も推敲したり……出力するまでの負荷が高かった箇所です」
「え……あれ……これ……?」
PCには、AI郡山藤政の新作短編の全文が表示され、行ごとに色分けがされている。
だが、ネット上で批判されている箇所は……。
「あの……格闘マンガから得た知識なんで、正しいとは限りませんが……」
研究者は変な事を言い出した。
「何でしょうか?」
「『殴られる』と判ってる箇所を殴られた場合と、そうでない箇所を殴られた場合では……前者の方がダメージが小さい、って話は聞いた事が有りませんか?」
「あ……」
そうだ……。
この小説の中でも特に強く批判されている場所は……
赤くない箇所だ。
ああ……何故、気付かなかったのだろう?
炎上を狙って書かれた小説の中でも、
作者は深く考えて書いてないが故に、
作者の古臭い考えが出ていながら、
作者本人はその事に気付いていない箇所が主に批判されているのだ。
「そ……そうですね……何となく判りました」
「そりゃ、私が小説家だったらブチ切れますよ。
頭をフル回転させて書いた炎上狙いの箇所には誰も注目せず、
枝葉末節だと思ってた箇所だけが何故かボロクソに言われてるんですから」