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豊富な機能を揃えた創作SNSです。

  • ひとくち【文アル/乱司書】
    アイスを食べてた司書さんとそれを見かけた乱歩先生。
    ※付き合ってる
    ※ネームレス女司書がいます

    #文豪とアルケミスト #文アル #二次創作 #乱司書 #SS
    火弟巳生
  • あまく、ひろがる【文アル/ハワ司書】
    アイスねだるラヴクラフト先生と司書さんのお話
    ※ネームレス女司書がいます

    #文豪とアルケミスト #文アル #二次創作 #ハワ司書 #SS
    火弟巳生
  • あまく、とける【文アル/ハワ司書】
    アイスをくれるラヴクラフト先生と司書さんのお話
    ※ネームレス女司書がいます

    #文豪とアルケミスト #文アル #ハワ司書 #二次創作 #SS
    火弟巳生
  • 佐藤一家
    井(右腕!!!)
    檀(側近!!!)
    佐(何だこの悪の親分感……)
    太(これ俺【長毛種の猫】枠?)
    #文アル
    にしき
  • テスト投稿描いてるときは爆笑してた
    #文アル
    にしき
  • ツイッターのモーメントにまとめ損ねたものを発見した殿
    文アルから織田さんと室生さん。織田さんの第二衣装(赤い着物のやつ)と成人式の話。
    織田さんが生きてるうちに成人式は存在しないんですよね〜
    #文豪とアルケミスト
    #文アル
    neo_sisiza
  • なにもしないからなにもしないで(りゅさい) #文アル #りゅさい東本キッカ
  • 魚は花の呼吸を知るか(藤芥) #文アル #藤芥東本キッカ
  • つるつる(りゅさい) #文アル #りゅさい東本キッカ
  • 牙も花もお前のものだ(りゅさい) #文アル #りゅさい東本キッカ
  • 殴らないとは言っていない(りゅさい) #文アル #りゅさい東本キッカ
  • 恋しや恋し(りゅさい) #りゅさい #文アル東本キッカ
  • イデア(だざしが) #文アル #腐向け #だざしがかすみ
  • 4【文アル】10/7 SPARK 13 お品書き @ 東2-ホ13b #文アル #文豪とアルケミスト #イメージアクセサリー

    新作のワイヤーブレスレットをご希望の場合は、お取り置きをおすすめします。TwitterのDMへ直接どうぞ

    Twitterに同内容の投稿があります→ https://twitter.com/chidori1079/status/1042969177621815296

    マシュマロ→ https://marshmallow-qa.com/chidori1079
    茜千鳥
  • 生殺与奪はあなたの手に(独武) #文アル #腐向け #独武かすみ
  • 孤独を抱きしめた(みよ朔) #文アル #腐向け #みよ朔かすみ
  • 地上の神様(志賀と武者)斜陽の奇襲作戦の時に書いた。
    シガが本物のカミサマになってしまわないように引き止めているのがムシャだと思う。

    #文豪とアルケミスト #文アル
    かすみ
  • もう一度、(しげたき) #文アル #腐向け #しげたきかすみ
  • 9【文アル】イメージアクセ 試作 6・7月分 #文豪とアルケミスト #文アル #イメージアクセサリー

    未完成品も含む6,7月に作ったもの記録用

    1:白樺派巻玉ネックレス
    2:有島武郎イメージ巻玉ピアス
    3-4:佐藤春夫イメージバッグチャーム
    5:尾崎紅葉イメージブレスレット
    6:高村光太郎、坪内逍遥イメージブレスレット
    7-9:巻玉試作
    茜千鳥
  • 6身の内に抱きながら
    #文アル  ##文アル

    2019/5/3 ハートお礼絵更新しました
    2019/9/1 ハートお礼絵更新しました
    2020/4/25 ハートお礼絵更新しました。当記事の更新はこれで最後になります。
    以降頂いたハートは別記事でお礼させていただきます。
    kamira35
  • 5これからの事を考えよう #文アル ##文アル

    2019/8/25 ハートお礼絵更新しました
    2020/4/25 ハートお礼絵更新しました。当記事の更新はこれで最後にまります。以降頂いたハートは別の記事でお礼させて頂きます
    kamira35
  • 雨の降る世界の中でかわいぶ再掲。
    心象風景たる有魂書の中の世界が、特務司書の文豪への印象や読書歴に左右されるものだとしたらゾッとしないなあというはなし。
    ぶせさんは迎えに来た彼がばたさんだとは気づいてないのでしょう。気づいた時の反応が楽しみでなりません。

    #文アル【腐】
    やたろ
  • 水面の月に焦がれてる(鱒司書)私は自分をとても強欲な人間だとおもう。月がほしいとなくわがままは子どもだから許されるのだ。届かないものにいつまでも手を伸ばし続ける愚かな自分を、それでも捨てられないでいる。

    「人間なんてのは皆そんなもんだろう」
    妹を想う兄のような、或いは娘を見る父親のような、少なくとも年下とはいえ仮にも職場の上司に向けるべきではない柔らかな表情で、佐藤は司書の頭を撫でた。面倒見のよい、苦労性の兄貴分とはなるほどこういう一面だろうかとおもう。
    ……それを司書に向ける前に、見せるべき相手がいるだろうにと思うのは、佐藤にとっては余計なお世話だろうけれど。
    「あんたがあいつのために一生懸命になってくれるのは俺としても嬉しいよ」
    「一番弟子だから、ですか?」
    頭に置かれたままの手の影からそっと様子をうかがうと、佐藤は薄くわらったまま、ほんの少し、眼を細めた。
    「そういうあんたはどうなんだ。あいつをどうしても転生させたいというのはわかったが、なぜなんだ?言っちゃ悪いが他の連中の時にはそこまで熱心でもなかっただろ」
    あ、なにかをごまかしたなとおもう。
    「好きだからって言ったら笑いますか?」
    「……なんだって?」
    佐藤の手がようやく頭の上から退けられて、司書はその目を真っ向から見返す。怪訝にひそめられた眉の下、真意を探るように鋭くひかるその眼差しに挑むように。
    「好きなんです。先生がたと今までコツコツと貯めてきた資材の全てを投げ打ってでも手に入れたくて堪らないほど。滑稽なと笑いますか?愚かだと罵りますか?でも、先生だってあのひとと会いたいでしょう。だからきっと、呆れながらも付き合ってくださるでしょう?」
    「……ひとつだけ聞かせてくれ」
    「はい、なんなりと」
    「あんたはあいつが転生したとして、それからどうしたいんだ?恋仲にでもなるつもりか」
    思わぬことを聞いたとばかり、司書は目を見開いて佐藤を凝視する。実際、恋仲になろうなどとは考えてもみなかった司書からすれば、佐藤のその疑問は予想だにしないものだった。
    「……ええと、それはナイです」
    「ないのか」
    「ないです。ううん、なんといいますか、そこにいてくれるだけでいいんです。か、観賞用?といいますか」
    「観賞用」



    「という話をしていたのを思い出したんだが」
    「ああ、そんなこともありましたねえ」
    今宵は宴会が開かれている。井伏鱒二の転生を歓迎してのことだ。遠く聞こえてくるどんちゃん騒ぎに耳を傾けながら、佐藤と司書は報告書をまとめていく。
    司書が宴会に混ざらないのはいつものことだが、下戸とは言え、井伏の師である佐藤があの場にいないのはいかがなものだろうかとおもう。書類仕事を手伝わせておいて言うことではないが、本当に付き合ってもらってよかったのだろうか。このひとが目をかけ、その面倒見の良さを発揮するべき相手はもっと他にいるだろうに。
    「それで、実際どうなんだ。あいつと話しただろう」
    「ええ、声を聞くだけで腰が砕けそうになりましたがなんとか持ちこたえました。あの顔面にあの声は反則でしょう。意外と語尾が柔らかいのだなと思っていたら、何ですかあの戦闘中の口の悪さ。無理ですギャップ萌えという言葉をご存知ないのでしょうか。明日から助手についていただく予定なのですが私は大丈夫なのでしょうか?たかだか二十数年ばかり生きただけの小娘ですが、これほどまでに生命の危機を感じたことはありません」
    「落ち着け」
    電気ケトルから直接注がれた白湯を受け取り、司書は一息に飲み干した。
    「無理です」
    佐藤は湯呑みにもう一杯、白湯を注いでくれた。今度はゆっくりと啜り込む。これが酒だったなら言い訳も立つのに。
    「私はあなたにひとつだけ嘘をつきました」
    佐藤の片眉がぴくりと跳ねる。それだけだった。続きを促すような沈黙にそっと息を吐いて、司書は指先を温めるように湯呑みに添わせた。
    「井伏さんを好きというのはほんとうです。けれどあの人の転生を願った理由はそれだけではありません。
    先生は、ご存知ないでしょう。あのひとが生きた時代のうちの最後のひとつは、私が生まれた時代でもありました。現在、転生可能とされている文豪のうち、あのひとだけが失われた私たちの時代に、実際に生きていたのです」
    明治、大正、昭和、その後には平成と呼ばれた時代があった。人に溢れ、物に溢れ、そして、文化に溢れていた時代。日本という国はかつてなく豊かな時代を迎えていた。今はもう、ほとんどの人間の記憶にも、記録にも残っていない、失われた時代。司書にとっての「現代」。
    文学への侵蝕は、何も文豪と呼ばれる彼らの著書のみを対象としたわけでもなければ、彼らの著書から始まったわけでもなかった。
    誰にも気づかれることなく、静かに、少しずつ、平成という時代に生まれた文学は、その身を侵され姿を消していった。物に溢れていた時代。文学も当然の如く溢れていた。それゆえの弊害。あまりに数が膨大過ぎたために、それが減っていることに気づけなかった。気づいた時には手遅れだった。
    文学への侵蝕現象がようやく認知され始めた頃のことだ。高層ビルが立ち並ぶ、ごみごみとした大都市が、ある日突然、その姿を変えた。日本全体が時代を遡るように、建築物も、乗り物も、服装も、人々の知識も記憶も、巻き戻され、すり替えられ、そうして生まれたのが、この帝都だ。
    そんなことを知る者は、もうほとんど残っていないけれど。
    いっそこの記憶も失われてしまえばよかったと、どこにいるとも知れぬ神を呪ったこともある。そのくせ、思い出すたびにこの記憶が擦り切れ色褪せていくことが恐ろしい。全てはおのれの妄想ではないかと疑ったこともある。そうであるならばよかった。ひとりで抱えていくには限界だった。
    そんな時だった。井伏鱒二転生のためのの招魂研究の許可が再び下りたのは。そういえば、あのひとも平成を知っているのだ、覚えているかもしれないと、そう思ってしまえば、堪らなかった。佐藤に語ったことはほんとうだ。けれどそれ以上に、秘密の共有者がほしかった。どうしても、井伏だけは手に入れなければならなかった。
    なんて不純な動機だろうとおもう。
    恋のような繊細で美しい感情とは違う、この気持ちはもっとどろどろとした、自分本位の醜い欲だ。
    「先生、ねえ、先生。見ているだけだなんて、きっとそれも嘘になってしまうに決まっています。私はそのうち、あのひとなしじゃ生きていけなくなるんです」
    「……あまり、俺の弟子を困らせてくれるなよ」
    他にも何かを言いたげに司書を見下ろしていたが、結局、佐藤の口からそれ以上の言葉が紡がれることはなかった。こういう時に、佐藤は必要以上に踏み込んではこない。関わりたくないというのが本音だろうとはおもう。もとより何か有効なアドバイスを期待していたわけでもない。むしろ佐藤に引かれるための言葉を意識的に選んだ司書としては、その態度には満点をつけたかった。だってどうせ、あの時代を知らない佐藤には、何を言ったところでわかってはもらえないのだから。わかってもらいたくない、というのもある。
    司書がほしい言葉も理解も共感も、佐藤から得られるはずがないのだ。井伏でなくては。
    そうして勝手に井伏への期待値を高めていく。そこにいるだけでいいと言いながら、否、実際に彼が転生するまではそうだったはずだ。平成という時代の存在を証し立てる井伏がいるだけで、それをよすがに生きていけると、以前には思っていたはずだ。けれどほんとうに転生に成功してしまえば、もっと、と望んでしまう。この気持ちを知ってほしい、理解してほしい、分かち合いたい、慰めてほしい。ひとりでよく頑張ったと褒めてほしい。井伏が覚えているという確証すら、まだ得られていないのに。
    なんて、浅ましい。
    月はただ見上げているよりも、手に届くところまで来てしまってからの方が、欲深くなるのだと知った。もしほんとうに手に入れてしまったならば、どうなるのだろう。
    月がほしいと泣いた子どもが月を手に入れたことはない。けれど井伏は月ではない。人間だ。だったら、手に入れられるかもしれないではないか。手に入れてしまったって、構わないではないか。

    わたしは、こんなにもあなたに焦がれている。

    #文アル
    私は自分をとても強欲な人間だとおもう。月がほしいとなくわがままは子どもだから許されるのだ。届かないものにいつまでも手を伸ばし続ける愚かな自分を、それでも捨てられないでいる。

    「人間なんてのは皆そんなもんだろう」
    妹を想う兄のような、或いは娘を見る父親のような、少なくとも年下とはいえ仮にも職場の上司に向けるべきではない柔らかな表情で、佐藤は司書の頭を撫でた。面倒見のよい、苦労性の兄貴分とはなるほどこういう一面だろうかとおもう。
    ……それを司書に向ける前に、見せるべき相手がいるだろうにと思うのは、佐藤にとっては余計なお世話だろうけれど。
    「あんたがあいつのために一生懸命になってくれるのは俺としても嬉しいよ」
    「一番弟子だから、ですか?」
    頭に置かれたままの手の影からそっと様子をうかがうと、佐藤は薄くわらったまま、ほんの少し、眼を細めた。
    「そういうあんたはどうなんだ。あいつをどうしても転生させたいというのはわかったが、なぜなんだ?言っちゃ悪いが他の連中の時にはそこまで熱心でもなかっただろ」
    あ、なにかをごまかしたなとおもう。
    「好きだからって言ったら笑いますか?」
    「……なんだって?」
    佐藤の手がようやく頭の上から退けられて、司書はその目を真っ向から見返す。怪訝にひそめられた眉の下、真意を探るように鋭くひかるその眼差しに挑むように。
    「好きなんです。先生がたと今までコツコツと貯めてきた資材の全てを投げ打ってでも手に入れたくて堪らないほど。滑稽なと笑いますか?愚かだと罵りますか?でも、先生だってあのひとと会いたいでしょう。だからきっと、呆れながらも付き合ってくださるでしょう?」
    「……ひとつだけ聞かせてくれ」
    「はい、なんなりと」
    「あんたはあいつが転生したとして、それからどうしたいんだ?恋仲にでもなるつもりか」
    思わぬことを聞いたとばかり、司書は目を見開いて佐藤を凝視する。実際、恋仲になろうなどとは考えてもみなかった司書からすれば、佐藤のその疑問は予想だにしないものだった。
    「……ええと、それはナイです」
    「ないのか」
    「ないです。ううん、なんといいますか、そこにいてくれるだけでいいんです。か、観賞用?といいますか」
    「観賞用」



    「という話をしていたのを思い出したんだが」
    「ああ、そんなこともありましたねえ」
    今宵は宴会が開かれている。井伏鱒二の転生を歓迎してのことだ。遠く聞こえてくるどんちゃん騒ぎに耳を傾けながら、佐藤と司書は報告書をまとめていく。
    司書が宴会に混ざらないのはいつものことだが、下戸とは言え、井伏の師である佐藤があの場にいないのはいかがなものだろうかとおもう。書類仕事を手伝わせておいて言うことではないが、本当に付き合ってもらってよかったのだろうか。このひとが目をかけ、その面倒見の良さを発揮するべき相手はもっと他にいるだろうに。
    「それで、実際どうなんだ。あいつと話しただろう」
    「ええ、声を聞くだけで腰が砕けそうになりましたがなんとか持ちこたえました。あの顔面にあの声は反則でしょう。意外と語尾が柔らかいのだなと思っていたら、何ですかあの戦闘中の口の悪さ。無理ですギャップ萌えという言葉をご存知ないのでしょうか。明日から助手についていただく予定なのですが私は大丈夫なのでしょうか?たかだか二十数年ばかり生きただけの小娘ですが、これほどまでに生命の危機を感じたことはありません」
    「落ち着け」
    電気ケトルから直接注がれた白湯を受け取り、司書は一息に飲み干した。
    「無理です」
    佐藤は湯呑みにもう一杯、白湯を注いでくれた。今度はゆっくりと啜り込む。これが酒だったなら言い訳も立つのに。
    「私はあなたにひとつだけ嘘をつきました」
    佐藤の片眉がぴくりと跳ねる。それだけだった。続きを促すような沈黙にそっと息を吐いて、司書は指先を温めるように湯呑みに添わせた。
    「井伏さんを好きというのはほんとうです。けれどあの人の転生を願った理由はそれだけではありません。
    先生は、ご存知ないでしょう。あのひとが生きた時代のうちの最後のひとつは、私が生まれた時代でもありました。現在、転生可能とされている文豪のうち、あのひとだけが失われた私たちの時代に、実際に生きていたのです」
    明治、大正、昭和、その後には平成と呼ばれた時代があった。人に溢れ、物に溢れ、そして、文化に溢れていた時代。日本という国はかつてなく豊かな時代を迎えていた。今はもう、ほとんどの人間の記憶にも、記録にも残っていない、失われた時代。司書にとっての「現代」。
    文学への侵蝕は、何も文豪と呼ばれる彼らの著書のみを対象としたわけでもなければ、彼らの著書から始まったわけでもなかった。
    誰にも気づかれることなく、静かに、少しずつ、平成という時代に生まれた文学は、その身を侵され姿を消していった。物に溢れていた時代。文学も当然の如く溢れていた。それゆえの弊害。あまりに数が膨大過ぎたために、それが減っていることに気づけなかった。気づいた時には手遅れだった。
    文学への侵蝕現象がようやく認知され始めた頃のことだ。高層ビルが立ち並ぶ、ごみごみとした大都市が、ある日突然、その姿を変えた。日本全体が時代を遡るように、建築物も、乗り物も、服装も、人々の知識も記憶も、巻き戻され、すり替えられ、そうして生まれたのが、この帝都だ。
    そんなことを知る者は、もうほとんど残っていないけれど。
    いっそこの記憶も失われてしまえばよかったと、どこにいるとも知れぬ神を呪ったこともある。そのくせ、思い出すたびにこの記憶が擦り切れ色褪せていくことが恐ろしい。全てはおのれの妄想ではないかと疑ったこともある。そうであるならばよかった。ひとりで抱えていくには限界だった。
    そんな時だった。井伏鱒二転生のためのの招魂研究の許可が再び下りたのは。そういえば、あのひとも平成を知っているのだ、覚えているかもしれないと、そう思ってしまえば、堪らなかった。佐藤に語ったことはほんとうだ。けれどそれ以上に、秘密の共有者がほしかった。どうしても、井伏だけは手に入れなければならなかった。
    なんて不純な動機だろうとおもう。
    恋のような繊細で美しい感情とは違う、この気持ちはもっとどろどろとした、自分本位の醜い欲だ。
    「先生、ねえ、先生。見ているだけだなんて、きっとそれも嘘になってしまうに決まっています。私はそのうち、あのひとなしじゃ生きていけなくなるんです」
    「……あまり、俺の弟子を困らせてくれるなよ」
    他にも何かを言いたげに司書を見下ろしていたが、結局、佐藤の口からそれ以上の言葉が紡がれることはなかった。こういう時に、佐藤は必要以上に踏み込んではこない。関わりたくないというのが本音だろうとはおもう。もとより何か有効なアドバイスを期待していたわけでもない。むしろ佐藤に引かれるための言葉を意識的に選んだ司書としては、その態度には満点をつけたかった。だってどうせ、あの時代を知らない佐藤には、何を言ったところでわかってはもらえないのだから。わかってもらいたくない、というのもある。
    司書がほしい言葉も理解も共感も、佐藤から得られるはずがないのだ。井伏でなくては。
    そうして勝手に井伏への期待値を高めていく。そこにいるだけでいいと言いながら、否、実際に彼が転生するまではそうだったはずだ。平成という時代の存在を証し立てる井伏がいるだけで、それをよすがに生きていけると、以前には思っていたはずだ。けれどほんとうに転生に成功してしまえば、もっと、と望んでしまう。この気持ちを知ってほしい、理解してほしい、分かち合いたい、慰めてほしい。ひとりでよく頑張ったと褒めてほしい。井伏が覚えているという確証すら、まだ得られていないのに。
    なんて、浅ましい。
    月はただ見上げているよりも、手に届くところまで来てしまってからの方が、欲深くなるのだと知った。もしほんとうに手に入れてしまったならば、どうなるのだろう。
    月がほしいと泣いた子どもが月を手に入れたことはない。けれど井伏は月ではない。人間だ。だったら、手に入れられるかもしれないではないか。手に入れてしまったって、構わないではないか。

    わたしは、こんなにもあなたに焦がれている。

    #文アル
    やたろ
  • 不帰(だざしげ)知ったような顔をして、知ったようなことを言って、取り澄まして、眼鏡の奥の眼差しはいつも冷静に俺を観察している。明るいみどりいろの、顔のパーツのひとつひとつは柔和なくせに、あいつの一部というだけで油断ならないそのまなこが、俺を見て、無言で責める。やはり太宰は自分の藝術を尊重することが足りなかった。文学者としての自尊心が十分大きくなかった──
    うるさい!うるさいうるさいうるさいうるさい!おまえにおれのなにがわかる!何を知っているっていうんだ!棺桶に納まる俺をしづかに見下ろして、餞別がわりの罵倒を寄越す。やはり太宰は〇〇だった!ああそうとも!そうだとも!水に浸かりすぎてふやけた皮膚の一枚一枚を剥ぎ取って、血管を避け、肉を切り分け、青ざめた骨の白さに目を細め、全てをさらけ出すしかない哀れな男のここはこうだ、あいつはこうだと好き勝手に喚いている!死んだ俺をさらに殺すのだ!
    何が論争者か何が文学者か!書いていたいといいながら文学から逃げたのはおまえだろう!
    だけども死体は喋れないので俺は黙ってされるがままになっている。臓腑のひとつひとつを舐め回す視線に堪えている。犬畜生のように無様にはらを晒して横たわっている。
    死後の陵辱、まさにそうだ。俺の尊厳は誰にも守られない、おれ自身にも。死んで今更、道化を演じさせられるのだ。死んだ身体に首輪をはめてぐずぐずに腐った手には鎌を持たせて踊れと命じられるまま、俺は恥を重ねている。ああ嫌だこんなもの、死んでしまいたい。けれども死ねばあいつは俺を謗るだろう。太宰治は〇〇とはいえぬ云々──
    みどりいろの目が偽善者の顔をして俺を見上げている。硝子玉のように無機質にひかりながらいっちょまえに哀れんでいる。けだものじみて腰を振りたてる俺を眺めている。ぽかんと間抜けに開いたくちびるから漏れるのは、あ、とかう、とか条件反射の聞くに堪えない無意味な音ばかり。そのくせ目だけは憐憫と観察を同居させながら俺を映している。言葉より雄弁とは、文学者が、笑わせる。相手とたたかうならば相手を死なせねばならない。相手が首をくくるというようなところまで相手を追いこまねばならない。死ぬことから逃げたおとこが!太宰治の何たるかを知りもしないで!
    フツカヨイだ、と誰かは言った。フツカヨイ、それもいい。死んでは酔いが覚めることもない。こいつは、酔っ払って、前後不覚の男に犯されているのだ。ざまをみろ。

    #文アル【腐】
    知ったような顔をして、知ったようなことを言って、取り澄まして、眼鏡の奥の眼差しはいつも冷静に俺を観察している。明るいみどりいろの、顔のパーツのひとつひとつは柔和なくせに、あいつの一部というだけで油断ならないそのまなこが、俺を見て、無言で責める。やはり太宰は自分の藝術を尊重することが足りなかった。文学者としての自尊心が十分大きくなかった──
    うるさい!うるさいうるさいうるさいうるさい!おまえにおれのなにがわかる!何を知っているっていうんだ!棺桶に納まる俺をしづかに見下ろして、餞別がわりの罵倒を寄越す。やはり太宰は〇〇だった!ああそうとも!そうだとも!水に浸かりすぎてふやけた皮膚の一枚一枚を剥ぎ取って、血管を避け、肉を切り分け、青ざめた骨の白さに目を細め、全てをさらけ出すしかない哀れな男のここはこうだ、あいつはこうだと好き勝手に喚いている!死んだ俺をさらに殺すのだ!
    何が論争者か何が文学者か!書いていたいといいながら文学から逃げたのはおまえだろう!
    だけども死体は喋れないので俺は黙ってされるがままになっている。臓腑のひとつひとつを舐め回す視線に堪えている。犬畜生のように無様にはらを晒して横たわっている。
    死後の陵辱、まさにそうだ。俺の尊厳は誰にも守られない、おれ自身にも。死んで今更、道化を演じさせられるのだ。死んだ身体に首輪をはめてぐずぐずに腐った手には鎌を持たせて踊れと命じられるまま、俺は恥を重ねている。ああ嫌だこんなもの、死んでしまいたい。けれども死ねばあいつは俺を謗るだろう。太宰治は〇〇とはいえぬ云々──
    みどりいろの目が偽善者の顔をして俺を見上げている。硝子玉のように無機質にひかりながらいっちょまえに哀れんでいる。けだものじみて腰を振りたてる俺を眺めている。ぽかんと間抜けに開いたくちびるから漏れるのは、あ、とかう、とか条件反射の聞くに堪えない無意味な音ばかり。そのくせ目だけは憐憫と観察を同居させながら俺を映している。言葉より雄弁とは、文学者が、笑わせる。相手とたたかうならば相手を死なせねばならない。相手が首をくくるというようなところまで相手を追いこまねばならない。死ぬことから逃げたおとこが!太宰治の何たるかを知りもしないで!
    フツカヨイだ、と誰かは言った。フツカヨイ、それもいい。死んでは酔いが覚めることもない。こいつは、酔っ払って、前後不覚の男に犯されているのだ。ざまをみろ。

    #文アル【腐】
    やたろ
  • ねこのはなし(りゅさい)乳飲み子を抱えた女だと思ったら、室生だった。二度見する代わりに瞬きをしきりに繰り返しながら、肺に入れたまま切っ掛けを無くしていた煙をふ、と細く吐き出した芥川は、ついで腹を押さえる室生の手に視線を投げた。人は痛みを感じる所に手を当てるという。さて腹が痛いのか、またぞろ珍しい姿に今度は煙を吐き出すだけでは到底足らず、口元に運びかけた煙草の吸いさしを灰皿へ押し付け捨てると、下駄を鳴らしながら踏み出した。からり、と高くなった音は室生にも届いたようで、振り向いたその顔、とくに目玉がよく濡れて闇夜に光る猫の目のようだった。
    「君がそういう目をしている時は」
     煙草の匂いが残る唇を舐めて湿らせてから、再度口を開く。
    「碌でもない事をしでかす直前か、しでかした後だろうね。今日はどっちだい?」
     室生の唇は引き結ばれたまま、光る飴色の目が芥川をただただじっと見つめている。それに負けじと見つめ返していると、返事はそう経たずに得られた。室生の腹から、にゃあ、と鳴き声がする。
    「……」
    「腹の虫が」
    「いや、猫だよね」
    「腹の虫だ」
     なーん、とまた腹が鳴いた。ついでにうごうごと服の下で腹が波打っているのを宥めるように、押さえていた手がとんとんと撫でさすっている。身重の女のようだった。

     室生の懐の中に居たのは案の定猫で、それも子猫が二匹と母猫が一匹という大所帯だった。薄っぺらい腹のどこにそれだけ隠していたのだと呆れ顔の芥川をよそに、室生は湯がいたささみを母猫に与えている。平皿の中、ささみをほぐしては猫に与える室生の手元を眺めながら、少し離れたところで煙草を吸う芥川の足元に、ころころと子猫が転がってきた。戯れているうちに畳の上をあっちへ転がり、こっちへ転がりと、忙しない様子を目で追いかけていると、まんまと胡座をかいた芥川の膝に子猫がぶつかり、驚いたようにぴょっと跳ねたと思えば母猫の元へころころと駆けて行ってしまった。
    「嫌われたかな」
    「煙草臭いんだろ」
    「それは君もじゃないか、犀星」
     腹の満ちた母猫の背中を撫でる室生の横顔はとても優しい。毛並みを整えるように指先で撫でくすぐりながら、しみじみとこの母猫がな、と語り出した声はどうにも喜びが隠しきれずに滲んでいる。
    「ずっと姿を見せていなかったんだ。中庭によく来ていて、可愛がってたから寂しかったんだが」
    「見かけて攫ってきたのかい」
    「人を人攫いみたく言うんじゃない。そんなつもりは無かったさ、餌だけやろうと思ってたんだが」
     くっ、と眉間に皺を寄せながら大真面目な顔で、
    「子猫を見せに来てくれたんだ。手を出したら、その上に咥えていた子猫を下ろしてくれたんだぞ!」
    「だからって懐に仕舞わないよ」
     いいや仕舞うね、と即答する室生の声に、ううん、と首を捻った芥川は、短くなった煙草を灰皿の中に捨てて、にじり寄るように四つん這いでずりずりと室生の側へと寄った。芥川の姿に母猫は素早く身を起こし、少し離れたところへ行ってしまった。
    「なんだよ」
    「犀星、手を出して」
     言われるがまま、手のひらを上にして芥川へ手を差し出した犀星の指は少しだけ荒れていた。短く整えられた爪を撫で、指腹を逆なでにするようにするりと手のひらを重ねて、ぎゅっと握る。それを数秒ばかり続けてから、芥川は微笑みながら室生に問う。
    「どうだい」
    「何が」
    「懐に仕舞いたくなった?」
     ぺいっと手を振り払われ、ついでのように額を小突かれた。

    #文アル  #りゅさい
    乳飲み子を抱えた女だと思ったら、室生だった。二度見する代わりに瞬きをしきりに繰り返しながら、肺に入れたまま切っ掛けを無くしていた煙をふ、と細く吐き出した芥川は、ついで腹を押さえる室生の手に視線を投げた。人は痛みを感じる所に手を当てるという。さて腹が痛いのか、またぞろ珍しい姿に今度は煙を吐き出すだけでは到底足らず、口元に運びかけた煙草の吸いさしを灰皿へ押し付け捨てると、下駄を鳴らしながら踏み出した。からり、と高くなった音は室生にも届いたようで、振り向いたその顔、とくに目玉がよく濡れて闇夜に光る猫の目のようだった。
    「君がそういう目をしている時は」
     煙草の匂いが残る唇を舐めて湿らせてから、再度口を開く。
    「碌でもない事をしでかす直前か、しでかした後だろうね。今日はどっちだい?」
     室生の唇は引き結ばれたまま、光る飴色の目が芥川をただただじっと見つめている。それに負けじと見つめ返していると、返事はそう経たずに得られた。室生の腹から、にゃあ、と鳴き声がする。
    「……」
    「腹の虫が」
    「いや、猫だよね」
    「腹の虫だ」
     なーん、とまた腹が鳴いた。ついでにうごうごと服の下で腹が波打っているのを宥めるように、押さえていた手がとんとんと撫でさすっている。身重の女のようだった。

     室生の懐の中に居たのは案の定猫で、それも子猫が二匹と母猫が一匹という大所帯だった。薄っぺらい腹のどこにそれだけ隠していたのだと呆れ顔の芥川をよそに、室生は湯がいたささみを母猫に与えている。平皿の中、ささみをほぐしては猫に与える室生の手元を眺めながら、少し離れたところで煙草を吸う芥川の足元に、ころころと子猫が転がってきた。戯れているうちに畳の上をあっちへ転がり、こっちへ転がりと、忙しない様子を目で追いかけていると、まんまと胡座をかいた芥川の膝に子猫がぶつかり、驚いたようにぴょっと跳ねたと思えば母猫の元へころころと駆けて行ってしまった。
    「嫌われたかな」
    「煙草臭いんだろ」
    「それは君もじゃないか、犀星」
     腹の満ちた母猫の背中を撫でる室生の横顔はとても優しい。毛並みを整えるように指先で撫でくすぐりながら、しみじみとこの母猫がな、と語り出した声はどうにも喜びが隠しきれずに滲んでいる。
    「ずっと姿を見せていなかったんだ。中庭によく来ていて、可愛がってたから寂しかったんだが」
    「見かけて攫ってきたのかい」
    「人を人攫いみたく言うんじゃない。そんなつもりは無かったさ、餌だけやろうと思ってたんだが」
     くっ、と眉間に皺を寄せながら大真面目な顔で、
    「子猫を見せに来てくれたんだ。手を出したら、その上に咥えていた子猫を下ろしてくれたんだぞ!」
    「だからって懐に仕舞わないよ」
     いいや仕舞うね、と即答する室生の声に、ううん、と首を捻った芥川は、短くなった煙草を灰皿の中に捨てて、にじり寄るように四つん這いでずりずりと室生の側へと寄った。芥川の姿に母猫は素早く身を起こし、少し離れたところへ行ってしまった。
    「なんだよ」
    「犀星、手を出して」
     言われるがまま、手のひらを上にして芥川へ手を差し出した犀星の指は少しだけ荒れていた。短く整えられた爪を撫で、指腹を逆なでにするようにするりと手のひらを重ねて、ぎゅっと握る。それを数秒ばかり続けてから、芥川は微笑みながら室生に問う。
    「どうだい」
    「何が」
    「懐に仕舞いたくなった?」
     ぺいっと手を振り払われ、ついでのように額を小突かれた。

    #文アル  #りゅさい
    東本キッカ
  • 嗚呼、親愛なる我が師匠実際、あんたは俺の自慢の弟子だよ、と師は言う。
    弟子たちの中でもいちばん聞き分けが良くて、まあそこがもどかしいところもあったんだがな。俺はあんたを本気で叱ったためしがないだろう、と。
    それで、ああそうか、と了解したのだ。この師は覚えていらっしゃらない。元々、記憶に虫食いの多い方ではあるけれど、あの時のことは、師にとっては覚えている価値もない些末な事だったのだろう。
    この人にとっての自分の価値は、従順であるという一点のみなのだ。従順であるがゆえの一番弟子。従順であるがゆえの可愛さ。
    ならば今生はそう振る舞おう。

    ◆◇◆

    「たまにな、ほんとうに時々だが、おまえと一緒に死んでやろうかと思うこともあるんだよ」
    「先生、それは嘘でしょう。いいえ、先生が本気でそのつもりだとしても、最期にはあなたは俺を置いていくに決まっています。皆そうだったんだ」
    「俺をそこいらの女と一緒にするなと言いたいが、ま、そうだろうなあ。俺にはおまえを殺せんよ」
    「そうでしょうとも。先生はひどいひとです」
    ──俺にも先生を殺せないのだということには気づいてはくださらない。

    #文アル【腐】
    実際、あんたは俺の自慢の弟子だよ、と師は言う。
    弟子たちの中でもいちばん聞き分けが良くて、まあそこがもどかしいところもあったんだがな。俺はあんたを本気で叱ったためしがないだろう、と。
    それで、ああそうか、と了解したのだ。この師は覚えていらっしゃらない。元々、記憶に虫食いの多い方ではあるけれど、あの時のことは、師にとっては覚えている価値もない些末な事だったのだろう。
    この人にとっての自分の価値は、従順であるという一点のみなのだ。従順であるがゆえの一番弟子。従順であるがゆえの可愛さ。
    ならば今生はそう振る舞おう。

    ◆◇◆

    「たまにな、ほんとうに時々だが、おまえと一緒に死んでやろうかと思うこともあるんだよ」
    「先生、それは嘘でしょう。いいえ、先生が本気でそのつもりだとしても、最期にはあなたは俺を置いていくに決まっています。皆そうだったんだ」
    「俺をそこいらの女と一緒にするなと言いたいが、ま、そうだろうなあ。俺にはおまえを殺せんよ」
    「そうでしょうとも。先生はひどいひとです」
    ──俺にも先生を殺せないのだということには気づいてはくださらない。

    #文アル【腐】
    やたろ
  • 紅鱒なるほど、師匠なのだろうと思う。
    遠く騒がしい赤い頭に細められたまなこは師というよりも父親のそれに近い温もりを感じさせるが、厳しすぎるところのあるもう一人と足して割ればちょうどよかろう。流石に注視し過ぎたか、振り返った井伏は視線が交わったかと思うとすぐにその目を泳がせる。
    目元の赤さを怪訝に思うまでもなく、答えは自ずから明かされた。
    「そんな、息子を見るような目をせんでくださいよ」
    拗ねたような声でそんなことをのたまうものだから、尾崎はやや高い位置にある頭へと手を伸ばし、それこそ子どもにするように掻き撫ぜた。
    「愛い奴め」

    #文アル【腐】
    なるほど、師匠なのだろうと思う。
    遠く騒がしい赤い頭に細められたまなこは師というよりも父親のそれに近い温もりを感じさせるが、厳しすぎるところのあるもう一人と足して割ればちょうどよかろう。流石に注視し過ぎたか、振り返った井伏は視線が交わったかと思うとすぐにその目を泳がせる。
    目元の赤さを怪訝に思うまでもなく、答えは自ずから明かされた。
    「そんな、息子を見るような目をせんでくださいよ」
    拗ねたような声でそんなことをのたまうものだから、尾崎はやや高い位置にある頭へと手を伸ばし、それこそ子どもにするように掻き撫ぜた。
    「愛い奴め」

    #文アル【腐】
    やたろ
  • 今はまだ、(かわとく)「秋声でいいよ」
    
くふん、と鼻を鳴らしながら、なんでもないことのように徳田は言う。しかし、と言い澱み、泳いだ視線はひやりとする手に頬を挟まれたことで動きを止めた。

    「あの、」

    「悪いけど僕の方では君のことを覚えていないわけだからさ、覚えていない人にそうやって畏まられても、困る」
    
「……はい」

    それに、と言いさして、今度は徳田の目が泳ぐ。
    
「僕の方では、その、君のことを、友人、だと思ってるんだけど」

    ごにょごにょと不明瞭にくぐもった語尾まで確と聞き届け、川端はぱあっと頬に朱を散らす。その、初々しいとさえ思える反応に、徳田は余計に照れてしまった。思わず引いた手を、川端の手が追いかけ捉える。

    「わたしはあなたの友人がいい」

    #文アル【腐】 #かわとく
    「秋声でいいよ」
    
くふん、と鼻を鳴らしながら、なんでもないことのように徳田は言う。しかし、と言い澱み、泳いだ視線はひやりとする手に頬を挟まれたことで動きを止めた。

    「あの、」

    「悪いけど僕の方では君のことを覚えていないわけだからさ、覚えていない人にそうやって畏まられても、困る」
    
「……はい」

    それに、と言いさして、今度は徳田の目が泳ぐ。
    
「僕の方では、その、君のことを、友人、だと思ってるんだけど」

    ごにょごにょと不明瞭にくぐもった語尾まで確と聞き届け、川端はぱあっと頬に朱を散らす。その、初々しいとさえ思える反応に、徳田は余計に照れてしまった。思わず引いた手を、川端の手が追いかけ捉える。

    「わたしはあなたの友人がいい」

    #文アル【腐】 #かわとく
    やたろ
  • #文アル #過去絵を晒すflower_pocky74
  • 十二国記パロ(直白)麒麟はその性、仁にして、流血を嫌い、争いを厭うという。

     そう、麒麟は、白秋は、だめなのだ。たった今、眼前で起きたような流血沙汰を、こいつにだけは見せるべきではなかったのだと悔いたところで後の祭りだ。
血の気の引いた顔を見下ろしながら、己の麒麟をどう宥めたものかと頭を悩ませる。
     青褪めながらも、何を無茶な王たる自覚が云々と叱る言葉は留まるところを知らぬようで、口を挟む隙もない。
抱き起こそうと震える身体に伸ばした腕は、余計に怯えさせるだけだった。

     一刻も早く血の穢れから遠ざけなくてはと、わかってはいるのだが。

    「王、死んだかよ!」

     と、その時、何とも無礼な叫びと共にその場に乱入してきた若者を見て、志賀は不覚にも安堵した。白秋の声がぶつんと途切れる。
ずんずんと大股に、そのくせ足音一つ立てずに優雅に歩み寄る文官に、志賀はやれやれと肩を竦めてみせた。

    「おあいにくさま、生きてるよ。おい、赤いの。お前、」
    「あーっ!王、あんたバッカじゃないの!怪我人が宰輔に近寄るなよこの昏君!さっさと手当てを受けてこい」
     歩み寄ってきた勢いをそのままに、むんずと襟を掴まれて、志賀は些かげんなりとする。
    「わぁーってるから耳元で大声出すなよ。おい、俺はいいからお前は白秋を頼む」
    「僕のことはいいから王を頼むよ。一人で出歩かれてはまたどこぞで頭をぶつけかねないからね」
     志賀が言うと、すかさず白秋がそれに被せてくる。振り向けば、まだ青い顔に睨めつけれて言葉に詰まった。
     白秋の顔色が悪いのは、血が流れたからというだけではない。他ならぬ主人が、白秋を守るために自らの命を危険に晒したためだ。ほんの擦り傷であっても、恐ろしい思いをさせてしまったことに変わりはない。
    「……行くぞ、赤いの」
     志賀がそう言って背を向けると、白秋はようやく肩の力を抜いて壁にもたれた。

    #文アル【腐】 #直白 ##はるいぶ十二国記パロ
    麒麟はその性、仁にして、流血を嫌い、争いを厭うという。

     そう、麒麟は、白秋は、だめなのだ。たった今、眼前で起きたような流血沙汰を、こいつにだけは見せるべきではなかったのだと悔いたところで後の祭りだ。
血の気の引いた顔を見下ろしながら、己の麒麟をどう宥めたものかと頭を悩ませる。
     青褪めながらも、何を無茶な王たる自覚が云々と叱る言葉は留まるところを知らぬようで、口を挟む隙もない。
抱き起こそうと震える身体に伸ばした腕は、余計に怯えさせるだけだった。

     一刻も早く血の穢れから遠ざけなくてはと、わかってはいるのだが。

    「王、死んだかよ!」

     と、その時、何とも無礼な叫びと共にその場に乱入してきた若者を見て、志賀は不覚にも安堵した。白秋の声がぶつんと途切れる。
ずんずんと大股に、そのくせ足音一つ立てずに優雅に歩み寄る文官に、志賀はやれやれと肩を竦めてみせた。

    「おあいにくさま、生きてるよ。おい、赤いの。お前、」
    「あーっ!王、あんたバッカじゃないの!怪我人が宰輔に近寄るなよこの昏君!さっさと手当てを受けてこい」
     歩み寄ってきた勢いをそのままに、むんずと襟を掴まれて、志賀は些かげんなりとする。
    「わぁーってるから耳元で大声出すなよ。おい、俺はいいからお前は白秋を頼む」
    「僕のことはいいから王を頼むよ。一人で出歩かれてはまたどこぞで頭をぶつけかねないからね」
     志賀が言うと、すかさず白秋がそれに被せてくる。振り向けば、まだ青い顔に睨めつけれて言葉に詰まった。
     白秋の顔色が悪いのは、血が流れたからというだけではない。他ならぬ主人が、白秋を守るために自らの命を危険に晒したためだ。ほんの擦り傷であっても、恐ろしい思いをさせてしまったことに変わりはない。
    「……行くぞ、赤いの」
     志賀がそう言って背を向けると、白秋はようやく肩の力を抜いて壁にもたれた。

    #文アル【腐】 #直白 ##はるいぶ十二国記パロ
    やたろ
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