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文豪とアルケミストgif
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日輪
35
文豪とアルケミスト落書きまとめ
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2017~2018
日輪
街は燃えている。
瓦解した家々の下から、或いは燃え盛る炎の中から、声にはならぬ誰かの悲鳴が聞こえてくる。焼け爛れた皮膚をぶら下げて、流れる血もそのままに、動ける者は逃げ場を求めて歩いていく。 その人々を責め立てるように、黒い、黒い雨が降っていた。 黒く、太く、粘りつくような洋墨の雨は、炎を消すにはいっかな役に立たぬ。 地獄の底のような光景がそこには広がっていた。
「なんだい、これは」
喉奥から絞り出されたような声は掠れ、震えている。傍らの徳田はこの世のものとは思えぬ光景に魅入られたように立ち尽くしている。
「どうして、こんなになるまで気づかなかったっていうわけかい。どうして君は平然としてるんだよ、これは君の本だろう!」
かと思えば、一転して井伏に掴みかからんばかりの勢いで責め立てる。 ああ、そうか、と気がついた。 この青年は、今でこそ年若い容姿ながらもかつての文壇の重鎮であった男は、この光景を知らぬのだ。 徳田だけではない。北原も、尾崎も、井伏以外の者は誰も知らぬ。
「これは侵蝕じゃあないよ、徳田さん。アンタは知らないだろうがここは元々こういう場所なんでね」
この地獄の如き光景こそが、この本の本来あるべき姿だった。
#文アル
街は燃えている。
瓦解した家々の下から、或いは燃え盛る炎の中から、声にはならぬ誰かの悲鳴が聞こえてくる。焼け爛れた皮膚をぶら下げて、流れる血もそのままに、動ける者は逃げ場を求めて歩いていく。 その人々を責め立てるように、黒い、黒い雨が降っていた。 黒く、太く、粘りつくような洋墨の雨は、炎を消すにはいっかな役に立たぬ。 地獄の底のような光景がそこには広がっていた。
「なんだい、これは」
喉奥から絞り出されたような声は掠れ、震えている。傍らの徳田はこの世のものとは思えぬ光景に魅入られたように立ち尽くしている。
「どうして、こんなになるまで気づかなかったっていうわけかい。どうして君は平然としてるんだよ、これは君の本だろう!」
かと思えば、一転して井伏に掴みかからんばかりの勢いで責め立てる。 ああ、そうか、と気がついた。 この青年は、今でこそ年若い容姿ながらもかつての文壇の重鎮であった男は、この光景を知らぬのだ。 徳田だけではない。北原も、尾崎も、井伏以外の者は誰も知らぬ。
「これは侵蝕じゃあないよ、徳田さん。アンタは知らないだろうがここは元々こういう場所なんでね」
この地獄の如き光景こそが、この本の本来あるべき姿だった。
#文アル
やたろ
カミサマと人間(直白)
「神様と呼ばれるのは、いったいどんな気分なの」
問いかけとも思われぬひそやかな声に、志賀は咥えていた煙草を離して傍らの男をまじまじと見下ろした。いつから目を覚ましていたのか、うつ伏せに寝転んだ姿勢のまま視線だけを志賀に向けている。
「どうした、藪から棒に」
「……君が小説の神様であるように、横光くんが文学の神様であるように、僕はきっと詩歌においてそう呼ばれるに等しい立場にあるのだけれど」
「国民詩人様だもんな、お前は」
けれどね、と言いさして、北原はあまり似つかわしくない重たげな息をつく。
僕にもおくれよと言うので、志賀はサイドボードに置かれていた敷島を渡してやった。
「お前、寝煙草は嫌いじゃなかったか」
「よく言ったものだね、その僕の隣で堂々と寝煙草をしておいて」
「起きてるだろ」
「そうかい」
煙草を咥えた北原がもそりと身を起こすので、志賀は黙って顔を近づけた。北原の煙草の先端にぼうっと赤い火がともり、ふっと解けるように煙が立ちのぼる。
うす紫の煙のあわいから、北原の詩は生まれるのだ。
「国民詩人、詩聖、言葉の魔術師……どれも北原白秋を指す言葉だよ。それらを与えられるだけのものを遺したという自負はあるさ。あの時代において僕以上に詩歌に挑み続けた者はそういないだろうね」
けれどね、と北原はまた嘆息する。視線を動かすと、志賀が無言で灰皿を差し出してきたのでそこに吸いさしを擦りつけた。
「彼ならば、と思うひとがひとりだけいたのだよ。そうなる前に彼は僕を置いて逝ってしまったのだけれど」
決して届かないものに焦がれて血を吐くような声だった。一度死んで生まれ直しても、こいつは、北原は諦めきれないのだ。志賀ははじめて、北原のいっとう脆い部分に触れたと思った。
「他の誰になんと言われようと、どう思われようと構わないさ。けれど、彼にだけは、間違っても僕に劣るなどとは思ってほしくない。あんなところで終わるひとではなかった。僕の隣を、いいや、僕の先を行くべきひとだったのだよ」
彼、というのが誰を指すのか、志賀は薄々勘付いていた。今生においては北原がそのおとこにほとんど恋慕に近い感情を抱いているのではないかと、前々から思っていたのだ。北原自身には、その自覚がないようだが。
志賀が無言でいると、北原は話しすぎたとでも思ったか、表情を隠すように顔を背けた。矜持の高いおとこだ。恥じ入るというよりは、志賀にすがるような真似をしたおのれ自身に腹を立てたのかもしれない。
志賀はうす紫の髪に手を伸ばし、愛弟子にするようにくしゃりと無造作にかき混ぜる。
「俺を神様だと呼びたい奴はそう呼べばいい。否定したいならすればいい。けどな、」
と一旦言葉を切って、今にもぼろりと崩れて灰を落としかけていた吸いさしを灰皿に押しつける。
空いた両手で薄い肩を抱き寄せた。この少年のような未成熟な身体が二丁の銃を操るのかと、いつも驚かされる。
「俺もお前と同じただの人間だから、武者やなんかに神聖視されたらキツイだろうな」
「ばかだね、君は」
「ああ」
「人間でなければ何だというのだい」
「そうだな」
そうだな、と繰り返し、志賀は北原の肩に顔を埋める。志賀が顔を上げるまで、北原は黙ってされるがままになっていた。
#文アル
【腐】
#直白
「神様と呼ばれるのは、いったいどんな気分なの」
問いかけとも思われぬひそやかな声に、志賀は咥えていた煙草を離して傍らの男をまじまじと見下ろした。いつから目を覚ましていたのか、うつ伏せに寝転んだ姿勢のまま視線だけを志賀に向けている。
「どうした、藪から棒に」
「……君が小説の神様であるように、横光くんが文学の神様であるように、僕はきっと詩歌においてそう呼ばれるに等しい立場にあるのだけれど」
「国民詩人様だもんな、お前は」
けれどね、と言いさして、北原はあまり似つかわしくない重たげな息をつく。
僕にもおくれよと言うので、志賀はサイドボードに置かれていた敷島を渡してやった。
「お前、寝煙草は嫌いじゃなかったか」
「よく言ったものだね、その僕の隣で堂々と寝煙草をしておいて」
「起きてるだろ」
「そうかい」
煙草を咥えた北原がもそりと身を起こすので、志賀は黙って顔を近づけた。北原の煙草の先端にぼうっと赤い火がともり、ふっと解けるように煙が立ちのぼる。
うす紫の煙のあわいから、北原の詩は生まれるのだ。
「国民詩人、詩聖、言葉の魔術師……どれも北原白秋を指す言葉だよ。それらを与えられるだけのものを遺したという自負はあるさ。あの時代において僕以上に詩歌に挑み続けた者はそういないだろうね」
けれどね、と北原はまた嘆息する。視線を動かすと、志賀が無言で灰皿を差し出してきたのでそこに吸いさしを擦りつけた。
「彼ならば、と思うひとがひとりだけいたのだよ。そうなる前に彼は僕を置いて逝ってしまったのだけれど」
決して届かないものに焦がれて血を吐くような声だった。一度死んで生まれ直しても、こいつは、北原は諦めきれないのだ。志賀ははじめて、北原のいっとう脆い部分に触れたと思った。
「他の誰になんと言われようと、どう思われようと構わないさ。けれど、彼にだけは、間違っても僕に劣るなどとは思ってほしくない。あんなところで終わるひとではなかった。僕の隣を、いいや、僕の先を行くべきひとだったのだよ」
彼、というのが誰を指すのか、志賀は薄々勘付いていた。今生においては北原がそのおとこにほとんど恋慕に近い感情を抱いているのではないかと、前々から思っていたのだ。北原自身には、その自覚がないようだが。
志賀が無言でいると、北原は話しすぎたとでも思ったか、表情を隠すように顔を背けた。矜持の高いおとこだ。恥じ入るというよりは、志賀にすがるような真似をしたおのれ自身に腹を立てたのかもしれない。
志賀はうす紫の髪に手を伸ばし、愛弟子にするようにくしゃりと無造作にかき混ぜる。
「俺を神様だと呼びたい奴はそう呼べばいい。否定したいならすればいい。けどな、」
と一旦言葉を切って、今にもぼろりと崩れて灰を落としかけていた吸いさしを灰皿に押しつける。
空いた両手で薄い肩を抱き寄せた。この少年のような未成熟な身体が二丁の銃を操るのかと、いつも驚かされる。
「俺もお前と同じただの人間だから、武者やなんかに神聖視されたらキツイだろうな」
「ばかだね、君は」
「ああ」
「人間でなければ何だというのだい」
「そうだな」
そうだな、と繰り返し、志賀は北原の肩に顔を埋める。志賀が顔を上げるまで、北原は黙ってされるがままになっていた。
#文アル
【腐】
#直白
やたろ
魂の輪郭(藤村と谷崎)
「君の嗜好は君自身に拠るものなのかな、君はどう思ってる? 」
師と楽しげに話している分には別段何とも思わないが、その好奇心がおのれに向けられるとなると話は違ってくるのだと、ここへ来てようやく実感した。どうあしらおうと小首を傾げた谷崎を、瞬きの少ない昆虫めいた双眸がひたと見据える。
「さて、どういう意味でしょう」
当たり障りのない返答もできないことはなかったろう。けれども考えるより、嫌悪が口を動かす方が早かった。拒絶を匂わせる声音にしかし、男が怯んだ様子はない。
好奇心の塊というより好奇心そのもののようなこの男は、自身の欲求を満たすためには何をしても良いと思っている節があるのではと疑っていたのだけれど、真実そうだと示されたところで面白いとも思えない。鼻白む谷崎にも一向に構わず、しかし相変わらず好奇心の矛先は谷崎を向いているのだから滑稽といえばそうだった。
#文アル
【腐】
「君の嗜好は君自身に拠るものなのかな、君はどう思ってる? 」
師と楽しげに話している分には別段何とも思わないが、その好奇心がおのれに向けられるとなると話は違ってくるのだと、ここへ来てようやく実感した。どうあしらおうと小首を傾げた谷崎を、瞬きの少ない昆虫めいた双眸がひたと見据える。
「さて、どういう意味でしょう」
当たり障りのない返答もできないことはなかったろう。けれども考えるより、嫌悪が口を動かす方が早かった。拒絶を匂わせる声音にしかし、男が怯んだ様子はない。
好奇心の塊というより好奇心そのもののようなこの男は、自身の欲求を満たすためには何をしても良いと思っている節があるのではと疑っていたのだけれど、真実そうだと示されたところで面白いとも思えない。鼻白む谷崎にも一向に構わず、しかし相変わらず好奇心の矛先は谷崎を向いているのだから滑稽といえばそうだった。
#文アル
【腐】
やたろ
4
ご当地BUNGO
金沢コラボのときのです。
自分で撮った写真にかいてます。また行きたいなあ。
あんまり遠出ができないのですが、またチャンスがあったらやりたいなあと思ってます。
#文アル
#ご当地BUNGO
えなん
3
特定有碍書BUNGO
ツイッタのタグの。また追加できたらいいな
#特定有碍書BUNGO
#文アル
えなん
3
HappyBirthday
お誕生日のお祝いに書いたもの
#文アル
えなん
4
ブンゴー読破落書きチャレンジ
複数投稿テストかねて
#文アル
#ブンゴー読破落書きチャレンジ
えなん
#落書
#文アル
北窓ささめ
薄氷の月(りゅさい)
「おまえに見下ろされてばかりなのは癪だ」
室生の何気ない一言が切っ掛けになって、伸し掛かっていた男は薄ら氷の双眸を面白そうに細めた後、室生を抱えるようにごろりと寝返りを打った。四肢を縫いとめるように見下ろしていたのが一転、長い髪を巻き込むように下敷きにしながら腹の上に抱えた室生を、面白がるように見詰めている。ちょうど仰向けに寝そべる芥川の、臍の下あたりに腰を下ろしかけて、息苦しいかと膝でずり下がり、腿の上に腰を下ろす。置き場所に迷って、体を支えるように芥川の腹や胸に手を伸ばし、前傾姿勢になっても、まだ少しばかり距離が遠い。
「見下ろす気分はどうだい、犀星」
「思ったよりは面白くない」
「はは」
芥川が笑うと腹が波打って、その振動で上に跨っている室生も揺れた。海辺の、寄せた後にざあざあと引いていく細波のようで、余韻は長い。薄っぺらい寝巻きの上から触る芥川の体は、着痩せするのか、見目から想像するよりもずっと分厚く頑強だった。腹を撫でると、筋肉のおうとつが良く分かる。下腹から臍の上を辿り、鳩尾を通り過ぎて胸へ、とつとつと手のひらで擦り上げるように体を撫でると、くすぐったがって揺れる呼気がやけに甘ったるい。前のめりになるにつれ、腰が浮いて四つん這いになると、距離はどんどんと縮まった。笑いだすのを堪えるように喉奥でひしゃげた声が、また妙に婀娜っぽいのに加えて、室生の一挙手一投足、つぶさに凝視している、青々と澄んだ両のまなこの艶めかしさといったら。
「おまえは随分、楽しそうだな?」
「うん。それはもちろん、楽しいよ、だって」
犀星の顔がよく見える。見上げる格好のまま、普段とは視点の違う眺めを堪能するように視線が室生の顔を舐めるように見詰め、口元で止まった。赤みの足りない、色の薄い唇は乾いていて、表面が少しささくれている。芥川の手が伸びて、荒れてかさついた下唇をやんわりと撫でた。うにうにと感触を楽しむように唇を弄られ、喋ろうにも指を咥えこんでしまいそうで、必死に引き結ぼうとする口端が、呼吸のために緩んだ隙を突いてぬるぬ、と人差し指が滑り込んでくる。噛み締めた歯列を、人差し指の腹が順繰りに撫で、噛み合わせの合間に爪が引っ掛かる。切り揃えられた固い爪と、歯のエナメル質がぶつかる音がして、威嚇するようにあぎとを開く。それが拙かった。
「ん、」
唾液にぬるんだ人差し指が歯列の奥へ潜り込む。かしり、と歯を立てたところで、怯むどころか嬉しげに笑われてしまって、拍子抜けしていると懲りずに今度は中指が唇を割り開き、舌をつまむように表面を撫でた。煙草の味が色濃い指に、ふと、舌を這わせてみる。中指を舐るように、尖らせた舌先でくすぐってみれば、指の形を想像して疼くように背中が震えた。ペンだこのある指の、硬くなった皮膚をしゃぶる。
飲み込みきれずに溢れそうになる唾液が口の中に溜まって芥川の指をしとどに濡らすと、下唇をぐいと押し下げられて、ぱた、た、と粘度の高い唾液が糸を引きながら溢れていく。口端から顎先へ伝い、喉元へ垂れるものもあれば、下敷きにしている芥川の寝巻きを濡らすものもある。飢えた犬のように、みっともなく汚す姿にかっと羞恥を覚え、薄い皮膚を真っ赤に染めた室生が、視線のやり場に困ったように目を伏せた。ほつほつと溢れる唾液を無理やりに飲み下そうとして、指を咥えたままで嚥下するとその動きが気に入ったらしい。ぬかるみを掻き混ぜるような水音を立てながら、二本の指は室生の口の中を丁寧に探り、呼吸するリズムすら教え込む。ふ、ふ、と切れ切れに溢れる息が次第に体温が移ったように熱を孕み、飲み込みきれない唾液に乾ききっていた唇はすっかりと潤んでいる。
「ん、ぅ」
火照った皮膚を唾液が伝う緩慢さが焦れったい。舌と、それから上顎と、頬の柔い粘膜を掻く指にすっかり息が上がって、四つん這いだった腰が徐々に落ちていく。芥川の腹の上に座込みかけて、すぐに室生は腰を震わせた。逃げるようにずり上がりながら、伏せていた飴色の目を見開く。溺れたように喘ぐ口から、濡れてふやけた指がぬるる、と引き抜かれ、脈打つ首筋を掴み、引き寄せられる。どろどろに濡れた唇が噛み付くように塞がれる直前、室生が見た薄ら氷の目は、燻るように欲に濡れて、三日月のように眦をたわめていた。
#文アル
#りゅさい
「おまえに見下ろされてばかりなのは癪だ」
室生の何気ない一言が切っ掛けになって、伸し掛かっていた男は薄ら氷の双眸を面白そうに細めた後、室生を抱えるようにごろりと寝返りを打った。四肢を縫いとめるように見下ろしていたのが一転、長い髪を巻き込むように下敷きにしながら腹の上に抱えた室生を、面白がるように見詰めている。ちょうど仰向けに寝そべる芥川の、臍の下あたりに腰を下ろしかけて、息苦しいかと膝でずり下がり、腿の上に腰を下ろす。置き場所に迷って、体を支えるように芥川の腹や胸に手を伸ばし、前傾姿勢になっても、まだ少しばかり距離が遠い。
「見下ろす気分はどうだい、犀星」
「思ったよりは面白くない」
「はは」
芥川が笑うと腹が波打って、その振動で上に跨っている室生も揺れた。海辺の、寄せた後にざあざあと引いていく細波のようで、余韻は長い。薄っぺらい寝巻きの上から触る芥川の体は、着痩せするのか、見目から想像するよりもずっと分厚く頑強だった。腹を撫でると、筋肉のおうとつが良く分かる。下腹から臍の上を辿り、鳩尾を通り過ぎて胸へ、とつとつと手のひらで擦り上げるように体を撫でると、くすぐったがって揺れる呼気がやけに甘ったるい。前のめりになるにつれ、腰が浮いて四つん這いになると、距離はどんどんと縮まった。笑いだすのを堪えるように喉奥でひしゃげた声が、また妙に婀娜っぽいのに加えて、室生の一挙手一投足、つぶさに凝視している、青々と澄んだ両のまなこの艶めかしさといったら。
「おまえは随分、楽しそうだな?」
「うん。それはもちろん、楽しいよ、だって」
犀星の顔がよく見える。見上げる格好のまま、普段とは視点の違う眺めを堪能するように視線が室生の顔を舐めるように見詰め、口元で止まった。赤みの足りない、色の薄い唇は乾いていて、表面が少しささくれている。芥川の手が伸びて、荒れてかさついた下唇をやんわりと撫でた。うにうにと感触を楽しむように唇を弄られ、喋ろうにも指を咥えこんでしまいそうで、必死に引き結ぼうとする口端が、呼吸のために緩んだ隙を突いてぬるぬ、と人差し指が滑り込んでくる。噛み締めた歯列を、人差し指の腹が順繰りに撫で、噛み合わせの合間に爪が引っ掛かる。切り揃えられた固い爪と、歯のエナメル質がぶつかる音がして、威嚇するようにあぎとを開く。それが拙かった。
「ん、」
唾液にぬるんだ人差し指が歯列の奥へ潜り込む。かしり、と歯を立てたところで、怯むどころか嬉しげに笑われてしまって、拍子抜けしていると懲りずに今度は中指が唇を割り開き、舌をつまむように表面を撫でた。煙草の味が色濃い指に、ふと、舌を這わせてみる。中指を舐るように、尖らせた舌先でくすぐってみれば、指の形を想像して疼くように背中が震えた。ペンだこのある指の、硬くなった皮膚をしゃぶる。
飲み込みきれずに溢れそうになる唾液が口の中に溜まって芥川の指をしとどに濡らすと、下唇をぐいと押し下げられて、ぱた、た、と粘度の高い唾液が糸を引きながら溢れていく。口端から顎先へ伝い、喉元へ垂れるものもあれば、下敷きにしている芥川の寝巻きを濡らすものもある。飢えた犬のように、みっともなく汚す姿にかっと羞恥を覚え、薄い皮膚を真っ赤に染めた室生が、視線のやり場に困ったように目を伏せた。ほつほつと溢れる唾液を無理やりに飲み下そうとして、指を咥えたままで嚥下するとその動きが気に入ったらしい。ぬかるみを掻き混ぜるような水音を立てながら、二本の指は室生の口の中を丁寧に探り、呼吸するリズムすら教え込む。ふ、ふ、と切れ切れに溢れる息が次第に体温が移ったように熱を孕み、飲み込みきれない唾液に乾ききっていた唇はすっかりと潤んでいる。
「ん、ぅ」
火照った皮膚を唾液が伝う緩慢さが焦れったい。舌と、それから上顎と、頬の柔い粘膜を掻く指にすっかり息が上がって、四つん這いだった腰が徐々に落ちていく。芥川の腹の上に座込みかけて、すぐに室生は腰を震わせた。逃げるようにずり上がりながら、伏せていた飴色の目を見開く。溺れたように喘ぐ口から、濡れてふやけた指がぬるる、と引き抜かれ、脈打つ首筋を掴み、引き寄せられる。どろどろに濡れた唇が噛み付くように塞がれる直前、室生が見た薄ら氷の目は、燻るように欲に濡れて、三日月のように眦をたわめていた。
#文アル
#りゅさい
東本キッカ
文アル
藤村
#島崎藤村
#文アル
まっちょす
中也さん
#文アル
りんゆ1
はくしゅう先生
試しに手を出してみたらとんだ沼でした…はくしゅう先生好きです。
#北原白秋
#文アル
#文豪とアルケミスト
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hien
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