泉白子という役者について■売れない三流芸人時代
主に時代劇の脇役、切られる下人、野盗、浪人侍、果ては妖怪や化け物役ととにかく倒されるものが多い。
日常にも煙たがられていたようで(当時は見た目と家の差別意識が強かった、泉白子はアルビノな上、家について明かさなかったため、身元がわからない胡散臭い男と思われていた。)稽古中、古参に勢いよく打ち付けられ、斬られかかったりするため、受け身、躱すことが長けていたようだ。
斬られやすい場面によく出されるので作品傾向は、ちゃんばら活劇、ギャグモノ、また怪奇怪談ホラーと多彩、見た目もあってか出る場面はよく客に受けていた。
この頃の世間の評価は、大半は見世物小屋でみる得たいの知れないのものを、見るような恐怖感、嫌悪感。ごく稀に彼の見た目に興味を持つ者がいた。
中には、白子と同じ外見に悩んでいた者に勇気を与えたとか、熱心な純粋なファンがいたとか。とにかくこの頃から売れないながらも変わった役者ではあった。
余談だが、化け物の変装時、目だけが異様に目立ったことで怯えて逃げ出した者がこの劇団は本物の化け物を飼っていると騒いで一度騒然となったことがある。泉白子は自分で変装も行っていたがおそらくその見た目のインパクトが勝ったのだろう。
■遅咲きのスタア時代
泉白子が有名になったのは35の頃だ、遅咲きの役者だった。
ある舞台で一躍注目を浴び、その後は多岐に渡って活躍。日本で大人気の俳優となった。
数値で言えば信用が103と言ったところだ、どういう意味かはわかる読者だけでいい。
とにかく、泉白子は売れたのだ。
勿論役どころは主役だった。
坂崎出羽守など、まだまだ時代劇が多めだが。
サスペンスやらこの時代特有の謎めいたロボットものにも出たり様々だった。
恋愛ものは当初緊張がみられたというが、何本かこなすとそういったシーンは安定していった。
色男と言われていた泉白子のそのシーンを熱っぽくみる者は多かったという。
………………恋愛シーンもこなす、というのは表向きだがスタッフによると、一旦撮影をしたらしばらくやりたくないと本人が主張するため、出演する色々な映画の恋愛シーンだけ全部一気に取る期間があるらしい。様々な監督やらスタッフが集結するところはさまながらお祭り状態だという。
濡れ場シーンだけはカツラして似た人間にやらせろ、私は絶対やらないと頑なに拒否したという話もあるが、そういったシーンは顔がよく見えないため真偽は不明。
筆者もそのシーンをいくつか見たが、体格などで別人だろうというのは何本かあった。
軍の士気向上のため戦意高揚映画出演も依頼されており、何本か残っている。
だが本人は出ることにいい返事をしたことは一度もなかったと、現存している手掛けていた監督の手紙に記されていた。
多忙になり映画と劇と舞台とてんてこ舞いになるが、日活映画の大御所、出来賀田作監督のだけは依頼が来たら優先で受けていた。古くから交遊関係があったかは不明だが、ある鳥の名前の映画が始まりらしい。その映画はレア物で筆者もまだ拝んだことはない。
世間からは、この頃の泉白子は、声が軍人のように快活でとても通り、日傘をして歩く様がよく目立ったという。
素顔をだす舞台が多くなり、その見た目からブロマイドはバカ売れし、老若男女問わずファンが多かった。
だが、本人はファンが少々苦手だったという、世間の侮蔑の眼差しから掌を返した態度に、信用というものが泉白子からなくなっていたのかもしれない。
また、彼の舞台は一席必ず空いてるという話で有名。それを見るためにくる者もいたという。
有名になっても不思議な話題はついてきたのだ。
彼を妬むものからは、見世物小屋から間違えて出てきた、世間を惑わす妖怪、パトロンに媚うって成り上がった人間の出来損ないとか言われていた。
■演技のルーツ
白子の演技はある明治時代の有名な俳優のものを模倣して自分なりにアレンジしたものらしい。
そのため昔の人間からは懐かしまれ、若い人間からは斬新!と評判だった。
白子はその俳優のことをとても尊敬しており、その人についてよく雑誌など集めていたという話だ。