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    月鴻明物語 其の子は、鬼子と呼ばれていた。

     其の子が両親を怯えさせた理由は、自分達とは似ても似つかぬ藍玉色の髪と瞳のせいだけではない。其の子は、まだ片言しか話せぬ幼児の頃より、周囲に摩訶不思議な現象を引き起こし続けていたのだ。
     紛失物の場所や天候の変化を見事に言い当てたり、誰かが話しているその言葉が嘘か真かを見破ったりするだけではなかった。其の子が長く留まる場所には必ずと言っていいほどに、何かしらの「怪異」が起こるのだ。
     生家の周りに鬼火が飛び回る程度の事は日常茶飯事であったし、屋内では触りもしない家具がひとりでに動いたり、行灯の火が勝手についたり消えたりする。誰もいないはずの隣室から一晩中笑い声が聞こえてきたりする。
     其の子や、子の両親に直接的な被害があったことはただの一度も無い。だが、退魔の僧でも陰陽師でもないごく普通の庶民である両親は、我が子が引き起こす怪異に怯え続け、ついに心折れてしまった。まだ年端もいかぬ其の幼な子との縁を切り、御仏の手に託すことを決めたのだ。
     藍玉の髪と眼を持つ其の子は、まだ十にもならぬうちに両親との縁を切られ、とある古寺に預けられることとなった。

     其の子が預けられた古寺は長い歴史を持っており、そこにつとめる住職も、浮世に広くその名が知れ渡った高僧であった。だが、彼の法力を持ってしても藍玉色の髪の子が巻き起こす怪異を鎮めることはできなかった。どんなに霊験あらたかな経文も護符もまるで効果が無く、僧侶の努力をあざ笑うかのように、怪異は連日連夜繰り返された。
     そんなある日のこと。のべつまくなしに巻き起こる怪異に疲れ果てた住職が庭でへたり込んでいると、通りがかりの武士らしき男が声をかけてきた。やつれた住職が一連の理由を話して子供を指差すと、銅色の髪をしたその武士は逞しい顎を撫で、住職にこう告げた。……そのような強い霊力を持つ子供であるならば、我が一族が預かり、育てようではないか。
     武士の話をよく聞けば、彼らは遥か古来より地獄を監視し、そこより出でし魑魅魍魎どもと戦う役目を負っている一族なのだと言う。悪鬼共と直接斬り合うは我ら戦士の役目。だが、人ならざる者を引き寄せながらも害は受けぬ其の子の霊力は、必ずや我らの力となろう。
     ……憔悴しきっていた住職は、武士のその言葉を聞いた直後に彼の申し出を受けることを決めていた。

     こうして、その身に備わった望まぬ力のために実の親から見放された幼子は御仏にもまた見放され、赤銅色の髪を持つ武士に手を引かれ、彼らの里へと連れられていったのだった。


     武士に連れられ退魔の一族となった藍玉色の髪の子は、彼らに仕える陰陽師にその才を見出され、師の元で陰陽道や退魔術を学び始めることとなった。一族にとって幸いなことに、修行を続けていくうちに、其の子には強い霊力だけではなく常人以上の賢さが備わっていることがわかり、魑魅魍魎どもと戦う責務を負った彼らを大いに喜ばせることになる。

     退魔の一族となっても、其の子が自らの周囲に怪異を巻き起こす体質は変わることは無かった。しかし、この一族の者たちは怪異と呼ばれる現象や存在によく慣れていた。いくら周囲で怪異が巻き起ころうとも微塵も動じぬ豪胆な精神の彼らは、強い霊力と賢い頭脳を持つ其の子を重宝し、将来有望ともてはやす。親からも僧からも鬼子と呼ばれ続けていた藍玉色の髪の子は、ここに来てようやく、誰からも見放されずにすむ場所を手に入れたように思えた。
     ……しかし、賢い其の子は気がついていた。一族の者たちのその態度は、あくまで忠実で優秀な駒を大切にしているだけなのだと言うことに。自分は決して、人として見られてはいないのだと言うことに。

     ……其の子は、鬼子と呼ばれていた。
    だが、其の子は最早、そう呼ばれることになんの感情も抱いてはいなかった。既に子供ではなく、少年と呼ばれる歳ごろに成長していた彼は、周囲に怪異を引き起こさずにはいられぬこの身を忌み嫌われることもなく、生きていくのに必要な衣食住を与えてもらっているだけでも感謝せねばならぬと考えていた。
     幼き頃より鬼子と呼ばれ、周囲の人間から見放され続けて生きてきた彼は、心の底からそう思っていた……。


     それは、ある日の夕暮れ刻の事だった。
     有り余る霊力を制御するための修練を終えた其の子は、人里離れた山中に造られた鍛錬場を後にし、己に割り当てられた寝床へ向かうために帰途を急いでいた。太陽は今にも山の向こうに沈もうとしている。今日は少々鍛錬に時間をかけすぎてしまったかもしれない。日が完全に暮れる前に山を降りなければ、厄介な事になってしまう……。
     逢魔が刻の、まるで周囲が燃えあがりそうなほどに赤い夕焼けの光の中。己の影法師の先だけを見ながら早足で山道を進んでいたその時。其の子の足元に黒い影がかかった。
     はて、この時間に山道を通る者など自分以外にいないはず。もしやお師様が私に何事かを伝えに参られたのであろうか……。そう思い、訝しげに振り返った彼の藍玉色の眼に映ったもの。それは、見上げるほどの巨体を持つおぞましい化け物であった。

     実に唐突に、なんの前触れもなく彼の眼前に現れた醜悪なその化け物は、丸太のような身体の中央についた大きな一つ目を血走らせ、瞬きもせずに彼の事を睨んでいる。それは、人ならざるものとの邂逅には慣れきっているはずの其の子ですら息を呑む程の、不気味で醜悪な怪物であった。しかもそれだけではない。おぞましい化け物のその目には、彼に対する極めて明確な殺意の光が宿っている。

     物心ついたころより人との縁に乏しく、怪異と共に生きてきた其の子にとって、魑魅魍魎や妖怪はある意味身近な存在であった。むしろ、自分を恐れ、遠ざける人間達より、呼びもしないのに己の周りに現れる物の怪達に親しみを感じていたこともあったのだ。
     だが、今目の前に現れた物の怪……いや、化け物は、これまで遭遇してきたどの怪異とも違っていた。化け物の血走った一つ目は、人間の血に飢えた様を隠そうともせず、其の子を睨みつけている……。

     逃げなければ。咄嗟にそう思った其の子が片足を背後に踏み出した途端。化け物の巨大な目玉の下部がぱくりと割れ、刃のような牙がずらりと並んだ大口が現れる。そして次の瞬間、一つ目の化け物は、おぞましい叫び声と共にこちらに向かって飛びかかってきた。
     反射的に身をひねりその一撃を回避できたのは、奇跡と言ってもよかったであろう。だが、こちらが体勢を整える間もなく、化け物は唸り声をあげながら再び飛びかかってくる。ああ、駄目だ、次は避けられない。身体が動かない。恐怖に硬直した其の子の眼に映ったのは、彼を喰らおうと大口を開けて牙を剥く化け物の姿……。

     ああ、これまでか。

     其の子は思った。

     ああ、これまでか。師から教えられた退魔の術を使うこともできなかった。

     自分はここで死んでしまうのか。望みもせぬのに与えられた能力のせいで周囲には疎まれ続け、ようやく認められたその力を有効に使うことも叶わず、己が招いた化け物に喰われて死んでしまうのか。

     其の子は、鬼子と呼ばれていた。

     だが、もう、それでも良いのかもしれない。

     其の子は思った。

     鬼子は鬼に喰われて地獄に還るのが相応しい。矢張り自分は人の世に生まれてはならぬ存在だったのだ。
     怪異にまとわりつかれることにも、それが原因で人から忌まわれ嫌われることにも、もう、疲れてしまった……。

     其の子は大きく息を吐き出すと地に膝をつき、静かに眼を閉じて、己に訪れる最期の瞬間を待った。

     ……そして、しばしの時が流れる。
     不思議な事に、何も起こる気配がない。何も感じない。化け物が自分の頭を噛み砕く衝撃も、己の肉が切り裂かれる痛みも、全く何も感じられない。
     自分は痛みを感じる間も無く死んでしまったのだろうか。だが、それにしてもあまりにも何も感じなさすぎる。そう言えば、間近に感じていた不気味な唸り声も、生臭い息も感じなくなっている。一体どういうことなのか訝しげに思い、恐る恐る眼を開けた其の子の瞳に映ったもの。
     ……それは、紅蓮の炎であった。

     いや、違う。炎ではない。紅蓮の炎に見えたものは、風にたなびく真紅の髪だ。血のしたたる刀を真横に構え、燃えるような長い赤髪を風になびかせながら彼に背を向け立っていたのは、彼と同じ年頃であろう凛々しい少年であった。
     赤髪の少年が持つ刀に両断され消滅したのであろうか、先程まで彼の眼前に迫っていた化け物の姿は何処にも見当たらない。燃えるような赤髪を持つその少年は額に玉の汗をかき、手に持つ刀を横に凪いだ姿勢のままに大きく肩で息をついていたが、ひとつ息を吐くと刀を鞘に収める。そして呆然としたままの彼に向き直り、未だ動けぬ其の子に向かって微笑みながら片手を差し出た。

     其の子は、鬼子と呼ばれていた。

     鬼子と呼ばれた其の子の事は、誰もが恐れ、遠ざけた。其の子に少しでも触れようものならば、触れた者にも鬼が感染るとまで言われていたからだ。その噂はいつまでもどこまでもついてまわり、彼を受け入れた一族の者たちですら、必要以上に其の子の身体に触れようとはしなかった。
     だが、彼の目の前にいる燃えるような赤髪を持つ少年は、忌みや穢れを毛ほども恐れる様子が無かった。少年の、蒼穹を映したかのような蒼い瞳は何も恐れること無く己の眼を見つめ、その手は彼に向けて真っ直ぐに差し伸べられている。

     目まぐるしく移り変わる状況に圧倒され、また、少年の燃えるような赤い髪と蒼穹の瞳に魅了され、声も出せずに座り込んでいた其の子は、ふと我に返るとおずおずと己が手を差し出した。差し出されたその手を少年は力強く握りしめ、彼の身体をぐいと引き起こす。
     未だ呆然としたままに少年を見つめる其の子の様子を見て、赤髪の少年は優しく微笑み、こう呟いた。

    ー怪我は、無いようだな。

     少年の瞳の中の蒼穹が映し出すのは、間の抜けた顔をした己の姿だ。

    ーまさか一族領内に化け物が現れるとはな。間一髪であった。其方が無事で、本当に良かった。

     凛とした少年の声を聴きながら、其の子は漸く何が起きたのかを理解することができた。己の霊力に引き寄せられ現れた化け物に喰い殺されようとした、まさにその瞬間。彼の目の前に佇む燃えるような赤髪の少年が間一髪この場に駆けつけ、化け物を一刀両断にし、命を救ってくれたのだ。
     ……だが、彼は、未だに理解ができなかった。何故に、どうして、この赤髪の少年は危険を冒してまで、自分などを助けてくれたのだろうか。自分は鬼子であり、誰からもその存在を尊ばれていない存在だ。例え自分があの化け物に喰い殺されたとしても、一族にとっては半人前の手駒が一つ無くなっただけのこと。なのに、何故にこの少年は、己の命を危険に晒してまで自分を助けようとしたのだろう……。
     何も言えずに思考を巡らせ続ける彼をよそに、すっかり呼吸を整え終えた赤髪の少年は、ではと一言言い残して歩み去っていこうとする。

     ああ、待ってください。
     其の子は思った。大きく息を吸い、そして吐き出す。
     待ってください、まだ、貴方に聞きたいことがあるのです。

     瞬く間に遠ざかっていく少年の背中に向かい、其の子は叫んだ。叫ぼうとした。……ああ、何故だろう、喉が詰まって声が出ない。既に命の危機は去ったはずであるのに、心の臓は激しく鼓動を打つ。もう一度大きく息を吸い込み、吐き出してみる。遠ざかっていく少年の背に向かい、其の子は叫んだ。

    −−お待ちください。

     漸く、声を出すことができた。

    −−お待ち下さい。

     思えば、自らの意思で声を出したのは如何ほどぶりであろう。誰かに言われるままではなく、自らの意思で行動をしたのは如何ほどぶりであろう。
     其の子は、叫び続けた。

    −−私は、鬼子にございます。何故、何故、私を助けたのですか。

     其の子は、鬼子と呼ばれていた。

     其の子は、自分は、生まれながらに身の回りに摩訶不思議な現象を引き起こし、周囲の人間を疲弊させ続けてきた。自分さえ生まれなければ、父や母は、あの寺の僧侶は、あんなにも怯え、心折れることは無かったであろう。
     怪異を強力に呼び寄せると言うのに呼び寄せたそれを制御することはできず、産みの親や、仏に仕える僧を散々に怯えさせ、憔悴させ、その心身を痛めつけてきた自分は、誰かに救われる資格などありはしないのだ……。

     其の子の叫びに赤髪の少年の歩みが止まり、彼はゆっくりと振り返った。少年の蒼穹の眼と其の子の藍玉の眼が互いを映し、交差する。全てを見通すかのような少年の蒼い瞳に吸い込まれてしまいそうになりながら、其の子は声を絞り出した。

    −−私は、鬼子にございます。

     其の子は、鬼子と呼ばれていた。
     鬼子である彼と触れ合おうとする者は、忌み子である彼の身体に優しく触れる者は、今まで誰一人として現れはしなかった。

    −−先程の化け物が現れたのも、私の仕業にございましょう。

     彼は常に独りであり、孤独であった。身を切り裂くようなそれに耐えかね唇を噛み締めても、誰かに傍にいてほしいと幾度祈っても、彼に寄り添い、微笑みかける者は誰一人としていなかった。

    −−人に仇なす怪異まで引き込む私のような厄介者を、何故に、何故にお助けになったのですか……

    −−其方は、鬼子などではない。

     凛とした少年の返答に、其の子は思わず息を呑む。

    −−其方は鬼子などではない。

     再びそう言い放った赤髪の少年の顔を見やれば、彼はその蒼い瞳に太陽の光のような強い輝きを宿し、真っ直ぐに自分を見つめている。燃える炎のような赤い髪を風になびかせ、少年は三度、同じ言葉を繰り返した。

    −−其方は鬼子などではない。

     赤髪の少年は言い終えると、何も言えずに佇む其の子目指して早足で近づいて来た。やがて彼の目の前までやってきた少年は、戸惑う藍玉の眼を正面から見つめたままに形の良い眉を吊り上げ、強い口調で言い放つ。

    −−よいか、其方は人間だ。俺と同じ人間だ。

     鬼などではない。忌み子などでもない。もちろん、厄介者などでもない。其方は人間だ。志を同じくする我が一族の、かけがえのない大切な仲間なのだ。
     少年の燃えるような赤髪を、若杉のようにしなやかなその姿を、今まさに地平に沈みゆく夕陽の残滓が明々と照らし出している。赤く紅く燃え上がるその炎は、其の子の魂を厚く包んだ暗闇を切り裂き、氷のように冷え切った心を暖めていく。
     其の子は、鬼子と呼ばれていた。生まれた時よりこれまでずっとそう呼ばれ続けていた。だが、そんな彼を、周囲から恐れられ忌まわれ続けてきた彼を、燃えるような赤髪を持つこの少年は人と呼ぶのだ。仲間と呼ぶのだ……。

    −−仲間を助けるのは当然であろう。本当に、無事でよかった。

     そう言いながら微笑む赤髪の少年の姿が、ふいに滲み、ぼやけていく。何事が起きたかと思い慌てて目元を拭えば、彼の目元や頬は、いつに間にか眼から溢れ出ていた暖かな液体で濡れていた。
     実の親に捨てられた時でさえ流れることは無かった熱い涙は、必死になって拭っても後から後から溢れ出る。見知らぬ他人の前で泣くなど、なんと情けないことだろう。いや、そもそも、何故に自分は泣いているのだろう。化け物に命を狙われた恐怖が今になって蘇ったのだろうか、間一髪で命が助かったことに安堵したのだろうか、いや、それとも、それとも……。

     自分でも訳がわからぬままに静かに涙を流し続ける彼の背に、何やら暖かく、優しいものが触れた。一体何かと顔を上げれば、赤髪の少年が澄んだ蒼い瞳を微笑ませ、震える彼の背を優しく撫でてくれている。
     ……その瞬間、其の子の心の中で、ずっと張り詰めていた何かがぷつりと音を立て、切れた。

     其の子は、鬼子と呼ばれていた。
     鬼子と呼ばれ続けてきた其の子は、赤髪の少年にすがりつき、大声をあげて泣き出した。彼が涙を流したのは、声を上げて泣いたのは、物心がついてこの方初めてのことであった。
     何故だろう、何故に自分は泣いているのだろう。実の親から見放された時も、御仏より見放された時も涙など流さなかったと言うのに。それなのに何故だろう。どうして、これほどまでに涙が止まらないのだろう……。

    −−鬼が、かように暖かい涙を流すものか。

     少年の胸に顔を埋め、子供のように泣きじゃくる彼の耳に、優しく呟く声が聞こえた……。



     未だ夜も明けきらぬ暁の刻。定例である祈りの儀を終えた彼は祭殿を後にし、ぴんと張り詰めた清らかな空気を胸いっぱいに吸い込んだ。周囲の者達から藍玉と例えられる淡く青い瞳で見上げた空は刻々と朱に染まり、夜明けが間近な事を知らせている。祭殿前に佇む青年の姿を見かけた幾人かの一族衆が、彼に向かって恭しく一礼をした。

     藍玉色の髪と眼を持つ、かつて鬼子と呼ばれていた其の子は今や立派に成長し、一族で最も優れた能力を持つ陰陽師となっていた。
     並の魑魅魍魎などまるで相手になりはしないほどの際立った霊力を持つだけではない。彼の知識は古今東西のあらゆる魔導や呪術に通じ、最古参の一族長老に匹敵するほどである。
     今や彼は一族の重鎮であり、彼らの頂点に立つ若き三兄弟からも絶大な信頼を置かれていた。

     其の子はかつて、鬼子と呼ばれていた。
     だが、今の彼を鬼と呼ぶものなど一人もいない。舞うように優雅で雅なその立ち振る舞いは、一族衆に美しい鴻の鳥に例えられ、敬われている。


     ふと耳をすませば暁の風に乗り、勇ましい若武者のかけ声が聞こえてくる。彼がこの世の誰よりも敬愛する三兄弟の末弟が、二人の兄を相手に朝稽古をしているのだろう。その事を考えた途端に彼の心をよぎったのは、如何なる闇をも焼き尽くす燃えるような赤い髪と、どこまでも限りなく澄みゆく蒼穹色の瞳だ。輝かしい生命の輝きに満ちたあの御方の姿を想いおこすその度に、彼の心は大きく弾んだ。

     暁風に乗り流れ聞こえる若武者の声に恭しく頭を下げ、彼は、永久に変わることのない誓いを胸中に繰り返す。


     いつまでもいつまでも貴方様のお傍に。
     わたくしが貴方を御護りいたします。

     次はわたくしが、貴方の盾に……。




     ……其の子はかつて、鬼子と呼ばれていた。
     かつて鬼と呼ばれた鴻の鳥は紅蓮の炎に導かれ、強く高く、蒼穹へと羽ばたいていく。



     暁の空は赤く紅く染まり続け、やがて地平の彼方より何本もの黄金の矢が放たれゆく。

     夜が、明けようとしていた。



     終。
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    2022/11/15 9:00:00

    月鴻明物語

    月風魔伝Undying Moon
    月氏二代目当主、月鴻明のお話です。

    公式でも設定がほとんど不明なため、物語設定の大部分は私の想像ですが、読んで頂けたら嬉しいです。

    #月風魔伝 #月風魔 #GetsuFumaDen #月風魔伝UndyingMoon #月鴻明

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