ゔぁんさば小話★アントニオ★
地平線が赤く染まる。夜明けが近い。悪夢のような夜がようやく終わる。蒼い髪の男はそう思いながら歯を食いしばり、退魔の鞭を振るった。
薙ぎ払っても薙ぎ払っても現れる魔物達は唸り声を上げながら牙を剥き、我が身を引き裂こうと襲いかかってくる。
誰にも渡すものか。
狩りたての、丸々と太った鶏を懐に抱き、彼は鞭を振りかぶった。
★ジェンナーロ★
視界が、赤く滲む。鉛のように重い腕を上げ、彼は愛用のナイフをかまえ直した。背後は断崖絶壁で逃げ場は無い。絶体絶命……そんな言葉が頭をよぎった。
その時だ。鋭く風を薙ぐ音がして、敵が切り裂かれた。大丈夫かと問いかける懐かしい声。
来るのが遅えよ。
大きな安堵を覚えながら、彼は思った。
★レダ★
「それ」はただ黙って、眼前の血塗れの生き物を見ていた。先ほど自分が致命傷を与えたこの生き物は、まだ温かい。
「それ」はただ黙って、眼前の血塗れの生き物の断末魔を聞いていた。
君を忘れた訳ではないんだ。声は繰り返し呟いている。
「それ」は何も言わなかった。
透明な涙が、頬を伝った。
★マルト★
そんなに優しくしないでほしい。
彼は目だけで、手当てをされている己の腕を見やる。
命に関わる程の怪我ではない。だが、蒼い服が汚れるのも構わずに薬を塗る彼女の瞳は真剣だ。我らはそこまで親しい間柄ではない。なのに。
彼女と目が合った。
心臓の鼓動が跳ね上がり、彼の褐色の頬は紅く染まった。
★エレノール★
きっと大丈夫。彼女は思った。目の前にいるのは蒼き封印を施された乙女の姿。
古文書に記された彼女を救うため、彼女と仲間たちは深淵の最深部までやって来たのだ。自分の力でそれが成せるならば。
きっと大丈夫。上手くやれる。
彼女は思い、大きく息を吸い込むと杖を掲げ、呪文を唱えた。