Hush little baby ごろり、信彦はベッドの上で何度目かの寝返りを打った。
なんだか眠れない。
こういうのはときどきあることだった。信彦は夜更かしに慣れている。帰りの遅い両親を待つことが多かったせいだ。
この町に来てからはわりと規則正しい生活を送るようになっていたが、長く続けてきた習い性は簡単には治らない。枕元でコチコチ秒針を刻む目覚まし時計を見ると、普段ならとっくに寝ている時間だった。隣を見ると、ちびが寝相悪くベッドの上下逆に眠っている。
水でも飲んでこよう。信彦がベッドから抜け出して立ち上がると、少し埃っぽい空気が足元のカーペットから立ちのぼった。最近掃除をサボっていたせいだろう。鼻がむずむずして、おさえる間もなくくしゃみが出た。
瞬間、部屋の中に閃光が満ちる。大きくなったシグナルはベッドから転がり落ちた衝撃で目を覚ました。
「あれ、信彦? なに? いま夜なの?」
寝ぼけた目をこすりながらシグナルが身体を起こし、枕元の時計に手を伸ばす。そして「げっ、もう一時じゃん」と目をむく。
「ごめんシグナル。起こしちゃったね」
「いいよ。それより信彦、いくらなんでもこんな時間まで起きてるなんて珍しいな」
シグナルがベッドの上に座り直し、自分の隣をぽんぽんと叩く。促されるまま信彦は隣に座った。
「また、眠れないのか?」
信彦は、うーん、と天井を仰いで、「そんな感じ」と曖昧に答えた。
シグナルも同じように天井を見つめてみる。部屋の中は暗く、窓から入る頼りない月明かりだけがぼんやり二人を照らし出していた。
「ま、布団に入ってりゃ眠くなるって」
シグナルがベッドに入り、信彦の寝る場所を開けてやる。その空いた場所へ信彦は潜り込むが、シグナルが大きくなると、相対的に信彦の寝るスペースは小さくなるわけで。
「やっぱ狭いなぁ」
「そっち、もうちょっと詰めてよ」
いつごろからか、ちびにしたままのシグナルと一緒に寝て、夜中にくしゃみをしてしまった場合、二人はそのまま同じベッドで眠るようになった。シグナルの腕のガーダーは硬すぎてとても腕枕になんかできないけれど、それでもシグナルが傍にいれば、なぜかよく眠れた。
今なら分かる気がする。先に寝ていればいいものを、すでにやり尽くしたゲームで時間を潰しながら両親の帰りを待っていた理由が。
そのうちシグナルがテレビで覚えたのか子守唄なんかをハミングで歌いだしたので、信彦はちょっと頭にきて、目の前の額をこつんとこぶしで小突いてやる。
「やめろよ。俺そこまで子供じゃないんだから」
シグナルはくすくす笑って、あやすように信彦の背中を軽くたたく。それがまた癪に障るのだが、シグナルの人間に近い体温はとても心地がいい。これなら眠れそうな気がする。
ああそうだ、と信彦は目蓋がくっついてしまう前に危うく思い出し、目覚まし時計に手を伸ばす。そうして予定の時刻より二十分早く起きられるようにアラームをセットし直すと、安心して目を閉じた。