ぬるま湯に住むぬるま湯に住む<お題:自分の中の極刑>
彼女の娘は私達を平等に名前で呼んだ。父親は死んだ、という事になっていたしおそらくそれは彼女の中ではある程度真実であったのだろう。利用されていると何度も言われたし自分でも気付いてはいた。気付くまでもなく明らかだったようにも思う。ランドセルを買ったのは私だったし、胸元に花をつけたさくらこと春子の並んだ写真を撮ったのも私だった。小学校に間に合うようにと越した新しい家には私の部屋が用意されていた。
恋心は罪なのだというけれど、それが罪なら償い続ければ良いと思った。春子がパパは死んだのとさくらこを諭すなら、その時までにさくらこの父親を殺しておかなかった事もまた私の罪なのだ。生涯かけても償いきれないような私の罪はまだ柔らかな手足をしていて、大きなランドセルを背負って毎朝元気に飛び出していく。昨夜さあちゃんにはどうしてパパがいないの?と泣きながら訊いてきた幼い口が、はるちゃんにはいっちゃダメだよいっちゃんとさあちゃんの内緒ね、といたずらっぽく笑う。その歯列までよく覚えている。
「あのね、さくらこねえ好きな子できたの」
その小さな唇の向こうの乳歯までよく覚えている。きっと何十年か後、私は必ず笑ってさくらこの結婚式で受付などをしているのだろう。これが私の可愛い可愛い贖罪なのだ。