万至SS至さんががんばってお誘いするはなし
俺の彼氏である万里は、俺がお願いごとをすればたいてい叶えてくれる。そんな万里は、俺のお願いごとをどこまで叶えてくれるのか。気にならない?
だって、付き合うにあたって恋人が自分にどこまで許してくれるのかなんて気になるし知っておくべきだよね。そう、普段優しいやつほど怒らせたら怖いって言うし……。万里が十座と喧嘩してるのはよく見る光景で今じゃ慣れっこだけど、あれが自分に向けられたら怖いし。うんうん。知っておくべきだ!
♡♡♡♡♡
「万里〜、全自動俺を風呂に入れる機になって」
「ん〜、ちょっと待ってな」
Lv.1。こんなのは序の口。ただでさえ自分がお風呂入るのも面倒なのに、この男は俺も洗ってくれる。最早当然のように。
ちなみに、万里はめちゃくちゃ優しく丁寧に俺のことを洗ってくれます。ドライヤーまでセットです。おかげでその日の俺の髪の毛はふわっふわになります。デスマ明けには欠かせません。一家に一万里必須。俺のだけど。
♡♡♡♡♡
「ばーんり」
「……なんすか」
「なんでそんな目で見んの。あのさ〜、ほんと申し訳ないんだけど、お腹いっぱいになっちゃったから俺の分の納豆ごはん食べてくれない?まだ箸つけてないから」
「はあ?俺納豆嫌いなの知ってるっしょ。誰か他のやつに……」
「……ばんり、おねがい…………」
Lv.2。万里が納豆を嫌っていること、もちろん知ってる。俺が魚卵で同じことをされたら即刻絶対拒否する。これは難しいか?と思ったから、目をうるうるさせて顎を引いて可愛い顔して見つめてみた。
「…………ったく、ほんとに至さんは」
「え、食べてくれるの」
「仕方ねえだろアンタが食えないって言うんなら!いただきます」
「ばんり〜〜〜!ありがと!」
いけた!マジか。
いただきますまでちゃんと言って、いつものようにお行儀よく納豆ごはんを食べ始めた。ネオヤンキーのくせに食事の時もその他でも仕草が綺麗なところ、結構好き。
♡♡♡♡♡
「万里ちゅーして」
「今ボス戦……っ」
「ぴえん」
「っ、ぴえんじゃねえよ可愛いな、おら顔上げろ」
「んむ……ちゅ、」
Lv.3。ゲーム中に構ってもらいたがる面倒な恋人ムーブ。俺だったら怒るかもしれない。
万里がゲームに集中してるところ邪魔するのもなって言ってから思って、適当にぴえんとかいって会話終わらせようとしたのになんか万里からキスしてくれちゃった。この男、俺にどこまで甘いんだ……。そんでこの男キス上手すぎる……。さいこ〜……。
「ふ、至さんとろとろじゃん」
「違うし」
「何が、どこが。ほらもう1回しよ」
「違うから、んん……」
♡♡♡♡♡
いざ、ラスボス戦。やべー緊張してきた。ターゲットである万里は俺の隣でのんびりゲームしてる。今日も俺の素材集めに付き合ってくれて忠実なるわんこである。よし、覚悟を決めろ茅ヶ崎至!これまでを鑑みるに、万里は俺からのおねがいを断ることはあっても怒ったり軽蔑したりすることはない!……たぶん!
「あー、万里くん」
「ハイ?なんでしょう茅ヶ崎さん」
「違うエチュードじゃない。えー、今日は、ドヨウビですネ?」
「……そうっすね?」
やばい声裏返った。てか無理俺おねがい下手かも。なんて言えばいいのかわかんなくなっちゃったうわーどうしよ万里困ってる。
「き、今日は103泊まってくの?」
「どうしよっかな、決めてなかったわ」
「そ、そそそうなんダー。今日は先輩いないから勝手にしてイイヨ」
「……至さんどしたん?具合でもわりーの」
だめだ。無理だ。これ以上頑張っても挙動不審なだけだ。くっ、さすがラスボス……手強い。仕方ない、残りMP全部使って必殺技を使うしか……。いざ!
ちゅ。
「…………ふは、なるほどな?至さんアンタまじ可愛いね」
「可愛くないしなんのことやらさっぱり」
「顔真っ赤っすよ。もー本当可愛い勘弁して」
「…………万里俺のおねがい何でも聞いてくれるんだね」
「当たり前じゃん。つーか、俺のおねがいでもあるしな」
「ふふ……だいすき」
「あぁ゛〜〜〜俺も!アンタ今日覚悟しとけよ寝かせねえから」
「えっそれはちょっと」
「おい!俺のおねがい聞けねーの?」
「…………っ、ききます♡」
ビタースイートドリーム
万里が犬になる夢みた至さん
「ん?」
……なぜ隣に犬が?
ベッドでソシャゲしてて、ふと寝返りを打ったら、隣に犬がいた。しかも大型犬。なぜ?
しかも結構でかい。カフェラテのようなブラウンに、澄んだ青い目でこちらを見つめて横になっている。…………これは万里だ。なんか分からないけど、分かる。これは万里だ。
「……万里?」
「わう」
ほら返事した。やっぱり万里だ……。
「お前なんで犬に……どうすんの、これじゃあゲームも芝居も出来ないじゃん……」
万里は俺が何を言っているか理解出来ていないのか、ただこちらを見つめている。
「それに犬と人間って寿命も違うし……会話もできないし……」
万里は動かない。
「とりあえず元に戻るために出来ることはしなきゃ。まあでも、その前に触らして」
万里はふわっふわの長毛種だったので、そのふわふわの魅力に抗えず手を伸ばした。すると、急に万里が怒り出した。俺はびっくりして手を引っこめる。
「わん!ガルルル……」
「えっ、何……!?触られたくなかった?ごめん、そんな怒んなって」
「わん!わん!!」
万里はこちらを完全に敵認定したらしく、俺の腕を噛んでくる。牙が尖っていて顎の力もあって痛い。これ血出るんじゃないか?痛みと、あのいつも優しい万里にこんなに噛まれていることが悲しくて、じわじわ涙が出てくる。
「痛いって、万里……ごめん、噛むな……!」
「わう!わん!!」
「痛い、うぐ」
▷▶︎▷
「……るさ……たるさん」
「……は」
「至さん、起きた?なんかうなされてるししかも泣いてっから起こしたけど」
今日は仕事が忙しく、帰宅が遅くなってしまった。先にベッドにいった至さんを追いかけるようにさっさと寝る支度を終えて、いざベッドに入り込もうとしたら至さんがぐすぐす泣きながら寝ていた。
「万里……?」
「万里っすよ」
「ひと?」
「?おう、え?」
思いっきり至さんが寝ぼけてる。潤んだ目が更にとろんとして可愛い。
「なんか怖い夢でも見たんすか」
「万里が……犬になって……」
「マジかよ」
「俺すごいかなしくて……」
「うん」
「……万里めっちゃかんでくるし」
「痛かったっすね、もう大丈夫」
なかなか災難な夢をみたようだ。擦り寄ってくる至さんを慰めようと、優しく頭を撫でる。
「そう、いたかったし、悲しかったから……ばんり謝って」
「すんません……」
「おまえ、明日ぱしりだから」
「うっす」
「よかった、万里が人で……」
理不尽に謝罪させられ、人であることに感謝されながら至さんは再び眠りについた。
翌朝、その後はとてもいい夢を見たと至さんが教えてくれた。どんな夢か聞いたら、顔を真っ赤にしてた。