筋肉と仮面と姫抱っこ?筋肉と仮面と姫抱っこ?
アダマンタイト級冒険者「蒼の薔薇」。
女性だけで構成されたチーム。
冒険者と言っても一般人と変わり無く、お洒落もすれば恋もする。
恋、多きお年頃だ。
純情な恋心を胸に秘め、今日も今日とて甘い溜息を付きながら酒をあおる女が一人。
女の名前は「ガガーラン」。
街で見掛けた男を探し、何時もの酒場で酒を飲む。
イビルアイも同席だ。
「イビルアイ!何で、あの人は見付からないんだよ!」
ダン!とジョッキを机に叩き付けるのも何度目か…。
毎度同じ様なガガーランの台詞にイビルアイもなれてきた。
好いた相手に会えない辛さはイビルアイにも理解出来る。
イビルアイにも恋い焦がれる相手が居る。
「モモン」と言うアダマンタイト級冒険者の一人。
中々会えないと言うのは何とも寂しいものだ…。
「ガガーラン。まぁ、落ち着け。」
「落ち着けねぇ~よ!もう、どんだけ会ってねぇ~と思ってんだよ?」
「知らん。(てか、私だって会って無いぞ!)」
「もう、1ヶ月はたってる!何処の執事なんだよぉ…。」
「この王国では無いな。(皆で探しまくったからな!)」
「だよな~。」と机に突っ伏すガガーランは今にも泣き出しそうだ。
体格が良すぎる筋肉女である為、女性の哀愁と言うより男の哀愁が漂っている。
どうしたものか?
イビルアイは考えていた。
確かにガガーランの為、探してあげたいと言う気持ちは十分にある。
だが…探し人の為にはならないかも知れない。
いや、絶対に迷惑だ!
私なら走って逃げるぞ!
「もう、諦めたらどうだ?楽になるぞ?(この私が。)」
「なっ!何を言ってるんだイビルアイ…心配してくれているのか?」
「…そうだ。(彼を。)」
「イビルアイ…お前…良い奴だな。だが、こればっかりは出来ねぇ相談だな。」
「そうか…。(残念だ。)」
イビルアイは小さく溜息を付くと「頑張れ。」と声を掛けた。
ガガーランは「おう!」と元気良く返事を返す。
「よし!じぁ~今から街をもう一度探すとしようぜ!イビルアイ。」
「おっ、おぉ。(私もか!筋肉の塊!)」
ガシッと腕を掴まれイビルアイは少々戸惑う。
先程まで泣きそうだった女が今では元気いっぱいだ。
恋の原動力とは素晴らしい力を秘めている。
ガガーランはイビルアイを連れ店を出る。
辺りをきょろきょろと見回し、歩き出すと街を徘徊する。
白髪、高身長、執事で老人…。
中々該当する者が見付からない。
「居ねぇ~なぁ。商店街じゃねぇ~のかな?」
「解らん。(執事ってそもそも買い出しもするのか?)」
「裏路地とか…どうだろ?」
「筋肉の塊。そんな所わざわざ歩くか?」
「解んねぇ。てか、筋肉の塊って…ひどくね?」
「褒めてる…気にするな。」
「そぉ~かぁ~?ま、良いか。」
「おぅ。(単細胞め。ハハハッ。)」
ガガーランはイビルアイを引き連れ裏路地へと入って行く。
人気の無い裏路地は人も数える程度だ…。
暫く路地を歩いていると遠くの方に白髪の黒い服を着ている人影が小さく見えた。
「あの人だ…。」
「え?」
「あの人…セ…セバス様だ!」
「あっ、ちょっ、ガガーラン!」
ガガーランは追いかけた。
まさかこんな所にいらっしゃるとは!
ガガーランは確信する。
あれはセバスの後ろ姿だと…。
二人は必死に追いかける。
真っ直ぐ進み、右へ左へまた右へ…。
どのくらい走っただろう?
二人の頭に疑問が浮かぶ。
こんなに走っているのに追い付けないとは…。
「どう言う事だ?」
「もしかして…逃げられている?(此方の正体に気付かれたか?)」
ガガーランはチッと舌打ちをし、歩みを止める。
イビルアイは不思議に思いつつも同じく足を止め彼女を見た。
ガガーランは頭を下げ、大きく息を吸い込む。
そして…叫んだ。
辺りが振動するかの如く大きな声で…セバスと。
「セバス様ぁー!!」
「おっおい!」
イビルアイは目を見開き固まる。
まさか絶叫と言う名の大声を上げるとは思ってもいなかった。
流石はガガーラン。
「恥など無いか。」と呟くと前方を見る。
動きが止まった。
小さくうつる男の影がゆっくり此方に振り向くと、あっと言う間にガガーラン達の元までその男はやって来た。
この事もイビルアイには驚くべき要素。
この男、何者なんだ?
「お久しぶりで御座います。ガガーラン嬢。」
「!」
「!」
ゆっくりとした動作で一礼するセバスに二人は釘付けだった。
ガガーランはぽっと頬を赤らめ、言葉に詰まり。
イビルアイはその男の容姿とガガーランに「嬢」を付けると言う有り得ない事に驚愕する。
「どうかなされましたか?この私を呼ぶ声がしたかと?」
「あ…そ…その。」
「ガガーラン…何、緊張しているんだ!(あれだけ叫んどいて。)」
「ふふっ。そうですか。」
「あ、私の名はイビルアイ。呼び止めてすまない。」
「いえ、構いませんよ。私の名はセバスです。で、お嬢様方が私にどの様なご用件で?」
「!!」
「!?(これか!お嬢様って!)」
なるほど…とイビルアイは納得する。
この優しそうな笑顔と言葉でガガーランは恋に落ちたのだと…。
確かに老人とは言え、顔立ちも良く体格も中々だ。
「セ、セバス様…や、やっとお会い出来ました!あれからずっと探してたんです!」
「ほぅ。この私を…ですか?」
「はい!おっ…俺と…け…結婚してくれ!」
「ガガーラン!(直球かよ!筋肉達磨!)」
「…。」
「おっ、俺が一生掛けてセバス様を幸せにしてみせる!」
「…。」
「子作りだって俺に任せときな!気持ち良くしてやる!さぁ、今からヤろう!」
「おおい!!(何言ってんだ筋肉まみれ!)」
イビルアイは慌てた。
セバスは固まり、目を見開いている…。
当たり前だと思う。
いきなりの求婚、いきなりの要求。
流石はガガーラン。
筋肉が脳まで達している様だ…。
セバスはほんの少しの溜息を付くと困った顔をガガーランに向ける。
「いけませんよ。前にも申し上げましたが…もっとご自身を大切になさい。」
「すんませんセバス様!ですが、俺は本気です!」
「…お気持ちは嬉しいのですが。
私ごとき執事が貴女の様なお嬢さんを嫁に貰うなど…。」
「そんな!セバス様!」
「それに、執事として主人におつかえしなくてはなりませんので…。」
「…セバス様…ご結婚はされてる…のですか?」
「いえ。」
「そ…そうですか!なら、今は引きます。ですが…一つだけ…一つだけお願いしても良いですか?」
「…私に出来る事であれば。」
ガガーランはセバスの了承を受け取ると深々と深呼吸する。
今すぐ結婚は無理な様だか結婚はされてはいない。
此だけでも解れば儲けモノだ。
そして、もう一つのガガーランの夢、願望。
それは…女の夢!
お姫様抱っこだ!
「お、俺を!姫抱っこしてくれ!」
「何ィぃー!!(どの顔がものを言ってんだ!)」
「一回だけで良いんだ?な?頼みます!」
「ガ、ガガーラン!そんなの無理に決まって…体格差が有りすぎる!(殺す気か?)」
「ふむ…構いませんよ。」
「!!」
「え?(嘘。)」
セバスはガガーランに近付くと彼女の肩に触れ、「楽にして下さい。」と声を掛ける。
自分で言い出しといて何だが、心臓が飛び出しそうなほど緊張する。
そして、ふわりとガガーランをセバスは持ち上げた。
体重など気にも留めず、軽々と持ち上げるセバスに二人は驚くしかなかった…。
「し…死んでも良い…。」
「…。(くっそー!羨ましい!モモン様ー!私も!!)」
イビルアイは心の中で地団駄を踏み悔しがる。
まさか姫抱っこをガガーランがセバスに願い、尚且つそれが実現するなど思ってもみなかった…。
ガガーランを軽々持ち上げるこの男は…いったい何者だ!
本当にただの執事なのだろうか?
「有り難う御座います。セバス様。」
「この様な事で喜んで頂いて光栄ですよ。」
にこりと笑顔を向けるセバスにガガーランは更に顔が熱くなるのを感じた。
「この男を絶対手に入れる!」
そう心にガガーランは誓い、そっとセバスの首に腕を回した。
幸せを噛み締める乙女ガガーラン。
悔し涙を流すイビルアイ。
「今度は自分もモモン殿と。」と固く心に誓うイビルアイは、じっとガガーランの姫抱っこを静かに見詰めていた…。
おしまい。