黒い下着の女 第五話2.市街
Y男は、街中にやってきた。東京都内の一角である。ウルトラモダーンな街路灯が町並を華やかなものに見せている(現在は、昼日中なので街路灯は、点灯はしていないが)。バイトをサボってフラフラしているY男。Y男の街でのおもな遊び場は、ゲームセンター、盛り場、SMクラブ、オールナイトディスコ等である。盛り場は、オールナイトディスコと同様のダンスミュージック系のクラブ等である。
Y男は、自分の住む区の〈センター街〉へとやってきた。視界のはるか遠方には、高層ビル群が建ち並ぶ。この位置からは、東京タワーは、見えない。Y男は、いまはゲームセンター(ゲーセン)に行くことにした。Y男は、ゲーセンに入った。ゲームセンターの場内は、喧噪につつまれている。喧噪の正体は、ゲームミュージックやゲームサウンドである。新時代にできたデジタルな“喧噪”である。Y男は、ひとつのゲーム筐体に近づいた。
それは、巨大なボックス型の筐体だった。レーザーディスクのゲームである。ゲーム名は、『サンダーストーム』。マイキャラ(というか自機というか)が軍用ヘリのゲームだ。Y男は、ゲーム筐体のスクリーンの端に数枚の硬貨を並べた。ゲームオーバー後も続投するためのクレジットコインだ。
1コインクリアに失敗したY男は、席を立った。プールしておいた五枚の硬貨(クレジットコインは全部で五枚だった。)は、そのままにした。景気がいいからこそ可能なことであった。『エクセリオン』でハイスコアを叩き出そうかとも思ったが、それもやめた。Y男は、ゲームセンターを出た。
Y男は、フラフラと街を歩いている。東京都心の街並みを。Y男は、一人の女性とすれ違った。クリーム色のスーツを着た、派手な雰囲気の女性だ。思わず振り返って見る、Y男。歩み去ろうとする女性の後ろ姿をまじまじと見つめるY男。後ろ姿から見える、その女性の髪の毛はウェーブがかかっていた。
Y男は、その女性に見覚えがあった。
「あの女だ。」
そう、それは、あのビデオの主演女優である女だった。いや、Y男には、そう思えた。ただ、これは、Y男にそう思えただけのことかもしれない。前面は、あまりよく見ていない。しかし、後ろ姿の、あのウェーブのかかった長い黒髪は、あの女のものにちがいない(と、Y男は思った)。と、なぜか、Y男の脳内空間には、ビデオ画面に映ったあの砂の嵐の中の女の顔がよみがえった。Y男は、女のあとについていってみることにした。市街のデジタルカレンダーは、9月11日を表示している。市街の時計(アナログ時計)は、11時11分を指している。