ちょぎさにSS3
ぷち、かしゃん。
小さく軽い弾けた音がして、私と任務の打ち合わせを行っていた山姥切長義は顔を見合わせる。音がする方へ視線を向けるとそこには、今の今まで私の髪の毛を結いまとめ上げていた髪ゴム飾りが落ちていた。飾りは銀縁に群青色のクリスタルを嵌めた蝶と一輪の花を模したもので、持ち合わせている髪止めのなかでは特に気に入っていた物だ。見ればどうやらゴムの部分が切れただけで装飾部分に壊れた様子はない。私は安堵するも自然と眉を顰めた。
「物なんだから、いつか壊れるのは必然だよ」
「…そうですね。何故だか勝手に永遠だと思ってしまっていました」
呆然と髪飾りを拾い上げ見詰めている私へ、向かいに居た彼は淡々と言った。その言葉に苦笑いをして返す。
彼の言葉は当然だ。しかし大切だったものはいつでもその傍らに永遠であると、どこか私の心は過信をしていた。それ故か今この時二人だけで明日について話せる日々の幸せと、落ちた髪飾りが何故だか重なってしまう。すると訪れた突然の別れには、余計心が締め付けられずにはいられなかった。
「長義君も、永遠は無いと…」
「無いね」
「…」
私が聞いた言葉に彼はあっさりと返した。無い筈の感傷を抱いたからだろうか。そんなことを口にしてしまったのは。言ってから少しだけ後悔をする。
別に直接口にしたわけではない。けれどそれは”この時(戦時)”を一瞬でも肯う言葉に思えた。当たり前のように投じている今が不変である筈がない。不変であってはいけない筈なのに。なのにまるでそれを願ってしまったかのようで、思わず己を叱責したくなる。戦大将の答えとしては不可な答えだ。例え"私の命に終わりが訪れなくとも、終わりを与えることはいつでも出来る”のだから。終わりはいつでも、等しいのだから。
それでも、彼との縁に終わりがやって来る日はどこかいつも後回しに考えていたかった。そう言葉にしたかった。けれども彼は無いと言う。ならば本当に無いのだろう。何より物の在り方を体現していた彼が言うのであれば。悲しいことだが、妙に清々しくもあった。
「けれど…」
言葉を飲み込んで自分を納得させていた時、彼がすぐ側へやって来ていたのを、静寂を割ったその声で気がついて私は顔を上げた。彼は私の掌にある髪飾りに手を重ね、そっとそれを取り去る。
「その先にはきっと新しい大切なものがやってくる」
「あ」
「一度終わっても、また始まりがやってくるんだ。そう、俺は思うから…寂しいとは感じないよ」
彼は上着のポケットから水色のシュシュを取り出した。何故彼がそんなものを持っているのだろう。そう考えている間に彼は髪飾りの切れたゴム紐部分をシュシュへ結んでから立ち上がった。そして私の背後に来ると髪の毛を何度か梳くように撫でつける。良くは見えなかったがどうやら感触として、私の髪の毛を結ってくれているようだった。彼が髪を結ってくれることも、飾りを別のかたちにしてくれたことにも二重で私はドキドキした。
程なくして背後に感じていた動作が止まる。終わりを迎えた髪飾りは彼の手によって新しくなり、私の元へ見事再び帰って来た瞬間だった。
「まあ、勿論永遠もあると信じて過ごした方が、断然幸せではあるかな…どうだろう?」
「!……うん、私もそう思います」
彼が私の顔を穏やかに覗く。首筋が随分すっきりとしたので後ろ手で触れてみると髪は団子状にまとめられているようだった。その上の部分にしっかりと飾りが乗っているのも分かり、私は嬉しくて大きく強く彼に頷く。
誰かが信じていればきっと、その想いはほつれても結び繋がり続け永遠と呼べるのかもしれない。いつか終わりが等しく来るとしても、信じることもまた等しく出来ることなのだから。そんな希望がふつりと私の中に浮かんだ。やはり彼の言葉や行いは、いつでも私を掬い上げてくれるものになる。だから決して、彼の言葉で絶望したりはしないのだ。
「ところでそのシュシュはどこで?」
「貴女が俺の部屋に忘れていったものだよ…」
「いつ……!」
私の疑問に彼は少しだけ意地悪く微笑んで耳元へ唇を寄せる。ある晩の事が思い当たった私は顔を真っ赤にして彼に詰め寄った。