ギゼアの過去話↓
ギゼアの兄の視点で語っています
ヤグナ・ハスアの日記より抜粋
○月○日
父上が入院した。
ジェグダが言うにはどうやら疲労が溜まっただけらしい。
ただ、その割には父上の目の生気も周りのあわただしさも合わない。どこかおかしい。
○月◇日
入院してから一週間。
いまだに体調は回復しない。それどころかますます父上の生気が薄くなっているのは気のせいだろうか。
ジェグダの様子もどこかおかしい。
ギゼアは気づいていないようだから黙っておこう。
○月△日
父上が亡くなった。
一昨日は葬儀だった。
ジェグダは父上の意向で属性の合うギゼアに託された。
オレも母上も異論はなく、ギゼアもそのつもりだ。
父上はいなくなったが祖父母に頼みなんとか今までどおりの生活ができそうだ。
3人でがんばっていくよ、父さん。
○月□日
母上の様子がおかしい。
ギゼアをすぐ叱る。今日も石に引っかかっただけなのにすごい剣幕だった。
オレが抑えるとすぐに収まるが、ギゼアが泣いたりするとヒステリーを起こす。
なんとかしなければ。
○月▽日
家に帰るとギゼアの頬にあざがある。
どうしたんだと聞くと黙る。しかしジェグダが言うには母上がやったらしい。
今までこんなことなかったのに。
×月●日
随分日が開いた。1日とはつらくても流れるもんなんだな。
ここに吐かないと気がすまない。
母上のギゼアに対する態度がひどくなってきた。とうとう地下室に閉じ込めてしまった。
あの子の悲鳴が毎日聞こえる。もう聞きたくない。
オレが止めてもそのときはやめるがリバウンドの如くギゼアの悲鳴が大きくなる。
オレはどうすればいい?
×月×日
久々にギゼアの様子を見に行った。
久々であること自体、我ながら笑える。
ドアを開くのを見るなり震えていた。ごめんなギゼア。
▽月○日
ギゼアが学園に行くことが決まった。
叔母さん叔父さんが助けてくれた。
あちらで幸せになっておくれ。
ルドミカ過去話(?)
カツィーラ家。
古き時代の剣士の末裔としてルティシエの郊外に館を構える貴族。
今は剣士としての役割から降りているものの、館の内装や習慣にはその名残が多くあり、今でも男女共々武術を教えられる。
長女のルドミカやその弟も例外ではなかった。
「ルドミカ。
少々貴女に話があります。」
あぁ、まただ。ルドミカはそう思った。
自分を呼びつけたのは自分の母親で、ルドミカ達の自称教育者だ。
教育者と言ってもルドミカにとってはただの邪魔者でしかない。意に沿わないことがあれば毎回と言っていいほど、この者に呼び出されてきている。
「はい、なんでしょうか母上。」
母親の眉がぴくりと動き、冷たい目でこっちを見つめて
「貴女また、あの人に手合わせなどと・・・。
貴女はなぜそんなことをするの?あの人への力の誇示のつもりかしら?そんなことしたところで・・・」
"少々"と言いつつも始まるのは、いつも長々とした説教だ。
一度始まるといっさい止まることもなく、自身の意見を聞かれることもなく、続いていく。
そして母親の言う「あの人」とは弟のことだ。
「次期当主への尊敬の意を表して」そう呼んでいるが、正しくは母親としての情がないだけだと思っている。
(足痛い・・・。)
大体面倒な説教の時に考えるのはそれとは全く関係ないことだ。
「―――わかりましたね?ルドミカ。」
「はい。」
無論、ほとんど頭の中を素通りしていったので、この言葉は九割は嘘だ。
残り一割は最初の部分と最後の部分である。
謎の達成感と疲れが心に満たせ部屋の出口へと向かおうとした時
「父上も貴方がそんな風に育ってしまって嘆いていらっしゃいますよ。」
ルドミカはその言葉にいらだちながらも、黙って部屋を後にした。
***
「それくらい分かっている・・・っ!!」
柔らかなベッドに拳が埋まった。
それを左右交互に二回三回と繰り返し、気が済むまで殴り終わるとそのベッドに横になった。
そして、ふと父の知り合いの屋敷に招かれた時を思い出した。
弟の付き添いで屋敷に訪れたのだが、流れでその家の者と剣で勝負をすることになった。
勝負の結果、ルドミカはあっさりと相手に地に膝を着かせた。
しかし相手の男は小さく乱暴者、と罵った。
令嬢にあるべき可憐さが全く感じられない、森に住まう野獣のようだと。
その後も、他人に自分の戦いを見るたびに罵られることが多くなった。
"女に武の才なんて不要なのに・・・なんて時代錯誤な子だ"
"父上はあんなにも素晴らしい人なのになんて野蛮なんだ・・・"
(ただ認めて欲しいのに・・・)
どんだけ必死で強くなっても弟は素晴らしいと言われるのに、なぜ自分は怪訝な目で見られるのだろう。
(もっと私が強くなればいいのだろうか。)
口出しできないくらい、強い力を。
恐れを抱くほどの強い力を。
(しかしどこで・・・?)
自分の周りには強くなるために指南してくれる人など居ない。
しばらく考えた後、随分前に弟が話していた"学園"の存在を思い出した。
この大陸の中心にあり、そこに居る生徒達は、魔法の技術を学び高めるらしい。
「リーラ!!」
『なんですか!お嬢様!』
窓際で月光に光り輝くブローチから声がした。ルドミカのパートナーのスコレサイトだ。
すぐにルドミカはリーラを握り、期待に満ちた目で自分の考えを語り始めた。
誰もが驚く強さを持って見せると。
『―――左様ですか!』
「あぁ、私は誰にも負けぬ強さを手に入れてみせる!
そして母上にも父上にも口出しができぬような人間になるんだ。」
『では、お嬢様。
私からも言わせていただきます。』
ルドミカに負けず劣らずハキハキとした明るい声が
見た目からもうかがえる神秘な落ち着いた声へと変わって言った。
「どうした?」
『お嬢様が学園へ行くのであれば、私の言う魔法を使わないでください。』
ルドミカにとっては大きな言葉。
強くなるためには今取得している魔法も高める必要がある。
それができないのなら、大きく予定は狂ってしまう。
「なぜだ!?リーラ!」
予想外の返しに戸惑った。
『貴女の父上から下された命令ですので。』
「家にも手紙一通寄越さない者がどうやって命令などできるんだ?!」
「それは・・・。」
頭の隅に浮かんだ可能性は一つ、父ではなく母親からの命令。
「・・・貴様も母上の指示で動いているのか?」
リーラは激しく違うと否定したが、信じるにはあまりに現実性に欠けていた。
しばらく口論したあと、言われた魔法以外を使うことにした。
***
後日、学園へと発つときがやってきた。
母親は自分の意に反した娘を見送らず、見送り人は弟とその付添いぐらいだった。
あの時からパートナーとは喋っておらず、学園へ向かうときもまた無言だった。