穴これは少し昔の話だ。
中学校へ通う路に、やけに高い塀のある家があった。
塀は真新しい白で塗られており、いかにも作られたばかりに見える。
しかし、一箇所だけ2cm程度の小さな穴が開いていた。
噂では、そこに指を突っ込むと指を噛み千切られるとか、はたまた神隠しにあうだとか。
とにかく、いろいろな噂が横行していた。
僕も興味本位で一度だけ、覗き込んだことがある。しかし、中を覗くと何も見えなかった。
そもそも何かものがあって貫通していないという状態だ。まぁ、噂なんてそんなもんだ
多分、家主も穴に気がつき、コルクのようなもので埋めたのだろう。
しかし、事が起きたのは穴の存在に気がついた数ヵ月後の話だ。
夕方のニュースによると、どうやらその家の前で殺人事件が起きたらしい。
被害者は隣の学校の生徒だった。
なんでも、例の家の家主が叫び声をあげながらナイフで襲い掛かってきた。とかどうとか。
どうやら家主は狂人だったようだ。ニュースでは一人暮らしでずっと家にこもりっきりだったそうで。
まぁ、気が狂うのも当然だろう。
しかし、加害者側も被害者ともみ合いになった時に目を負傷したのだろうか、
ガーゼのようなものをあてがった状態で警察官に連れて行かれていた。
数週間後の学校の帰り道。例の家の前を通る時があった。
事件が起きてから家主は逮捕され、その家は空き家になっていた。
穴もそのまま残っていた。しかし、いつもと少しだけ違った。
穴から光が漏れている。覗いてみると、埃にまみれた家の様子が穴から伺えたのだ。
それ以降、変わったことは何も無かった。ただ平凡な僕の毎日だった。