いい子にしようね アソボ… ネェ遊ンで… クシヤお兄ちゃん
せっかくの休日に母さんに叩き起こされて、突然、暇なら地獄から炎を取ってこいの一言。意味も分からず、嫌々準備をし、手提行燈を持ってドアをくぐり今日も一日が始まった…
人間の皆さん初めまして、僕の名前は
姿月クシヤと言います。魔界にある小さな町
日暮町に住む若い鬼です。僕らの住んでいる所は現世と浮世の間、あなた方人間の住む世界と地獄の間にある少し不思議な世界です。
「姿月の坊主じゃねぇか!久しぶりだな!またお袋さんにパシられたのか?」
豪快な感じととてつもなく大きな声で喋るのは地獄の番人牛頭さんだ。
「お久しぶりです牛頭さん。将来の進路の一つとして勉強してこいだそうです。馬頭さんもお久しぶりです、お元気でしたか?」
「あぁ、変わりはない。」
寡黙な感じで、低くそしてどっしりとした声で話すのは牛頭さんの相方の馬頭さんだ。元獄卒の母さんに連れられて何回か来るうちにすっかり覚えられてしまったようだ。通行証を見せ、地獄へ通してもらう。いつ見てもここはすごいなー!荘厳すぎて語彙力が減るよ。端っこらへん、そう、三途の川近くを通ろう…
「蹴鞠次こっち回してぇー!」「いくよー」 「あぁ!また見つかっちゃった!」「あと少しだったのに…」
「えーい」という掛け声と共に蹴鞠がこちらへ飛んできた。たくさんの子どもがここを遊び場にしていたみたいだ。知らない者がいても怯えずなぜかわらわらと僕の周りに集まってきた。小さい子は3歳からそして大きい子は16歳までいるみたいだ。年齢が比較的大きい子は川の近くに座って何かをしている。あれは…石か。少ない情報で僕はここが何をする所なのかを思い出した、考え事をしていると元気な声で思考を遮られる。
「お兄ちゃんだぁれ?」 「新しくここに住む人?」 「違うよ!きっと天からの使いだよ!見て、三角が頭についてないよ!」
「えっと、僕は…」
答えようとするとまた遮られる。
「すごくきれいだし、角もないから鬼でもないよね?」「やっぱり天使さまなの?」「きっと、そうだよ!!」
子ども達は勝手に”天使さま”という答えに納得してしまい、キラキラとした目を僕に向けてくる。否定するのが面倒だしこのままでいいか…自分の服装を見て、Yシャツに黒ズボンの天使さまが居たらびっくりだなとかアホなことを考えた。
「今日は天界の人たちに内緒で来たんだ、バレないようにクシヤって名前で呼んでほしいな?」
お忍びで来た天使設定で通そう、もうどうにでもなれ。人差し指を口に当て秘密だよと言うと、真似をしてシーってやる姿がなんとも愛らしい。あそぼ、あそぼと服を引っ張られ鬼ごっこや蹴鞠大会に参加させられた。
あれから数時間が経ち、彼らが本来いなくてはいけない所に返さないといけない。
「さぁ、もう帰ろうか」
とそう切り出すと子ども達が一斉にいやいやと駄々を捏ねだした。遊び足りなくても、寂しくても規則は守らないとね。
「引っ張らないで、もう帰る時間でしょう?」
いや、帰らなくてはいけない時間だ。これ以上遊んでいてはいけないよ。
「また石を積むだけの毎日に戻るなんていやだ!!辛くて苦しいの!がんばって石を載せても鬼が来て壊していくの!いい子にしていれば天界からお迎えが来て助かるって!!全然来ないの!でも、でもクシヤお兄ちゃんなら助けてくれるよね!!苦しいのから助けてくれるよね!!」
そう叫んだ女の子からはどす黒い霞のようなものが出てきて彼女を包んでいく。違和感を感じた他の子たちは隠れてしまった。負の感情を噴き出して魂の色がどんどん黒に染まっていく。穢れた魂は滅びる、もしくは悪鬼に成り果てる。まぁ地獄で生まれた落ちたとしてもすぐに始末されるから心配はいらないけどね。変化までは時間が少し掛かるから話が通じるうちに彼女と少し話をしてみよう。周りにある霞に怯え、座り込んで泣いている彼女にそっと近づいた。
「君はどうしてここに来させられたんだと思う?」
「知らなイ!知ってたラこんなに悲シクならない!辛イ気持ちになんテならなイ!!」
「ここにいる子たちはみんないい子だからだよ」
「ソんなのありえない!鬼達はパパとママを置いてキタ悪い子だからお仕置きすルんだって言ってた!!悪い子だから天界からずっとお迎えモ来ない!!どんなに待っても、ドンナニ…」
「でも今の君は悪い子だね、閻魔様が与えたチャンスを台無しにしたのさ。石積みの試練はどの子にも与えられるものじゃないんだよ?ここにいる子たちはもう一度現世に生まれ変わることを許された”いい子”だけなんだよ。それなのに君は周りの子たちを巻き込んで遊び、ルールを破ったんだ。」
「そんナノ、知らな…い」
絶望したような顔で僕を見る。ごめんね、一度穢れだした魂は救えないんだ。残念だけど君はもう堕ちるしかない。
「長く遊びすぎたね、神様にも嫌われちゃったねー。君はもういい子には戻れない。」
「そンな…タスケテ…タスケテ…オニイチャン」
「いいよ、助けてあげる」
そういうと少し表情が和らいだ。黒に染まりきる前に僕が助けてあげよう。
─── 死を
以ってね。
消滅していく魂を見送ると、自分の本来の目的を思い出した。そうだ、炎だ。この行燈にあかりを灯してやらないとな。ふと、目の前の物を見る。本来の色である勿忘草色に穢れの
滅紫が混ざりゆらゆらと光っている。命の燈火と言えるかどうかわからないがなんと儚くて綺麗なんだろうな。
夜宙雫月