ただいま追跡中小話。 戦っていた敵に止めの一撃を叩きこみ出久は大きく息をついた。
少し先の路地で大きな爆発音がして戦闘音が止む。
「かっちゃんの方も片付いたみたいだ」
出久は個性封じの手錠を敵にかけながら立ち上がる。
「……あ」
その視界に大きく大通りに飾られたポスターが見えた。
かっちゃんと有名な女優が色っぽく絡む話題のポスターが見えた。丁度結婚会見したすぐに出た広告だっただけに世間は爆心地が二股していたと湧いたが、女優本人と勝己の素早い否定にあっと言う間に鎮火した。
一番最初にあのポスターを知ったのは勝己経由だった。
その日、出久は休みで勝己は仕事に出かけた。良く晴れた日で洗濯でもしてしまおうとしていたところに勝己にしては慌てた様子で帰宅してきたのだ。
「……どうしたの? ヒーロースーツのままじゃないか」
「で、デク……!! みたか!?」
「?? 何を?」
「ま、まだか……」
「???」
今日はまだテレビも付けていなかった。
勝己に促されソファに一緒に座らされ、なぜか手を強く握られた。まるで逃がすかという様に。
「いいか、これはテメェと結婚する前に入った仕事だ。他意はねぇ。スポンサーの為に仕方なくだ。わかるな?」
「??」
勝己にしては回りくどい言い回しに首を傾げていると、死ぬほど不本意そうな顔をして一冊の雑誌を取り出しページを開いた。
「……わぁ」
色っぽく絡む黒を基調としたアクセサリーのCMポスター。勝己がメンズ用。女優がレディス用の物を身に着けていた。
「似合うねーかっちゃん」
買う? これ? と顔をあげると勝己がポカンとした顔でこちらを見ていた。
「……妬かねぇんか?」
「なんで?」
「……なんで」
釈然としない表情の勝己が言葉を重ねようとした途端電話が鳴りだした。
「あああ! くっそ敵ぁぁ!!」
「いってらっしゃい」
どうやら出動要請だったようなので玄関まで見送る、というか勝己が手を放してくれない。
「逃げんなよ」
「逃げないよ??」
「絶対だな? 逃げたら公衆の面前で犯すからな!」
「犯罪予告やめて!?」
何度も念を押して爆速ダッシュで出動していった。
その後呑気に洗濯をしてお昼ご飯を食べて買い物をしてとしながら夕方近くにテレビをつけて。
「ああ!」
報道を見て気付く。ゴシップのネタとしてあのポスターが取り上げられていたことに。
かっちゃんは僕がこれを見てまた君の隣に女性が似合うと身を引くことを懸念したのだということに。
かっちゃんは結婚してからそれはもう愛情表現を憚らず。
僕の中にあったその固定観念はさっぱり消えてしまっていた。
「だからあんなに慌てて戻ってきたのか」
鈍くてゴメン。直接謝っていいものかどうか迷っている間にまたもダッシュで帰ってきた勝己が部屋に出久がいることに安堵の息をつき。そのままベッドに引きずり込まれたので結局その件はそのままうやむやになったままだった。
ポスターを見上げていたら後ろから声がかかった。
「テメェと結婚する前に割り込まれたただの仕事だ。他意はねぇ」
僕は今更気づかなかったことを謝っていいのか迷い言葉が出ない。
「……」
いや、でも今更謝ったら逆に怒らせそうだ。大体何と言って謝ればいいんだ。鈍くてゴメン?
睨むような強い視線につい視線を逸らせたらかっちゃんに胸倉をつかまれた。
「な、なに!? かっちゃん!?」
「テメェはまた俺に女が……とかくだらねぇこと考えてんじゃ……」
「ち、違……っ」
違うんだ、そうじゃないんだ。
弁解を口に上らせる前に小さな女の子にツッコミを入れられ、公衆の面前でキスをされるはめになった。
恥ずかしすぎる……。
そしてその日のSNSはばっちり撮られていた、というかかっちゃんが撮らせた写真でにぎわっていたが。
つくコメントが悉くお気に召さないものばかりでスマホを見ながら。
「くっそ、死ぬほど可愛がり殺してるっつーの!」
あ、はい。そうですね……。
もしかして、かっちゃん。不安なのかな?
そういえば、何かしてくれるのはいつもかっちゃんからばっかりだ。
僕だって僕なりにちゃんと好きだし腹括ったんだぞ。
離婚なんてしてやらないからね! 僕だってちゃんと君が好きなんだ。
「別に僕らが幸せならいいんじゃない?」
イラつくかっちゃんに自分から初めてキスをした。
たった、それだけだったのにかっちゃんが物凄く上機嫌になって。
あれ、この人こんなに可愛かったっけ? そう思ってもう一度キスをしてみたら。
「言うようになったじゃねぇかデク」
わかりやすくご機嫌になった。っていうか何でご機嫌な顔が物騒な感じなの……。
でも、きっとこんなかっちゃんの顔見られるのって。
僕だけだよね。
降りて来る唇に自分から顔を寄せ、誘われるように舐められた舌にそっと唇を開いてそれを迎え入れた。