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    金鯨短文ログ■君に求められるということは■君に求められるということは 人に望まれた姿になることは得意な方だった。
     ──彼は、自分に何を求めているのだろうか。

     ボエールはマシンワールドの静かな広く黒い空を悠然と飛行していた。若き炎神達の奮闘によりガイアークが撤退し、久々の平和な空の散歩だった。

    (そういえば、ヒューマンワールドの空は蒼いんだったか)

     ボエールはふと、彼方の次元の空の知識を思い出す。それは最近出来た“恋人”の世界の景色だった。
     ──その想いを吐露されたのは数日前。
     とある事件をきっかけに生徒兼ビジネスパートナーとして付き合う事となったヒューマンワールドの人間、須塔大翔という青年にボエールは告白され、それに応えて恋人という関係にもなったのだ。
     その時の事を思い出してボエールはくすりと笑う。何時でもクールで自信に溢れた青年が、今にも泣き出しそうに苦しそうな顔でその熱を言葉として漏らしていくのだ。あまりに脆く、そして真剣な瞳で自分を見つめる姿がボエールにはとても愛おしく、なんだか胸を打たれてしまったのだった。長い人生の中で初めて出来た恋人だった。

    (あの子は我輩の何がそんなに好きなんだろうね)

     それはあの日以来、ボエールの胸に静かに浮かび続ける疑問だった。
     何も好意を向けられるのは初めてではない。ボエールが褒めると恋を知った生娘のように顔を赤らめる者もいた。誰もが認める地位の男を屈服させたいといった欲望が透けて見える者もいた。しかし、大翔はその何とも違った。熱に溶けてしまいそうな瞳で見つめながら、慈しみと敬意が込められた手つきで顔に触れる。自分のものになってほしいのだという欲望を真摯に請う。恋も愛も独占欲も憧れも、ボエールを見つめる大翔には全てがあった。

    (彼は我輩に何を望むのだろう)

     気高く強い尊厳のある空将としての自分、明るく優しい教官としての自分、誰も知らない甘い声を囁く恋人としての自分、出来ることなら大翔の望む自分であってあげたいとボエールは思う。ガイアークを倒すまでの関係というリミットを受け入れてくれた相手にはそれだけのことはしてあげたかったのだ。
     でも実のところ彼の望むものはボエールにはよく分からなかった。あれやこれやを思案しながら、ボエールは家に向かってエンジンを吹かした。

    「お帰りなさい」

     ボエールが軍の空将用の特別寮舎に帰ると、大翔が出迎えた。大翔と妹の美羽の為に特別に部屋の中に作ったデッキで、その小さな恋人は静かに微笑んでいた。

    「なんだい君、わざわざ自分の部屋からここまで来たのか?」
    「帰って来る音が聞こえたので。恋人の帰りは出迎えたいでしょう?」

     部屋の造りと体のサイズの関係上、大翔とボエールは普段はそれぞれの離れた部屋で一日を過ごしている。そんなに近い訳でもない距離をわざわざお帰りを言う為だけに彼は歩いてきたのだ。その生真面目さがボエールには少しむず痒かった。

    「せっかくだ、今夜はそのまま君の部屋にご招待されようかな?」

     そう言うやいなやボエールは光に包まれ、小さなキャストの体と炎神ソウルに姿を変えた。空中に放られたそれを大翔は受けとめ、ソウルを投影機に差し込む。目の前に小さな鯨の姿になったボエールが現れ、照れを隠しながらはにかんでいた。

    「いいんですか、その姿で一晩過ごすのは不自由では?」
    「言う程でもないねえ。君と話したい事も沢山あるしね」
    「ふふ、分かりました。部屋まで運びますね」

     ボエールの言葉に嬉しくなった大翔は、何時もより少し軽やかな足取りで自室へと向かうのだった。

     ボエールの住まいから少し離れた場所に須塔兄妹が過ごす小さな建物はある。急ぎで人間の建築事情について調べ急拵えで建てたものだったが、個室や共同スペースに風呂場など、生活するのには問題のない仕上がりになっていた。

    「アニ、お帰りなさい!あれ、ボエール教官も?」

     家に入ると美羽が出迎えた。寝る準備をしていたらしく可愛らしいパジャマを身につけていた。予想しない客人に不思議そうに小首を傾げる。

    「うん、今日はチームでの活動について泊りで話し合おうと思ってね。お邪魔させて頂くよ」
    「なるほど!ゆっくりしていってくださいね!」

     屈託のない笑みを浮かべお茶を用意しに台所へ向かった美羽にボエールはにこにこと手を降りつつ、気まずそうに横の大翔に目を向ける。大翔も彼らしくない固い笑いを浮かべて愛しの妹を見ていた。いずれバレることだとは思うのだが、まだ二人の関係は彼女には内緒だった。
     少しの沈黙の後、お茶を受け取り二人はしずしずと部屋へと向かうのだった。

     大翔の個室に入った二人はソファーに横に並ぶ形でゆったりと体を預けた。大翔は先程と違い随分と可愛らしい姿となった恋人にまた別種の愛おしさを感じながら話しかける。

    「今日は随分長く出られてたみたいですがどちらへ?」
    「なあに、空将に報告がなんて長いこと捕まっちゃってね。あんまり長くて羽が固まっちゃいそうだったからその後運動がてらお散歩してきたのであーる」
    「はは、それは大変でしたね」

     大翔やトリプター達の教官をしている間もボエールは空将であることに変わりはない。訓練中もあちらこちらから連絡が入り、その都度威厳ある声で受け答えしているボエールの姿を大翔は思い浮かべる。初めて会った日以来あまり見ていない、仕事をしている恋人の姿はとても誇らしい気分にさせた。
     今日あった事、自分達の世界の文化、様々な事で話に花を咲かせる中、ボエールは胸に浮かび続けるあの疑問をついに切り出した。

    「ねえ、大翔は我輩に何を求めるんだい?」
    「うん?急ですね。それは一体どういう……」
    「なあに簡単な事だよ。恋人である君が我輩の何がそんなに好きなのかを知りたいだけだねえ」

     大翔はふむと足を組んで考え出す。しばらく宙を見つめてから、真剣な顔でボエールに向き合ったかと思えば困ったように相好を崩した。

    「それがきちんと言葉に出来ればもっと格好良く貴方に告白出来たんでしょうけどね」
    「むう、じゃあなんだい。お前さんは訳の分からぬ熱に浮かれるがままに我輩を好きだと口にしたのかあ?」
    「そんな、いやそういう状態だったのであったのは正しいですが。……貴方の全てが好きなのに、それを一つ一つ頭に並べている余裕はないでしょう?」

     ボエールはポカンとした。目の前の男の言葉が理解出来なかったからではない。あまりに、あまりに歯の浮く台詞が飛び出たからだ。そんなボエールを置き去りにして大翔は話を続ける。

    「初めて会った時、大きい……ああ体躯という意味ではなくてですね、人としての器が途方もなく大きい存在である貴方に雷が落ちた気分だった。話していく内にとても笑顔が似合う無邪気な人なのだと思いましたし、素直な好意をぶつけられるとたまらず照れて目をそらす姿は愛らしかった。ちょっと難題な要求をする時に見せる意地の悪い笑みもドキドキさせられて素敵ですね」

     ツラツラと立て板に水を流すように惚気を述べていく大翔に流石のボエールも動揺した声色を隠せなかった。

    「な、なんだい君。それじゃあ我輩の何もかもが好きみたいじゃない。それは好きな部分をあげてる事にはならないぞお!」
    「言ってるじゃないですか。ボエール教官、貴方が好きなんですよ」

     大翔は呆気にとられるボエールの横に腕を置き、覆い被さるようにして見下ろした。

    「さあ、まだ聞き足りないですか?具体的なエピソードでもあげましょうか?」

     得意気な顔でにこにこと見下ろす相手にボエールはしまったと苦い顔をする。大翔はボエールに対して敬意を持った恭しい態度であると同時に、誰でもなく自分が恋人なのだと遠慮なく主張してくる男であった。
     こんなにも強気でぐいぐいと迫られ、また迫り負ける事は人生でも早々に無く、どうにもボエールは悔しくも弱かった。

    「お前さんは本当に我輩が好きなんだなあ……」

     ボエールはただただ呆れるしかない。そしてそれは同時に降参の音でもあった。相手の求める自分を演じるも何も、全てを求められているのだ。それはただの──。

    「ありのままの貴方が好きですよ、ボエール教官」

     幸せそうにそう告げる大翔にボエールは完敗を認めた。意地を張って目を合わせる事も諦めて、顔を赤くしながら苦々しく口を開く。

    「言っとくけどねえ、我輩はこれでもファーストクラスな人生を歩んできてるんだからもっと面倒になるぞ?」
    「見せてくださいよ、もっと、色々な貴方を」
    「勝手にしたまえ!」

     なんと強欲な男だろう。この巨体の酸いも甘いも寄越せと大翔は言うのだ。そして自分は恋心すらも差し出すしかないのだとボエールは自覚する。大翔に愛の言葉を囁かれる度に、取り繕う暇もなくボエールの心は眩んでしまうのだ。
     勝手にしますと笑う大翔の顔が憎らしく、ボエールは突進するかのようにその胸に飛び込みふて寝を決め込むのだった。
    かげにん Link Message Mute
    2019/07/24 0:08:21

    金鯨短文ログ

    ##CP系

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