ブラハリ短文ログバレンタインと幸福な二度寝と 早朝。
覇利丸が静かに眠っていたところ、バンッとドアの開く音が響く。こうして入ってくるのは合い鍵を持っている一人しかいない。
(…ブライト?)
今日は1日夜遅くまで仕事だと思ってたのに。
服を着替える音が聞こえる。狸寝入りしていたが起きたほうがよかっただろうか。
そう思っていたらブライトは覇利丸の方へとやってきて。
「ちょ……ブライト?」
「なんだお前起きてたのか」
「いやその前にNE……」
ブライトは布団の中に入ってきたと思ったら思いっきり覇利丸へと抱きついてきた。覇利丸は自然とブライトの胸に埋もれる形になり、少し顔を赤くする。
「どうしたんだYO……いきなり」
「眠い、寝かせろ」
……自分はどうやら抱き枕代わりらしいと覇利丸は察する。
「……今日は仕事どうしたんだYO」
「休み貰った。お前と違って真面目だからな。たまの休みなら許される」
「眠くても減らず口は回るんだNE……!」
ただこの疲労困憊ぶりだと徹夜で今日のぶんの仕事を終わらせてきたらしい。それを言わないのはブライトのプライドか。
「……あのさ、今日バレンタインなんだよNE」
「だからどうした」
「一応今から起きてYOUに作ろうかと思ってたんだけど」
女々しいなあと思いつつも一応材料は買っているのだ。一応、付き合っているのだし。どうせブライトは仕事でバレンタインなんて忘れてるだろうと思ったから。
せめて自分だけでも。
「…時間はまだあるんだから後で作ればいいだろ。今日ぐらいは二人で過ごそうと思って休み入れたんだ。少しぐらいゆっくりさせろ」
(……ふーん、てことはバレンタイン覚えてたんだ)
ちょっと意外だったが嬉しくもある。ならば少しチョコを作る時間を後にして。
この幸福な時間を。
■■■ ちょっとそんな気分だったから。
「好きだ、愛してる」
って言ってみたら、
ガッチャーンッ
「…………………え?」
コップを割られた。
「おい、ちょっと待てなんだその反応」
「え、まってよNE!なんか悪いもん食べたのかYOブライト!」
「本当に無礼だな!」
なかなかに酷い。
「だって……YOUが好きとか愛してるとか……」
「なんだよ。言っちゃ悪いのか」
「そういう訳じゃないけど……一度も言ったことないじゃないかYO!」
そうだったろうか。
確かに覇利丸とは流れというかなあなあで付き合いだしたが。一度も言ったことが無かったとは。
でもそう言われてみると確かに記憶が無い。
「ふむ、じゃあ今までの分を取り戻すとしよう。好きだ好きだ好きだ愛してる愛してる愛してる」
「ちょっとまてYO!何その愛の安売り!」
ブーブー言いつつ覇利丸の顔は真っ赤で。普段鈍感とよく言われる俺でもこれは照れ隠しなんだろうとは分かる。
真っ赤にしてるのが可愛かったので悪戯に抱きしめてみる。
「うわああああ!今日のブライトは変だYO!おかしいYO!」
ますます顔を真っ赤にして。
可愛いなあ。
昔の俺からは考えられない思考だ。気づけば俺はこいつのことがこんなにも。
「好きなんだ」
「うう……もう勝手にすればいいYO」
「ならお言葉に甘えて」
額にキスを一つ。
皮肉屋で照れ屋な君が可愛くて。
本当に大好きで。
■■■「クリスマスもあとちょっと、盛り上がって行くyoー!!」
天馬の国の人々はイベントがとにかく大好きだ。
特にクリスマスは店側は客の書き入れ時であり、ヘンテコDJとしてちょっとした人気者となっている覇利丸も仕事に大忙しである。覇利丸とて天馬の国のクリスマスを楽しみたくないわけではないが、毎日ギリギリの生活を送っている身としては仕事が入るのもまた有り難いことなのだ。
色々な客が来るが、まあこちらでこの日を過ごすのは二年目になるのでそれなりに対処の仕方も覚えてきた。流れに身を任せて適当にこなせばいいのである。
クラブハウス内は人でごった返していた。覇利丸はラップに一休みを入れて周りを見渡してみる。常連の客、初めて見る顔、様々な人がいるが皆楽しんでいるようでホッとする。
そこに一人、よく見る顔がいた。
(ブライト?)
それは確かに斧雷丸だった。今日も、いや今日みたいな行事がある日は警察はかなり忙しくなるはずだがどうしたのだろうか。
そういえば今日の担当はここらへんの区域だと行っていたから、一休みがてら訪れたのだろうか。
なんにせよ、どう見ても場馴れしておらずムスッとジュースを飲みながらテーブルから離れない様に覇利丸は苦笑してしまう。覇利丸の視線には気づいてないらしい。
(さてこのお客様にはどう対処したものかneー)
なんせ覇利丸と斧雷丸が付き合い始めてから初めてのクリスマスだ。随分素っ気ないものになってしまった気もするが、この忙しいご時世に、同じ時に同じ場所で過ごせるのは幸せなことかもしれない。
「さてさて一息ついたところで次のナンバーに行くyo!酔っ払った姉ちゃんも仏頂面のカタブツも楽しんでってよne!!」
覇利丸の言葉にはたして斧雷丸は気づいただろうか。それは帰って本人に聞くまで分からないが、今覇利丸はスペシャルゲストの為に最高のもてなしをするだけだ。
そっと愛用のディスクに手をかける。
「MerryChristmas!!」