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    W&G短文ログ■クリスマス・ナイト■クリスマス・ナイト しんしんと雪が降り積もる中にその子は一人立っていた。雪の白さに心奪われてしまったかのように。
     青い体に黄色い嘴の目立つそのよく知る顔を見て頭の中で警告が鳴り出す。駄目だウォレス、関わっちゃいけない、前に大変な目に遭わされたのをもう忘れたのか?忘れるわけがない。よく相方には呆れた目で見られるが、自分は皆が思ってるほど馬鹿じゃない。何が危ないかなんてきちんと判別がつけられる。理解はしているのだ、けど、頭は分かっていてもお人好しな他の体のパーツは止まってくれない。主に足と手と口。
     クリスマスツリーを見つめるその子に僕の口は声を掛ける。

    「何をしてるんだい、フェザーズ?」

     ──三分くらいは経ったかな。声を掛けられたフェザーズは凄く驚いた。慌てて警戒態勢をとったけど、僕が通報する気がないと言うとぎこちないながらも元の空気に戻ってくれた。ただ、僕の問いには答えずまたぼうっとクリスマスツリーに体を向けてしまったけど。
     何をしてるのか教えてくれないのかなあ。また悪巧みをしているから教えられないのかな。それなら一大事だけど。僕は一市民として西ワラビー通りの平和に貢献する義務がある。
     そういえばペンギンは鳴くのだろうか?前にフェザーズがうちに下宿していた時には、その声は聞いたことはなかった。もしかしたらペンギンは鳴かない種族なのかも。なら無い声を出せなんて悪いことをしてしまったかな。でもうちのわんちゃんも鳴いてる姿は滅多に見ない、犬はバウワウと鳴けるはずなのに。フェザーズも無口なのだけかもしれないぞ。
     頭の中でフェザーズに関する勝手な妄想があれやこれや駆け巡るけど、彼はまだまだ見つめ続ける。余程クリスマスツリーに何かあるのかな。クリスマスツリーが欲しいとか?

    「あ、もしかして」

     ずっと黙って隣にいた僕が声を再び出したから、フェザーズも自然とこちらに目を向ける。不思議そうな顔をするフェザーズに僕はにんまりと笑みを送る。

    「分かったぞ、クリスマスパーティーしたいのに友達がいないんだろ!!」

     これはどういったことだろうか。
     私、フェザーズ・マッグロウは、ひょんな再会を果たしたウォレスに引きずられ、彼の家に上げられていた。
     どうやら彼はクリスマスツリーを見つめる私を見て、パーティーしたいのに友達がいない寂しい奴だと思ったらしい。なんて酷い勘違い。この街に友と呼べる人物がいないのは事実だ。南極からこの街の動物園に送られたその日から、私は誰かを信頼するのは止めた。信頼出来るのは自分だけ。心を許せるのは故郷の冷たく優しい氷の大地と、それによく似たダイヤモンドだけだ。別にパーティーなんかしたいとは欠片も思ってない。私がツリーから目を離せなかったのは──。

    「おおい、フェザーズ!ちょっとおいでよ!」

     あの男の声はいかんせんうるさくてたまらない。そんなに大きな声で呼ばなくても十分に耳に届いている。
     来てそうそう座らせられた一人用のソファから離れ彼の元に向かう。警戒を解いたわけではない、ただ余計な面倒は増やしたくない。ちょっとでも怪しげなそぶりを見せたらズタ袋にしまった相棒に火を噴かせるだけだ。
     にこにこと馬鹿みたいな顔で何かを後ろ手に隠すウォレスと、懐かしい宿敵・グルミットが待っていた。ああ、いつ見ても憎々しさがこみ上げてくる。こいつは嫌いだ。馬鹿な御主人と違って賢いから。こいつがいなければ今頃私は幸せに暮らしていただろう。

    (……幸せ?)

     幸せに暮らす?ふと自身への疑問。あの犬がいなければ幸せになれたのか?氷の無いこの街で?故郷にはきっと帰れないのに。
    でも、先程の刹那の考えを否定しきれない自分がいる。否定しきれない何かがある。何故?

    (そんなの、気のせいだ)

     憎いこの街でそんなものがあるわけないのだ。それは生温い夢だ。
     ──現実に戻らねば。今対応しなければならない相手を見つめる。ウォレスは何を隠しているのか。出来れば乱暴なことはせずストレートに済ませたいが。

    「ふふっーん!見て驚くなよ。だらららら~ん!!」

     さっと手を私の方に突き出す。身構えたが、ウォレスの手に握られているのは……一着のタキシードだった。しかもどう見ても私サイズの。

    「パーティーだからね!ドレスアップは大事だろう。いやあ僕って気が利く……って痛い!痛いんだけどフェザーズ!?」

     蹴る。私はウォレスの足を容赦なく蹴る。別に驚かされたことに怒っているわけではない。

    「ちょっと、なんで怒ってるんだよ!?口で説明してよ!」

     仮に口で説明したところで人間の彼に理解出来るのだろうか?仕方がない、優しい私はヒントを投げつけてやる。

    「……女の子のお人形?」

     クリスマスツリーの飾りのそれをウォレスはとぼけた表情で眺める。さあいい加減気づけ。隣の犬は察したらしい。宿敵相手といえど流石に気まずいらしく、あちゃーといった素振りで顔に手を当てている。もしかしてお前も間違えてたのか。
     最初は不思議そうな顔をして頭を捻っていたウォレスだが、ようやく解答に辿り着いたらしい。大袈裟に手をぽんと打つ。

    「もしかして君女の子なのかい?」

     正解だ。たっぷりの皮肉を込めて私は拍手を送った。

    「なんだよなー、それなら早くそういってくれよなー」

     随分身勝手な事を呟きながらウォレスはクリスマスツリーに飾り付けをしていた。ちなみに性別を間違えられた件についてはキャンディー一本の謝礼で方を付けられた。解せない。
     ふとウォレスは飾り付ける手を止めた。その手には天使の人形。何を思ったのか彼はいきなりその天使から衣装を剥ぎ始めた。罰当たりな!

    「よしよし、いい考えが浮かんだぞ」

     嫌な予感がしかしない。それはどうやら当たったらしく、ウォレスは私を捕まえる。何をするかと身構えれば、彼は先程剥ぎとった衣装を私に着せ始めた。

    「ほら、立派な女の子のドレスアップ」

     天使になった私が出来上がりだ。可愛くなったじゃない、女の子に見えるよとウォレスは感想をくれる。失礼な。いやでも、その、すごく。
     恥ずかしい。
     女の子として扱われるのは少々久々過ぎた。タキシードに憤った私だったが、いざ女の子の服を着せられるとこれはこれで羞恥の念が込み上げてくる。

    「似合ってるよ、凄く!」

     そんなこと言わないでほしい。ああ、もう、なんなんだろうこの感情は。この男の、ウォレスの考えは一般常識から離れすぎるが故に読めないから苦手だ!
     ウォレスは人形の代わりと言わんばかりにクリスマスツリーの上に私を乗せる。彼の手に支えられながら、もうどうにでもなれとそれらしいポーズをとってみたら、本当に天使みたいだねと笑う。下であの犬も感慨深そうに見ているのを感じる。
     これはもう、完敗だ。

     沢山の豪華な食事と共に三人でのクリスマスパーティーは始まった。
     ウォレスは始終楽しそうだし、犬の方も最初に私と顔を合わせた時と比べれば随分表情が柔らかくなっている。
     ご飯は美味しくて、空気が眩しすぎて、なんだかとてもこそばゆい。動物園で見せ物にされ泥棒に手を染めたような自分にはむずかゆいものがある、こんな幸せな空間。
     そうだ、幸せなのだ、この家にいる時には。
     都合のいい家だったからと下宿先として住んだあの本当に短い期間、確かに私は幸せだった。この家は私を見下さない。一人の生き物として扱ってくれる。それだけのことが、この世の中で出来るのはきっとこの家ぐらいなのだ。
     あの時クリスマスツリーから目を離せなかったのは、その当たり前を当たり前に享受出来ていた、故郷の幸せな日々を思い出していたからだ。
     あの賢い犬が馬鹿な御主人から離れない理由が分かった気がする。確かにこの空間はとても、心地がいい。この暖かさが私の何かを溶かそうとするのを感じた。

    「フェザーズ、1日ぐらい泊まっていけばよかったのに。なあグルミット」

     ウォレスはどこか寂しそうな顔で夜の紅茶に口をつける。僕は頭を抱えた。前に殺されかけた相手ってことは覚えてないのかな。
     フェザーズは一通りパーティーを終えて片付けを済ませ、一息ついたほんの一瞬の隙にいなくなった。礼ぐらい言っていけよな、なんて心の狭いことは口に出さない。僕は紳士な犬だからだ。
     いなくなった理由はなんとなく分かる気がする。ここは、居心地が良すぎたのだろう。パーティ中ずっと、彼女は変にぎこちなかった。犯罪者の彼女にはきっと、ウォレスのあまり頭を使っていない優しさは温かすぎた。触れたいと思っても過去からの後ろめたさがそれを許さないジレンマ。まあ、これはあくまでも僕の憶測なのだが。
     彼女がまた再びここに来ることはあるのだろうか。今の寂しげなウォレスからすればまた来てほしいところなのだろうけど、でもやっぱり一度この家を追い出されたことがある僕としては複雑だ。
     自分の独占欲の強さは理解している。彼女が本当にここを訪れるようなことがあれば臨戦態勢をとらねばならないだろう。あの温かさに惹かれるのは分かるし、だからこそ簡単には譲れない。
     ──まあでも、見る目があるという事実は認めざるを得ない。もしこの御主人を奪い合うような事態になったら全力を持って相手してやろう。

     さっきから溜め息ばかりのウォレスにそっとチーズを差し出す。途端に顔を輝かせ、さっきの憂鬱は忘れたようにチーズへの愛を語り出す。馬鹿な御主人だ。
     あのペンギンはクリスマスの寒空の下、何をしているのだろう。今すぐには無理かもしれないが、まあいい子にしてたらきっと、そのうちサンタさんがプレゼントをくれるさ。
     それが僕の大切な御主人でないことを祈るけど。
    かげにん Link Message Mute
    2019/07/24 1:55:47

    W&G短文ログ

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