1ぐらり。視界がぼやけて、もう立ってすらいられない。息が吸えない。夏です。ぐいとおもむろに鼻を拭ってみる。血。僕は鼻血を出していた。風に吹かれるコンビニ袋みたいに、原田先生の元へ行く。「保健室行きます」返事なんか聞いていられるか、と頭の中で文句を言う原田先生(よく言う脳筋というやつで僕が最も苦手なタイプであった。)を踏んづけた。
「おい、大丈夫か?佐藤、一緒に行ってやれ」
僕の妄想よりも世界は優しい。くそったれめ。えー、と残念がるクラスメイトの声も気にせず佐藤が僕に肩を貸し、ティッシュもくれた。ありがとうと小さく言うが、僕はそれどころではなく、隣のコートでバレーボールをしている東ちゃんを目で追いかけていて、鼻血がぼたぼたと床に垂れ落ちていた。佐藤が僕が手にしているティッシュを奪い取り、鼻に押し付けてきた。
東ちゃんと目があった。
「せんせー、わたしが付き添い行ってきます」
「え、いいよ、俺が行くし。今ゲームやってるじゃん」
「別に、いいよ。男子は佐藤抜けちゃうと負けちゃうじゃん。早く行ってきなよ」
東ちゃんが、僕を強引に引っ張り歩いていく。鼻に押さえつけられていたティッシュが落ちて、止まらない鼻血も、僕の鼻の下を駆け抜け口の中に入ってくるが、東ちゃんは止まらない。ぎゅう、と手で鼻を押さえ引っ張られていく。僕より少し背が高い東ちゃんのつむじを眺めながら、渡り廊下を歩けば、すぐに保健室に着いた。
「せんせい、具合い悪いんだってー」
ここでようやく大丈夫と声をかけられる。僕はあんたが好きなのだから、思われてなくても、嬉しいし、何よりも輝いて見えた。パソコンの履歴に残っていた、全身金粉にまみれた女の人のアダルトビデオのことを思い出した。どうしようもない。
押さえていた手を離すと鼻血で血まみれになっていた。鉄の匂いに溺れ死にそうだった。