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    セイ綾小話
    いまだ届かぬ夢の欠片(セイ綾)
    ルージュの秘密(セイ綾)

    「ここ、どこ?」
     ひらひらと白い花びらが宙を舞う。澄み渡った青空は硝子玉の半球を切り取ったような美しい青。懐かしさを感じる空気と生々しい草木の濃い匂いが混じって、どこか懐かしさを感じさせた。
     綾香はさくりと足を踏み込む。先ほどまで着ていた黒と青のドレスは白と蒼のドレスに変わっている。デザインも大人びたものではなく、可愛らしい清楚な結婚式用のドレスになっていた。
    (どうして、こうなったんだけ……?)
     時計塔で出来た変わりものと呼ばれている友人(人の嫌がる顔を見たがる性格が歪んでいて、どこか某神父に似ているような気がする)が、新たなる降霊科のロードのお披露目会のパーティーに誘ってきた時点で何かあると思っていた。彼女の目的は各派閥の動きを探ることが主だが、綾香にとってはもう一つのことが重要だった。1999年、東京聖杯戦争の取りこぼしがあり、それを巡るきな臭い動きがあるらしいと彼女は仄めかした。半信半疑ではあったが、彼女や兄弟子に巻き込まれた事件でその断片の情報が点々と落ちており、拾い上げた断片を接合しながら、答えを考えているところだった。
     探る見返りはその情報とドレスだそうだ。綾香は渋々と頷いて、友人と一緒にパーティーに参加したが、友人は早々にターゲットに近づいて各派閥の動きを調査し始めた。友人を見習って、自分も話の収集をしていたが、駆け引きはあまり上手くないため、最後までロクな情報を拾えなかった。それどころか、相手に婚約者の紹介をされて、家の魔術刻印の話を振られ、ほんの少しだけ沙条家をどうするか、悩んだりすることになった。
     その後、合流した友人に情報を渡していると、悩みを抱えた綾香の顔を見て、それは楽しそうにそういうところを見たかったんだ!とのたまったので、頭部に一撃、デコピンを食らわせて、ホテルの自室に入ったことは覚えている。
    (……あのとき浮かんだのはセイバーの横顔だった。英霊だから傍にいるなんて無理で。いつかは思い出にしなきゃいけないのかな)
     綾香は白いドレスを憂鬱に思いながら、草原を進む。白と蒼のドレスは彼を思い出せるから尚更だった。草原を歩いていたら、白亜の小さな教会についた。
    (もしかしたら、誰かいるかも……あまり、教会にいい思い出がないんだけどね)
     綾香はぐっと重さのある銅の取っ手を掴んで開いた。観音扉には鍵がついておらず、ぎぃぃと金属が擦れるような音を立てて開いた。
     真っ直ぐに伸びた赤い絨毯が引かれている道は十字架と色とりどりの硝子を用いて作られているステンドグラスのもとに続いており、ステンドグラスの前には懐かしい自分を守った最愛の騎士の後ろ姿があった。
    「綾香……?」
    「セイバー?」
     扉の音に驚いたように振り向いたのは、大きな白の薔薇の花束を持ったアーサー。彼の着ているタキシードは綾香のドレスと同じカラーだ。
     綾香はこれは夢だと確信した。でなければ、こんな都合のいいことがあるわけがない。なんて、幸せで残酷な夢なのだろうと悩んで疲れていた心は素直に喜べなかった。
    「綾香、ずいぶんと成長したんだね」
     眩しげに自分を見つめるアーサーに綾香は心の底から溢れてくる言葉を口に出そうとしたが、唇はその言葉が外に漏れないようにぎゅっと閉じてしまう。言葉を飲み込んで、精一杯の強がる言葉が変わりに口から出た。
    「もう、セイバーがいなくなってから、どれくらい経ってると思うの? 5年経ってるんだから」
     責めるような口調になってしまうのは、自分の未来を決めかねているからだ。また、自己嫌悪で落ち込みそうになる綾香を見て、アーサーはふっと口を緩めた。
    「っと、思ったんだけど、そういう可愛くないところは変わってないね」
    「簡単に変わるわけないでしょ! 私の性格の根っこなんだから!」
     ぽかぽかとアーサーの腕を叩くが猫パンチのようにしか感じないようで、微笑ましいといった顔で見ている。
    「安心した……」
     呟かれた言葉に綾香はばっと顔を上げて、まじまじとアーサーの顔を見る。幸せの裏にほんの少しの悲しみが見えて、綾香は叩くのをやめた。彼もまた同じような気持ちを抱いていたのかもしれない。
     気分を変えるように、アーサーは持っていた白い薔薇の花束を差し出した。瑞々しく優しい香りのする薔薇は奇麗に整った形をしていて、とても丁寧に育てられたものだと感じた。
    「綾香、プレゼントだ。僕の友が、僕たちのためにくれたんだ」
    「白い薔薇?」
    「ああ、ガーデンにも咲いていたのを思い出してたんだ。そして、この花言葉もね」
    「ねえ、セイバー。それって……」
     綾香がアーサーに花言葉のことを聞こうとした瞬間、鳥が飛び立つ音と腹に響くような重たい鐘の音が教会中に響いた。まるで、昔、幼い頃に綾香がぼんやりと夢を見た結婚式のようだった。
    「ああ、もう時間だ。綾香、どうか君の進む道に光が多くあることを」
    「ちょっ、待って!!」
     一方的に告げられる言葉に綾香はストップをかけるが、世界は待ってくれない。スポットライトがゆっくりと消えるように世界は暗転した。

    「……セイバーのばーかー」
     綾香は眠る前にみた天井を見上げながら、ふわふわなベッド上で呟いた。
     蒼と白のドレスは、また、黒と蒼のドレスに戻っていた。
     綾香はため息をついて、起き上がる。やっぱり夢かと落ち込むが、かさりと手の端に何か触れた。
    「?」
     綾香は隣にあった何かを見つけたとたん、我慢していた気持ちが堰を切って溢れ出てきた。
    「こんなもの渡されたら、思い出になんて出来ないじゃない……」
     ぽろぽろと溢れる涙が、白い薔薇の花束にいつまでもこぼれ落ちていた。

    (END)


     つい魔が差したと手元にある艶のある黒いケースを見ながら綾香は思った。
     とある有名ブランドのリップ。商品名に自分と共にあった騎士の名前がついていたのを見かけてしまって、手にとって買ってしまった。真紅にほんの少し黄色を足した華やかな雰囲気の色。きっと、学生の時だったら背伸びしている印象にしかならないのだろうが、今は違う。綾香は大人になった。大人になって、あの時よりもずっとずっと化粧するのが上手くなった。

     あれは、聖杯戦争中の合間のこと。使える魔術の道具がないかと使ってない部屋を覗いた時に、部屋の片隅にあった布で包まれていて、軽い魔術掛かっている家具を見つけた。もしかしたら、父が残した魔術的な価値があるものかもしれないと綾香はそれに手を伸ばして、魔術を解除する。鍵の掛かった部屋に鍵を差して、回すだけのような簡単な行動。
     布をどかすとひとつの曇りもない鏡、飴色の表面に細かい傷がついているアンティークのドレッサーが姿を表した。

    (これ、お母さんの……)

     綾香はドレッサーの椅子に腰掛ける。まだ、現役で使えそうなドレッサーは母の部屋にあったものだったに違いない。母が亡くなってからもずっと、父は手入れしていたのだろう。
     ドレッサーの引き出しを開けると化粧道具が詰まっていた。使われた形跡のある化粧道具はまた誰かに使われるのを待つように鎮座している。

    「へえ、いいものじゃないか」
    「!?」

     突然、話しかけられて綾香のビクッと体が跳ねる。いたずらが成功したとばかりに、綾香のサーヴァントであるセイバーはクスリと笑った。綾香が睨みつければ、セイバーは綾香の怒りをスルーして、これ、運ぶ?と聞いてきた。

    「いいです。私、化粧なんてしませんから。どうせ、私には似合いません」
    「相変わらず、綾香は隙さえあれば、根暗なこというんだね。塗ってみてから答えを出したらいいじゃないか」
    「あっ……」
    「ほら、動かないで」

     セイバーは口紅を取って、キャップを開けて、綾香の唇に当ててそっと横に引く。唇をなぞる自分の体温よりも少しだけ冷たい感覚と頬を掴まれている手の感覚に慣れない。真剣に口紅を引くセイバーの整った顔が近くにあるのだから、尚更だ。綾香は心臓の音が早くなるのを必死に宥めながら、解放されるのを待った。

    「よし、出来た」

     少しだけはみ出た紅を指で払って、いい仕事をしたとばかりにセイバーは誇らしげだ。反対に綾香は浮かない顔する。

    「もう、勝手にこんなことして……」
    「大丈夫。これはきっと、君に残したものだろう」

     セイバーの言葉に綾香は俯いた。ほんの少し高揚した気持ちは萎んで、消えそうだった。

    「……そんなはずない」

     私ではなく、きっと姉へ。あの美しく完璧な姉なら絵になったのに。綾香は唇を噛み締めようとして、口紅が塗られてるのに気づいてやめた。

    「君は……。とにかく、落ち込むより先に鏡を見た方が建設的だよ」
    「ちょっ! また、メガネ取らないでください!」

     綾香はセイバーから眼鏡を取り返そうとするが、背丈の問題で届かない。きっと、おとなしく鏡を見れば、返してくれるのだろうけど、負けたような気がしてなんとなく悔しい。けど、このままだと平行線だと覚悟をして、鏡を向く。不機嫌な顔の自分にいつもと違う色がのっている。たったそれだけのことなのに、ほんの少し大人になったような自分を見た気がした。口紅だけなのに不思議な感覚だった。

    「ほら、僕の言った通りだろう」
    「……」

     誇らしげなセイバーの言葉を肯定するのはなんとなく癪だったが、視線をそらしながら、聞こえないくらいの声で悪くない…と答えた。セイバーの様子は見えていない。けれど、優しく笑っているのだろうと予想がついて、視線を上げることが綾香は出来なかった。


     思い出に浸りながら、小箱から化粧道具を出して支度をする。ないよりはマシ程度の防御のために加工した化粧品を使いながら。
     テキパキと手を動かしていると、こんこんこんとノックがなり、部屋の外から声をかけられる。

    「綾香、準備は出来た?」
    「うん」

     アーサーという名前のリップをポーチに入れて、綾香は学友の呼びかけに答えた。未来に向かって、一歩を進めるために。

    (END)
    葉月寒天 Link Message Mute
    2018/07/08 22:15:42

    セイ綾小話

    #小話 #fate/prototype #セイ綾

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