軍医と司令官と(仮)ここはB.A.B.E.L.小隊司令本部である戦艦内。
廊下に軍靴の音がコツコツ…と響く。
軍帽を被り、黒の軍服を身にまとい腕には青の腕章を携えている。
外套を靡かせながら歩く男はこの隊所属の医師、賢木修二である。
足音が鳴り止んのは艦内の司令塔である艦橋(ブリッジ)だ。
「よ、司令官殿。」
賢木はそこに佇む一人の男に声をかけた。
指揮官の皆本だ。
「…賢木か」
「酷ぇ顔してるな」
皆本の顔には疲労の色が見えていた。
賢木は彼の腕を掴んで引き寄せ、顎を掴み顔を覗き込む。
「寝れねぇなら俺が添い寝してやろうか?」
まるでキスでもするのか、というような距離感で賢木は
悪戯めいた顔で皆本の目の下の隈をなぞりながら皆本に問いかける。
なお、賢木は隊の中でも女好きとしてあること無いこと噂が飛び交うような男であり、
こういった皆本に対しての少し演技めいた行動は日常茶飯事であった。
皆本は思いがけない賢木の存在にハッっと一瞬驚いたが、すぐに顔をしかめ少し距離をとり賢木を睨んだ。
「いつ帰った」
皆本は静かだが少し苛ついたように低い声で賢木に問う。
はは、お疲れだなと苦笑しながら賢木は降参だよ、といったふうに手にひらをあげた。
「ティムとバレットに泣きつかれてな。」
彼らは通称影チルと呼ばれる作戦行動で利用する戦闘マシンの整備全般を行う腕利きの整備士である。
「賢木先生、ブリッジに皆本司令がずっと居られて全然休んでくれないんです、どうにかしてください!!」
「これじゃおちおち俺たちも休めません!!!」
賢木が人指を立てくるっとし彼らの再現というように一人で小芝居をしている。
一通り済んだところで賢木が真剣な眼差しで向き直る。
「つわけで、前線の物資の補充も兼ねて戻ってきたワケだ。」
「そうか」
「…皆本、ちゃんと休むときは休めよ。部下に気遣われてるぞ。」
「…すまない」
バツが悪そうに皆本は目を逸らし額に手を充てたのち、眉間を少し揉んで
「そうだな…少し根を詰めすぎた」
皆本は引き継ぎをしてくる、と言ってすれ違いざまに賢木の耳に寄り呟いた。
「賢木、準備が済んだら僕の部屋に来い」
刹那、賢木の軍帽が床に落ちた。
「っと。」
再び皆本が歩き出そうとしたが、気づけばぐらりと足から力が抜け倒れそうになり賢木にしがみつく形となっていた。
皆本は賢木に抱きかかえられゆっくりと座り込む。
「言わんこっちゃねぇな。」
賢木は皆本のインカムを頭からはずし、頭を少しだけ撫でて艦内放送のスイッチを押す。
「通達だ、テレポーターの士官はブリッジまで手を貸してくれ」
艦内に賢木の声が響いた。
*
「皆本クン次の任務、失敗したらチルドレンはP.A.N.D.R.Aに引き抜かせてもらう。」
こちらに指をさしモニターに映る銀髪の男、兵部京介は高らかに宣言する
皆本率いるノーマル、エスパー混合のB.A.B.E.L.小隊を日常的に目の敵にしている兵部は
催眠攻撃で不正入手した指令書を手に「上官命令、だよ。」とTHEチルドレンのヘッドハンティングを狙うのであった。
次回、
「ふざけるな!」
「吠えるなよ、自信がないのかい?」
煽る兵部に皆本は激昂する
「この世界線でも皆本(おまえ)を支える立場で良かったよ」
軍医賢木修二には秘密が…!?
乞うご期待ください(嘘です)