捏造〜ある脇毛職人の人生〜脇毛を偽ること。
この国において、最も禁忌とされる行為である。美しく長い脇毛の女、あるいは嗅覚の概念をねじ曲げるような男。それらは「純血」、すなわちこの国を支配するに相応しい「剛脇族」であることの証明である。
それが意味することは、これら剛脇族の特徴が無い者は、国を支配するに相応しくない者─つまり、脇毛が貧相で地味な女、脇が全く臭わない男は、差別の対象であるということだ。
そして、過激な弾圧を免れるため、原住民が己の脇を偽るようになった。しかし、それを見越していた国は、学校や病院、会社、空港など、あらゆる公共機関に脇毛鑑定士を配置した。※1
脇毛エクステやワキガ香水は尽く検挙され、脇を偽ろうと考える者はいなくなったかに思えた。
ところがそれ以来、世間には奇妙な噂が流れ始めた。
エクステでも植毛でもない、「完璧な脇毛」を作る一族、「脇毛職人」の噂である。
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※1……いわゆる第一次偽造脇毛根絶計画である。
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Law of the underarm hairー脇毛の法ーの示すところによれば、
一つ、脇毛なき者は人間に非ず。
一つ、脇毛短き女は人間に非ず。
一つ、脇臭わぬ男は人間に非ず。
今更書く必要も無いと思うが、この国においてLaw of the underarm hair-脇毛の法ーは最強の権力なのだ。逆らおうものならば……想像するだけで脇毛がよだつ。
私、館脇 豪(たてわき ごう)は脇毛職人である。脇毛を偽るという最大の罪を背負ってなお健在なのは、坂上家の協力によるところが大きい。
坂上家とは、国から唯一特別に脇毛作りを許可されている家系だ。かの国王デウスは坂上家出身で、脇毛を偽ったまま独裁の女王マキナに一目惚れされてしまったのだ。
つまり正確には、国からの許可を得ている訳ではなく、恐怖の独裁者たる妻から本来の身分を隠すために、国王が単独で内密に保護・支援しているということだ。
さて、私の話に戻そう。私は剛脇族と先住民の混血である。純血を崇拝する剛脇族だが、移入当時に多くの原住民を性奴隷として慰み者にしていた時代があり、その影響で混血はかなり多い。それに、剛脇族の血を引いていても、私のように純血でない者は、さほど純血に拘る者もいなかった。それで、混血同士の子供も多く生まれた。その中の一人が私である。
私は運良く種族差の少ない男性に生まれ、脇臭階級制もA〜CのうちBランクと特段上でも下でもない「普通」の人間として生まれた。
普通の人間として暮らすことのできた私は、普通に進学することもでき、現在は脇毛ケア用品を主力とする製薬メーカーの開発担当として働いている。……表向きは。
製薬メーカーで働く傍ら、会社で1人の男と出会った。それが現王デウスの弟かつ、現代における最高の脇毛職人……坂上仁(さかがみじん)だった。