魔法について こんにちは、リビックです。魔法について聞きたいとのご依頼で来たのですが……。
……えぇ、資料も、オレなりにまとめてきました。……わかりづらいかもしれませんけど。
長くなりますが、いいですか? ………それでは、始めましょうか。
オレたちの魔法は『魔法式』を組み、そこに適切な量の魔力を込めることで発動します。いわゆる《言霊》と似た原理ですね。魔力は生まれつき誰でも持っているもので、精霊や妖精のチカラを借りているわけではありません。魔法を使うためのスタミナ、と考えるといいと思います。
『魔法式』とは、元素や座標、または規模など、“何をどのように発生させたいか”を特殊な言語で組み合わせた物です。それを陣で描くか、詠唱することで魔力を込められるようになります。
オレの国では陣を使うのが主流でした。陣は魔力の込め方さえわかれば、描いたヒト以外でも魔法を発動させられるからです。詠唱の場合は本人しか使えない代わりに、すばやく臨機応変に魔法を発動させることができます。慣れている人はコッチのほうが楽です。ただ、魔法式を組むことと、魔力を込めることを同時に行わなければならないので、陣を描く以上に知識と技術が必要になりますが。
では、次は“どんな魔法が使えるか”についてです。
魔法には、元素を“持つもの”と“持たないもの”の2種類あります。まずは元素を持つものから、お話ししていきましょうか。
元素として扱えるのは《風・水・火》の3つです。そこから派生させて《氷・光・熱》の魔法も作ることができます。基本的には、生活の助けになるような使い方しかできません。……攻撃性の高い魔法として、威力を上げて使うこともできなくはないですが……、……そのためには、多くの魔力のほか、血など、生命に由来する供物が必要になります。扱っても良いとされているのは騎士のかただけで、それも有事の際のみです。普段は法律で禁止されています。
生活の助けになるような使い方、というのは、たとえば風の魔法で濡れた髪を乾かしたり、光の魔法で夜道を照らしたり……といった感じですね。火の魔法は主に料理に使うことがほとんどですが…………直火焼きはおすすめできません。火に限らず、オレたちの魔法はどうやら味を壊してしまうみたいで……、……オレも失敗したことがあります。……すみません、脱線してしまいましたね。
次は、元素を持たない魔法についてです。
元素を持たない魔法は、魔力そのものを魔法として形にしている……と思うと、わかりやすいかもしれません。元素を持つ魔法はある程度、自然界にある物質を引用して使います。また作用するのも、自然界にある物質に対してのみです。元素を持たない魔法はその反対で、魔力だけで使用できる代わりに、作用するのも魔力に対してのみとなります。……すみません、やっぱりわかりづらいですよね。魔法の代表例を3つほど挙げるので、そこからなら理解しやすいんじゃないかと。
ひとつめは《魔力拡散防止》の魔法です。どんな風に使うかというと、氷の魔法と併用して使うことが多いです。魔法で作った氷は水にはなりません。そのまま魔力に戻って空中に拡散します。そのため、例えば保冷として使った魔法の氷を、少しでも長く保たせるために《魔力拡散防止》の魔法を使ったりするんです。
ふたつめは《魔力痕の可視化》ですね。オレたちの魔法は、発動させると空気中に必ず“痕”が残ります。通常は見えませんが……、この魔法を使うことで視認できるようになります。魔力痕は1人ひとり違います。だから“誰がここで魔法を使ったか”というのは、すぐにわかるんです。……ただ、“どういう魔法を使ったか”までは、わかりませんが。……えぇ、その通り。この魔法は犯罪捜査で使われます。
みっつめは《魔力の供給》です。自分の魔力を、他の誰かに分け与えることができます。受け取るためには、その分容量が空いている必要がありますが。魔力の供給はこの魔法を使うことでしかできません。どういう意味かというと、魔法は体内に入ると、瞬時に魔力に戻ってしまいます。だから例えば、水の魔法で水分補給をしたりする、ということはできないんです。その戻った魔力も、蓄積されることはありません。自分の魔力を誰かの体内に留まらせ、また使えるようにするためには、この魔法を使うしかないんです。……あぁ、そうです。受け取れなかった分は蓄積されません。体から漏れて空気中に拡散します。……まぁ、その、他のヒトの魔力が体内に入ると、あんまり気分は良くないですが………。……え、は? キス?? そ、そんなことしませんよ。固めた魔力を、相手に飛ばして届けるようなイメージです。まったく、何考えてるんですか? はぁ……。……説明に戻りますね。
以上が、元素を持たない魔法の例です。“魔力のみに作用する”ということが、なんとなくわかりましたか? ……あぁ、そう、《盾の魔法》も、同じ部類ですね。魔力に作用、と言うと少しニュアンスが違うかもしれませんが。初めに説明した“魔力そのものを形にしている”という魔法になります。魔力で作った盾は透明なガラスのようで、強度も似ています。もちろん、その強度を上げることもできます。盾は『魔障壁』とも呼びますね。
魔法の例は他にもありますが……、全部あげていると本当に長くなってしまうので、このくらいにしておきます。
この元素を持たない魔法ですが、魔法式も複雑でかなり難しい魔法になるので、簡単には使えません。陣を描いたとしても、それは同じです。オレも魔法については長い間学んでますが、使えない魔法がいくつもあります。特に《魔力痕の可視化》は、全く理解できませんでした……。理解できたとしても、特殊な訓練が必要になるので、結局は使えないでしょうが。
とりあえず、こんな感じでしょうか。何か質問はありますか? ……はい、…………えぇ、そうですね。魔力は生まれつきのものです。使える量も、概ね生まれた時から決まっています。……オレですか? オレの場合は、……その、普通に魔力が多いとされるヒトよりも、多いと言われています。その、……かなり。だからと言って、生活に何か支障が出ることはないですし、特別な魔法が使えるわけではありませんけど。えぇっと、なんと言いますか……。……蛇口が付いていて、水が入っているタルを想像してもらえますか? オレのタルはヒトよりも大きいです。けれど付いている蛇口は他と同じ。だから出せる水の太さも変わらない、……そんなイメージですね。
…………いいえ、タルの中の水……、魔力が無くなっても、死んでしまったりすることはないですよ。まぁそれだけ魔法を使ったなら、立ち上がれないほど疲れてしまっているでしょうが。魔力は休めば、自然と回復するものなので。
………蛇口を変えられないか、ですか。方法はなくはないですけど……、基本的には変えられないですね。最初に話した供物も、あれは自分のタル以外から水を持ってきたみたいなイメージですし。けど、蛇口をひねり続けて1度にたくさんの水を出す、魔力を使うことはできますよ。ただ、1度に使う魔力がある一定量を超えると『魔力酔い』を起こしてしまうので、なるべく最小限に止めた方がいいですが。……戦闘ともなると、そんなことは言ってられませんけどね。
────あ、もう時間ですね。もし他にも聞きたいことがあれば、また連絡してください。……こちらこそ、聞いてくれてありがとうございました。それでは。