導入。【遠い遠い過去のお話。
かつてこの世界は、現在は「悪魔」と呼ばれる者達によって統治されていました。
天より地上へと落とされた一つの魔───全ての始祖たる「ソロモン」から始まった命は、繁殖の一途を辿り行き───やがて、ある場所に巨大な帝国が築き上げられました。
その帝国を治めていたのは、二人の王。そして四人の従者。
彼らを筆頭に、悪魔達は枯渇することのない豊かな生活を何千年も送っていました。飲み、踊り、歌い、騒ぎ、その様はさながら毎日が宴のよう。
───そんな日々を謳歌していました。
しかし、それは突如として終わりを告げたのです。
二人の王の決別。始まったのは───大規模な戦争。
地上の悪魔全てを統一していた国は二つの勢力に割れ、彼らはかつての同胞を殺し合いました。多くの悪魔が、咽び泣き、喘ぎ、嗚咽し、辛苦に身を包みながら命を落としました。
その間の年月は、およそ五千万年ほどと言われています。
戦を起こした二人の王は刺し違えました。
互いを殺し、命を落としたのです。
それにより、長きに渡る争いは、ようやく終止符を打ちました。
しかし、血と肉と魔力の残骸、息も絶え絶えな兵士のみが残る地上。そんな場所に、希望はないに等しいでしょう。
生き残った悪魔達は絶望に打ちひしがれていました。
そのときです。天より使えし者達が、地上へと降り立ちました。そして、彼らは酷く穢れたその場所の再興を起こすため、地へと留まることを決意したのです。
地上が悪魔や天からの使いによって潤いを取り戻そうとしていた頃、やがて彼らの間に───悪魔と天使の間に、一つの命が生まれました。
そして、再びその命は繁殖の一途を辿り行き…………
「─────今、それは「人間」として地上を治めているのです。」…………か」
表紙が紅色に染められている、薄くも古びた本がパタリと閉じられた。
本を読んでいたその人物は、はぁ、とため息をつくと、かけていた椅子の背もたれに身を預ける。
「……こんな薄っぺらい内容の神話、よくもまあ歴史として残せたわね」
馬鹿馬鹿しい。そう言って彼女は、栗色の長髪を靡かせながら窓の外の景色を見た。