キャッツ・アイ 瞳大ピンチ 付属SS(まさか…こんなところで浅谷さんと鉢合わせするなんて…!)
瞳は突如襲いかかってきた捕捉者に押し倒され、床を這うような体制での格闘を余儀なくされていた。
右から来る拳を受け流しながら、左肩を掴む浅谷刑事の手を振り払おうと身をよじり、相手の握力が落ちたところで膝で相手の手を蹴り上げる。
体術では自信のある瞳だが、相手の動きも素早く息つく暇もなかった。
(予告時間までまだかなりあるのに、こんな場所で足止めされるわけには…)
相手の手が離れた一瞬の隙に立ちあがろうとするが、浅谷刑事は足にしがみついてきた。
幸いにして浅谷刑事と鉢合わせした通路には非常灯以外の照明が無く、目の悪い浅谷刑事に顔を見られる恐れはない。しかし不意をつかれた不利は簡単には覆すことはできなかった。
足首をつかむ浅谷刑事を離すため、瞳は再び床の上の戦いへと引き戻される。
まさしく猫の喧嘩のような激しい揉み合いの末、瞳は浅谷の手を振り切ってようやく立ち上がることができた。
だが立ちあがった勢いのまま走りだそうとした瞳の前を黒い物体が横切り、首に巻きついてきた。
同時に背中に衝撃を受け、瞳は前のめりに倒れそうになる。
(もうっ!しつこいっ!)
背中から覆いかぶさるように襲ってくる相手にはこのまま背負い投げをするのが定石だが、足元のバランスの悪い時に無理に投げをうてば、そのまま潰されかねない。
瞳は浅谷を背中に背負ったまま、前向けによろける身体を安定させようとしたが、これが間違いだった。
「あぐっ!?」
瞳の後ろ向きの体重移動と、浅谷刑事の投げを警戒して身を引いた動きが一致したため、瞳の上半身は立ちあがった浅谷刑事の懐に後ろからもたれかかるような体勢になる。
そして瞳の首に巻きついた腕が、絞め技をかける絶好の位置に入ってしまった。
(!!…しまった!?)
キャッツ・アイ 瞳大ピンチタマネギーニョ 空手二段、柔道四段の浅谷刑事がこのチャンスを逃すはずはなかった。
首に巻いた腕を顎の下に確実に入れ、もう一方の腕で瞳の左腕をとらえて片羽絞めに近い形で後ろから瞳をがっちりととらえた。
「とった!もう逃げられないわよ…キャッツアイ!!」
瞳はとっさに地面を蹴り上げて後頭部を浅谷刑事にぶつけて拘束から逃れようとするが、浅谷刑事はその勢いを後ろに下がって受け流し、浮きあがった瞳の喉にさらに深く腕をきめてきた。
瞳の頸動脈が締まり、不思議な浮揚感とともに力が入らなくなってくる。
「往生際が悪いわよ…。観念しなさい。」
すぐ背後から聞こえてくるはずの浅谷刑事の声が、瞳にはどこか遠くの音に聞こえてくる。
このままでは落とされてしまう。
意識が一瞬遠くなり、両足に力が入っているのかどうかすらわからない。
瞳は自力で立っているのか、それとも浅谷刑事に抱えられているのか。
(くっ…だけど…あきらめるわけには…)
キャッツアイの逮捕は瞳にとって全ての終わりを意味する。
諦めるわけにはいかなかった。
瞳は握力の衰えた手で浅谷刑事の腕をほどこうとするが、この窮地を逃れるにはあまりにも力不足だ。
浅谷刑事の絞める力が更に強くなってくる。
「がっ…ぐうぅ…あ…」
瞳はカエルの潰れる時の悲鳴にも似た情けない嗚咽をもらしてしまった。
キャッツ・アイ 瞳大ピンチタマネギーニョ
抵抗もそれまでだった。
視界がぼやけ、上下の感覚が無くなり立っていることができなくなる。
浅谷刑事の腕を掴んでいた手から力が抜け、両手がぷらりと下に垂れさがった。
「フフフ…落ちたかしら?でも狸寝入りかもしれないわね…もう少し入念に絞めてあげるわ。」
浅谷刑事は両腕の中で急激に重くなったキャッツアイを更に数度絞めあげた。
小刻みに震えていた獲物の垂れ下がった指先が止まり、一気に体が重くなる。
偶然の遭遇とはいえ、ついに宿敵のキャッツ・アイを捕らえて気絶させた。
逮捕を確信して浅谷刑事は思わず笑みを浮かべる。
キャッツ・アイ 瞳大ピンチタマネギーニョ
そして、力を失ったキャッツアイの首に腕を巻きつけたまま、ゆっくりと床に下ろした。
ぐにゃりと床に膝をつく瞳。
「どうやら完全におねんねしたようね…。これで貴女も犯罪者から足を洗えるわ…もっとも、明日からは囚人としての人生がスタートするんだけれど…。新しい門出のお祝いに今から両腕に鉄の腕輪をプレゼントしてあげるわ。」
浅谷刑事が首を決めていた腕を解くと、床に座らされていた青いレオタードの上半身がゆっくりと前に倒れた。
捕捉者が腰から取り出した手錠がカチャリと鳴ったが、瞳の耳には届いていないようだった。
BADEND?