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    キャッツ・アイ 夜間飛行は危険な香り BADEND東京、神宮の森。
    青いレオタード姿の女性が鬱蒼と茂る木立の中を枝から枝へジャンプしながら、文字通り飛ぶように移動していた。
    通り過ぎた後には冒険的な女性に捧げられた香水「夜間飛行」の香りが僅かに漂う。
    そして、その香りを辿るように追いすがる黒い影があった。

    -----

    今まで受けたことのない執拗な追跡に瞳は焦りを感じはじめていた。
    後ろから迫ってくる追跡者の名は浅谷光子。
    本庁がキャッツ・アイ逮捕のため犬鳴署に送り込んできたエリート刑事だ。
    瞳たちはその実力を試すために誘い出したものの、まさかこれほどの相手だとは思っていなかった。
    運動能力は瞳とほぼ互角。
    しかも瞳の通った足場を使って無駄なく追跡してくるため、足場を選びながら逃げる瞳との差は徐々に詰まってきている。

    (いけない…このままでは追いつかれるわ…)

    浅谷刑事は瞳のすぐ背後、手の届く距離まで迫っている。
    瞳はその追跡をかわそうと相手の意表をついて真上にジャンプした。
    目の前にせまった獲物の肩につかみかかろうとしていた浅谷刑事は、急な方向転換に対応できずに体勢を崩して前のめりになる。
    そのまま浅谷刑事の背後に回り込んだ瞳が、樹上から彼女を蹴り落とそうとした時だった。

    「はあっ!」

    瞳の蹴りより一瞬早く、浅谷刑事が後ろに向けて蹴りを繰り出してきた。
    今度は瞳のほうが意表を突かれた。
    予想外の一撃は瞳をとらえ、ドスッという音とともにブーツの固い踵がレオタードに覆われた柔らかな腹部に深々とめりこむ。

    「ぐはっ!?」

    不意の蹴りをまともに受けた瞳はそのままバランスを失い、背後の木に叩きつけられる。
    頭部につけていたヘッドホン型無線機が外れてどこかへ飛んでいったが、瞳の体はかろうじて木の枝の付け根に引っかかり地面に落下することは免れた。

    「ぐっ…あああっ…」

    瞳は枝の上でなんとか立ち上がろうとするが体が言うことを聞かなかった。
    気絶こそまぬがれたものの、みぞおちに深く打ち込まれた一撃は瞳の呼吸を止め、地獄のような激痛が瞳の動きを縛っている。
    なんとか木の上から落ちないように体を支えるのがやっとだ。

    その背後から方向転換してきた浅谷刑事が向かってくる。

    「キャッツ!覚悟!」

    その声に瞳は指輪に仕込んだ目眩ましを使おうと手をあげ、追跡者に向けてフラッシュを焚く。
    だが、その閃光に照らされた空間には誰もいなかった。
    浅谷刑事は閃光を浴びせられる寸前に、瞳の頭上にある枝に飛びついていたのだ。

    (しまった…!?)

    瞳が目眩ましの失敗に気がついて怯んだところへ、頭上から浅谷刑事の蹴りが落ちてきた。
    顔に向けて迫ってきたブーツの踵を瞳は頭を下げてギリギリで避ける。
    空気を裂くような音が耳をかすめ、長い髪の毛がバサッという音とともに後に広がった。
    瞳は頭上からの襲撃に身をかがめて避けるのが精一杯だった。
    だが、この動きこそが浅谷刑事の狙いだった。

    「とどめっ!」

    頭を下げたことで瞳の首から肩のラインががら空きになる。
    浅谷は振り子の要領で瞳の後方へ一度力をためて勢い良く右足を繰り出した。
    狙いは後頭部と首の境目、ここに強い一撃を受けると脳を揺すられて気を失ってしまう。
    その急所に強烈な蹴りがヒットする。

    「が…っ!?」

    キャッツ・アイ 夜間飛行は危険な香りBADENDタマネギーニョ

    瞳の時間がゆっくりとすすみはじめ、バランスを失いながら傾いていく自分を感じる。
    周囲の景色が揺れているのは三半規管がやられたからだろうか?
    その景色がぐるぐると回りながら、像を結べなくなり段々と暗くなっていく。
    意識を失った瞳はバランスを崩すと、そのまま地面へと落ちていった。
    ドサッ!

    背中から地面に落下した衝撃で瞳は意識を取り戻した。
    柔らかな落ち葉の上とはいえ、受け身を取れずに背中から落ちたため身体にはさらなるダメージが蓄積する。
    すぐに逃げなければならないのに、息が詰まって呼吸すらできない。

    「ぐ…くああっ!!」

    瞳は再び気が遠くなるのを必死で我慢した。
    ここで気絶してしまえば確実に捕まってしまうのだ。
    なんとか呼吸を回復させるものの、体は鉛のように重くて思うように動かせない。

    ガサッ…ガサッ…

    少し離れた所から落ち葉を踏む足音が近づいてくる。
    状況は絶望的だったが、それでも瞳は立ち上がって逃げようとした。
    だが後頭部を蹴られたためか平衡感覚が完全に麻痺していて、膝が立つ前に倒れて落ち葉の中に突っ伏せてしまった。
    無理に動こうとしたことで腹部の痛みが増し、瞳はたまらず腹を抱えてその場に丸くうずくまる。

    ザッ。

    土下座に近い体勢で動けなくなった怪盗の背後に足音が近づいてきて止まった。
    瞳にとっては運命の足音だったが、この状態ではもうどうしようもない。

    「フフフ…やっぱり猫は人の足元がお似合いね。」

    嘲りを含んだ笑い声が浴びせられる。
    あれほどの追跡でも浅谷刑事は全く息が切れていない。
    彼女の実力を試すという今回の作戦は、彼女の高い能力を見せつけられる形で幕を閉じようとしている。
    その代償は逮捕という形で払うことになるのだろうか。

    「動けないでしょう?最初の蹴りはボディにまともに入ったし、二発目も急所に決めたから…。でもまあ気絶せずにいることは褒めてあげるわ。」

    瞳はすぐ背後に気配を感じて焦った。
    浅谷刑事はもう手の届くところにいる。

    「でも、寝てる間に捕まっていたほうが楽だったかもしれないわね。」

    瞳のすぐ脇の落ち葉がガサッという音を立てた。
    浅谷刑事が膝をついたのだろう。
    寄り添うほど近くにいるのか、瞳の着ているレオタード越しに体温まで感じられた。

    「…逮捕するわ。キャッツ・アイ。」

    痛む脇腹をおさえていた右腕がつかまれた。
    そのまま腹の下から引き抜かれて持ち上げられる。
    抵抗しようとするものの痛めつけられた体では力は入らず、瞳の右腕は徐々に浅谷刑事の手元へと運ばれてゆく。

    「くっ…!」

    右腕がこれ以上持ち上げられないように左手で掴んで引き戻そうとするが、突っ伏せた姿勢のままではろくに力は入らない。
    抵抗も虚しく瞳の右腕は浅谷刑事の前へと持ち上げられてしまった。
    次の瞬間、右の手首に冷たい金属が触れる。
    手錠があてられたのだろう。

    (…いや…逮捕されるのは…)

    盗みを続ける以上は覚悟はしていたつもりだった。
    だが、いざその時が来るとやはり恐ろしさで身が竦んでしまう。
    怪盗キャッツ・アイも、父親探しも、内海刑事との恋も、逮捕されれば全てが終わるのだ。

    ガチャリ!

    瞳の願いも虚しく冷たい金属音がして右手に手錠がはめられた。
    そのままキチキチというラチェットの音とともに手首がきつく締められる。
    ついに怪盗キャッツ・アイも鎖につながれる身となったのだ。

    (あ…あああ…)

    逃れられない運命に身体の震えがとまらない。
    だが終幕のプロセスはまだ始まったばかりだった。
    今度は右手を引き戻そうと添えていた左手首を掴まれる。

    ガチャッ!

    キャッツ・アイ 夜間飛行は危険な香りBADENDタマネギーニョ

    左の手首にも冷たい手錠があてられ、右手と同じように金属の枷がはめられた。
    瞳は痛めつけられ、ほとんど動けない状態で左右の手を手錠でつながれてしまったのだ。
    もう逃れるすべはない。

    「どうかしら?警察の手錠の具合は?なかなかお似合いよ。地面に這いつくばる猫にはね…。」

    捕捉者の手の平が瞳の肩を掴んだ。
    その感触に瞳の息が一瞬止まる。
    肩を掴む手にぐっと力が入ったことで、それの意図することが瞳にはわかった。

    「では、顔を見せてもらうわよ。キャッツ・アイ。」
    打ちのめされ、両腕を鎖に繋がれた瞳に既に抵抗の力はない。
    繋がれた両手を強く引かれると、瞳の上半身は徐々にねじれて後へと向いていく。
    顔だけは必死に捕捉者の反対を向こうとするものの、それが無駄な抵抗であることは瞳にもわかっている。

    「往生際が悪いわね…。こっちを見なさい!」

    浅谷刑事は瞳の身体を強く振ると、瞳の側面に回り込んだ。
    手錠によって振り戻された瞳の正面には浅谷刑事の顔がある。
    刑事と泥棒は正面から向き合った。

    「あ…。」
    キャッツ・アイ 夜間飛行は危険な香りBADENDタマネギーニョ
    目の前にゴーグルを付けた浅谷刑事の顔を見て瞳は息を呑んだ。
    当然、浅谷刑事の目には瞳の顔が映っているに違いない。

    浅谷刑事の冷たい手が瞳の顎をそっと撫で、その顔を上向かせる。

    「やはり貴女だったのね…。来生瞳さん。」
    瞳の正面の顔が僅かに微笑み、満足気に口を歪めた。
    勝者の余裕の笑みに対して、瞳自身は今どんな顔をしているだろう?
    瞳はあきらめたようにそっと目をそらした。
    その隙に浅谷刑事の手が瞳の胸元から除いていた白いカードをすりとった。

    「フフフ…立件の証拠としてはちょっと弱いけど、逮捕の理由としてはこれで充分ね。」

    カードには赤い猫の図柄と、キャッツ・アイの文字が書いてある。
    鑑識が見れば今までの予告状と同じ本物のキャッツカードであることがわかるだろう。
    これで誤認逮捕と言って誤魔化すことも難しくなった。

    「来生瞳さん。連続窃盗犯、キャッツ・アイ容疑者として逮捕するわ。」

    瞳は全身から力が抜けていくのを感じた。
    これで全てが終わったのだ。
    夜の街に遠く鳴り響いていたサイレンの音が増え、徐々に近づいてくるようだった。
    おそらく浅谷刑事が瞳を樹上から叩き落としたあとで警察の応援を呼んでいたのだろう。

    「…どうやら観念したようね。」

    キャッツ・アイ 夜間飛行は危険な香りBADENDタマネギーニョ

    力なくうなだれる瞳を見て浅谷刑事は自らの勝利を再確認したようだった。
    しばらくすると夜の公園内が警察車両と喧騒につつまれ、怪盗キャッツ・アイを連行していった。
    瞳を護送していた車列が皇居脇の道路から、その傍らにある巨大なビルの一階に横付けされた。
    警察の本拠地、本庁舎前である。

    「さて、ついたわよキャッツ・アイ。いえ…瞳さん。」

    護送車の扉の外にはいつの間に着替えたのか、勤務時のスーツ姿に着替えた浅谷刑事が立っていた。
    車から降りると護送役の警官から浅谷刑事に引き渡される。
    周囲を見渡すと本庁周辺は厳重な警備がひかれていて瞳が逃げ出せるような余地はまったくない。
    泪や愛が助けに来ても瞳を逃がすどころか、逆に二人とも捕まってしまうだろう。
    瞳は諦めて視線を落とした。

    「そろそろ自分で歩けるわよね?」

    浅谷刑事の問に瞳は黙って頷いた。
    まだ腹部は痛むし足元はふらつくものの、歩ける程度には回復していた。
    うつむいたまま階段を登らされて建物の入口へと誘導される。

    「さあ、顔を上げなさい。キャッツ・アイ。皆さんお待ちかねよ。」

    浅谷刑事の声で瞳は我に返った。
    いつの間にか瞳と浅谷刑事の前を取り囲むように人の輪ができていて、二人の様子を見つめていた。
    そして瞳が顔をあげるやいなや、まばゆい光を洪水のように浴びせてきたのだ。

    キャッツ・アイ 夜間飛行は危険な香りBADENDタマネギーニョ
    人々の叫び、そして怒号、どよめき。
    そういったものに取り囲まれて瞳は思わずよろめいた。
    その上半身を横から浅谷刑事が支えて、後ろに下がれないように腕をがっしりと掴む。

    「フフフ…。予告状を出すような目立ちたがり屋の貴女にふさわしい幕切れでしょ。私達警察も貴女たちのおかげで報道にはずいぶん酷いことを書かれたのよ…。」

    光の洪水はカメラのフラッシュだった。
    報道陣がキャッツ・アイの姿を撮影しようと待ち構えていたのだ。
    無数のレンズが瞳の姿をフィルムに記録しようとシャッター音が鳴り続けている。

    「今日は貴女が主役よ。私達の味わった屈辱をそのまま味あわせてあげるわ…その素顔とレオタード姿を晒して惨めな囚人になる様子を全国にばらまいてもらいなさい!」

    報道の怒号やざわめきの中、浅谷刑事の声だけがやけに明瞭に聞こえた。
    瞳の中にまだ残っていたキャッツ・アイとしての自尊心が音を立てて崩れていく。

    (…私…犯罪容疑者になったのね…。)

    キャッツ・アイ 夜間飛行は危険な香りBADENDタマネギーニョ

    翌日からの取り調べで来生瞳容疑者は抵抗することなく自白したと記録に残っている。

    BADEND
    タマネギーニョ Link Message Mute
    2022/05/12 19:46:19

    キャッツ・アイ 夜間飛行は危険な香り BADEND

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    ■キャッツ・アイより、アニメ第1期5話「夜間飛行は危険な香り」のバッドエンドをイメージ。
    ■浅谷さんに追い詰められ…から逮捕までをイラスト付きで妄想。

    挿絵ファイルはこちら→https://galleria.emotionflow.com/92495/614595.html

    #キャッツ・アイ #来生瞳 #レオタード #浅谷光子 #ヒロピン #二次創作

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