to be continued 権の真後ろで魚肉ソーセージをフィルムごと握りつぶすような音が聞こえた。権が振り返るとバリーが先端に針を備えた触手だった塊を投げ捨てている。
「刺されるところだったわよ」
バリーは蚊でも叩きつぶしたような口ぶりだったが、権は投げ捨てられたものを見てぎょっとした。それは全長5mほどの獰猛な高級食材だった。辺境惑星の第六百二十四衛星でしか捕獲できず、値をつけることは難しいといわれている。
それが鍋に放り込んでしまえるほどの輪切りになり、地球人男性用トイレの床に転がっている。いつのまに。と権は思ったが会話の流れを考慮し、
「アリガトウゴザイマス」
と礼だけ伝えた。
バリーは大斧をひと振りし、高級食材の体液か床をぬらす水道水か区別のつかない液体をふり落とした。
「ココニ何カ用デスカ?」
「あなたを探しにきたのよ。戻ってこないから、船長が見つけてこいって」
「イクラデ?」
バリーは指を3本立ててみせた。バリーにとって金儲けにならないことなど一つもない。金儲けにならないことは一つもしないからだ。
「これが未確認飛行物体の操縦者?」
輪切りを指してバリーがたずねた。
「イイエ、コレハ食ベ物デス。ココニブランドノ印ガ」
権の示す輪切りの表皮に、タコに似た形の刻印が光っている。
「高いの?」
「高級食材デス」
「そう......生かしておくべきだったわ」
バリーは権をじっと見て考えた。自分の懐にとってより良い判断とは、どちらを生かしておくべきだったのか。
「私トソレヲ天秤ニカケルノハヤメテクダサイ」
銀色の物体が散らばる丘に到着し、二人は辺りを見回した。月明かりのある暗闇の中、他に人気はない。
未確認飛行物体の墜落現場に寄るという提案は、バリーの中で自身の価値を上げておく必要があると考えた権のものだった。高級食材を積んでいた船だ。お宝の期待はできる。
船長が探しているという事実を忘れたわけではないが、二人とも海賊の性に逆らおうとはしなかった。
「未確認飛行物体は湖に墜ちたはずよね?」
バリーが鋭い指摘をする。
「数人ノ目撃者ガソウ証言シテイルヨウデスガ、墜落現場ニ湖ハアリマセン。昔ハアッタヨウデスガ、40年ホド前ニ湖底デ何カガ爆発シ消滅シテイマス」
「未確認飛行物体出現時によくある不思議現象ね。こんな場所に残骸が散らばってるのも、不思議現象の一つかしら」
「両方トモ不思議現象デハアリマセン。湖ノ再出現ト消滅ハオソラク先程墜落シタ未確認飛行物体ガ原因デス。今日墜落シタ未確認飛行物体ガ40年前ニ爆発シタンデショウ。ソウイウコトハ時空安定装置ノ不具合デヨクアリマス。ソレカラ、ココニ散ラバッテイルノハウェザーバルーンデス。未確認飛行物体の影響ヲ受ケテ落チタヨウデスネ」
「あなたって時々しか訳のわかることいわないわよね」
バリーは持ち上げたウェザーバルーンをぽいと投げ捨てた。権はウェザーバルーンのくしゃくしゃの表面に反射する月光を見て、水銀を思い出していた。
「で、船はどこにあるの?」
「湖ノアッタ場所デス」
「湖のあった場所に埋まってるのなら、あなたはとっくに変な装置で地面を吹き飛ばしてニュースを増やしてるはずよ」
「40年前ニ爆発シタ船ノ残骸ガアノ湖ニナイノハ、残骸ガ別ノ次元ヘ飛バサレタカラデス。ウェザーバルーンヲ見テクダサイ。新品同様ニ見エルニモカカワラズ、マルデ劣化ニヨッテバラバラニナッタカノヨウニ脆クナッテイマス。超常現象ノアルトコロニハ別次元ガアリマス」
自室に入るような気軽な素振りで、権は円形に散らばるウェザーバルーンの中心部に足を踏み入れた。
「俺たちがバラバラの赤ちゃんになる確率ってどれくらいかしら?」
バリーがそのあとへ続く。
「我々ガ無機物ト同ジ状態ニナル確率ハ低イデスヨ。我々ノ場合、意識ト呼バレテイルモノガ次元ト波長ガ合ワナカッタリ、共鳴シスギタリスルト思考崩壊や自空共振ガ起コッテ異次元ノ生命体ニーーー」
次の瞬間、二人の目の前の丘に白銀の円盤が現れた。それは今までずっとそこにあったかのような違和感のない出現だった。円盤は激しく損傷しているが、残っている部分は比較的美しく、コンクリートに広がるオイルに似た奇妙なマーブル模様に覆われた外装は、それだけでも価値のあるものに見える。
「全部持って帰る方法を考えましょう」
バリーが船内に転がっていた100kgはありそうな彗星鉱物のオブジェを担ぎながらいった。権はジョークだろうと思いながら、そうではない可能性も考慮していた。
「これは高く売れるわ」
コックピット付近から引きずり出したものをバリーが権の前に転がして見せた。この船の操縦者のようだ。
to be continued