抱き枕騒動「脈拍が高くて寝れない」
背中の向こうでドクトーレが呟いた。
明日の研究会と、いつもと違う環境に緊張しているのだろうか。
人前が苦手なドクトーレは研究会に興味はあれど、参加することをかなり渋っていた。
それに加えて今のこの状況──。
時間に余裕を持ったスケジュールにしようと、会場近くで前日泊することに決めたが、運悪くダブルブッキングに遭い、予約していたツインからダブルへ部屋変更する羽目になったのだ。
慌てる受付のお姉さんが気の毒で、提案されたダブルの部屋でもいいと答えたが、睡眠を大切にするドクトーレにとって、いくらダブルベッドとはいえ大柄なオレたち2人が同じベッドで寝ることはストレスだったのかもしれない。
よく思い出してみれば、アイツの家のベッドはセミダブルだ。
なぜドクトーレのことにまで気が回らなかったのかと後悔してしまう。
「ダブルに変更して悪かった」
「別に気にしてない。それに、私も同意したでしょう」
「そうだけど……狭くて寝れないんじゃないか?」
「狭さは感じていないよ。寝る体勢はいつも通りなのに、なぜか気持ちが落ち着かなくて」
良かった……いや、良くはないな。
しかし、ベッドが問題だと部屋を別にするかオレが床や椅子で寝ることでしか解決できないが、気持ちの問題なら、リラックスすることで寝られる可能性が高い。
寝られない原因は、やはり研究会の緊張だろうか。安心させるためには──
「そうだ」
オレは少し体を起こすと、ドクトーレの背に向かって提案した。
「オレのことを抱き枕にしたら、少しは落ち着いて寝れるようになるんじゃないか?」
「なぜ?」
少し驚いた様子で、ドクトーレが振り向いた。
「え?抱き枕を使うとよく寝れるだろ?」
「そうなの?」
「あれ?もしかして抱き枕苦手か?」
「使ったことが無いから、なんとも」
「そ、そうか」
オレは抱き枕を子供の頃から使っていたが、もしかすると、子供っぽいものだったのか?
パッと思いついたこの案が恥ずかしくなってしまった。
抱き枕がダメなら別の案を考えなくては。
何か、神経を落ち着かせる方法は──
頭を抱えてウンウン唸っていると、ねえと小さく声をかけられた。
「抱き枕を使えば寝心地は良くなる?」
「え?ああ、オレはよく寝れるようになるぞ?」
寝心地が気になっているようで、ドクトーレはブツブツと呟やきながら、なにやら考えている。
「なら、試してもいいかな」
「もちろん!」
この時のオレは、今度は自分の脈拍が高くて寝られなくなるとは思ってもいなかった。
(終)
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ドクトーレが背中から抱きついてきて、いい匂いだなあとか、腕が細くて心配だなあとか、寝息がかわいいなあとか、いろんなことを思って寝れなくなるヒストーリエのターンは書くと収拾つかないから省略してしまった