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    【夜鷺】明快難解コミュニケイション 隣あって座ることが、いつの間にか日常となっていた二人の午後。萬燈の背中を、比鷺の指が前触れもなくなぞりあげた。そのひとふれへの疑問を呈する前に、比鷺が謎をかけてくる。
    「当ててみて」
     萬燈の返事を待たず、比鷺の指により一筆の線が、短く、長く、短く、とリズムよく躍る。長く、のところで描かれた曲線の伸びやかさで、何を書かれているかはすぐに分かった。唐突な行動のきっかけは不明だが、求められている対応は萬燈にとって容易い。
    「ひ」
     無言のまま、次の文字が書かれる。横に一筆、のちに一度背から離れて縦に一筆の感触。どうやら続けて書くタイプであるらしい。歳若いのに少々珍しい気がする、と余所事を考える余裕さえあった。
    「さ」
     ここまでの二文字で答えは九割以上分かったも同然だが、書き終わるまで野暮をする気はない。横に二筆、それから、ついさっきと形を同じくした一筆を縦に。そのあと予想通りに濁点が打たれるまで待って、口を開く。
    「ぎ」
     ぽす、と背中に比鷺の頭がぶつかってくる。ぐいと押しつけられたそれを、萬燈が後ろに伸ばした手で撫でた。
    「当たったようだな」
    「……へへ、簡単すぎた?」
    「ちっとばかりな」
     比鷺は撫でられるがままになっている。しばらくの間、くふくふとこもった笑い声が静かな部屋を満たしていた。萬燈の正答を前提とした戯れが、どうにもこうにも愛らしい。
    「さて、次は俺の番なわけだが」
    「えっ」
    「随分と楽しそうだったからな。俺も興味が出た」
    「えっと……」
    「ほら、背を向けろ」
    「わわっ!」
    「いくぞ」
     先程の比鷺と同じように、相手の了承を待たず書き始める。萬燈の指が一筆進めるごとに、比鷺がびくびくと震える。あからさま過ぎる反応に、萬燈のほうが笑い出したくなるほどだった。
    「ちょ、まって、くす、くすぐっ、たい! わひゃ!」
     耳の端を赤く染めて身を震わせている比鷺を見ながら、しかし萬燈は意に介することなく、最後まで書き切った。
    「もー! 急に何なの!?」
     息を荒げて振り返る比鷺の両目が潤んでいる。
    「どうした? 降参か?」
     急に云々はこっちの台詞だったんだが。そんな思考とは別の言葉を悪びれもなく告げる萬燈を、比鷺が恨めしげに見つめる。
    「あんなにくすぐったかったら分かんないって」
    「なら、もう一回書いてやろうか?」
    「い、いらな……うひゃあ!」
     気付かれないよう背後に回していた指で、比鷺の背を下から上になぞりあげてやる。途端に悲鳴がまろびでた比鷺から、今度は抗議が出る前に萬燈が続けた。
    「さっきよりゆっくり書いてやっても構わねえぞ」
    「く、くすぐったくしない?」
    「心懸けよう」
     どこまでも真面目に聞こえる萬燈の声に、「だったら、もう一回やってもいいけど」と比鷺が頷く。それを合図に、萬燈はゆっくりと丁寧に比鷺の背に文字を書く。ときおり反射のように震えることと、変わらず耳の端が赤らんでいること以外、比鷺は大人しいものだった。
    「……あのさ」
    「どうした?」
    「さっきは分かんなかったけど、これってもしかして全部で一文字?」
    「ああ」
    「ひらがなじゃないなんて聞いてないんですけど!?」
    「ひらがなじゃねえと駄目だなんてルールがあったとも聞いてねえな」
    「ぐ、ぐぬぬ……」
    「で、分かったのか?」
    「分かんない! 分かるわけないって! もう一回! いーや、俺が当てるまでずっと!」
    「仰せのままに」
     ぎゃんぎゃんとムキになった比鷺に、萬燈はクッと笑いを噛み殺しながら言う。
    「余裕ぶっちゃって! 絶対次で当ててやるかんね!」


     そうして、三度目の一文字が比鷺の背に記された。やはりゆっくりと、もちろん丁寧に。萬燈にしても、どうせなら見事当ててほしいのだ。自身の名を綴った比鷺ほどに、直截ではないけれども。
    「んっと……糸、言う、糸、心……? こんな漢字あ、…………」
     ある? とでも続けようとして、〝ある〟ことに気付いたのだろう。本人が思う以上に比鷺の知識量は多いし、それらを繋げるカンもいい。
    「なんだ? 言わないのか?」
    「…………言わなきゃダメ?」
    「駄目ってことはねえがな。だが、当てるまでずっとやるんだろう?」
    「う、それは……」
    「まあ、俺は構わねえよ。何度だって書いてやるとも。……思いの丈を込めてな」
     低く添えた言葉に観念したのか、比鷺がもごもごと何事かを呟く。聞こえやしないと追い詰めるべきか、このぐらいで逃がしてやるべきか。……前者だな。
    「ちゃんと聞かせてくれ、お前の声で」
    「…………あー! もう! わかった! 言う! 言います! こ、戀! 書いてたのは戀っていう字!」
     やけくそ染みた比鷺の大声がきいんとうるさい。しかし、萬燈は顔色を変えることなく目の前の背中に花丸を描いた。
    「ひゃあ!?」
    「正解の褒美だぞ?」
    「くすぐったいんだってば! ……それで、あの」
    「うん?」
    「なんで、こ、戀なの?」
    「気になるか?」
    「なるから聞いてん……わ、なに!?」
     勢いよく身体ごと向き直った比鷺を、そのまましっかりと抱きしめる。戀という字を選んだ理由を、告げるか告げまいか。考える時間を稼ぎたい、などというのは建前で。愛し愛しという心のままに、ただ抱きしめたいのが本当だった。
    ミッミ Link Message Mute
    2022/09/10 17:31:28

    【夜鷺】明快難解コミュニケイション

    初UP:20201212

    n年後夜鷺。
    戀という字をほどいてみれば、いとしいとしというこころ。
    フォロワさんがふせたで書かれていた最高のシチュエーションをお借りして。

    #神神化身  #かみしん二次創作  #カプしん  #夜鷺

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