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    青の箱庭小説紹介01・或る月夜の出逢い小説紹介
    ・西洋風ファンタジー小説


    ・『◆◇◆◇』は、時間の経過

             場所の移動
                   ・・・を表しています

    (改ページも同じ意味です)


    ・あーるシナリオの場合、章タイトル末尾に * 付き



    ______________________



    花を育てることが好きな女性、「エステラ

    父に見放されても、疎まれながら日々を過ごしても

    花に囲まれているだけで幸せだった。



    だけど………。



    ある夜開かれた夜会。そこで出逢った、美貌の伯爵。

    もう出逢うことはないとわかっていても、心はあの夜を望んでいた———ある日。


    連れ去られた先。薔薇の咲き誇る館で、彼女が出逢ったのは………。




    01・或る月夜の出逢い

    ヴァレオ・ローゼリア伯爵とその弟、フィルガ———のちに

    花喰かばみの兄弟』と呼ばれることになるふたりが恋を知ったのは、今から六年も前のことになる。



    それは、月のさやかな晩のこと———。

    病床に臥す祖母のために、兄弟はダリヴの森へアイリスを摘みに来ていた。



    木々には翡翠色の若葉が繁り、天蓋となって空を覆っている。

    そよ風にゆれる葉の狭間から、蒼い月灯りが降り注ぐ。

    森は純黒に染まり、草木の色を深めていた。



    「兄さん、これくらいで充分かな」

    一輪ずつ丁寧に手折っていたフィルガは、そう言って兄をふり返った。



    籠のなかは、既に純白のアイリスで埋めつくされている。

    受け取りながら、ヴァレオは呟いた。



    「あぁ。おばあ様もきっとお喜びになられるよ」

    微笑みかけると、その瞳が希望に染まる。


    「良かった……! きっと良くなっていただけるよね」

    服についた砂を払うと、兄弟は立ち上がった。



    「さぁ、そろそろ帰ろう。父上が心配なさる前に」



    「はい、兄さん!」

    素直にうなずく弟をみていると、わずかに胸が軋む。



    (まだのろいが解けると決まった訳じゃない。それでもおまえは信じているのだな)

    その痛みを押していると。


    ふいに花々がゆれる音をとらえ、彼は瞳を巡らせた。

    見ると、ランタンを手にした少女が、足早に何処かへ向かうところで。


    「なぜ、この森にあんな子が……。」

    フィルガも虚ろに呟く。


    すると、足をとめた彼女がつとふり返った。

    ゆるく波うつ胡桃色に、星の煌めきを閉じ込めたような青玉の瞳。



    彼女は怯えたようにおもてを強張らせ、森の奥へと消えていった。



    「待って……!」

    気づくと、駆け出していた。


    「こら、フィルガ……!」

    弟を追いかけ、ヴァレオも森の奥へと進んだ。






    「はぁ、はぁ……っ」

    その少女、エステラは森の最奥で立ち止まり、急く心臓をおさえた。



    「これで、大丈夫かな……。」

    そう独りごち、簡素な墓に近づく。母が永眠る場所だ。



    「おかあさま………。」

    花冠を手向け、彼女は微笑んだ。墓石を透かして、母をみつめるように。



    「こんな暗い場所にしかお墓を作れなくてごめんなさい。

    わたしが『幻惑姫』と呼ばれている間は………。」

    さぁ……と吹き抜ける風が、母の言葉を運んできた———気がした。



    「分かっています、おかあさま。

    いくら嘆いても、過去は変えられないことは、わかっているの………。」

    ぽた、ぽた、と墓石に雫が落ちる。



    彼女はその場に蹲った。そのまま、儚い肩を震わせる。



    ………疲れた。

    母と自分を捨てた父を恨み、あの過ちに怯え、苛まれる日々に疲れ果てた。



    どのくらい、そうしていただろうか。



    ふいに色彩の美しいものが視界に映り、彼女はおもてを上げた。



    それは、薔薇の花びらだった。

    深紅の花弁を、とまどった瞳でみつめる。



    (どうして……?この森には、アイリスしか自生しない筈では………。)

    瞳を巡らせた先に、ふたりの少年を見止めた。

    白樺の幹に座り込み、彼女の頭上で花を降らせている。



    ひとりは夜の闇を思わせる漆黒の髪、もうひとりは白雪で染め上げたような銀の髪をしていた。


    その瞳は、深いふかい紅の色。

    その聡明なひかりに、胸が痺れた気がした。



    「良かった……。元気が出たんだね」

    木の上から降りてきた彼らは、そう言って目元を和ませた。



    「えぇ、ありかまう……!」

    微笑みかけると、ふたりは頬に朱を散らした。



    「………? 貴方たち、どうかしたの?」

    不思議そうに呟く声に、はっと我に返る。



    「あぁいや、なんでもないよ」

    さぁ……と涼風が、花びらを、花の匂いをさらう。



    「あなたは、いつもここにいるの?」

    そっと頬に触れ、フィルガが問いかける。



    「そうね……おかあさまが愛したお花を、毎日持ってきているの」

    伏せられた睫が、頬に影を造っている。



    「また……君に会いに来ても?」

    彼女の手をとり、みずからの頬に当てる。



    「えぇ。わたしはいつでも、ここにいるもの」

    月灯りに照らされる、彼女の微笑。



    もう一度、少女へと手を伸ばした時………。



    遠くから、彼女の祖父らしき老人が、彼女の名を呼んだ。

    彼女はふたりに向かって淡く微笑み、老人のほうへ駆けていった。



    ………エステラ

    それが、彼らが生涯にわたって、愛しつづけた唯ひとりの女性の名である。



    箱染華 Link Message Mute
    2021/11/22 11:05:35

    青の箱庭

    ##一次創作 ##吸血鬼 ##西洋風 ##ファンタジー

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    • 7夜色のくちづけ◆キャラデザ現在執筆中の夜色のくちづけのキャラデザ(ゆーしょー)です


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      3枚目 ~ 5枚目 悪魔 フェルアン、フリート、ハディク

      6枚目 大天使 ミカリス、7枚目 キャラ相関図。


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