黒い下着の女 第六話3.家
ウェーブのかかった長い黒髪の女のあとをつけていくY男。女は、立ち止まることなく、どこかに立ち寄ることもなく、歩いていく。女は歩き続け、ついに郊外に出た。
(どこまでいくのだろう。)
いぶかしむY男。
女は、さらに歩き続け、やがて、都心を少し離れた住宅街に出た。わりとうらぶれた感のある住宅街だ。女は、街路を歩いていく。と、女が、とある路地に入った。あわててあとを追うY男。その先になにが待っているのか...。
女は、路地に入った。女のあとを追って、自分も路地に入るY男。女は、せまい路地を歩いていく。女を見失わないよう、一定の間隔を保ってあとを尾行けていくY男。せまい路地をジグザグに進む女。そこには、複雑に入り組んだ迷路のような路地裏世界が形成されているのだった。女を見失わぬように、かつ、女に気取られないように注意しながら進む。途中、ドブ川に出くわすこともあった。それらの諸々諸々(しょしょもろもろ)を越えて、ついに開けた場所に出た。そこは...。
そこは、やはり、うらぶれた住宅街だった。しかし、今度のうらぶれ感はさらに激しい。どうして東京のど真ん中にこんなところが、と思わせるようなところだ。どこか隠れ里を思わせる雰囲気があった。Y男の目に真っ先に飛び込んできたのが、「家」だった。門柱も囲いもない、しかし、だだっ広い、庭とも言えないような敷地があり、その奥に「家」はあった。広い敷地の奥に「家」が鎮座していた。邸宅といってもいいような大きな住宅であり、旧家のような風情がある。
ただ、その「家」は、全体にぼろい感じがあった。築何十年かわからないが、全体的に古い印象がある。それにあまり掃除も行き届いていないらしく、ところどころに(あまり目立った箇所ではないが。)「こわれ」や「はがれ」が目立つ。また、目立たない箇所にではあるが、隅の方には、植物が絡まっているのが見える。内部の様子はわからなかったが、外見的にはそんな感じであった。一見、人が棲んでいなさそうにも見える。巨大だが、ぼろい...。廃墟のようにも見え、不吉な印象をY男は、その家から受けるのだった。
その敷地内には、車も停めてある。白い車。この車にも、家と同様、時が止まっているかのような感じを、Y男は感じた。全体に古く、また、ぼろい。家もそうだが、この車にも、まるで、もう何十年もそこに止まったまま動いていないかのような印象を、Y男は受けるのだった。
車に、ワックスはかかっていなかった。
一体、この家(そしてこの車)の住人(運転者)は、どういう人たちなのか。Y男は、不思議に思うのだった。