黒い下着の女 第七話4.女
ウェーブのかかった長い黒い髪の女は、そのまとった衣服と同色(クリーム色)のハイヒールの高い靴音を鳴り響かせながら歩いていく。やがて、女は、家の敷地に踏み込んだ。どうやら、女の目的もこの家らしい。というか、女の目的地そのものだったというべきだろうか。この家が。
長い髪の女は、家の玄関口に立った。女の派手な外見は、このうらぶれた地所とも女の目前のぼろ家ともいかにもミスマッチだった。まさか、この家の住人なのか?いや、住人とはかぎらないかもしれないが。固唾を呑んで見守っているY男を他所に、女は、玄関の戸を開けると、内部(なか)へと消えた。音もなく玄関の扉が閉まった。
Y男は、しばらく、その場につっ立っていた。しばらく、その場に立ち尽くしていたが、やがて、意を決して家の敷地内に踏み込む。そのまま、ツカツカと家の玄関口へと歩いていくY男。そして、玄関の戸の前まで来ると立ち止まる。Y男の眼前に、いましがた長い髪の女が吸い込まれていった家の玄関の扉が迫る。
Y男は、意を決してドアのノブに手を掛けた。ノブを回すY男。鍵は掛かっていないようだ。ノブは容易に回った。扉を開け、すばやく中に入り込む。音を立てないよう細心の注意を払いながら、扉を閉める。なんとかうまいこと家の中に入ることに成功したY男。ドアから向き直ると、そこは当然ながら三和土である。この家の外観の広壮さからは想像できないほどせまい三和土である。Y男は、違和感を抱きながら、とりあえず靴を脱ぎ、上がる。
そこは、長い渡り廊下となっていた。昼間だというのに薄暗く、どこか陰鬱な感じが漂う。Y男は、このことにも違和感を覚えた。長い廊下を、音を立てないよう細心の注意を払いながら、進んでいくY男。と、とある障子の襖が気になって足を止める。単なる偶然かもしれないが、なぜかそのふすまが、Y男の目に止まった。障子に側頭部を当て、聞き耳を立てるY男。内部(なか)からは、なんの物音も気配もしない。大胆にしょうじを開けるY男。思ったとおり、そこには誰もいなかった。中に入るY男。そこは...。
そこは、畳の部屋だった。なんの変哲もない和室。六畳間。調度品のたぐいはすくなく、飾り気もない。さしてケレン味もない、平凡な六畳間であった。しかし、Y男に対しては、特別な印象をもたらした。
(この部屋、どこか見覚えがある。)
Y男は、はっきりとわかった。この部屋は...。
この部屋は、あのビデオの部屋とそっくりだった。いや、“そっくり”というには、あまりにも、あのビデオの部屋と同じ要素に満ちていた。
(あの部屋ではないのか?)
Y男がいぶかしんでいると、背後で気配がした。思わずふりかえるY男。
そこに、あの女が立っていた。