女装と拘束っていいよね「「「「ありがとうございました!」」」」
パフォーマンスは上出来だったと思う。
今日のイベントは昼間で、夜遅くはないが、こはねがこの後すぐに用事があるというのでイベントの終わりを待たずライブハウスから抜けていった。反省会は明日に持ち越しだ。
解散はしたものの、オレは特に予定があるわけではないのでフロアでイベントを楽しんでいた。
冬弥は今、缶コーヒーを買いに行っている。
色々な人の歌を聞いていると、不意に隣にいた男が話しかけてきた。
「あ、彰人くんお疲れー。今日も最高だったぞ!」
「ありがとうございます。次のイベントはもっと盛り上げてみせるんで。期待しててくださいね」
「おお……やっぱビビバスすげーな。そんな彰人くんにこれ、差し入れ」
そう言われて受け取ったのはコップに注がれたレモン味の炭酸飲料だ。
「ありがとうございます……っはー、うめぇ」
「はは、や__、あ__く_はか__いな」
相手が何か言っているようだが、うまく聞き取れなかった。
「何か言いましたか?」
「え、何も言ってないよ?」
数分後。このハコの中には自販機がなく、近くの自販機までは少し距離があるので冬弥はおそらくまだ帰ってこないだろう。
急に眠気が襲う。ステージ上ではミュージシャンが歌いだし、フロアだってこんなに盛り上がっているのに。
眠気を誘う要素なんて一つもないのに。まさか……
「睡眠薬……か……?」
しまった。油断していた。
だがもう遅い。
そう考えたところで。意識が落ちた。
目が覚めた時、オレは目隠しをされ、腕が拘束されていた。
見えはしないが、どうやらオレの周りにはさっきの奴以外にも複数の人がいるようだ。
これから何をされるのか。何となく予想してしまった。
「ここは……どこだ?」
「ああ、ここはさっきのハコの近くのの路地裏。彰人くんも知ってるところだよ。そこまで遠くまで運んではいないから安心してね」
「目隠し取った方が早いだろ」
「そうだね。その前に1枚撮らせてね」
「え」
男はそう言ってシャッター音を鳴らした。スマホで撮ったらしい。
「じゃ、目隠し取るよ」
目隠しが取れ、状況を把握することができた。
さっき言われた通り、ここは路地裏でオレがたまに通る道。周りにはさっきの奴を含め4人の男がいる。
そして、後方にいる男の背後にオレの荷物や着ていた服がある……服?
自分自身を見てオレは驚いた。
「……は?」
なぜかオレはメイド服を着ていた。
「彰人くん、今の状況は分かったかな?」
「あの……なんでオレ、メイド服を……?」
「俺たちが着せた。似合うと思ってね。」
「なんでだよ!?似合うわけねぇだろ!!」
「そんなことないよ。似合ってる似合ってる」
「嘘だろ!」
「ホントだよ。かわいいかわいい」
「かわいいとか言うな!」
「まあまあ。お楽しみはこれからだよ」
目の前の男が微笑み、オレを軽く押し倒す
まさか。やっぱり。オレを……
「や、やめろっ……!」
抵抗してみるが男の体はピクリとも動かない。
体が恐怖に支配され、身動きが取れなくなる。
男の手がスカートの裾に触れたとき、横からシャッター音が聞こえた。
「お前やりすぎ。彰人くん泣いちゃったじゃん」
「わ……ごめんね」
「でも泣き顔そそるな」
「それな!」
「へ……?」
「彰人くん、ごめんね。ここまで怖がらせるつもりじゃなかったんだ」
「どういう、ことだ?」
「写真撮るだけだよ。ホントは犯したかったけどけど、彰人くんめっちゃ怖がってるしかわいそうだと思ってやめた。それとも、本当は犯されたかった?」
「そんなわけあるか……!!」
それから、オレはしばらくの間ありとあらゆる角度から写真を撮られた。
本当にただ撮られるだけだった。
中には動画を撮っている奴もいたが、オレに手を出してくることは無かった。
なんか一気に気が抜けてきた。
突然男がカバンから何かを取り出した。
赤いチューブ。甘い香り。
「練乳……?」
「うん!これ彰人くんにぶっかけたらいい感じになりそうだな~って思って!」
「は!?」
「だって練乳って……アレっぽいでしょ、俺らのバナナから出てくるアレ」
「分かったから、それ以上言うな!」
「あ、彰人くん、練乳よりも俺のミルクのほうがいい?」
「そ、それだけはやめろ……」
「それだけは、ってことは、練乳はOKってこと?」
「オレが嫌っていってもかけるんだろ!もう好きにしろ!この変態!」
男たちは硬直した。
「今の……ヤベぇ」
「変態って言われた……♡」
「嫌がるならやるつもりはなかったけど、OKもらえちゃったしぶっかけちゃお!」
そしてオレは練乳をかけられた。ベタベタする。
めっちゃ甘い匂いする。
「ゔ……」
「やっぱ彰人くんえっちだね。興奮してきちゃったからちょっと処理してくるね!」
「勝手にやっとけ」
さらに写真を撮られた。やっぱり手は出してこなかった。
こいつらの目的はよく分からないが、腕が拘束されているのでじっとしているしかない。
そこに冬弥がやってきた。
「彰人?」
「わ、相棒来た!」
「やべー、逃げろー」
「待て。彰人に何をした?」
「ちょっと写真撮ってただけだよ」
「メイド服を着せて?」
「うん!それ以外何もしてない!」
「いや、オレ練乳かけられたけどな」
「本当だな。白いのがついてるな。しかしなぜ……?」
「冬弥、考えるな。こいつらの嗜好おかしいから考えるだけ無駄だ」
「そうか。分かった」
冬弥が腕の拘束を解いてくれた。
気がついたら男たちは逃げていた。
逃げ足の速い奴らだったし、捕まえる理由など無いので追いかけるのはやめた。
「彰人……」
「オレは大丈夫。ホントに写真撮られただけだからな」
「どういうことだ……?」
「オレが聞きたい」
俺の服の横に、メモ書きとコンビニのチーズケーキが置いてあった。
『今日は楽しませてくれてありがとう!メイド服とチーズケーキは俺らからのプレゼントだよ♡』
「メイド服はいらねーよ!!!」
でもチーズケーキは食った。うまかった。