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    ちょぎさにSS4「貴女が既に起きているなんて珍しいね」
    「あはは、そうかな。おはよう長義君」
    「おはよう、主」


     ふらり。朝の廊下を歩いていると、向かい側から人がやって来る。
     私が朝の苦手な審神者だということは周知の事実なのだが、それを明け透けに言ってくるのはこの刀、山姥切長義だけ。私が唯一心を許す恋刀だ。

    「……ねぇ主」
    「ん?」

     まだ寝ぼけた心地で挨拶をしへらりと笑っていると、彼は私に近付き顔を覗く。いくら彼が恋人だとは言え、寝起きの顔をまじまじと見られるのは居心地が悪い。今日は特に、だ。彼は私の様子を見ると口元に手を当て、ふむ、と何か思案するようにため息ついてから眉を顰めた。

    「やっぱり。顔色が良くないな」
    「……そんなことは」
    「俺の目は誤魔化せないよ。少なくともここ数日はあまり眠れていなさそう、かな」

     彼の言葉に若干うろたえつつも平然としてみせたが通用せず、目を逸らしても顔を覗き込まれて追いかけられ逃げられなかった為、仕方なく私は彼と目をあわせた。それでも最後まで目を泳がせては難を逃れようとしたが失敗。両頬を彼が両手で包み真正面を向かされまるで、口づけを迫るかのように顔を近づけてきたので私は観念して口を開いた。彼の瞳に隠し事は出来ない。

    「あー……何て言うか、その……抱き枕が合わない、というか……」
    「何?」
    「抱き枕。安眠に繋がらなくなってきて……」

     話の歯切れが悪いのは単純に言いにくい話だったからだ。
     私はいつも眠るとき、普通の枕とは別に抱き枕を使用している。横になり何かに抱き付いていないと心もとなく、安心感が薄れて眠りづらいのだ。私は話しながら両手で何かを囲うような仕草をしてみせる。

    「こう、ぎゅーっとしてる安心感がほしくて。今新しいものを探してるんです」
    「それが今は合わなくて眠れていないと……」

     私は頷く。ここ最近は抱き枕が古くなったからか抱き心地に少々難ありの状態で、使っていても寝付きがわるくなっていた。そうして何度も寝直すことが増え次第に寝不足気味に。しかし抱き枕が合わなくなって寝不足になるなど人には少し言いづらかった。

    「子供じみてますよね」
    「主」

     私が苦笑いして言うと彼は目の前で両手を広げ涼しげな顔をする。良く分からず私は首を傾げた。

    「それは?」
    「まあ……おいで、って意味かな」
    「お、おお~?」

     ふい、と顔を背けられたがそれとは裏腹な行動だった。つまりそれは彼が今この場で抱き締めてくれると言う意味。慰めてくれるというか、あたためてくれるというか。彼なりの今出来得る優しさの体現だったのだろう。
     素直に嬉しかった。けれど本殿より離れているとはいえここは共有の廊下だ。普段誰かの目がつきそうな場所での触れあいは全くしたことがなかった私達では、お互いに動かず目が合わず沈黙が続だけ。私は曖昧な返事で顔が熱くなるのを誤魔化し、彼の耳は段々と赤くなって時間だけが過ぎていく。

    「さては反応を見て楽しんでるでしょう?」
    「そんな顔色の貴女を見て俺が心配もせずからかうと?」

     私が茶化すように言うと彼は少し怒った顔で此方に目線をよこす。わかってはいたが彼は至って真面目だった。
     そう、彼はいつだって私のことに真剣でいてくれる。だから今も、私のために己の恥ずかしさなど踏み倒して行動してくれているのだろう。どこまでも私を案じて甘やかしてくれるのは彼だけだ。嬉しくてすぐにでも走り寄りたい。けれど己の立場と公衆の場が頭をよぎり恥ずかしい。
     どうにも立ちいられなくなった私が数分考えやっと出来たことと言えば、躊躇いがちに彼のシャツを握り締めることくらいだった。すると彼はその手に自分のそれを重ねて引き寄せ、優しく両手を私の背中に回し抱き締めてくれる。そして後頭部を緩やかに撫でてくれるのに、安心した私もようやっと両手を彼の背に回した。
    ここまでで大分時間を要したがまだ緊張して胸の奥がむずむずしていた。しかし、とても心地良い。

    「……お…ぉぅ…」
    「それはどういう声なんだ……さて、抱き心地はどうかな」
    「硬い…けど嫌いじゃない」
    「ここで素直に好きと言わないのが貴女らしいね」

     彼の問いにまずまずな答えを返すとふっと笑った息が髪の毛にかかる。その安心感に欠伸がひとつ、ごく自然と出たのに私は気づいた。

    「……眠くなってきた、かも…です…」
    「そう……じゃあ、執務室の仮眠ソファーで少し横になろうか」
    「……はい」

     私が言うと彼は私を離して手を繋ぎ、すたすたと早歩きで元来た廊下を戻り出す。彼の行動力の速さに驚きつつ私はそれに素直に従った。
     部屋に着くと彼は手早く部屋の一角にある床置きのソファーベッドを手早く組み立て直し寝台型にすると、座り込んで私に手を伸ばす。

    「あ、の……」
    「どうかしたかな」
    「何で長義君も横に?」
    「何故って俺が抱き枕の役目を果たさなければ元も子もないだろう?」
    「え、わっ!」

     私が戸惑っているとさも当然といった風に返された。なるほど彼は私の抱き枕の代わりをしてくれようとしていたのか。それ故の先ほどの行動。なるほどなと、ひとり心地で納得していると、片手を取られ少し強引に引き寄せられてしまう。先刻までの優しさは一体!などと思いながらも、私の身体はほとんどその引力に身を任せていた。

    「長義君、朝ごはん行こうとしてたんじゃ…」
    「貴女が起きたら一緒に食べるからいつでも構わないよ」

     引き寄せられた勢いのまま、彼の腕の中へ落とされその勢いで二人並んで横になる。彼の片腕を枕に、もう一方はがっちりと腰に。更にはもう少し近寄るようにと、彼が身じろぎしたので私の視界は彼の胸元でいっぱいになる。胸元でくぐもった声を上げるとさらりと返答され、私からそれ以上の質問が出ることはなかった。

    「あったかいですね……」
    「……」
    「……ドキドキしてる」
    「……っ、その口塞いで貰いたいのかな」

     静かな空間にこもった声の呟きを漏らしても返答はない。静寂のなか、次第にどこからかドクドクと早鳴る音――。
     それは耳を寄せた彼の胸から聴こえていた。少ししつこく言葉を続けるとぎゅうっと強く抱き絞められて、こつりと額に彼のそれが当たる。顔が熱くなり慌てて私は彼の胸にぐりぐりと額を押し付けて抵抗すると抱きしめる力が弱まって背中をぽんぽんと叩かれた。

    「辛かったのならもっと早く言ってくれ」
    「でも……」
    「何のための恋人なんだ。貴女の頼みくらいいくらでも聞く」

     頭上に彼の声が降る。私の髪の毛を食べてしまっているのではなかろうか。彼が喋ると髪の毛がさわさわと撫でられてくすぐったい。だがくすぐったいのはそれだけではなく心もだった。
     今朝きっと彼はただ朝食の迎えにやって来ただけだったのに。最終的にはろくに食べれもせず私とこうして横になっている。それでも良いとこうしてくれている。その気遣いが、自分だけの特別な優しさであることが嬉しくて仕方がなかった。ドキドキする自分の心臓はまるで喜びに舞い踊るかのような弾み方をしている。

    「……ありがとう、わかった」

     すっかり気を許した今のわたしに主としての顔はないだろう。
     それでも、だんだんと重くなる瞼に抵抗せず彼の香りと熱に包まれながら、私はゆっくりと眠りに落ちていくのだった。
    霧乃 Link Message Mute
    2024/10/17 8:11:56

    ちょぎさにSS4

    甘やかしちょぎさに
    ↓お題診断より↓
    抱き締めて心音をきく

    最終執筆日,2024/03/02

    #小説 #二次創作 #刀さに #長義さに #ちょぎさに #山姥切長義

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