跡部の部屋にゴキブリホイホイを仕掛けた次の日の忍足ミッションはアンコンプリートやった......。
ひさびさに鬱や。
忍足です。おはようさん。
これでホイホイ代と100円、パーやな。
あ、これジローには内緒にしとこ......。
言わんかったら、バレへんもんな。フッ。
これ以上の損害は未然に防がなあかん。
しっかし、あんなでかい家にまさかG一匹もおらんって、ありえへんやろ。
代わりにネズミおったみたいやけどな。
跡部、執事さんにネズミ居てるて、言っといたほうがええで。
もし東京でペスト流行ったりしたら、お前んとこまっ先に疑われるで。
あーあ、俺の計画、途中までめっちゃうまいこといってたのになあ・・・。
ほんま、途中までは。
ありえへんくらい、跡部、まっくろくろすけに反応してたしな。
俺の予想以上に沢山のポイントで反応しとった。
メイとさつきが、前の日どんぐり埋めたとこに、朝見に行ったら芽でてたの見て、
「夢だけど!夢じゃなかった!」
って喜んで踊るシーンで、
セリフに合わせてアイツもしきりに頷いとった。
大丈夫やろか、このボン。
そんで、今日見たら、こいつの携帯のストラップ、ヴィトンとかグッチとかのブランドのやつからトトロのぬいぐるみに変わっとった。
どないやねん。
岳人がひいてたわ。
その上、
「忍足、魔女の宅急便って、知ってるか」
知っとるよ。ってボン、今どき宮崎アニメに目覚めとるよ。
いや、何で俺に?
もしかしてアニメ鑑賞、俺もまた一緒にってこと?
んも~。樺ちゃんと見てや......。
ホイホイの元もとれんお前んちなんかもう二度と行かんわ......。逆恨みして悪いけど。
今日は部活もないし、残り少ないお小遣いで、ラブロマンス映画借りて、
傷心の俺を慰める会を開く事にしとるんや!
主催、俺ね......。
下校途中、TUTAWAに向かっとったら背後からなんか低~~い歌声がしてきた。
「あっるっこ~ あっるっこ~~ わたしは~~げんき~~」
......ジローや......。
ちゅうかアイツなんでトトロの歌口ずさんでるん......?
嫌っ!怖っ!
ひゃ、百円は渡さんからな!
はっ!アカン。
アイツがトトロ歌ってるんは、たまたまや。
ただの偶然や。
落ち着け落ち着け。そう、だって僕はクラフティボーイ。
動じたら、アカン。
せ、せや。こうゆう時こそ、あれや。
心!!
心閉ざそ!!
シュワ~~~
(※心を閉ざした時、忍足が自分で付ける効果音)
俺は背後3mまで迫って来ていたジローに、クールな笑みをたたえつつ、声をかけた。
「あれ、ジロー、御機嫌さんやな。どちらへ?」
「......だからさ、その変な顔やめたほうがいいって忍足」
うさんくさい表情のままジローは俺に尋ねた。
「つうかお前帰りこっちじゃねーよな。どっか寄るの」
「俺?俺は今からTUTAWAへ行くんですわ」
「あ、奇遇~~。俺も~~」
......なんか、絶対そう言うと思た。
「奇遇すぎやな。で、そこへジロー君は何しに行くんかな?」
「トトロ借りにいくんだよ。妹に頼まれたの」
まじでか......。
嫌な汗かくわ。
「めんどくせえなあ。こないだ金曜ロードショーでやってたよなあれ。あん時録画しときゃよかった」
「......」
俺はジローと目、合わさんようにした。
怖っ。
でも行き先は一緒やねんな......。
めっちゃ一緒に行きたくないのに、結局TUTAWAに一緒に入ってしもた。
「あ、ほな、このへんで。俺、ラブい洋画見てくるわ。さいなら、ジロー」
「このへんでって、アニメコーナー、洋画の隣じゃん」
......。
「じゃあ、俺、レンタルしてたヤツ返してくるわ」
「そうなの?って何が『じゃあ』だよ。よそよそしC~忍足~」
「よそよそしくなんか、ありませんよ?」
「じゃあそこで待ってろよ。一緒帰ろー。どうせ途中まで一緒じゃん」
「ええ......」
なんか一緒に帰る事にまでなってしもた。
ほんまにジローって淋しがりや。
でもほだされんで、俺は。
100円は絶対やれへん。
「あ~~。トトロ借りられてる!」
商品の棚を見ていたジローが小さい声で叫んだ。
せやねん。
てゆうか、ここ、トトロのビデオ一個しか置いてないねん。
ジローちょっとお前カウンター行って
「ジブリなめとんのか?」
ってメンチ切ってきてくれへん。いつもの半目で。
まあ、その一個だけのトトロも、俺がこないだ借りて跡部んちに置いてきたまんまやからもちろん無い。
あのぶんやとあいつ7泊8日の期限いっぱいまで何十回も見そうやしな。
残念やったなあ、ジロー。
そんで、ジローの妹さんごめんな。
......跡部の返却が終わらんかぎり、ここにトトロは戻ってこんのや。
「あーあ。みつこに怒られるなあ......」
ジローは困ったように頭を掻いた。
どないしょ......ちょっと悪い気してきた。
「跡部んちにあるで」って白状して、ビデオ一緒に取りにいったろうかな。
俺がジローとの賭けに負けたのと、トトロのビデオは直接関係ないしな。
...いやアカン......!
今の跡部とジローと俺、3人で会うわけにはいかん。
しかも、トトロの話題なんてもってのほかや。
今「となりのトトロ」はアイツの世界の全てやもんな。10中8.9、ジローに喋るわ。
そしたらホイホイに入って無かったまっくろくろすけのことも多分話題に登るやろう。
この流れはアカンわ。
俺、こいつに100円払わなあかんくなる。
ふう~~危ないとこやった。危うく損失増やすとこやったわ。
しつこくトトロを探して他の棚を見ているジローのしゃがんだ後ろ姿に、俺は言った。
「ざ、残念やったな~~。ここ、あんましジブリ置いてないみたいなんよ、ジロー」
「え、そうなの?」
「うん!!」
「詳しいな、さすが忍足」
「んあーははは。まあな」
褒められた。なんか怖い。
「そっか、無いのか。しょうがねえなあ」
「でも、他のとこ行ったら、あるんちゃう?トトロ」
「......そうだね」
ジローはしゃがんでいた所から素直に立ち上がった。
そうそう、他の店あたれや、ジロー。
そしたら俺もお前から逃れて帰れるしな。
「どこ行ったらあるんだろうなあ」
腰を伸ばしながら、ジローがこっちを向いた。笑顔で。
「跡部んちとか?」
ビックーン!!
閉ざした心が口から飛び出そうになった。
ええええ!
「え、ジ、なっ、おまっ」
「な、跡部んちにはゴキブリいなかっただろ」
ドチーン!!!
「な、ジ、な、知っ」
「お前等、廊下ででけー声で喋ってたじゃん、まる聞こえ」
...え、そんなでかかったんや......跡部の声。
かなわんなアイツ......。
「あーそうや?俺の負けや!欲しいんやろ100円!ええよ!100円くらい!」
「なんでそこで逆ギレ?俺、すっかり賭けとか忘れてたから、もーいいやって思ってたのに」
「えっ」
「ムカつく。ついでに思い出したけど、さっき俺の顔見た途端にお前また変な顔しただろ。心閉ざすっつうかオタク顔になるだけのアレ。すっげうぜえアレ。迷惑料としてやっぱ100円貰うわ、悪りーけど」
「あ、すんません。そうゆうことなら開きます。ごっつ、今開きます」
「そうそう・・俺には心もおまたもオープンにしとけよ忍足」
「せやからな、お前もそういうオヤジくさい事居言うの、やめてくれへん」
機嫌の直ったジローは結局俺の部屋までついてきた。
跡部んちに行ってるトトロのかわりに何か貸せっていいがかり付けんねんコイツ。
でもこれって悪いんは俺とちゃうやん......。
品揃えの悪いTUTAWAやん......。
そんで俺が必死で自分の押し入れ探って、
「ラピュタやったらあるけど」
って振り返った瞬間、あいつもう俺んち上がり込んで、横になっとった。
んも~~。自分家で寝ろや......。
俺は、速攻ぐーすか寝とるジローを部屋の隅に転がしといて、借りて来たラブい洋画を見ることにした。
テレビのモニターが良く見えるように、カーテンを閉めて薄暗くした。
デッキにDVDセットしようと思ったとき、
カサ
って、なんか後ろで言うた。
嫌な音やった。
ジローが寝返りうってるだけやて思い込もうとして振り返ったら
「ああああ~!」
Gが......!
ジローに寄り添うようにくつろいどる......!
「あんだようっせえな」
「じっジロー!!ジロー!!あとっ!!あっ跡部に電話っ!!」
「え~~なんで~ っぷ!!」
俺の方に寝返りを打ちかけて、Gと至近距離でお見合いになったジローの半目が全開になって固まった。
「忍足イイイイ!!!」
跡部、出た~~!!
まっくろくろすけ、出た~~!!!
俺の部屋に出た~~~~!!
早よ来てぇ~~
捕まえてぇ~~~!!!
ジローがいつかの予告通り俺を縦にしてGにキンチョ-ル噴射したせいで、
天井近くまで逃げとったやつがこっちへ向かって飛んで来て
その後記憶が無いけど取りあえずジローと絶交中
忍足・クローズマイマインド・侑士