8巻の感想ポエム小学校の教員である彼は言った。
「小学六年生だから」と。
「みんなで卒業させてやりたい」そう告げた。
そんな「みんな」にこだわって何の意味があるのだろうか。
嘘が聞こえることで同学年のクラスメイトから拒絶された彼は笑って言った。
善悪よりも優先されることがある子どもだからこそ。
純粋で、素直で、残酷な子どもたちがこの子を針の筵にした。
それでもこの子は笑って「大丈夫です」と口にした。笑い方は頬が強張ってぎこちなかった。
あ、失敗した。そう思った。「大丈夫?」と聞かれて「大丈夫じゃない」と答えられる人間の方が少ない。僕だって、口にする言葉だ。心を落ち着かせるために、相手を安心させるために、自分を励ますために「大丈夫」と口にする。
以前、僕自身が大丈夫じゃないのにとこの子に嘘を見抜かれたのに。こんなことでああ、嘘を吐かせてしまったな、と思う。
この子の語る過去は、ひどく残酷で、それでいて容易く想像ができた。
「………やっぱり、僕の配慮が足りなかった」
そう、思った。
連れてくるべきじゃなかった。
触れなくていい過去もある。
語らなくてもいい出来事だってある。
知られたくない傷なんて誰にだってある。
思い出さない方が幸せなことだってある。
僕はこの子の全てを知らない。過去を詳らかにすることなんて意味はない。これから楽しいことが増えればいい。最近普通に笑うようになった。難波くんとご飯に食べに行ったらしい。院生の子たちがわんこくん明るくなったねぇと話しているのも聞いた。
きゅ、と下唇を噛むと鉄の味がした。地元の、幼い頃の友人。僕にとっての健ちゃんみたいな人が君にもいるのかなって、思ってただ本当に嬉しかったんだ。
「……、」
何か、言わなければと思う。気遣うような視線を下から感じる。いつもの様に笑って———
「あ、別に不登校になったりはしてないですよ」
そうまくしたてるように、過去を口にした。こんなことは何でもなかったとでも言うように、この子は僕を励ますように言葉を重ねる。表だっていじめはなかったと、物を盗られたり、暴力なんてなかったと。傷をつけられたわけではない、と語る。
どういう言葉を選べばいいのだろう。
色々選択肢はある。励ます。慰める。共感する。どれも本当の気持ちだ。
よくひとりで耐えたね、と言ってあげたい。
辛かった事を言わなくてもいい、と伝えてあげたい。
まだ見せていない古傷はいくつだってある。でもどれを選んでも何かが違う気がした。
僕が子どもだったころ。どう言われて嬉しかっただろうか。平気なフリをして笑っていたあの頃。笑顔の仮面をかぶっていたあの頃。
「………君は、よく頑張った」
だから、もう、頑張らなくてもいいんだ。