140字シカテマ詰め合わせ**********
【それは寒い夜だった。】
仇を取ったんだ、という声は震えていた。すがり付く身体は小さく見えた。抱き寄せた体温は暖かかったがその奥はまだ冷えているのだろう。ああ、私の熱が移ればいいのに。宿の窓から風が吹き込む。この男を温めたくて、私は回した腕に力を込めた。
**********
【指切り】
「きょうはなんじにかえってくる?」
なんてことないような顔をして、朝の玄関で息子は聞いた。
晩飯の時間には、と答えればふぅんと素っ気ない返事が返り。
意地っ張りが似たのやら、子どもらしくないのが似たのやら。
しゃがんで合わせた翡翠の瞳に俺は小指を掲げて笑う。
**********
【男のロマン】
「…で? これは?」
「……独身時代に、キバが無理やり置いてったものです…。」
「『男のロマン!年上S姉さまに嬲られたい!』…私は非常に不愉快だ。」
「……はい。」
「写真や想像より、本物のほうが素晴らしいことを証明してやろう。」
そこに待つのは天国か地獄か。
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【 おしえてあげる 】
そろそろ言ってやるべきだと思うのよ。じーっと見つめてると思ったら、あっちが振り返った途端に視線を外すこととか、一緒に歩いてるときいつもより余計にゆっくり歩いてることとか。アレが無意識だってんだから、ホントやんなっちゃうわ。え? 私の莫迦な幼馴染の話!
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【 空にむかって 】
ちょっとした演習訓練。
風を起こしてアンタは空高く舞い上がった。
やっべぇ、あの高さは俺の影は届かねえわ。
捕まえるために伸ばしてた影を、受け止めるように地上で広げた。
アンタはそんな俺を見て、笑って自分から落ちてきた。
**********
【 それだけは言わないで 】
俺は木ノ葉の女と結婚する。
たかが夢だ。だがその台詞が頭から離れなかった。
私は卑怯だ。その台詞を現実で聞く前に私は言った。
私は砂の男と結婚するよ。
目の前の男が傷つくのが手に取るようにわかった。
それでも私は、夢の中のあの台詞を、現実では聞きたくなかったのだ。
**********
【宛先のない手紙】
シカダイは倉で沢山の便箋が入った箱を見つけた。
幾分若い頃のもののようだが見慣れた筆跡にこの手紙の書き手を知る。内容はとりとめない日常のこと。それだけ。むしろ日記だ。
後ろで叔父がくつくつと笑った。
確かうちにも出したことねぇ手紙の束が残ってんじゃん。
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【一行の空白】
またお前か
任務なんで
送ってく
律儀なことだ
じゃあまたな
ああ、またな
私たちの会話の間には、一行の空白が存在する。
何時からだろう。
その空白ができたのは。
その空白に何かを感じるようになったのは。
いつか。空白が埋まる日は。
**********
【 左手の薬指 】
それを身に付けて、彼女は照れくさそうに微笑んだ。
「まさか、私がここに指輪をするようになるなんてね」
はい、お前も、ともう一つの指輪を渡される。
…首から下げとくってのは無しか?
そこに同じ物があるというだけで、にやけて仕事できなくなるんだけど。
**********
【 いたばさみ 】
そう、これには俺の男としての尊厳がかかって谷間が見える。…断じて女に上に乗られるわけには、太ももが擦られた。そのままベルトが緩められてやっぱりやられっぱなしにはできね
「…胸と口、どっちがいい?」
どっちってどっちだ!?
次から次へと、いたばさみ。
**********
【 声が届かなくても 】
意識を取り戻し、真っ先に確認したのは周囲の状況。戦は終わったらしい。そう判断して次に確認したのは風影の、弟の姿。無事だ。
その次は――自分でも何を確認しようとしてたのかは自覚していなかった。
だが、目が合った。遠く。あんなにも離れていたのに。
互いに頷いた。それだけで十分だった。
**********
【 偶然じゃないよね 】
試験で当たったのは偶然だ。
一緒の仕事が多かったのも偶然だ。
私とお前がこういう関係になったのもたまたまだ。
じゃあ、あんたのその気持ちは?
それが今ここにあるのも偶然か?
ふてぶてしく笑う男。 なあ、あの泣き虫くんがどんな偶然でこんな男になるのか誰か教えてくれないか。
**********
【 君が笑うから 】
連合会議の合間のこと。
五時の方向3メートル先。視界の外で談笑の声がする。
相手は雲隠れの男で話す内容は他意もない世間話。愛想のものとわかっていても。
「眉間の皺、酷いことになってんじゃん」
うるせぇよ。
理由なんて考えたくない。イラつく理由がなんでなんか。
**********
【 さすがに参った 】
ちょっと座り直しただけで「痛むのか!?」ご飯の支度を「俺らがやるじゃん!?」あ。これ陣痛いや違うわ「砂で運ぼう」
お前はスルッと産まれて助かったよ。
親バカ一人と叔父バカ二人。
あれらの相手が一番大変だったんだから。
**********
【 きらいになれない 】
「性格がキツい」
「やる気がない」
「頑固で意地張り」
「すぐ面倒と言う」
「…どうした、もう終わりか?」
もし互いの里が対立して。戦場で出会ったら。
その時のためのシミュレーション。
互いに憎み合えるのか。
「こんなもしもを考えさせるとこ」
「子供の喧嘩にもならなかったな」
**********
【 もうどうにでもして 】
「ヒナタ~!すぐ帰るってばよ~!」
ぎゅうぎゅうと隙間などつくるものかとばかりに自分の恋人を抱き締めているのは里の英雄。
…おい。高々3日の任務だっつの。いつまでやってる。里を出る度この調子。
…隕石とか誰か降らせてくんねぇかな。
あいつらに当てても俺が許す。むしろやれ。切実に。
**********
【 独占したい 】
私はお前のものじゃない。
何度も言われた。
何度も言った。
それは言い訳のように二人の間を通り抜ける。
それでなくともわかってしまうのだ。
這う手が触れる唇が何を言おうとしているか。
…まだ大丈夫。その思いは、まだ願望のままでいられる。
互いの身体に付く跡があっても。
**********
【 おやすみ 】
空が白んでいる。
それすら認識出来ぬほどに身体がだるい。だが微睡みのなか、心は穏やかに満たされていた。
空気の冷たさに震えると抱き寄せられ、同じ寝具に包まれる。
おやすみ、という言葉に私は同じ言葉を返せたのか。
意識を手放す瞬間、男が笑った気がした。
**********
【 はだしになったら 】
ぱしゃりぱしゃりと水の音。
幼子のようにはしゃぐこともなかったが、その表情は楽しげだった。
別に遊びに来たわけでもない。試験に使う演習場の視察。
そう、これは仕事だ。
だから、 手頃な岩に腰掛け、水面に触れ合わせているソイツを見る必要なんか全くない。
濡れた足先が、跳ねた。
**********
【 鼓動を聞かせて 】
「おめでとうございます、テマリさん」
ああ、信じられない。いるのだ、ここに。
ほんとうに? まだ自分でも実感できない。
何か温かいものがここにある気がするのは、サクラの言葉を聞いたから?
なあ、早く私にわからせてくれ。
お前がここにいるって。
父親みたいにめんどくさがるなよ。
**********
【 ここにいるから 】
死にかけた。
任務があり、犠牲は避けられなく、それは私が妥当だった。
助かったのは弟と木ノ葉の尽力があったからで、感謝をしてもしたりない。
うつつから覚めて、何かを必死に耐えている男の顔を見た。
私は、なんとかしてこの男を安心させてやらねばと、そういう思いにかられた。
**********
【 手をつなごう 】
食事を共にした。別に初めてでもない。
仕事以外の他愛ない話をする。付き合いも長いので雑談くらいする。
「なんだ?」
可愛いげのない様子。もうちょっとこう、それっぽい雰囲気になってもよくね?
無言でその手を取った。そのまま歩き出す。
「なるほどな。」
くそ、可愛くねえ。
**********
【 さすがに参った 】
とある暗部の証言。
里にいる間は始終一緒。でも例え密室に二人きりでも手すら握らない。信頼はあっても恋愛対象外とかそう言うのかな、ってずっと思ってたよ。
あ?大変なこと?
そうだな。今は密室に二人きりで恋愛対象内な行為をしてくれて、それをずっと見てなきゃいけねえことかな。
**********
【 たたかう理由 】
空気の刃を宿した暴風が身を襲う。
やめろと叫ぶ声もかき消され、切り裂かれた肌から血が流れた。
吹き飛ぶ最中に伸ばした影は嘘のようにあっさりと女を捕まえた。身体に巻き付いた黒い手がその首にかかる。
なぁ、俺達は本当にこうするしかないのか?
女が笑った。 影の手が首を。
**********
【 ひとりじゃないから 】
「あれ?シカマル一人か?なら一楽でもいかねー?」
「いや、遠慮しとく。」
「なんだよ、付き合いわりーってばよ。」
「悪いなナルト」
「我愛羅の姉ちゃん?木ノ葉に来てたのか?」
「そういうわけで。」
今日は一人じゃないんで。
**********
【 瞬間、求めたもの 】
どうして、こうなった?
何の前触れもなかったはずだ。
試験の準備で、その男と資料室に篭っていて。
巻物を手渡そうとして、隣に座っていたから。近くて。ぶつかって。
目が合った後の沈黙。
近づいてきた顔に、私は目を閉じていた。
唇に触れた。一瞬だったのに。
ああ。分かってしまった。
**********
*秘伝小説設定で書いたもの四本。
**********
【 どこにもいない 】
どうして言ってくれない?
どうして気付いてくれない。
私とお前はその程度の間柄だったのか。
お前の様子がおかしいことに私が何も思わないと思うのか。
知らないね。あんなやつ。
私が知る奈良シカマルはあんなやつなんかじゃない。
手が痛み、目元に風を感じる。
理由は考えたくない。
**********
【 唇をかみしめた 】
何かあったら助けてやる。いつでも言いな。
もうすっかり泣き虫くんではなくなった男にそう言ったのは何年前だったろう。
情けない。誰がだ。あいつだ。そして、自分が。
お前はその程度の男か。
頼られないことがこんなにも心に刺さるのは何故なのか。
あの男と自分。怒りの矛先は。
**********
【 遠い記憶 】
父と師がいて、隣にあいつがいた。
朧気にわかった。これは昔見た夢だ。
布団の上、このまま踞りたい。いつから俺、意識してたんだよ。無意識の世界で。少なくとも2年は前からか。アホか。
だがいつまでもこうしているわけにはいかない。
待ち合わせの3時間前。遅刻は厳禁。
**********
【 閉じた心、ひらいた目 】
怒り。
否定の言葉、湧き上がったのはそれだった。
力の限りの一発。
けどその後も胸のうちを明かされることはなく、心配もしたが、再びその姿を目にして感じたのは、やはり怒りだった。
しっかりしろッ、この馬鹿野郎ッ!
大風で吹っ飛ばされた奴が笑う。ようやくお目覚めかい。
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**********
【一行の空白】
またお前か
任務なんで
送ってく
律儀なことだ
じゃあまたな
ああ、またな
私たちの会話の間には、一行の空白が存在する。
何時からだろう。
その空白ができたのは。
その空白に何かを感じるようになったのは。
いつか。空白が埋まる日は。
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【 声が届かなくても 】
意識を取り戻し、真っ先に確認したのは周囲の状況。戦は終わったらしい。そう判断して次に確認したのは風影の、弟の姿。無事だ。
その次は――自分でも何を確認しようとしてたのかは自覚していなかった。
だが、目が合った。遠く。あんなにも離れていたのに。
互いに頷いた。それだけで十分だった。
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【 鼓動を聞かせて 】
「おめでとうございます、テマリさん」
ああ、信じられない。いるのだ、ここに。
ほんとうに? まだ自分でも実感できない。
何か温かいものがここにある気がするのは、サクラの言葉を聞いたから?
なあ、早く私にわからせてくれ。
お前がここにいるって。
父親みたいにめんどくさがるなよ。
**********
【おつかれさま】
お疲れ様。
遅い晩飯に妻は燗を一本つけてくれた。
「今日はサービスいいな」と言うと、たまにはね、と笑う。
「でも、そのサービスはやってないよ。」
尻に伸びた手はバチンと叩かれた。
「そういう店じゃないんだから。」
「そういう店に行かないんだから良いじゃねぇかよ」
**********
【正夢】
「夢、見た。」「ふぅん。」
「毎日忙しく働いて、すっげー美人な嫁がいて、息子が一人。孫がやっと独り立ちしたころ隠居して、老衰で逝く奥さんを看取った。」
「最後はともかく、良い夢じゃないか。」
「めんどくせー人生過ぎるだろ。」
「なんなら正夢にしてやるぞ?」
「…最後は無しでな。」
**********
【生涯、忘れえぬ人】
その手を振り払ったことに後悔はしていない。
何事もなかったかの日々。共にこなす仕事。たまに残る視線も諦めを覚え、互いに過去のものに。それが日常となって。
奈良シカマルが、死んだ。
慟哭。
慟哭。慟哭。慟哭。慟哭。慟哭。慟哭。
慟哭。
こびりつく最期の言葉。
私の、名を
**********
【24時を過ぎたら】
「靴を片方残したばかりに追跡・捕縛された、という戒めだな。」
なんか俺の知る話と違う。
「私がそんな失態をするか。」
「…アンタ、本当に痕跡残さねえもんな。」
「もちろんだ。」
「…跡、つけちゃダメか?」
「駄目だ。」
だが、と彼女は笑う。
「夜明けまではいてやるだろう?」
**********
【包んであげる】
我愛羅!こら!どういうつもりだ!
砂の球体の中から怒る姉の声がする。
「喧嘩を、していると聞いた。」
「今回はテマリが悪いじゃん。二人きりにしてやるから謝っとけよー。」
「…ま、一時間位で放してやると良いじゃん?」
「わかった。」
「あんま長くして調子に乗られても困るしな。」
**********
【もう一度言って】
甘い声でねだられて、俺はもう一生分言ったんじゃねえかと思う台詞をまた繰り返す。
その度に微笑む顔は俺の心臓を捕らえ離さず潰さんばかりに締め上げた、が………うええ、まだ怒ってる…。
「……テマリさん、好きです、愛してます、……だから、もう許して下さい…」
「だめ。もういっかい。」
**********
【やっと近づいた】
6.5。7.2。やっと逆転、5センチメートル。今は出会った頃より差が大きい。
「あっという間に抜かされた。これからも離されるな。」
「そうか?」
屈んで、重ねて、0センチ。
離れた唇に届くまで、何年かかったと思ってやがる。
「近いことの方が多いかもな。」
「腰、痛めるぞ。」
*********
【みつめるその先に】
私の話をすぐに理解してくれました。嬉しかったです。
暗号解読班室を毎日掃除するようになりました。楽しみだったから。
ぐるぐる眼鏡を止めることも考えました。冴えない容姿が恥ずかしかった。
今日、私幸せなんですよ? 本当です。
結婚、おめでとうございます。シカマルさん。
**********
【手をつなごう】
「かーちゃ、おれ、なかよし」
とてとてと歩いて妻の手に自分の小さな手を押し付け、息子は拙い言葉で主張する。
「うん、母ちゃんとダイは仲良し、な。」
よしよしと妻は頭を撫でると、息子は嬉しそうに笑った。
「とーちゃとダイは~?」
「………」
「無視かよ!」
父ちゃんは、悲しい。
**********
【正直に言って】
「以上が、この件におけるメリットとデメリットです。」
「シカマル」
「なんでしょう六代目。」
「つまり君は何をしたいのかな?」
五影の視線が集中する。
淀みない説明をしてた彼はめんどくさそうに首の後ろを掻いた。
「惚れた女を、嫁にしたい。」
そうそう、直球勝負も大事だぞ、若人よ。
**********
【さすがに参った】
「シカマル!初デート、どうだった?」
「…我愛羅の姉ちゃんとキスしたってホントか?」
「初めてのデートであんなことやこんなこと…お前がそんな奴とは思わなかったでシ!」
誰だよ根も葉も無い噂流した奴!
「暗部なめんなシ?」
「……何もなかったからな?」
「ヘタレでシ。」
うるせぇ。
**********
【いじわるしないで】
潤んだ瞳に上気した頬。
「…お願、ぃ…もう……っ!」
甘く脳髄を揺らす懇願に俺は……
ピピピピピピピピ
「…………」
そこで。そこでか!?
あの蕩けるような柔らかさも、目覚めと同時に霧散して。
次に会うのは十日先。
意地悪どころか拷問だ。あの女、容赦ない。
**********
【よみがえる記憶】
時折、隣に寝る男がうなされることがある。
顔を歪め、握った拳は白く、漏れる声は苦痛か悲哀か。
私は知らない。何も聞いてはいない。
だから血すら滲んでも目覚めぬ男の手を包み、ただ寄り添う。
与える安らぎは僅かでしかない。
その夢の中にいるのは私なのだろうか。それとも彼の、
**********
【トゲがあるから】
気を付けろよ、と彼女は言った。砂の試験場の下見中、見つけた大きめの虫。
「弱いが毒がある。」
そう言って彼女は自らその虫に刺された。
「おい!」
「対処法も学んどけ。」
「……吸出し方位、アカデミーでやってるっつの。」
その手を取り、甲に唇を寄せた。
吸い出す毒は、甘かった。
**********
【ふりむかないで】
昔は、見送るその時ちょっとは振り返ってくれねえかな、といつも思っていた。
今は、それは止めて欲しい、とたまに感じる。
ほら、振り向くだろ?
小さく振る手と笑顔が、俺をどういう状態にさせると思う?
幼馴染や同期に見られてみろ。
「うっわ。気持ち悪い顔。」
男の威厳、台無しだ。
*********
【きっとだいじょうぶ】
もうすぐ、あいつのいる月は破壊される。
弟たちは焦っている。
情報はない。あいつらの状況、任務達成の確率、そもそもそんな方法があるのかさえ。
だが、胸に浮かぶのは根拠のない自信だ。
だいじょうぶ。
頭では否定されるその想いが、真実だと私は知っている。
心配なんてめんどくさい。
**********
【背中を押してくれたのは】
「辛気くさい顔してんな!」
バシン、と叩かれた背中が痛い。
あー。そう言えば、昔この勢いで試合会場に落とされたな。
「会いたいなら行けばいいじゃねえか。」
「…もう、好きにできる立場じゃねえよ。」
「わかってるってばよ。」
印を組む。瞬身の術。砂の街?
また、背中を叩かれた。
**********
【サービストーク】
「ねーさん、笑うと可愛いねえ!」
「ふふ、それはどうも。」
「…世辞慣れしてんのな。」
「事実だからな。」
「そうっすか。」
「お前も世辞の一つくらい言ったらどうだ?」
「……あんた、笑うと可愛いよな。」
「30点」
「低っ。」
「やり直し。」
「もうやらねえよ。」
「残念だ」
**********
【こっちへおいで】
ぎゃん泣く息子が漸く大人しくなってきた。
乳を飲み、妻の腕の中でスヤスヤと眠る様は本当に愛おしい。
愛おしい、のだが。
……俺、1ヶ月ぶりの休みなんだけどなー。今日はいつになく母ちゃんべったりじゃね?
不満げな俺に妻は全く、と手招きする。
「お前が来れば良いだろ。」
へーい。
**********
【さすがに参った】
「いのじん、泊めて。」
「どしたのこんな夜中に。」
「親父が泥酔状態で帰ってきたのがついさっき。」
「うわぁ。大変だったね。(家じゃ大喧嘩だ)」
「ホント、大変だった。」
「居場所ないもんね。」
「ああ。」
「全く、親がいちゃつくとこなんか見たくねえ。」
「えっ」
「えっ」
**********
【甘えた声で】
だめだ、と答えるとしょんぼり、という言葉そのものに男は肩を落とした。
信じられるか?
木ノ葉の頭脳、連合の若きリーダー、次代の忍界に欠かせぬ男。そんな奴が高々女一人にこの体たらくなんて。
なぁ、と袖を引かれる。
全く、信じられるか?
その声が、様子が、どれだけ可愛く見えると思う?
**********
【包んであげる】
最初は藍色の布。そろそろ弁当箱を一回り大きくしようか。食べ盛りだしな。
次に深緑の布。食べる時間があればいいけど。
最後に、えんじの布。家で食べるから意味はないんだが、まぁせっかく父ちゃんが買ってくれたしね。
男どもがやってきて、包んだそれを掴み出掛けていく。
いってらっしゃい。
**********
**********
【止めないで】
暴風に紛れた空気の刃を受けながらも、男は私へ肉薄した。扇子でもってクナイの攻撃を防御するが続く回し蹴りに手元から吹っ飛ばされる。
それを認識する間もなく影が私を拘束し、降参しろ、という男の泣きそうな声。
ああ。どうか止めないで。
私とお前が触れ合う術は、もう戦いの中にしかない。
**********
【君の体温】
「寒さで冷えると、あいつ絶対手のひら押し付けてくるじゃん。つめてーっつの。」
「…まさか、誰にでもやるのか、あれ。」
「さすがに弟にしか…おい。しれっとそういうこと言うのやめろじゃん…」
「?」
「服捲ってまでやるだろ。我が姉様は。」
「……弟にもやるのか、あれ…」
**********
【何度でも伝えよう】
なんとか仕事を定時で終わらせ、帰りに幼馴染みの店へ寄る。
見繕ってもらった花を持って家に着くと、妻がおかえり、と迎えてくれた。
花を渡し、さあ頑張れ俺。一年に一回、この日だけは必ず言う言葉。
恥ずかしさを今日だけは乗り越えろ。
なんとかかんとか伝えれば、妻の笑顔が待っている。
**********
【お題無し1】
たまにしか連合本部に来ないが、入った会議室でこちらに背を向けてボケーっとしている幼馴染みを見つけたので、ちょっといたずらしてみることにした。
気配を消して背後に近づき、背中をつつーっと
「おいテマリ!それやめろっていつも…」
「へー。テマリさん、こういうことするんだ。へー。」
**********
【お題無し2】
「いいの?彼氏がちょっかい出されてるけど」
「いのは私より付き合いが長い。別に気にしないさ」
「そういう時はクールじゃない方が女は可愛いわよ?」
「その分拗ねた男が可愛く見える」
「確かに、可愛い男は最高ね」
ああ、“可愛そう“な男たち。
**********
【お題無し3】
「尻に敷かれてるわねー」
うるせーよ。
夜は俺が組敷いてるっての。
可愛い顔もさせてるし、可愛い声も上げさせてる。
見てろよ、と心に刻めば、向かいの男と目があった。
今、言葉いらずで組まれた協定で、今日の会議は早く終わるだろう。
仕返しは今夜決行だ。
**********
【可愛いひと】
軍議の如く逢瀬を承諾し、契約の如く詳細が決まる。
合間の仕事も真面目にこなし、あの約束は夢かと疑う。
満月高く昇る夜、宿場へ彼女を送り届ければ、
普段と変わらぬ別れとなり。
踵返すその時に、袖引かれて見る彼女。
明日な、と赤く染まりし頬が言い、嗚呼これほど可愛らしきものは無し。
**********
【そらした瞳】
翡翠がこちらを捉えてつい逸らす。
なんだ、と問われなんと答えたものか。
言うべき言葉はわからなくて、紅が引かれた唇に己のものを重ねた。
唇を離すと濡れた緑石が恥ずかしさからか向こうを向く。
逸らされるのはなんだか嫌で、俺はまたそれを捕まえた。
どうせ、すぐ瞼に隠れるのに。
**********
【お題無し】
家に帰ると、親父が母ちゃんの膝枕で寝ていた。
思わず顔が歪む。
だけど他の家に比べればうちは“凄くあっさり”なんだそう。
愚痴ればいのじんやボルトには「は?」という顔をされ、ミライには「思春期だね!」なんて笑われる。
ただいまも言わず部屋に上がった。
全くほんとにめんどくせー。
**********
【誰もいない保健室】
「せっかく、砂の医療忍者の実力を見せようと思ったのに。」
「別に平気…いってえ!?」
「庇ってもらって出来た傷だ。消毒くらいさせろ。」
「…礼のつもりなら優しくしろっての。」
全く、こんな生意気なくの一、なんで助けちまったんだか。
「……ありがとな。」
どきっとすんな俺の心臓!
*********
【なつかしいあの曲】
膝に恋人の頭を乗せ、彼女が口ずさむは子守唄。
「…良い子は寝ろってか?」
「昔、母様がたまにこうしてくれていた」
「へえ」
「悪い子だった。母様を独り占め出来たのはその時くらいだった」
「そっか。…なあ、」
「ん?」
「それ。もっと聞かせて」
「…ふふ。悪い子だな」
**********
【とまどいはかくせないもの】
「よう、サクラ。今日も良い天気だな!」
いや今日大嵐だけど。
鼻歌すら歌いかねないご機嫌さでシカマルは次々と仕事を片付けていく。
カカシ先生とナルトの顔、ひきつってるわ。
いのがこそっと耳打ちしてきた。
「昨日、例の""デート""だったんだって。」
何があったの!?浮かれすぎでしょ!
**********
【惑わせないで】
夫が取り出したのは、所謂様々な職業の制服、というやつだった。
「マンネリ化した夫婦生活に彩りを!」
馬鹿なんだろうか。頭が良いのが取り柄だったはずだが。
根負けして一回だけならと承諾する。次は適当に断ろう。
結果。
満更でもなかったとか。
…次は適当に…断れ、ない、かも…?
**********
【もしも猫なら】
日がな一日、のんびりしたい。そう、今妻の膝の上で喉を鳴らしているアイツのように。
「ごっそさん」
「お粗末。すぐに戻るのか?」
「いや、ちょっとは時間ある。」
「お前も昼寝する?」
「…先客をどかしてくれたら」
「にゃあ」
「やだ、ってさ」
チクショウ。俺の場所だろ。
**********
【もしもし、だぁれ】
居間で夫が最近試用しているという“すまふぉ”なるものが鳴っていた。恐る恐る手に取ると、俺俺、と声がする。
「え、あ、わ、私は奈良テマリ、だ。夫、いやシカマルはいないので、えっと」
機械の向こうから笑う声。
「こちらは奈良シカマルだ、“奈良”テマリさん?」
夫の忘れ物にはご用心。
**********
【新しい服を着た日には】
男の胸や脚を舐める視線は全く分かりやすい。
バレていないと誰もが思っているのは滑稽を通り越し憐れですらある。
久しく会った男も私の胸を見て脚を見る。だが見た自分には気付かない。
この場合憐れなのは私の方だ。
その視線すら求めている。
服の感想が欲しい乙女心?犬に食わせろ。
**********
【寝顔を見てる間に】
まだ陽すら昇らぬ朝に女の顔を見るのが好きだ。
この想いをどう表現したらいいのだろう。
睦み合う時につい溢れてしまう言葉が一番近い気はするのだけれど、あれで全てを表せているとは思えない。
自分で辱しめておきながら、あどけない寝顔に感じる罪の意識。
せめてと金糸を掬って口づけた。
**********
【触っちゃダメ】
結構考えが硬い、と仲間内から呆れられている。
交際が始まり、婚約まで行ったが、俺は彼女に口づけ以降のことをしたことがない。
実のところは、ただ怖い。
この欲求は、欲望は、一度堰を切ってしまったら絶対に止められない。
だから俺は自分に制約を
「私は、構わないのに」
それは、反則だ
**********
【ごはんができたよ】
台所を使っていいかと聞かれたので頷いた。休み故にもたもたと身支度をする俺がダイニングに着くと、そこには立派な朝食と得意気な笑顔の彼女。
「…テマリ、結婚しよう。」
「すでに婚約中だろうが。」
母親のとは違う味の卵焼きが、これから彼女と一緒に暮らすのだと、強く俺に意識させた。
**********
【声がかれるまで】
季節外れの大風が吹くと「また奈良家で痴話喧嘩か」なんてのは木ノ葉では有名な話。
翌日、奈良相談役が全然喋らなくなるのも火影邸では知られた話。
でも、そういう時、奈良家の嫁がとってもご機嫌なのは極一部しか知らない話。
さて相談役。君は大風に負けぬ大声で、何を妻に言ったのかね?
**********
【泣くなよ】
「好きになった人が既婚だっただけなんです…それがそんなに悪いことですか…!」
嗚咽を漏らす女をやっと振り切り火影室に飛び込めば意地悪い顔が待っていた。
「女泣かせだね、奈良上忍」
「泣きたいのはこっちですよ、六代目」
噂はとっくに広まっただろう。
妻が泣くだけの女なら苦労しない。
**********
【夢かと思った】
「…どうした」
「世界は平和で、俺にそっくりの息子がいた。でも目だけはアンタだった。アンタは笑ってた」
「…まるで別の世界の話だ」
「ああ」
「私も、同じものを見れるだろうか」
「…見れるさ」
男の片腕は無く女の脚は曲がっていた。
流れる緋は二人を染める。
嗚呼、こちらが夢なら。
**********
【ずっとさがしてた】
砂のテマリ殿は長年の信頼もあって、案内人をつけず、里内でも割と自由に過ごすことができる。
が、どこにいるかわからないって問題じゃね?と俺モブ忍Aは書類片手に思います。
そんな俺を見て、先輩が教えてくれました。
「お前、そういう時は、シカマルの居場所を聞くんだよ」
…ええっ!?
**********
【お題無し】
「いの、良いところに。ちょっと心伝身でシカマル呼んでくれない?帰っちゃったみたいで。」
「ヤです」
「火影命令を即拒否!?」
「だってシカマル明日休みじゃないですか」
「うん」
「今テマリさん来てるじゃないですか」
「うん」
「ヤです」
「うん…」
**********
【お題無し】
射し込む月明かりのみでは、散乱した衣服に紛れた髪紐は見つからなかった。
「はい」
「さんきゅ、って…これ今日してたやつじゃねえな」
「初めてのときの。記念にもらった」
「…意外に乙女しいな。つーかならなんで朝いねえんだよ」
「最後かと思ってたよ」
「アンタにしちゃ、読み外したな」
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**********
【まるできょうだい】
なんとなく気にかけたり、世話を焼いてしまう。
私がそんなことをするなんて、弟たちくらいだ。
つまりあいつも弟のようなものだ。
姉貴は必死にそう主張するが、真っ赤な顔で言われてもなぁ。
我が姉様は、弟と出掛けるのにわざわざ小綺麗な格好して化粧することなんてなかったじゃん?
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【温度がちがう】
熱い、と女は考える。
今、闇に沈む黒瑪瑙が私を焼き尽くそうとしている。
平素より老成した男は好意を述べる際こそ若者らしい羞恥くらいは見せたが、しかしそれは随分と素っ気なかったものだった。
けれど、ああ、まるで違う熱量。
男のどこに、こんな熱があったのだろう。
もっと、私を焼いて。
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【今だけ恋人】
門に佇む見慣れた顔。
挨拶もそこそこに、手に持っていた花を押し付けられ、手を取られた。
こんな恥ずかしい振舞いをする男だったろうか。私の顔も男の顔も赤い。
「る、せーよ。今の関係は今しかねーだろ」
「お前が何もかもすっ飛ばしてプロポーズするからだろ!」
半年後、私達は夫婦になる。
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【こたえはここに】
「一次試験の問題か…ちょっとワンパターンになってきたな」
「アンタなら、どう変える?」
「…問1 他里の異性に口説かれた時の対処を述べよ。答え、振る。満点」
「おい」
「問2 問1で振る以外の選択をとり、自里には不利益をもたらさない方法は」
「…」
「あったらいいのにな、答え」
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【真実の色は?】
人の上に立つほど白く綺麗なままではいられない。
最近組織のNO.2になったこの男は計算付くで殺し陥れることに慣れたようだがそれに堪えられなくなると私を犯す。
影遣いは闇の扱いを心得ていて、そうして翌朝には何でもない顔で光ある未来を語る。
流された血の量だけ、私の身体に朱が残る。
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【そっと抱いて】
二人は関係ははっきりしていない。
本人達曰くは、何もない。
しかし、敵の襲撃を庇って傷付き、倒れたのをそっと抱き上げる様は、どう見たって特別な絆があるとしか思えない。
とはいえ、今は先に言うべき事があった。
「テマリ、姫抱っこは止めてやれじゃん」
…わかってねーな、あの顔。
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【もう一度キスをして】
正式に嫁というものが出来、休暇が終わった最初の出勤日。
さあ出ようとしたその時に引き寄せられて、唇に感触 。
「…し、新婚ぽいかと思ったんだが… 」
「あ、うん……」
朱に染まる二人の顔。
「………………えっと、あのよ」
「…?」
「……もっかい」
その日は遅刻した。
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【どうしようもないくらい】
数秒気絶していたらしい。後ろを突かれ、果てた先でまた果てる。性欲などあるのかわからん男だと思っていたらとんだ絶倫だ。それは私も同じだが。
男女の戯れの一つ、と始めた行為に、どうしようもないほどハマっていた。
表向きはとっくに敵対しているのだから、どうしようもない関係だった。
**********
【約束はひとつだけ】
「嫁入りの条件は纏まったな」
「ああ、長かった」
「私からも一つ条件だ。約束しろ」
「私が里間の障害になったら見捨てろ」
「嫌だ」
「そんな状況にはさせないとか言うなよ」
「アホか。アンタ、俺の子産むっつったろ」
「子どもから母親を奪えるか」
「そうか」
「…そうだな」
**********
【プレゼント】
いくら仕事が優秀でも、こと色恋になると気が利かない、という男は多い。
目の前には細長く上品な桐箱が一つ。中身は筆だった。
添えられた便箋には一言、
《式の希望日を求む》
完全なる私信で届けられた荷物は公的要素を含まざるを得ない用件しか述べず、全くあの男は不器用にも程がある。
**********
【困ってる顔がすき】
「皺、寄ってる」
眉間を親指で撫でてやると男は疲れた息を吐く。
「各里各国の軋轢。収まらないテロ。呑気な顔もできねえさ」
「そのための連合」
「そのための今」
「もう一踏ん張りだな」
「ああ。けど少し休憩したい」
「…何だこの手は」
「俺が困ってるとアンタは優しい」
「慰めて」
**********
【もう会えないの?】
コトリと置いたそれを見る。
幅広の布に縫い付けられた銀のプレート。まだ短い人生だが半分近くはこれと共にあった。
さようなら。砂のテマリ。
これまでの私が一切消えてしまうことは無いけれどそれでも私は別れを感じる。
さあ寝よう。そして只のマリッジブルーと明日は笑い飛ばすのだ。
*********
【具体的には?】
「ボス!木ノ葉と砂の電子メールの解読、成功しました!」
「くく。これを以て忍界の平和などぶち壊してくれるわ。して、中身は」
「えっと…只の私信の様です」
「具体的には。暗号かもしれん」
「『俺の翡翠へ。会えなくて寂しい、』あの、本当に全部読みますか。あと200通はありますが」
*********
【この雨がやんだら】
スコールが窓を叩いている。
部屋の中の矯声は何時もより一際淫靡で、それはここが彼女のホームだからなのか、声が外に漏れぬ心配がないからか。
雨が上がれば彼女はいつも通り無かったことにするのだろう。
雨の日に俺がすがったばかりに始まった関係を、修正する方法が俺には全くわからない。
*********
【明日までだよ】
「父ちゃん、来週の親子遠足どうするんだ?」
「え、もうそんな時期か!?」
「7代目やみんなの仕事調整したんだろ」
「そうだあちこち帳尻合わせして…くっそ俺のは後回しだった…」
「出席可否は明日までだよ」
「え、ちょ、」
「無理するなよ」
「…差し入れ、鯖味噌が良い」
「はいはい」
*********
【恋をするには】
至極めんどくさがりの彼が面倒くさい恋というものを避けるのは当然のことかもしれない。
だが恋というものは突然やって来るものだ。
彼が気付かない振りをしたって、それは何度でもやって来る。
ほら、また。
いのは通りすがる二人を見て思う。
彼が恋をするには、彼女の笑顔一つあればいい。
**********
【終わりって案外あっけないね】
彼女は時折砂時計を眺める。落ち行く砂が炎を見つめるのに似た落ち着きを覚えるらしい。
けど、 と彼女は言った。たまに父親を見ている気分になるよ、と。
途中で止めることは無いんだ。落ちきるのが当然だから。
弟にもしたことが無い話なのだろう。
一夜で全てわかった気の自分に反吐がでた。
**********
【おなかいっぱい】
目を剥いた彼女にこっちが驚いた。
「兵糧丸が美味いだと…!?」
何の変鉄もない市販品だった。
不味くはねえが特別美味いもんでもない。
怪訝な俺に渡された砂のそれ。一口含んで…吐くとこだった。
「全く木の葉は甘くて困る」
豊かさの差だな、と言う彼女に言える言葉が無いのが悔しかった。
**********
【大丈夫だよ】
月一の連合会議で会って開口一番男は言った。
「具合悪いのか?」
「…別に問題ないが」
「そうか」
その後の男の態度はいつも通り。
だが会議が終わり、飯行くぞ、と誘う男は言外に断ることを許さない。
憂鬱だ。
仕事では無くした途端、こいつは私を容赦なく気遣いつくすつもりに違いない。
**********
【ふりむかないで】
背後に殺気。だが俺は振り返らず、右斜め前方へ飛ぶ。左半身を通り抜けた風の刃が、大木を切り裂いた。
振り返るな。捕まれば死。けど俺は…
「2年ぶり5回目。父ちゃんたまに大ポカやらかすよなー」
「…シカダイ」
「何?」
「母ちゃんの殺気って癖になるよな」
(あ。駄目だこのクソ親父)
**********
【風邪かな】
「へっくし」
「風邪か?腹出して寝てるからだ」
「出してねーし。あんたこそ裸で寝てる癖によく風邪ひかないな」
「鍛え方の問題だ」
(え、一緒に寝てる!?)
(いや、そうとも限らない会話だろ)
(結局どっちなんだよ!)
本日、忍連合第28回あの二人は付き合ってるのか会議開催中。
**********
【海のむこうに】
かぜでとぶのだ すなのこよ
さばくのうみのむこうまで
そして しあわせに なったとさ
「なんだそりゃ」
「砂に昔からある絵本じゃん。明らかに風遁遣いに啓蒙してるけど」
「へえ」
「最近改定されたやつは主人公が女の子で、火の国の男と結婚するオチになってたけどな」
「ごほっ!?」
**********
【存在感が半端じゃない】
僕はモブ忍A。自慢じゃないが僕は存在感が半端ない。ほら、今確かにノックして入室したのに、奈良上忍が「Aのやつ遅ーな」とか言うくらい、それが薄い。
忍としては優秀だろうけど、これ、悩む。
あ。上忍の奥さん。
悩むよ。ホント。今の状況とかさ。上官のラブシーンとか、誰が見たいと思う?
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【ないしょばなし】
よう。これは内緒の話なんだがな。砂で他里との縁談が気に入らぬ、と相手が暗殺されかけた。砂姫は大層憤慨し、一族郎党左遷したそうだ。こえー女だよな。
けど木ノ葉でも似たことを考える奴はいて、その姫も一時死にかけたとさ。
も一つ内緒の話があるんだ。
アンタ、これからどうなると思う?
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【行きたくない】
「やった!俺、今度テマリ様と連合会議に行くことになった!なぜか立候補者がいなくてさー」
「あー…御愁傷様」
「何でだよ!テマリ様と二人きりだぞ!?」
「で、二人きりだったか?」
「…ああ。テマリ様と…木ノ葉の奴が」
「…テマリ様、すっごく可愛かった」
「そうか」
「(泣)」
**********
**********
【ひとりじゃないから】
頼ることは悪いことではない、と口にしつつ、その女が弱音を吐くことはない。
頼む、俺に守らせてくれ。
懇願したい。そう言えたら。
一人になるなと言いたいのに、一人にしないでとしか聞こえない。
お前は一人じゃないよと笑う女を一人にしないために、俺ができることは驚くほど少ない。
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【もうそばに居られない】
紅は大門で恋人の弟子たちを見かけた。
3人でなにやら話していたが、一人抜け、彼は外から来た客人を迎えに行く。
残された二人のうち、少女の方が複雑な表情を浮かべていた。
“いつまでも一緒”じゃなくなることに気付くのは大抵女の子が先だ。
絆が無くなるわけではないわ。紅は笑む。
**********
【誰もいない教室】
筆記試験で使う教室を検分する。砂のアカデミーに入るのは初めてだった。
教壇部分に立つ女。実在に教鞭を取ったこともあるらしいが、その頃を想像して可笑しく思った。
16才の少女がそれはもう真面目に、懸命に教師をしていたのだろう。
怪訝な顔をする恋人に、俺はなんでもない、と手を振った。
**********
【恋のライバル】
『好きな奴?』
なんかの拍子にそんな話に。
ふむ、としばし女は思案し「いるよ」と答える。「アンタが?」と返した声は揶揄を込めてどこか掠れた。
「それなりに優秀、なんだがどこか放っておけなくてね」
この女も、そんな顔をするのか。
「そいつは不幸な男だな」
交わす会話の、声が遠い。
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【なかなかやるな】
女は脚に力が入らず倒れこみそうで、俺は腰に回した腕に力を込める。
「お前っ…女に縁がないとか嘘だろ…っ」
器用貧乏は自覚しているが、それが利になることもあるのは悪くない気分だ。
「ギブアップ、するか?」
「誰が」
ではもう一戦。濡れた唇に噛みついた。年下だからって、負けるかよ。
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【何とかなるよね】
所謂遠距離恋愛というものに「なかなか会えないなんて」と言う奴は少なくない。
けど我慢したあとの馳走は割とやみつきになる、と本日何度目かわからん行為の後で俺は思う。
淡白過ぎだのなんだの言われるが、それはこの不健全さの反動だということを、俺たちは何とか誤魔化せているらしい。
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【後悔してる】
家のダイニングには、時々一輪だけ時季の花が飾ってある。
それを買ってくるのは父ちゃんで、俺はまたいのおばちゃんに買わされたな、なんて思っていたけど…
あれはその昔、父ちゃんと母ちゃんがデートしたとき上げてた花なんだと。
聞いてくれよ、いのじん!
もー、俺そんな話聞きたくなかった!
**********
【好きって言って欲しかっただけなのに】
アンタ、俺のことどう思ってるんだよ。
交際、というものを始めて暫く。口から出たのはなんとも情けない問いだった。
女の眉間に皺が寄り…そして、“プレゼン”が始まった。
俺の魅力はどこか。他の男とどう違うのか。俺に対する自身の挙動。
熱情持った内容なのに、口調は仕事と変わらない…。
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【早く行けよ】
女は夜に寝所を訪れることは許しても、朝まで滞在することは許さない。
「行け。すぐ任務なのだろう」
空白みが始まる刻まで引き留めたくせに、酷い言われようだ。
「俺、アンタの性欲処理具じゃないんだけど」
「じゃあ来るな」
言葉の裏を読める程度の関係。
行け、という言葉の名残惜しさ。
**********
【恋人のつもりで】
「もう出るぞー」「待って、今行く」
随分とめかしこんだ妻が玄関にやって来る。
「ん。綺麗だよ、母ちゃん」
誉めたのに不満げだ。あ、そっか。
「綺麗だよ、テマリ」
笑顔が眩しい。
「…玄関出てからやってくれ」
そう言うな息子。結婚記念日に旅行をプレゼントしてくれたのはお前だろ?
**********
【赤い糸が見えたら】
「鎌足でズタズタにする」
「ひでえ」
「そしたら、今こんな面倒くさいことにならなかった」
「…前提として糸が繋がってたことは否定しな、うわ!」
「口動かすなら頭動かせ。これを機に一気に里間の緊張緩和を行うぞ」
「結婚すら利用とか、怖え女」
「その女と切れなかったのが運のツキさ」
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【こころの闇】
憎しみを撒き散らし、他者を害せば、そいつは悪と見なされる。
たが憎しみをコントロールし、害した他者がそもそも悪と見なされていれば、そいつは正義らしい。
「暁討伐、さすがだな」
「ま、上手くいってよかったぜ」
屈託なく笑う男を異常だと思う私が異常なのか?
昔見た泣き虫は、どこへ。
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【秘密を知ってしまった】
あの人と付き合うことになった、と親友が打ち明けてくれた。
「よかったね」「おう」
ボクは本当に嬉しかった。
「だって、ずっと好きだったもんね」
ちょ、いつから知って、と慌てる姿がなんだか可笑しい。
親友にも言えない君の秘密。
教えてくれないから、知ってることは僕も秘密だったんだ。
**********
【パートナー】
付き合いも長いし、相棒みたいなもんさ。
双方の言い分である。
とは言えなあ。連合本部に集う若き影候補達はぼやく。
「なあ」「これだろ」「例の」「あの件か」
ツーカー阿吽、固有名詞の無い会話。
結婚式は祝ってやろうな。ああ。そうですね。
事実に構わず、外堀だけは埋まっていく。
**********
【左手の薬指】
「草花で…何を作ってるんだ?」
「ああ。冠とか、首飾りとか?俺もよくいのに作らされた」
ふうん、と答える彼女は、どこか羨ましそうに遊ぶ子供らを見ている。
だからなのか、俺はその遊びを彼女に実演した。
花を飾る指に躊躇がなかったのは、幼少のママゴトの刷り込みで、他意は無い。無い。
**********
【やさしいフリで】
私を弱いものとして扱う男は嫌いだ。だが、それが許されない時がある。
今、男は壊れ物かのように私を扱う。
「お前は連合の要だろ」
答えぬ男は私の腹の傷を殊更優しく舐めていた。
「…悪かった。勝手に前線に出たりしないから」
答えはない。
男の怒りがとけるまで、この優しさは終わらない。
**********
【季節が変わったら】
うーん、といのは思い悩む。
今季はどの花にしようかしら。
季節ごとに一輪だけの固定客。被りはNG、センスも問われる。
買う本人はその辺全然わからないし!
奈良シカマル様購入履歴、と書かれたメモ片手に幼馴染みの恋を応援する店員は、それを面白くなく見つめる墨絵遣いの客には気付かない。
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【はんぶんこ】
木ノ葉も夏は暑い。
「ほい」
「…氷菓子?」
ぱきっと割ったそれを二人でちゅうちゅうと吸う。
「いいな、これ!砂に輸入したい。お前付きで」
「なんで俺付きなんだよ」
「だってウチは三人姉弟だぞ?」
「一つ余るじゃあないか」
眩しいのは日射しか、それとも
蝉が煩く鳴いている。
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【ただ見てるだけだよ】
「…なんすか」
風呂上りの髪をがしがしとタオルで拭いて、気まずさを隠す。
「俺の顔なんて、もう見慣れただろ」
「もちろん。蜜月の休暇で三日三晩。こんなにお前の顔を見続けたときはない」
「…早く飽きられても困るんすが」
「じゃ、もっとイイ顔を見せて?」
俺の嫁、すげーイケメンー。
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【 正直に言って 】
正直言って、おっかねぇし。
正直言って、きっついし。
仕事サボると尻叩いてくるくせに、仕事にのめり込むと休めと怒る。
母ちゃんとも仲良しで、家での俺の立場はすっげぇ低い。俺家長なんだけど。むしろ里のエライ人なんすけど。
正直、なんで嫁にしたんだか。
正直、愛してるからなんすよね。
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【笑って泣いて】
そろそろここで余興を一つ。
これはある少年少女のお話で。
少女の笑顔に惚れた少年と「ちょ、ばらすな!」少年の泣き顔に惚れた少女「そこ、捏造しない!」その二人の恋物語。
泣いて笑ってのハッピーエンド。
語りますのは新婦の弟。
さてはて皆様ご注目。
カラクリ演劇、はじまり、はじまり。
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【あなたは幸せでしたか?】
親父の後を追うように、母ちゃんは穏やかに眠って逝った。
男が女を引っ張んなきゃいけねーってさ、そんな早く連れてくことないじゃないか。いや、母ちゃんが追いかけていったのか。
『あいつは私がいないとホント駄目だからね』
ニシシ、と笑う顔が少女のようで、ああ、親父。この笑顔は可愛いな。
**********