マネージャーになんかやらかしたそーちゃんと俺 自販機の飲み物って、なんかときどきすごく変なのあるよな。コンビニとかスーパーには売ってない、味の想像全然つかないやつ。スタジオの自販機にマジでヤバいのあった。
だって塩バナナソーダだよ? ヤバくね? バナナに塩入れてソーダにするってヤバくね? 「夏は熱中症を防ぐために塩分を取ったほうがいいんですよ」っていおりんが言ってたけど、さすがにこれはなくね?
なんて言ったら「駄目だよ環君、どんな商品だって開発者のみなさんが考えに考えて売り出したものなんだから」とか、そーちゃん言うかも。うん、絶対言う。アイドルなんだから影響を考えて発言しなさいって。まあそうだよな。俺も王様プリンまずいって言われたらムカッてするし。だからうん、これもハマる奴にはハマるのかも。
じいっと塩バナナソーダ見てたら、ドアの開く音がして、だれかの足音がした。そっち見たけど、もうだれもいない。外に出てっちゃった。
だれだろ? みっきーたちはさっき飲み物とアイス買いに行ったし、残ってんのはマネージャーとえっと、そーちゃんとナギっちだっけ?
ナギっちじゃないことは確定。だって、外に出たら暑くて溶けマースって、みんなと外行くのいやがってたもん。あんな勢いよく出てくわけない。ヤバ、俺、名探偵なれるかも。
「あれ、そーちゃんだけ?」
スタジオに戻ったけど、そーちゃんしかいない。絶対ナギっちはいると思ったのに。そーちゃんもなんか変な態勢で固まってるし。立つなら立てばいいのに。
「ナギっちとマネージャーは?」
「あ、うん。ナギ君は、ここなちゃんのお菓子見つけたよって陸君からラビチャが来て、飛び出して行っちゃった。マネージャーは――」
そーちゃんが一回口を閉じた。
「マネージャーも、スーパーに行くって」
「そっか」
床に寝そべって、やりかけの星を折る。
こういうチマチマしたのってあんま得意くないけど、形がバラバラなのも個性だってマネージャーが言ってたからいいや。いおりんはお手本みたいにきっちりしてて、ヤマさんのは適当。りっくんは最初に鶴折っていおりんに怒られてた。ナギっちは喜んでたけど。
「そーちゃん、手ぇ止まってんよ」
俺がいっこ星作ってるあいだ、そーちゃんは星のふたつめの角のところ押さえてぼーっとしてた。しかも気付いてなかったみたいにビクッてする。
「あっ、ごめん!」
「べつにいいけど」
少しくらい手を抜いていいと思う。そーちゃんが真面目に折ると、角が鋭すぎて手裏剣みたいになるし。でもなんか上の空すぎて星じゃないのできそうになってる。
「なんかあったん?」
俺がトイレ行く前は普通だったはず。ダンスの先生が来れなくなったから、みんなで寝転んで番組用の星折ってたんだけど。お遊戯会の準備みたいで楽しいねってニコニコしてたし。
「ああ、うん。その、なにかっていうほどじゃないかもしれないんだけど。でもちょっと気になることがあって」
「で? なにがあったの?」
そーちゃんはいちいち前置きが長い。手紙とかで季節の挨拶全部書くタイプ。なんだっけ、前略?
「えっと……マネージャーと、ちょっと」
「マネージャー? なに、喧嘩したの?」
匍匐前進でそーちゃんに近づく。そーいえば、マネージャーはそーちゃんのとなりにいたっけ。
「喧嘩はしてないよ。ただ、逃げるように外に出ていったから、僕がなにか気に障ることをしたんじゃないかと思って」
「気に障ること? マネージャーになに言ったの?」
「特別なことは……。どちらかというと、マネージャーが特別なことをした感じなんだけど」
分析モードに入ったそーちゃんが、身体を起こして正座する。
「だから、なに、特別なことって」
「えっと……その、なんていうか、とても嬉しいこと?」
「ぜんっぜんわかんない。なんでマネージャーが嬉しいことして逃げたの?」
「だから僕の取った行動が気に障って――いやでも、僕はまだなにもしてなかったから、正しくは未遂? どうだろう、厳密には――」
これだ。そーちゃんの悪いとこ。まわりくどくて自分だけで考えてずっとグルグルしてる。ズバッと一言で言ってくれればいいのに。てか結局、特別なことってなに。
そうだ、こういうときは相手の立場になって考えればいいんだ。俺がそーちゃんになっても意味ないけど、そーちゃんがマネージャーの立場になればなんかわかるかも。ヤバい、ちょー名案。
「ねえねえ、そーちゃん」
「なに? 環君」
「そーちゃんがマネージャーにしようとしてたこと、そーちゃんが龍のアニキにされたらって考えてみ?」
パッと思いついた名前で例えてみると、そーちゃんは考え込むみたいに黙って――すぐに顔を真っ赤にした。
「ぼ、僕は、嫁入り前の女性になんてことを……」
「マジで!? えっ、そーちゃん、マネージャーにそんなやっべえことしたの!?」
「違うよ!? まだしてなかったよ!? でも、もしも僕が十さんに同じことをされそうになったら――」
「なったら?」
「……爆ぜるかもしれない」
今度は急に真顔になった。情緒ヤバすぎ、ジェットコースターじゃん。
そっからなにしたのか教えて教えてってねだったけど、そーちゃんは教えてくんなかった。なんか顔に触ろうとした? とかそんな感じらしい。じゃああとはマネージャーに聞くって言ったら、鋭利な星を首筋に当てて凄まれた。こえーよ。