<LIC>
俺は、暇な時間が苦手なタイプの人間だった。
何かをしていないと落ち着かない。常に体を動かしていたい。
座学なんてまっぴらごめんだ、じっと座って大人しく話を聞いてるだけだなんて、暇すぎるにも程がある!
だから、参考書片手に天上街中を駆け回り、いろんなパーツを見て、手にとって、集めて、組み上げて、そうして出来たのは一台の車だった。
ああ、だけど出来上がってしまった。それってつまり、すごく暇になってしまったっていうことじゃないか!
また、天上街を駆け回った。今度は、もっとたくさんのところを見て回った。
見つけたのは二つの不思議な鉱石と、『水下街』という概念。ああ、なら、あの車を改造しよう。
そうすれば、俺は暇を潰せるし、世の中にも貢献できるし、貢献できるということはお金が手に入るということで、お金が手に入ればまた、暇を潰すためのモノが手に入る。
青年はどうしようもなく暇だった。
<BAN>
そういえば、俺は、実戦で覚えるタイプの人間なんだ。
深海生物の巨体を前にして、ふと思い出した。周りじゃ仲間が喰われてるってのに、暢気なものだと呆れた。
だが、実際そうなんだ。だから何だとはいえないんだが、そうなんだ。
だから、これも『実戦』の内。経験、経験なんだろう。たぶん、きっと、そうだ。
そうでなければ、俺は、仲間を見殺しにしたクズ野郎じゃないか?ああ、仲間の右腕が。
まあ、そんな事はどうでもいいんだ。問題は、この、仲間が命を懸けて逃がしてくれた俺を、どう生かすかだ。
このままここにいたら間違いなく喰われるだろうに、体が動かない。
恐らくというかなんというか、これは恐怖だ。もう、恐ろしいなんてものじゃない。
ああ、ぐるぐると、ワケの解らないことばかり考えている。
巨体が振り向くそぶりを見せて、やっと脳から体に信号が伝達された。走れ、と。
男はどうしようもなく臆病だった。
<LIO>
中学二年生程の少年少女に流行する病、『中二病』。オレは、それを遅く発症してしまったらしい。
この年齢にもなってそんな幻想を追い求めてるのはお前くらいだ、なーんて、言われちまったりもする。
でも、気になっちまったモンはしょうがない!その説は、検証すらされずに、異端児扱いされていたんだ。そんなのって、絶対におかしいじゃないか!
だから、オレが研究しようと思ったんだ。その説を唱えた人は、世間の目に耐え切れずにやめてしまったようだから。
ああ、でも、残念ながら。物語にあるような、派手な『古代魔法』。そんなのには及ばないくらい、小さな小さな成果しかない。
それでも、それは大きな一歩だった。そもそもオレは『魔法』が得意じゃないから、協力者が欲しいな。でも、その前にもっとやれることがある。
例えば、この小さな古代魔法を安定して出せるようにする、とかさ。
少年はどうしようもなく真剣だった。
―――
<×××>
きづけば うみのなかを ただよっていた
“ただ なかまたちが かられてゆくのを みていた”
そういったこが いた
みこは はなしをきくしか できない
そういうやくわりなので しかたがないけど
ただ ひとつ おもうことがあるとすれば
わたしは だれ なんだろう
少女はどうしようもなく無知だった。
<???>
「よーし、よく聞け!深海生物と遭遇したらまずは逃げること!」
「おにげっげ?げげっげー!」
「いやいやバッカじゃねーの。俺の兵器がありゃあ勝てないわきゃねえって」
「そういう油断が命取りだってーの!ハイお前死んだ!死んだよ即死だよ!」
「へいへい」
「でさ、今回の依頼は?地質調査?それとも採取?討伐?それによって持っていく装備も変わっちゃうからはっきりしてくれー」
「あー、今回はー・・・なんだっけ?リック」
「ホンットお前仕事へのやる気が感じらんねーよなー。討伐と採取!深海生物の体細胞を採取!」
「にくへん、にくへーん?」
「そーそ。だぁから、さっきのアドバイスは駄目ってこった!オッケー?」
「オッケー!じゃあ保存容器とかいるね!」
「リューは、おるすばんですかー?」
「や、リューも来てくれ。割と未踏っぽいから案内頼むわ」
「はぁーい!」
水下街探索事務所は、今日も騒がしい。
→そもそも
ギルド「水下街探索事務所」
所長:ハナワキ エイジ/“バンダナチャイナ”の“バン”
25歳くらい/深海生物との戦闘・総指揮
魔法習熟度:60(『水没車』を扱える程度)
適当な感じ/めんどくさがり/不憫枠
・ヨドベツ アツシ/“ワーカホリック”の“リック”
21歳くらい/機械・兵器関連
魔法習熟度:100(機械のエキスパート)
クール系気取り/動いてないと落ち着かない/正に『仕事中毒』
・サクラ ショータ/“カチューシャライオン”の“ライオ”
17歳くらい/素材・伝承関連
魔法習熟度:20(日常生活を何とか送れる程度)
(古代魔法習熟度:25)
信念を曲げない/ちょっと捻くれ/中二病扱いな普通の子
・“クラゲニンゲン”/“竜宮城の乙姫”の“リュー”
年齢不詳/深海生物とのコミュニケーション・水下街の地理
魔法習熟度:0(魔法は使えない)
純粋/無知/幼い
<日常>
「そういえば、リューって巫女なんだよな?」
「それはみこちがーい。かみさまのこ、で、神子なの」
「へー。っていうか何すんのそれ」
「さあ?おとなしくしてればよかったからなー」
「信仰の対象的なヤツかなあ。なんか参考になるかもしれないし、文献漁ってみるかあ」
「そーいえば、リューはリューって名前も気に入ってるけど、リューじゃない名前もあるんだー」
「いや、それオレにもあるからね。バンさんとかリックさんにもあるからね」
「へー」
「・・・で、なんていうの?ちょっと気になるわ、深海生まれの名前」
「んー。にんげんさんのはっせーきかん?でははっせーできないなあ。ふるふるーふるるーふるるんふるーって感じがいちばんちかいかも?」
「あー、そっか。水の中だから音が振動として届いてこな・・・あれ、じゃあオレたちってどうやって会話を・・・?」
「そういうまほーがあるんだって。リックがいってたー」