李ぐだ♀・彼服と彼靴ほんのりとした渇きをおぼえて立香が目を覚ますと、薄灯りの下で時計は午前一時すぎを示していた。
背中が温かい。うなじにかかる規則正しい寝息は、彼女の恋人・李書文のものだ。
(そ~っと、そ~っと…)
ゆるく彼女を抱く太い腕から静かに身をよじって抜け出し、身を起こす。数時間前の営みの余韻のままに、二人は一糸まとわぬ姿で眠りに落ちていたのだった。
洗面台まで水を飲みに行こうとして、手近に何も服がないことに気づいた。そういえば昨夜は、シャワーブースを出た後、そのまま書文に抱き上げられてベッドに運ばれたのだった。
深夜の自室とはいえ、一応は花も恥じらう年頃の若い娘である。ましてカルデアで割り当てられた私室は、日本人には持て余すほど広い。素っ裸で歩き回るのは抵抗がある。
頭を巡らすと、枕元のテーブルの上にあるものが目に止まった。書文の脱ぎ捨てた拳法着だ。
(先生、ちょーっとお借りしますね)
心のうちでことわって、立香は白い拳法着に袖を通した。
大陸風の素朴なデザインは、書文が立香と初めて出会った時に身につけていた衣装だ。
召喚の日、この白い服と鮮やかな赤い髪のコントラスト、そして強く鋭いまなざしに、一瞬で惹き寄せられ、目が離せなくなった。深い仲となってだいぶ経つ今でも、立香は新鮮にその時の気持ちを思い出すことができる。
再臨を重ねるたびに新しい姿を見せてくれる書文だったが、立香はこの白い服ときれいな三つ編みの姿が大好きだ。
(先生の靴、おっきいなぁ)
履物もないので書文のカンフーシューズに足を入れてみて、改めてそう思った。かかとが余って、かぱかぱしている。
書文は背丈こそ立香とさして変わらないが、屈強で、骨格のつくりは男らしく、肩幅は広いし手足も大きい。
自分は女で、彼は男。
そんな当たり前のことを、思い知らされたような気がした。それはけして不快ではなく、好もしい気持ちがした。
用を済ませ、カルデア標準の硬い寝台に腰を下ろした瞬間、
「ヒョエッ」
前ぶれなく肘を掴まれて、立香の口から色気のない声が飛び出した。
彼服と彼靴用挿絵ぱいみん
「先生! 起きてたんですかっ!?」
慌てて振り向くと、ニヤリと人の悪い笑みを浮かべている書文と目が合った。
「恋人を置いていくとは、つれないな」
「お水飲みに行っただけですって…」
「しかもなんだその出で立ちは」
「すみませんお借りしまし、あの、」
あれよあれよという間に腕を引かれて寝床に引きずり込まれ、抱きすくめられる。
彼服と彼靴用挿絵ぱいみん
「若い娘がする格好ではないぞ。尻が丸見えではないか」
「一応、隠れてますよぅ〜、う、む、」
唇をふさがれ、無遠慮な手が服の中に潜り込み、下着をつけていない素肌をまさぐり始めた。
「…せんせ、ムクムクしてる?」
「うむ、お主がそそるのでな」
首筋からなにから降り注ぐ口づけと尻に押し付けられたこわばりを感じ、立香の背筋をぞくぞくとした予感が走り抜けていった。
頭の中で明日、いやもう今日の予定を反芻する……まあ、なんとかなるだろう。
熱く昂ぶった書文の一部に手のひらを滑らせ、立香は互いをむさぼる口づけに没頭していった。
〈おしまい〉